13-10 蓬莱島強化
仁が魔族について一通り説明を終えても、誰も口を開かなかった。
しばらくの後、真っ先に口を開いたのは侯爵。
「……今の話からすると、魔族がすぐに攻めてくることはないと思う」
私の見解だがな、と注釈を入れた侯爵は話を続ける。
「何故ならば、我々の住むこの一帯は、彼等には住みにくいのだろう。それなのにちょっかいをかけてきているのは、おそらく『遊び』なのだ」
「遊び、ですか」
「ああ、遊び、だ。戦略的に見て、奴等がやっていることは下の下だ。情報も集まってはいるだろうが、それ以上に我々の警戒心を刺激しすぎている」
確かに、と仁は思った。今回のことを踏まえて、仁は更に蓬莱島などの戦力を強化するつもりなのだから。
「やるならもっと隠密裏にやる必要があるだろう」
元中将である侯爵の説明を聞き、サキとカレンは安堵したようだった。
「少し、疲れた」
まだ侯爵は健康体には程遠い。その日の話はそれで終わりとなった。
* * *
侯爵は寝室に戻った後、内密の話がある、と言って仁だけを呼んだ。
「サキとカレンの手前、ああ言ったが、そなたは違う意見を持っているのではないか?」
仁を迎えた侯爵はいきなり本題を切りだした。仁もそれに答える。
「はい。期日はわかりませんが、いつか攻めてくるつもりがあるのではないか、と」
「うむ。この一帯が住みにくいのは確かだろうが、侵略したあと、必ずしも住む必要は無いからな。資源や作物目的と言う可能性も捨てきれん」
老君の推測と同じようなことを侯爵も推測していた。
「ジン殿、いや、ジン・ニドー卿。そなたの自動人形……」
「礼子ですか?」
仁はすぐ後ろに控える礼子をちらと見て答えた。
「そう、レーコと言ったな。可愛いのう。それなのに、素晴らしく強いではないか」
侯爵は魔導人形競技で礼子の強さを目の当たりにしていたのである。
「レーコと同等のゴーレムを、卿なら沢山作れるのではないか?」
「ええ、まあ、素材の問題さえなければ、ですが」
「うむ、それがあったか。……よほど特殊な素材を使っているのか?」
これに関して仁は正直に答える。明確な名称はぼかして。
「はい。おいそれと手には入らないようなものまで」
「……そうだろうな。では、手に入る範囲の素材でよい。強力なゴーレムを作ることは可能だな?」
「はい」
「それならよい。対抗手段の一つとして、強力なゴーレム軍団を用意できることがわかれば、な」
用意も何も、蓬莱島には既に存在するのであるが、そこまでは侯爵に話すわけにはいかない。
防衛戦略を考えているのか、侯爵は目を瞑った。そしてそのまま、
「……私は私で考えておこう。卿も、魔族に対抗する手段を考えて欲しい」
と仁に告げた。
「最後に、卿はさらりと口にしたが、記憶を読み取れるという魔法、『知識転写』と言ったか。あまり人前でその存在を口にせぬ方が良いな。色々面倒なことになるぞ。私は他言するつもりはないがな」
リサの礼代わりだ、と言った侯爵は疲れたようにベッドに身体を横たえる。それを補助するのはリサ。侯爵はまだ体力が戻っていないようだ。
「わかりました。ありがとうございます。これで失礼します」
侯爵の容態も考慮し、仁は部屋を辞したのである。
* * *
その夜は全員、侯爵邸に泊まる事になった。
が、仁は、馬車の転移門を使い、礼子だけを連れて蓬莱島へ飛んだ。
『お帰りなさいませ、御主人様』
「老君、重力魔法の方はどうなっている?」
まず仁は、一番気になっている事を質問した。
『はい。御主人様、重力魔法の解析がまた一段階進みました』
「おお、それは朗報だ」
さっそく仁は老君に説明させる。
『重力魔法の本質は、『空間を加工する』ことのようです』
「ん? どういうことだ?」
『はい、重力は空間の傾斜、もしくは歪み、と言う説がありますね?』
「ああ、TVで見た気がする」
アインシュタインの一般相対性理論だったかでそんなことを言っていた気がする、と仁は思い出した。
『つまり、空間と重力は切っても切り離せない関係になると言うことです』
「それはわかる」
『重くする、ということは重力を増やす、つまり空間の歪みを大きくすることに他なりません』
難しい話になってきたが、なんとか仁にも理解できる。
『つまり魔力で空間の歪みを作り出せると言うことです』
転移門も空間に干渉しているわけであるから、可能なのだろう、と仁は納得した。
『重力を増やしたり減らしたりすることは出来るようになりました。ただし、膨大な魔力素を必要とします』
「そうだろうな。ラルドゥスだったか、あいつはエルラドライトを使っていたっけ」
『はい。とりあえず、魔族の重力魔法に対抗する手段としての個人規模であれば、蓬莱島全ゴーレムに搭載可能です』
対外的に重力で影響を及ぼそうとするには膨大な魔力素を必要とするが、個人の範囲ならそれほどでもない、と老君は説明した。
「よし、さっそく取りかかってくれ。他には?」
老君の答えは、仁にとって新たな世界を見せてくれそうなものであった。
『はい。重力の方向も変えられそうなのですが、まだ実現できていません』
つまり、重力を使って推進する、という応用ができるということである。
仁は、それができるなら宇宙にも行ってみることができるな、と思い、夢を膨らませていた。
今は、目の前の問題である。
「ごしゅじんさま、今よろしいでしょうか?」
仁が次の話題に移ろうとしたとき、アンがやって来た。
「ん? どうした?」
「はい。転移門の設置について、ちょっと気がついたことが」
「何だ?」
「はい、問題点として……」
アンが言うには、各国『王城』に設置した場合、扶桑島への往路はいいが、復路に問題が発生する、ということ。
つまり、悪意を持った者が、扶桑島を経由すれば、どの国の王城へも侵入できるというのだ。
「……ああ、そうか」
仁も、扶桑島には蓬莱島ほどのセキュリティを持たせるつもりが無いので、これは危険だ。
「各国専用のパスポート、でも駄目だな」
それを盗まれてしまえば同じ事である。
「やっぱり、転移門は専用の施設を作ってもらうか……」
「はい、それがいいと思います」
「明日、それとなく侯爵の意見も聞いてみるかな」
こうして、計画の修正をしていく仁であった。
とりあえず扶桑島への転移門設置については置いておき、もう一つの話題に移ることにする。
「老君、使ってみた感じ、『転送機』は俺の計画に使えるな」
『御主人様、計画とは?』
「ああ、武器への転用なんだ。対魔族戦があると仮定して、そのために、な」
『何かを送り出すのですね?』
老君はすぐに仁の意図を見抜いた。
「そうさ。『魔力爆弾』をな」
『魔力爆弾、ですか?』
仁は説明をする。魔結晶や魔石に、『魔力爆発』の魔導式を書き込んで爆薬とする構想を。
これは以前、統一党との最終決戦で、地下の斜路に生き埋めにされかかった時(マキナが、であるが)、マキナが持つ魔力貯蔵庫を取りだし、それに魔力爆発を仕掛けて爆発させ、岩屑を吹き飛ばした時に思いついたことである。
『わかりました。試作してみます』
「頼むぞ」
地雷、爆弾、榴弾、それにミサイルなどに応用できるだろう。魔力砲との使い分けが難しいかも知れないが。
「それからな、修理用のインチ職人を各ゴーレム内に配備するというのはどうだろう? 簡単な故障なら直せるだろう」
『それはいいですね。さっそく検討を進めます』
「ああ。それから、メディカルチームというのかな、治癒魔法専門のゴーレム部隊も考えているんだ」
今回、エルザが超一流の治癒師としての能力に目覚めた。これを放っておくことはない。
「つまり『ナースゴーレム』を作りたいんだ」
このように一応のアイデアを幾つか老君に指示し、研究させることとして、仁は侯爵邸へと戻ったのである。
お読みいただきありがとうございます。
20140417 19時34分 誤記修正
(誤)それなのに、素晴らしく強いそうではないか
(正)それなのに、素晴らしく強いではないか
(誤)魔導人形競技をその目で見ておらず、伝え聞いただけなのである。
(正)魔導人形競技で礼子の強さを目の当たりにしていたのである。
時系列的に作者が勘違いしていました。お詫びして訂正します。
20140418 10時22分 表記修正
(旧)ジン殿の説明通りなら、我々の住むこの一帯は
(新)何故ならば、我々の住むこの一帯は




