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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
13 拠点充実篇
427/4299

13-15 ナース

「ちょうどいいね。私もジン君に聞きたい事がたくさんあったから」

 サリィの答えを聞き、仁は二堂城の食堂へと案内した。

「ほう、変わった献立だな。……昨日も丸く固めたものを食べたが美味かった。何だね、これは?」

 丸く固めたものというのはおにぎりのことだろう、と仁は思った。

「お米、といいます。こうして炊き上げたものを、俺の故郷では『御飯』といいます。御飯というのはまた、食事の代名詞でもあります」

「ふむ。ということは、この『お米』なる食物が、食事の代名詞になるほど普及し、愛されていると言うことか。確かに美味い」

 今朝の献立は白米の御飯、菜っ葉の漬け物、焼き魚、甘い玉子焼き。

 だが味噌汁が欲しい、と仁はいつも心の中で叫んでいる。

 仁の心の叫びはさておいて、サリィもまあまあ米の御飯は気に入ったようだ。

「炊いた麦は食べたことがあるが、比べものにならない程、食感がいいな。やはり君は不思議だ、ジン君」

「はは、そうかも知れませんね」

「それに、君は器用だな。なんだね、その……木の棒は?」

 サリィが使っているのはスプーン、仁が手にしているのは『箸』である。それを使っているところを見たサリィは感心していたのだ。

「これは箸、っていいまして、俺の故郷では御飯を食べるときに使うんです」

「ほう、掴む、突き刺す、ちぎる、など色々使いようがあるのだな」

 そんな雑談をしながら朝食を済ませた2人は、食事が済むと3階にある会議室へ移動した。

 ベーレがお茶を出し、下がっていった。


「ふうむ、君の城は、一言で言わせてもらえばとんでもない、な」

 きょろきょろと部屋を見渡したサリィは開口一番、そんなことを口にした。

「そ、それで聞きたい事というのは?」

「ああ、まずは、ここはクライン王国で間違いないのかな?」

「え? はい、ここはクライン王国の一部です。俺が租借地としていますが」

 それを聞いたサリィは深く頷くと、続けて質問をする。

「出入国手続きはどうなっているのかな?」

「は?」

「いや、だから、国を跨いでいるわけだろう? その辺どうしているのか、と思ってな」

「……」

 仁は言葉に詰まった。そんなことを考えたことがなかったからだ。まあ、セルロア王国からショウロ皇国へ入るときにちょっと気にした、くらいか。

「……まあいいさ。別にあからさまに罪になるわけではないからな」

 戸籍という制度のないこの世界では、出入国管理も緩い。貴族や王族、大物商人もしくは有名人でもなければ、実質お咎めなしといっていいだろう。

 事実、行商人などは、たまに国境を越えて勝手に行き来しているという話だ。

 今度各国にそれとなく打診してみよう、と考える仁であった。

「それから、君の事だ。転移門(ワープゲート)とか言ったな? あんな古代遺物(アーティファクト)を所有しているとは、いったい何者なんだね?」

 やはり来た、この質問。仁は、かつてラインハルトたちにした説明を行った。

 孤児だったこと。師匠に全てを教わったこと。住まいは孤島だったこと。そこには古代遺物(アーティファクト)があったこと、などである。

「なるほどな。だいたいわかった。まあ、まだ何か隠しているんじゃないかと思うが、そこまで詮索する気はないよ。……それで、君の話というのは?」

「はい。先生、できましたら、この村に腰を落ち着けていただけませんか?」

「……そう来たか」

 仁の要望は、半ば予想できていたかのような表情で頷くサリィ。

「そう、だな。見たところ、これからまだ赤ん坊が生まれそうだしな」

「えっ?」

 サリィの言葉に思わず疑問詞で答えてしまった仁。そんな彼をサリィは苦笑を浮かべながら見つめた。

「はは、古代遺物(アーティファクト)を所有してはいてもそっちは鈍いようだな。私が見ただけでも、あと4人は年内に子供が生まれるぞ?」

「え……」

「昨年以降、この村は居住環境が良くなったようじゃないか? 多分それが大きいだろう」

 昨年と言えば、仁がやってきて、いろいろと村を改善していた。そのおかげで村に子供が増えるなら、仁にとっては嬉しいことである。

「で、いてくれるんですか?」

「ああ、そうだな。まだ来たばかりだが、居心地の良さそうな村だし、な。それに……」

「それに?」

「……そこの棚にある本も気になるし、な」

 老君が適当に作って、会議室の箔付けのために飾りとして置いてある本。その中の1つの背表紙には『解体旧書』とあった。

(何だよ『旧』書って)

 老君独特のユーモアなのだろう(センスは仁譲りの)。

「見てもいいかな?」

「あ、はい、どうぞ」

 そう答えるしかない仁。サリィは棚からくだんの本を取り出し、ぱらぱらとめくってみる。

「うむ、これはすごい! 人間の骨格、筋肉、内臓などが絵によって図解されているじゃないか! ……奥付があるな。『2446年初版 3434年再版』何と!」

(老君、凝りすぎだろう……)

 仁も、置いてある本を全部見たわけではないので、ここで初めて老君の仕事ぶりに呆れる仁であった。

「なるほどな。君の師匠は、魔導大戦前の学術書も所持しておられたのだな。それを書き直されてこうして……素晴らしいことだ!」

「あ、ありがとうございます」

 サリィは仁に、ここ二堂城の資料室にある本などはいつでも閲覧してかまわない、といわれたので欣喜雀躍きんきじゃくやくする。

「そ、そうか! それは嬉しい。それじゃあ私は、しばらく村長のお宅に厄介になるとしよう」

 サリィ曰く、村の中心部にいた方が何かと便利、だそうだ。仁としては二堂城を使って貰ってもいいし、何なら1軒建ててもいいと思っていたのだが。

 何せ、エリックが店を出すために、こちらで家を建てるつもりだから、ついでと言っては何であるが、同時に建ててしまえばと思っていたのだ。

「でしたら、何か必要なものがあったら言ってください。そうだ、助手のゴーレムなどはどうですか?」

「ああ、ありがとう。そうか、君はゴーレム使いでもあったんだな。それなら1体借り受けたいな」

「わかりました」


 その朝の話し合いはそれで終わる。サリィは本を借りると、いそいそとギーベック宅へ向かった。

 仁は、さっそく蓬莱島へ転移し、老君にナースゴーレムの進捗状況を尋ねた。

『はい、御主人様(マイロード)。試作として3体ほど作ってみました』

 仁の目の前に3体のゴーレムが現れた。白衣を着て、頭にはナースキャップ。全体的に華奢な外見なのは、患者に威圧感を与えないためだという。それ以上に仁が気になったのは、その容姿である。

「……何でエルザに似ているんだ?」

 そう、3体とも、外見がエルザに良く似ていたのである。

『はい、この蓬莱島で最も治癒魔法が得意なのはエルザさんですので、敬意を表して』

「……」

『かのポトロックでは、御主人様(マイロード)はマルシアさんそっくりのゴーレム、『アロー』をお作りになりましたし、クズマ伯爵の依頼の時はビーナさんそっくりの『ロッテ』をお作りになられました。それで今回は……』

「わ、わかったわかった」

 問題は中身である。老君の説明では、基本はゴーレムメイドと同じだが、衛生的なことを考え、表面を銀クラッドにしているとのこと。

 クラッド材とは、2種以上の金属を貼り合わせて機能を高めたものである。この場合、抗菌性のある銀を貼り付けてあるというわけだ。メッキよりも厚みがあるので、磨り減って剥げたりしないのが特徴である。

「ちゃんと艶消しになってるな」

 銀は、金属中で最も反射率が高い。端的に言うと『ピカピカして眩しい』のである。であるから艶消し処理をしてあるわけだ。部分的には燻し処理(硫化膜を付けて黒くすること)も施されている。

『3体の違いは触覚センサーです。αはアアル式、βはノワール式、γは蓬莱島式です』

 アアル式はわかったが、ノワール式と蓬莱島式がわからなかったので説明させると、

『ノワール式というのは、掌と足裏だけに魔獣の革を使い、必要な部分の感知能力を上げたものです』

『蓬莱島式というのは、銀クラッドの銀にミスリルを合金して魔力ポテンシャルを発生させるようにしたものです』

「なるほどな。それじゃあテストも兼ねてγをサリィ先生に貸しだそうか」

 ということで、ナースゴーレム試作のγを連れてカイナ村に戻った仁。村長宅により近いので、二堂城ではなく工房地下へ出る。

「名前は『ガンマ』、でいいか?」

「はい、ご主人様」

「よし、それじゃあ当分の間、サリィ先生の助手を頼むぞ」

 そんな話をしながら歩けばギーベック宅だ。

「おお、ジン君、さっそく連れてきてくれたね。よしよし、私がサリィ・ミレスハンだ。よろしく頼むよ」

「はい、サリィ先生。ガンマと申します。どうぞよろしくお願いします」

「ほうほう、やはり君のゴーレムは素晴らしいね。それじゃあさっそくだが、昨日子供が生まれたライナスの家へ行ってみよう。何も言ってこないところを見ると母子共に大丈夫なのだろうがね」

 念のため、エルザとミーネが泊まり込んでいるはずだ。

 ライナス邸まではすぐ。ドアをノックするとエルザが出てきた。

「あ、ジン兄、と、先生」

「やあエルザ、だったね。セラさんと赤ちゃんは元気かな?」

 サリィの言葉にエルザは微笑んで頷いた。

「はい、先生。セラさんは普通に食事摂って、いますし、赤ちゃんは今お乳を飲んで、います」

「そうかそうか。……お邪魔してもいいかな?」

「はい、どうぞ」

「よし、ガンマ、おいで」

「はい、先生」

「……あっ」

 エルザが、ガンマの容姿を見て目を丸くした。

「ジン兄……」

 そして次の瞬間、仁を睨み付ける。

「い、いや、デザインは老君なんだ。ナースゴーレムを作ろうとなって、そうしたら、蓬莱島一の治癒魔法使いであるエルザに似せようということで」

「……」

 エルザは複雑な顔。そして一言。

「……マルシアさんやビーナの気持ちがわかった」

 異世界ですので、看護師でなく看護婦です。


 お読みいただきありがとうございます。


 20140422 13時42分 誤記修正

(誤)仁の前の前に3体の

(正)仁の目の前に3体の


 20140422 20時33分 誤記修正

(誤)老君、懲りすぎだろう

(正)老君、凝りすぎだろう


 20140423 19時21分 誤記修正

(誤)こちらで家を立てるつもりだから

(正)こちらで家を建てるつもりだから

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― 新着の感想 ―
ロッテの時のように、やはりナースゴーレムも盛ったのでしょうか。
[気になる点] 解体旧書の初版って実際に元ネタの発刊年なのだろうか? 後あんまり関係ないだろうけどどういった本があるんだろ? [一言] そりゃ自分そっくりなゴーレムを作られたら地味に恥ずかしいわな……
[気になる点] 味噌汁が欲しい >あれ?大豆はありませんでしたっけ?酒造りもするから、発酵の研究もされているはず 味噌がないはずないと思うのだけど・・・
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