99-84 初めての調査
メルツェが任された『ちょっとした事件』。
仁とエルザはそのことについて相談を受けている。
(やっぱり、メルツェの『問題解決能力』を伸ばそうとしているんだろうな)
メルツェの事務処理能力は高い。
が、彼女を事務職として固定してしまうのはいかにももったいない、ということなのだろうと仁は推測した。
(それには、まず経験、か……)
いかに才能があっても、メルツェはまだまだ経験が不足している。
そのため、管理課に余裕ができた(元『憂世団』からの人材)今、メルツェのスキルアップを行おうというわけだ……と仁は察した。
(それには、年長者からの指導が効果的、だな)
そう考えた仁だが、自分は軍師でもなければ策謀家でもないことは自覚している。
だからこそ、これでもかと事前準備をして事に当たっているのだ。
そんな仁が、メルツェにできるアドバイスとは。
「考えることだ。自分がやるべきことを。危険な状況はないか」
「はい、ジン様」
「守るべき者を守れないことは、一生ものの後悔につながる。絶対に慢心しないことだ」
「肝に銘じます」
仁自身、誰が見てもやりすぎだろうという程の準備をして事に当たっているのだから。
もちろん、そんなバックアップが可能な力を、全力で準備してきたからこそできるのだ。
今のメルツェにそこまで要求するのは酷である。
だからこそ、『今の自分に何が必要か』を理解してほしい仁なのである。
「……で、メルツェは、まず、どうしたいわけ?」
エルザから質問がなされた。
「一番の優先事項は、与えられた役目を果たすことです」
「うん、それは大事。でも、それは心構えであって、行動についてじゃ、ない」
「はい。……そうですね。やはり実態を掴みたいです。こうした情報ではなくて」
間違った前提は間違った結論をもたらす。
メルツェは、現地、あるいは現場を見、当事者から話を聞きたいと考えていた。
「まずはそこからですね。それ以上は推測、仮説でしか語れませんから」
「そうだな。それならまずはどうする?」
「最初と最後の事件が起きた2箇所へ行き、同様に被害者の話も聞いてみたいです」
「なるほど」
正確な情報、それは正解だと仁も同意する。
仁の場合は『第5列』と老君の『覗き見望遠鏡』があるわけだが、当然メルツェにそんな配下はいない。
ならどうするか、が次の課題である。
「私一人だと、どうしても舐められますから、『自動人形』やゴーレムを引き連れて威圧を与えるか、あるいは知名度の高いどなたかに同行していただくか、だと思います」
「それでいい」
1人でできる、と無理をするのは愚の骨頂である。
メルツェは無理も無茶もするつもりはないようで、素直に同行者、いや同行ゴーレムを連れて行く気のようだ。
それはいい。それはいいのだが……。
「メルツェ本人じゃなく、『分身人形』を使うんだぞ」
仁が黙っていられなくなった。
「旅先では何が起きるかわからない。ゴーレムや『自動人形』が同行するにしても、な。その点、『分身人形』なら何があっても安心だ」
「は、はい……」
「……」
やっぱり身内に甘いなと内心で苦笑するエルザであった。
* * *
メルツェは『調査計画書』をまとめ、最高管理官トマックス・バートマンに提出した。
「……ふむ、現地での情報収集。それに『テクノ49』と『テクノ50』を同行するわけだな」
「はい。それに『ララ』も」
『ララ』はメルツェ専属自動人形である。
仁、エルザ、ルビーナがゴウに協力して作ったもので、緑髪のセミロング、目の色も緑。
その性能は、蓬莱島の五色ゴーレムメイドが『亜自由魔力素技術』でパワーアップする前の7割くらい。
つまり、そんじょそこらの戦闘用ゴーレムでは相手にならない。
「それならばいいだろう」
トマックス・バートマンは許可のサインをくれた。
「ありがとうございます」
仁とエルザにアドバイスを貰って作成した計画書なので、なんの問題もなく許可が下りた。
なお、この時点でメルツェは『分身人形』と入れ替わっている。
「計画書によると、まずはショウロ皇国へ行くのか?」
「はい。『転移魔法陣』の使用許可もよろしくお願いします」
「よかろう。気を付けて行ってきたまえ」
* * *
「『メルツェD』は出掛けたか」
「はい」
蓬莱島では、メルツェ本人と仁本人が『分身人形』の操縦ルームにいた。
『アヴァロン』の『転移魔法陣』を使い、ショウロ皇国へ。
受け入れ側は最近新設された、『アヴァロン病院』の救急病棟ショウロ皇国支部にある。
宮城にもあるが、そこを使うと現皇帝陛下が飛んできそうなのでこちらを使ったメルツェDであった。
* * *
ショウロ皇国に到着したメルツェDは、まず被害にあった商会へと向かった。
もちろん、事前に連絡してある。
「ウエスト商会……ここですね」
ごめんください、と声を掛けたのは正面玄関ではなく、横にある通用口。
普段は従業員が出入りするところである。
「はい」
出てきたのは若い男性の従業員。
「ご連絡を差し上げた『アヴァロン』の者ですが」
「あ、承っております。どうぞお入りください」
「お邪魔いたします」
メルツェDは奥にある商談室に通された。
商談室とは言っても、上客用の豪華な作りの部屋である。
「少々お待ちください」
お茶を置いて従業員は出ていった。
そして2分ほど後、
「お待たせいたしました」
と言って、副商会長ショーゾウ・ダニンが現れた。
「本日はお時間を割いていただき、ありがとうございます」
というメルツェの挨拶に、『いえいえ』とにこやかに答えたショーゾウ。
いよいよ、メルツェの調査が始まる……。
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次回更新は12月21日(日)12:00の予定です。




