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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
13 拠点充実篇
414/4299

13-02 エキシの町とエルザの実家

 翌日つまり6月24日。仁は女皇帝陛下に断り、エルザの実家があるエキシへ向かった。

 その際、

「あの話、少し変えたいの。と言っても、魔法技術匠マギエンジニア・マエストロの称号を贈ることだけ取り消させて貰うだけだけど」

 と言われた。既に魔法工学師マギクラフト・マイスターの称号を受けた仁には不要だからだ。

「仕官の話は考えておいてね?」

 そちらの方は念を押されたが、仁の中ではおおよその返事は決まりつつあった。

 それをまだ口にはせず、仁はコジュを発ったのである。飛行船はヘリウムを抜いてコジュに預けてきた。

 仁、エルザ、ミーネ、ラインハルト、そしてベルチェ。礼子、エドガー、ノワール、ネオン。

 ラインハルトの外輪船『スカーレット・トレイル』はギリギリの人員を乗せてトスモ湖を渡っていた。

「今回はバンネへ向かわないで直接エキシへ行こうと思う」

「頼む」

 ラインハルトには、今回エキシへ行く理由を説明してあった。

『ファミリー』のメンバーで今いないのはサキ。その理由はラインハルトが知っていた。

「サキは昨日、侯爵と一緒に実家へ帰ったよ」

「そうか、まあ、いいこと……なんだよな」

 そんな会話をしながらの船の旅、約1時間。一行は対岸の町エキシへ接近した。

「ふうん、それなりに賑やかだな」

 ラインハルトの実家があるバンネほどではないが、街道沿いにあるだけあって賑わっていた。

 港に入ると、管理官の船が近付いてきた。定期便や住人以外の船についての定型的なチェックである。

「それでは東3番に着けて下さい」

 桟橋の番号を告げられた。その指示に従い、スカーレット・トレイルは接舷。

「うーん、この船の場合、外輪があるから舳先かともから乗り降りした方が便利そうだな……」

 愛妻ベルチェに手を貸しながら上陸したラインハルトが呟いた。確かに、外輪船では両側舷の水車が邪魔になる。

 こんな時にも改良点を考えているところはラインハルトらしい。


「ご主人様、お待ちしておりました」

 スチュワードの声。前日、馬車だけ先行させておいたのである。

「ご苦労。さあ、行こう」

 仁の馬車は御者であるスチュワードを除いて8人乗り。1人余るが、そこはそれ、ゴーレム馬に跨ればいい。

 ということで、相談の結果、エルザの実家を知っているノワールがゴーレム馬に乗ることになった。

 黒騎士(シュバルツリッター)ノワールがゴーレム馬に跨った姿は圧巻であった。

「お、おい、見ろよ……」

「な、なんかすげえ」

 道行く者は小声で囁き交わしている。


*   *   *


 ゲオルグ・ランドル子爵邸はエキシの町、北の外れにあった。

「中心じゃないんだな」

「ああ、中央部にあるのは町長のいる役場だからな」

 仁が感想を述べると、ラインハルトが説明した。領主といっても直接統治しているわけではない。

 そもそも子爵は軍人であるから、代官として町長を立てているわけである。


 仁の馬車は港から20分程で子爵邸に到着。ラインハルトの実家より二回りほど小さいが、良く似た建築様式の館である。

 広い前庭があり、周囲には木が植えられている。

「……懐かしい」

 エルザは懐かしさのあまり、暫く家を見つめていた。ミーネは無言である。

 そんな気持ちは分かるので、馬車を預け、子爵家に取り次いで貰う間、エルザの好きにさせておく仁とラインハルト。

 そして、一行を出迎えるために出てきたのは、やせ気味の若い男。淡い赤毛でエルザと良く似た水色の目をしている。

「ラインハルトか、久しぶりだね。そしてそちらがジン・ニドー卿かな? 僕はモーリッツ・ランドル・フォン・アンバー、どうぞよろしく」

 エルザの兄でゲオルグの長男、モーリッツであった。

「モーリッツ、兄、さま……」

 兄の声に我に帰ったエルザは、駆け寄ろうとしたものの、躊躇うように途中で足を止めた。

「おお、エルザ! お帰り! 元気そうだね!」

 モーリッツは手を広げ、エルザを待ち構えるような仕草をした。エルザは躊躇いながらも、一歩、また一歩と歩みを進め、

「……兄、さま。……ただい、ま」

 モーリッツの前に立ち、帰還の言葉を口にした。モーリッツはそんなエルザの手を取って、妹を歓迎する。

「よく帰って来た。いろいろあったらしいね? まあ、お入り。ラインハルト、ベルチェさん、遅ればせながら結婚おめでとう」

「ありがとうございます。あの、子爵様のご容態はいかがなんですの?」

「まあ、立ち話もなんだから、とにかく中へ入ってくれ。最後になるが、ミーネ、お帰り」

「……ありがとうございます」

 そういうわけで、一行は子爵邸に入り、広い応接間に通された。

「……お母さま、は?」

 きょろきょろとあたりを見渡したエルザが尋ねた。この『お母さま』は、当然、ミーネのことではなく、子爵夫人、マルレーヌ・ランドル・フォン・ネフラのことである。

「ああ、母さんは療養のため、ワス湖湖畔の別荘へ行っている」

 マルレーヌはやや身体が弱く、フリッツを産んだのち、もう子供を産むのは無理と治癒師に言われていた。

 それもあり、ゲオルグ・ランドル子爵は、ミーネに産ませたエルザを手元に引き取ったのである。……婚姻という名の元に、手駒にするために。

「……そう」

 少しがっかりするエルザ。血が繋がっていなくても、優しかった育ての母に会いたかったのである。


「まあ、色々と聞きたいこともあるし、そちらも話はあるのだろうが、まずは最優先の用件から片付けた方がいいだろうね?」

 切れ者らしく、モーリッツは余計な話を挟むこと無く、本題に入った。

「先触れの者から、今回来訪の趣旨は聞いているよ。父ゲオルグの見舞いと診断、それにかのマルカスについて、でよいのだね?」

「はい」

 一同を代表して仁が答えた。

「まあ、娘が父親に会うのに何の遠慮もいらないわけだが……エルザ、あとでいろいろ聞かせてくれるね?」

「はい、兄さま」

 モーリッツは、エルザに色々と質問したい気持ちを押し殺しているようだ。やはり次男のフリッツと違って知性派である。その分、身体は弱そうだが。


「前回……一昨年に倒れたときはすぐ気が付いたのだが、今回はまだ意識が戻らないんだよ……」

 ゲオルグが眠る部屋に一行を招き入れたモーリッツは、沈んだ顔で言葉を発した。

「父さま……」

「旦那様……」

 いわゆる植物状態で横たわるゲオルグを見て、エルザとミーネは言葉を失った。

「エルザ、診断して見てくれ」

 見かねた仁が言葉を掛けなければ、まだずっとそうしていたかも知れない。

「うん、わかった。……『診察(ディアグノーゼ)』」

 エルザが高度な治癒系魔法を使うのを見たモーリッツは一瞬目を剥いたが、何も言わず見守り続けた。

「……『診察(ディアグノーゼ)』」

 何度か診察(ディアグノーゼ)を掛け直し、調べていたエルザであったが、最後に掌をゲオルグの額に当て、

「『完治(ゲネーズング)』」

 最上級治癒魔法を唱えた。さすがにモーリッツもそれには驚いたようで、

「エ、エルザ! いつの間に!」

 と、聞かずにはいられなかったのである。

「……で、どうだ?」

 それよりも仁は、エルザの表情が気になったので、診察結果を早く知りたかった。

「……父さまのここに、血の塊がある。それが、脳を圧迫している、みたい」

 エルザは自分の額を指差して見せた。

「ふうん、前頭葉か……あー、なんだっけかなあ」

 仁といえど、なんでもかんでも知っているわけではない。脳の前頭葉がどんな役目を司っていたか、思い出そうとしたが、記憶はあやふやであった。

「だが、とにかく脳にとっていい状態ではないのは間違いないな」

「うん。それで、完治(ゲネーズング)を使ってみたけど、あまり効果はなかった」

 そんな、仁とエルザの会話を聞いていたモーリッツは、残念そうに言葉を紡ぐ。

「僕もいろいろな分野の知識を学んだ自信はあるのだが、お2人の会話には付いていけない。だが、完治(ゲネーズング)が効果ないのでは、もう父は……」

「いや、そうじゃない」

 気落ちするモーリッツを遮るように仁が言った。

「エルザ、完治(ゲネーズング)は内科系だよな?」

「……うん、そう言われればその通り」

「外科系の治癒魔法は何が使える?」

「……全快(フェリーゲネーゼン)……使えるかどうかわからないけど、やって、みる」

 全快(フェリーゲネーゼン)は外科系の最上級治癒魔法である。

「治癒の力よ、かの者を治せ、『全快(フェリーゲネーゼン)』……」

 瞬間、確かにその魔法は発動した。が、以前完治(ゲネーズング)を習得したときと同様、エルザは力を使い果たし、倒れこんだのである。

 最初に魔法を使うときは、呪文の他に、イメージを高めるための言霊として、詠唱を行うといいようです。


 お読みいただきありがとうございます。


 20140409 16時14分 表記修正

(旧)仁の馬車で港から20分程で子爵邸であった

(新)仁の馬車は港から20分程で子爵邸に到着

 「で」が重なるので表現変更。


 20140415 22時22分 表記修正

(旧)兄の声に我に帰ったエルザは駆け寄ろうとして途中で足を止めた

(新)兄の声に我に帰ったエルザは、駆け寄ろうとしたものの、躊躇うように途中で足を止めた。


 20190131 修正

(誤)モ—リッツ

(正)モーリッツ

 一箇所修正。


20190626 修正

(旧)全快(フェリーゲネーゼン)は外科系の上級治癒魔法である。

(新)全快(フェリーゲネーゼン)は外科系の最上級治癒魔法である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 完治は内科的療法だから効かない、外科的療法をとのことだったので、てっきり頭蓋骨に穴を開けて血塊を取り出す手術でもするのかと思った。 かつてのエジプト文明やマヤ文明でもしていたようなので(笑)…
[気になる点] 最初の発動に詠唱が有効なのはマギクラ世界の魔法アーカイブに接続検索する時にアーカイブ内で魔法を見つけやすくなるのでは?と思った。 [一言] 某異世界にて 少女「…………おかしい」首を…
[気になる点] えっ!?完治って何?患部を治すんじゃないの?血塊があると効果無いって完治って何なの?ただの体力回復じゃん??? ホント破綻しまくり
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