13-37 閑話25 開発ラッシュ
「まずは冷却か……」
仁は老君と共に新兵器の開発に取りかかっていた。エルザも助手で付いている。
「熱エネルギーを奪う、ということだよな」
『対流、伝導、放射、ですね』
「ああ。だが、氷系魔法の『氷』。これを分析すればいいんじゃないかと思ってる」
熱力学だけでは説明できない現象を起こしている、それが氷系魔法である。
「エルザ、ちょっと表で雪弾を使ってみてくれないか?」
「ん、了解」
仁は、エルザと共に研究所外へ出、魔法の解析を始めた。
「……『雪弾』」
エルザの手元から雪が発生し、かなりの速度で飛んでいく。仁はそれを追跡の魔法で調べていった。
「うーん、やっぱり、基本は冷却だな」
工学魔法の『冷却』。過熱した部材などを冷やす魔法である。
「これの原理を解明し、発動方法を改造して、どこまで温度を下げられるか、だな」
礼子にも手伝って貰い、『冷却』を解析していく仁とエルザ。
「……やっぱり対流でも伝導でも放射でもなく、熱が奪われているな……」
高熱の物体が瞬時に冷える、その様子は正に魔法。
「どこか別の空間か別の次元に熱エネルギーを移動しているとしか思えない……」
そんな仮説を立てた仁は、それを元に冷却を改造していった。
「ジン兄、そんな方法がある、の?」
横で見ていたエルザが目を見張った。
「ああ。おそらく、ここの魔導式が鍵だ。常識に囚われていたら魔法なんて改造できないしな」
「それはわかる。ジン兄は、そういう人」
そして仁は試行錯誤の末、なんとか『超冷却魔法』を完成したのである。名付けて超冷却。
おそらくだが、対象の持つ熱エネルギーを、瞬時に別次元へ移し替えるような魔法である。
強度の調整で、それこそ絶対零度に近い極低温から、氷点下程度までの冷却が可能。ただし、魔力の消費が半端無い。
エルザだと一度使うとほぼ魔力が空になりかねないほど。魔導具を作って使うことになりそうだ。
* * *
老君はその移動用端末『老子』を使って、プラズマソードを製作していた。
一番の問題点は強度と耐久性である。
仁が改造した『正宗』『村正』ベースの急造プラズマソードは、本来の使い方に比べ500倍以上の魔力を注ぎ込んであの威力を得ていたのである。
『魔導回路の強化、ですね。それと冷却』
10億度のプラズマであるから、超強力な結界に閉じ込めていたとしても、その熱による本体への影響は馬鹿にならない。
長時間持っていたら、熱くてたまらなくなるどころのさわぎではないだろう。
『ちょうど御主人様が超冷却魔法を開発して下さいましたね』
これにより、余計な熱を逃がすことができそうだ。
残るは魔力の消費量が極端に多いことであるが、高品質な魔結晶を使い、高効率な魔素変換器を搭載することで対応。
いくら魔力を消費するといっても、礼子の100パーセントには程遠いのだから(だいたい40パーセントくらいの消費量)。
タイタン用としては単純に大きくすればいいので、そちらは比較的簡単であった。
『超高速振動剣と共に、蓬莱島武装の標準にしましょう』
既に量産にとりかかる老君であった。
* * *
「結界爆弾を作ろうと思う」
超冷却の開発を終えた仁がそんなことを言い出した。
「結界爆弾、ですか?」
礼子が尋ねる。エルザは黙って聞き耳を立てていた。
「ああ。やりたいことは簡単。対象物の周りに障壁結界を張り、それを縮めていくんだ」
「……もしかして、潰れる?」
今度はエルザが、顔を顰めながら尋ねた。
「多分、な」
魔結晶に障壁結界を作る魔導式と、それを縮小させる魔導式を書き込む。最後に、特定魔力で起動させるように魔導式で設定して終わり。
試作自体は10分で完成した。
「よし、試してみよう」
研究所前に出た仁は、小さい巨大百足の甲殻を用意させ、そこ目掛けて試作の結界爆弾を放り投げた。
「『起動』」
その魔鍵語で障壁結界が発生。甲殻と、地面の一部を包み込む。それは見る見る縮小していった。
めきめき、と言う音がして甲殻がひしゃげていくのが見える。
最初、直径5メートル程だった球状障壁結界は、今や直径1メートルを下回る。
それでも縮み続ける球状障壁結界は、直径30センチほどになった時、中に生じた途方もない圧力によって結界爆弾それ自身が破壊され、結果、障壁結界は消滅した。
残ったのは丸く固まった巨大百足の甲殻。自重で地面にめり込んでいるところを見ると、かなりの重さがあるようだ。というか、元々の重さが変わっていないとすれば、密度は50倍以上になっているに違いない。
「礼子、桃花で切れるか試してみてくれ」
「はい、お父さま」
礼子は研究所から専用武器である桃花を持って来た。
「いきます」
振り上げ、斬りつける。
ぎいん、というやや濁った金属音が響いたが、その刃は1ミリたりともめり込むことはなかった。
「よし、それじゃあ超高速振動剣モードでもう一度だ」
「はい」
今度も同じ。いや、桃花の方の刃が欠けてしまったではないか。
「やめ! ……すごいな……マギ・アダマンタイトよりも強い素材ができたのか?」
結界爆弾のテストが成功した上に、思いもよらぬ新素材ができあがった。
「『分析』……やっぱりそうか」
「ジン兄、何がわかったの?」
「……分子構造が圧縮されている」
「え?」
通常は考えられないことであるが、魔力を持った素材である巨大百足の甲殻は、圧縮されても崩壊することなく、その状態で安定したのである。
「自由魔力素の働きかな? ……だとすると、マギ・アダマンタイトにも応用できるかも」
もう1個、更に強力な結界爆弾を作った仁は、約1立方メートルあるマギ・アダマンタイトを用意させる。重さは19.3トン。こうなるとダイダラか礼子でもなければ運べない。
仁は結界爆弾を投げ付け、作動させた。
今度は直径2メートルほどの球状障壁結界が発生し、それが収縮していく。直径60センチほどになった時、前回と同じように、結界爆弾が崩壊して球状障壁結界は消滅した。
残ったのは直径60センチ近くにまで圧縮されたマギ・アダマンタイト。10倍くらいの密度になったと思われる。
一抱え程度の球。だが重さは20トン近いという、とんでもない物質ができあがった。比重にして約200。野球のボールの大きさで40キロ以上といえば想像できるだろうか。
「これは凄いぞ……」
重さだけでなく、硬さもとんでもないようだ。
「名付けてハイパーアダマンタイト! これで桃花を修理してやろう!」
新素材を目にした仁は子供のようにはしゃいだ。エルザはそんな仁を珍しそうに見つめていた。
刀身全部をハイパーアダマンタイトに変えてしまうと重くなりすぎるので、それこそ日本刀のように、刃の部分には新素材、それを元々のマギ・アダマンタイトでサンドイッチすることで重量増加を抑える。
もちろん超高速振動剣モードもそのまま搭載。ベースがマギ・アダマンタイトなので、魔力を通す事で更なる強化も可能。
「よし礼子、これで残ったハイパーアダマンタイトを切って見ろ」
「はい、お父さま」
3倍くらいの重さになった桃花。魔力を通して強化すると、それを軽々と振り回し、礼子はハイパーアダマンタイトのインゴットに斬りつけた。
きいん、という澄んだ甲高い金属音と共にインゴットは見事真っ二つになった。超高速振動剣モードでなく魔力強化レベルでこの切れ味、である。
「すごいな……最強の刀になったな」
「お父さま、ありがとうございます」
先程桃花の刃を欠いてしまった時にはしょんぼりしていた礼子であったが、今度は嬉しそうな笑顔であった。
* * *
『ハイパーアダマンタイトですか。さすが御主人様ですね。少し使わせていただき、イナド鉱山の地下を調査する部隊を強化するとしましょう』
鉱山地下にあった不思議な魔導装置が気になっていた老君である。
老君により地底探査用のボーリングマシンが開発されるのは数日後になる。
こうして新兵器、そして新素材の開発が進んでいき、蓬莱島の戦力は更に強化されていくのであった。
お読みいただきありがとうございます。
20140513 13時26分 誤記修正
(誤)新計器の開発
(正)新兵器の開発
20140513 20時11分 表記修正
冷却魔法ですが、魔法名を『超冷却』としました。
科学用語としては絶対「零」度のようですので。
20140519 12時13分 誤記修正
タイトル、閑話「25」でした……orz
20140824 09時30分 表記追加
比重200の表現として
「野球のボールの大きさで40キロ以上といえば想像できるだろうか。」
を追加してみました。
20151225 修正
(旧) 仁は、エルザと共に研究所外へ出、魔法の解析を始めた。
「わかった。……『雪弾』」
(新)「ん、了解」
仁は、エルザと共に研究所外へ出、魔法の解析を始めた。
「……『雪弾』」




