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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
13 拠点充実篇
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13-17 閑話23 リシア、領主になる

 大陸暦3457年5月、新貴族の娘、リシア・ファールハイトは、クライン王国を襲った『魔力性消耗熱』の対策に多大な貢献があったと認められ、準男爵の地位を授けられた。

 同時に、旧ワルター伯爵領は解体され、数人の新貴族に下賜されることになる。

 リシアも、その一部であるトカ村を領地として賜った。赴任するのは7月1日から、となる。


「リシア、おめでとう」

「おめでとう」

「ありがとう、お父さん、お母さん」

 リシアの家では父、母、娘、家族だけでのささやかなお祝いの宴が開かれていた。

「これで私も一安心だ。というより鼻が高いよ」

 ようやくテトラダの戦後処理が終わり、家に戻ってきたニクラスも嬉しそうだ。

 救護騎士隊からトカ村領主へ。

 いくら『救護』騎士隊が後方支援がその主な任務とはいえ、戦場におもむくことに変わりはない。そこには常に危険がつきまとう。

 一人娘のリシアが国のためとはいえ、戦場に出なければならないことを内心憂慮していた父ニクラスは、娘が領主になったことを心から喜んでいた。

「これもジンさんのおかげだわ」

「ジン殿、か。先日、第3王女の客人になっていたと聞いた」

「そうみたい。あたしやお父さんがまだテトラダにいた時、こっちに来てらしたのよね」

 どうやら仁はデウス・エクス・マキナの知り合いらしく、戦場で見つけたリシアの剣を届けに来てくれたようなのだ。

 ような、というのは、受け取ったのは女中のアールであり、届けてくれた当人は女性だった、というのである。

 だが、リシアは、その剣がリシアのものだと言うことを知っているのは仁だけなのだから、何らかの関係があるはずだと思い、大使としてカイナ村へ行ったとき、それとなく聞いてみたのであった。

 すると、やはり剣を届けてくれたのは仁であり、その仁がマキナの知り合いであることがわかった。リシアとしては、仁とマキナは同一人物ではないかと今でも思っているのだが。

「でも、領地が隣になるんだから、お会いする機会も増えると思うわ」

 ステーキを口に運びながらリシアが言った。

「そうね、すごい方みたいだから、仲良くしておいた方がいいわよ。困ったときは相談するとか、ね」

 母ミリアは、リシアから仁の事を何度も聞いているので、仁の凄さ、規格外さを何となく感じていた。

「お借りしたゴーレム馬もお返ししないといけないしね」


 リシアとパスコーがカイナ村を出るときに仁が貸してくれたゴーレム馬。その性能は目を見張るものがあり、道中非常に役に立ってくれた。

 それを目にしたパウエル宰相は、王国の王国魔法工作士ロイヤルマギクラフトマンに同じものを作らせようとしたものだった。

 だが、分解などは論外。もし仁の機嫌を損ねでもしたら王国にとって大きな損失である。そこで外からの観察などで済ませられないかと考えたのであるが、結果は不可能、であった。

 構造、材質、制御、それらの見当がまったく付かないのである。

 唯一、外側に使われているのが軽銀だということがわかっただけ。これほどふんだんに軽銀を使ったら、費用がどのくらいかかるか想像も付かない。この時点でゴーレム馬のコピーは諦められていた。


 書類の整備や、赴任準備、現地の下見、配下の手配など、することはいくらでもあった。

 瞬く間に1ヵ月が過ぎていき、6月25日。

 リシアは両親に見送られてアルバンを発った。同行する警護騎士は一人。

「リシア、楽しみだな」

「そうですね、教官」

「おい、その教官というのはやめろ。と、私も上司に向かって言う言葉づかいではないな。失礼しました、ファールハイト準男爵」

「やめてくださいよ、……グロリアさん」

「だが、身分というものはきちんとしなくてはだな……」

「近衛女性騎士隊副隊長で教官。私にとっては恩師になります。師はいつまでも師です。その恩を忘れたら人でなしになってしまいます」

 グロリアは笑った。

「ふふ、ありがとう。短い間ではあったが、私を師と呼んでくれるのだな。よし、それなら、公の場以外では普通に話そう。どうだ?」

「はい、そういうことでしたら。……年長を敬うということでこんな感じでいいですよね?」

「……まあ、いいんじゃないか?」

 こんな感じで二人の道中は続いていく。


 2日、3日。日が経つにつれ、グロリアの馬には疲労が見られるようになっていく。

 一方、リシアが騎乗しているゴーレム馬はまったく疲労していない。荷物を運ばせている方も同様だ。

「……しかし、凄いものだな、そのゴーレム馬というものは」

 シャルル町の宿で、馬に飼い葉をやりながらグロリアが呟いた。

「私の分の荷物も運んでもらっているというのに」

「ふふ、ジンさんが仰るには、普通の馬の5倍から10倍の力があるそうですよ」

「なんと! まったく、ジン殿というのは傑物だな」

 その時、蹄の音がして早馬がやってきた。

 早馬は鳩と並んで情報の伝達手段である。速度では負けるが、届け先の居場所が不確実でも届く確率が高い。

 また、鳩は決まった厩舎へ帰るのみの一方通行であるが、早馬の場合は届け先を探すなど応用が効くという利点もある。

「お、早馬か。珍しいな」

 その早馬はリシアとグロリアを見つけると、町中と言うことで速度を落としていた馬の向きを変えた。

「ん? こっちに来るのか?」

 ぱかぱかという蹄の音をさせ、早馬が近付いてくる。良く良く見ると、王家の紋章入りのマントを羽織った騎士が乗っていた。伝令騎士である。

「勅命、ということか?」

 その伝令騎士はグロリアとリシアの前でぱっと馬から下りると、胴に巻いていた包みの中から一通の書簡を取り出した。こちらには王家の紋章がないから勅命ではないのかもしれない。

「リシア・ファールハイト準男爵殿ですね? 至急目をお通し下さい」

「は、はい」

 かなり異例のことだが、至急と言うことで屋外で書簡を確認するリシア。今回の書簡は、麻布を貼り合わせた布地に黒いインクで記されているもの。これは貴族間で使われる手紙と同じだ。

「ええと、このたび、クライン王国はジン・ニドー殿に、魔法工学師マギクラフト・マイスターの称号を贈ることになり……」

 要は仁を魔法工学師マギクラフト・マイスターに任じたから、その証としての認定証を渡して欲しいということであった。

「……私でいいんでしょうか?」

 成り立ての準男爵風情が、と心配するリシア。だが伝令騎士は、こちらは王家の封印がある認定証の包みと共に、短い手紙も差し出した。

「え? ……ジン・ニドー殿は仰々しいことがお嫌いと察するため、顔見知りであり、いろいろと援助を受けたりしている私が適任だと考える、ですって?」

「では、間違いなく渡しましたよ。リシア殿」

 そう言って伝令騎士は馬に飛び乗ると、くるりと馬首を巡らせて、来た方向へと戻っていったのである。

「……ジンさんが、魔法工学師マギクラフト・マイスターですか……」

 その意味はわからなくても、響きから、なんだかすごい称号だと言うことだけはわかる。

「お会いできるんでしょうかね? お会いできなかったらどうしましょう」

「隣村なんだから、ジン殿が戻って来たら連絡をもらえるよう頼んでおけばいいのではないか?」

「あ、そうですね! 気が付きませんでした」

 リシアはゴーレム馬胴体部の収納庫に手紙と認定書を仕舞った。ここが一番確実である。リシア(と、多分仁)以外開けられないのだから。


 そして翌日。ちょっと1日の行程が長いのだが、順調にいけばトカ村に到着できる予定である。

 前回、パスコーとの道中と同じように朝早くシャルルの町を出発した二人。

「今日は少々強行軍になるな」

 晴れて暑くなりそうな空を見上げ、グロリアがぼやいた。

「そうですね。朝の涼しいうちにできるだけ距離を稼いでおきましょう」

 前回と同じように朝早く発ち、途中で朝食。昼食は馬上で済ませ、なんとかかんとか日没前にトカ村に到着することができたのである。

「ふう、何とか着いたな。日が長い季節で助かった」

 さすがにグロリアは疲れたようだが、リシアはそれほどでもない。

 仁が、長距離乗っても疲れないようにといろいろ配慮した結果である。

 本来ならグロリアにはパスコーが借りていた方のゴーレム馬に乗ってもらおうと思っていたのだが、騎士としてそれはどうとか言い出されたので無理強いせず、荷物運搬用にしていたのだ。

「これは領主様ご一行ですか、ようこそ、トカ村へ。私は村長のブラークと申します」

「リシア・ファールハイトです」

「護衛のグロリアだ」

 まずは簡単に挨拶を済ませ、リシアたちは村長宅へ。前回は兵の宿舎に泊まったが、今回は領主となったわけであるから、村長自ら歓待する。

 元々食事にはあまり頓着しない二人、和気藹々と夕食は進んだ。

「今、この先のイナド鉱山で採掘が行われているのです」

「そうみたいですね。来るときに荷馬車とすれ違いました」

 世間話に始まり、次第に村の話へ。

「……基本的に村のことは村長さんにお任せしようと思います。私は大まかな方針を決めたり、国との交渉役を務めたり、ということになるかと思います」

「それを聞いてほっとしました。ここのところ、お隣のカイナ村がやけに暮らしよくなったと評判で、ここを出てカイナ村に移り住もうかなどという者も出始めておりまして」

「なるほど、それは困りますね。領主としては、まずは村を住みよくしていきたいものです」

「そうしていただけると有り難いですな」

 こうして、6月29日の夜は更けていく。

 リシア・ファールハイトが正式に領主となるのはこの翌日、7月1日のことである。

 6、7、8月は1ヵ月29日です。あとの月は30日。


 お読みいただきありがとうございます。


 20140424 13時11分 誤記修正

(誤)ちょっと1日の工程が長いのだが

(正)ちょっと1日の行程が長いのだが


 20140424 19時33分 脱字修正

(誤)戦場で見つけたリシアの剣を届けに来てくれようなのだ

(正)戦場で見つけたリシアの剣を届けに来てくれたようなのだ


 20140425 13時20分 誤記・表記修正

(誤)アールウ

(正)アール


(旧)瞬く間に1ヵ月が過ぎていき、6月24日。

(新)瞬く間に1ヵ月が過ぎていき、6月25日。


 20150706 修正

(旧)早馬は鳩と並んで情報の伝達手段である。速度では負けるが、届け先の居場所が不確実でも届く確率が高い。

(新)早馬は鳩と並んで情報の伝達手段である。速度では負けるが、届け先の居場所が不確実でも届く確率が高い。

 また、鳩は決まった厩舎へ帰るのみの一方通行であるが、早馬の場合は届け先を探すなど応用が効くという利点もある。

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