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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
13 拠点充実篇
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13-01 仁、動き出す

「うわあ、凄い眺めだね!」

「これは爽快じゃのう!」

 ショウロ皇国のコジュで行われた技術博覧会。

 そこで仁は身長10センチのミニ職人(スミス)と飛行船を発表。最優秀の魔法技術をもつ者として、ショウロ皇国限定ではあるが、『魔法工学師マギクラフト・マイスター』の称号を受けたのであった。


 そして今、その飛行船に、エゲレア王国のアーネスト王子と、クライン王国のリースヒェン王女を乗せて空を飛んでいるところである。

「ジンってやっぱり凄いねえ。あんなマルカスなんかよりずっと」

「はあ、どうも」

「アーネスト様、あの時はハラハラしましたぞ……」

「はは、ごめん、リース」

 あの時とは、マルカスのゴーレムを物足りない、と口に出して批判したときのことだろう。

 リースヒェン王女も腹芸のできる方ではないと仁は思ったが、自分のことはわからなくても、他人のことはわかるものなのである。

「おおっ、あそこにきれいな鳥が飛んでおる!」

「どこだい、リース? 僕には見えないよ」

 遠見の魔眼持ちであるリースヒェン王女は、仁やアーネストには到底見えないような遠くのものまで見える。

 であるから、この空の旅を一番楽しんでいたのかもしれない。

「お2人ともすっかり打ち解けてらっしゃいますね」

 仁が2人に向けてそう言うと、アーネスト王子は微笑み、リースヒェン王女は少し頬を染めた。

 そんな2人を乗せて、仁はたっぷり1時間空を飛び、コジュへと戻ったのである。

「ああ、楽しかった! ジン、また乗せてよね!」

「アーネスト様、あまりジンを困らせるものではありませぬぞ。我等王族を乗せて何かあったら国際問題になるのですから」

 アーネスト王子13歳、リースヒェン王女12歳。なのにリースヒェン王女の方が少々大人びて見えた。

「お帰りなさい、魔法工学師マギクラフト・マイスター、ジン・ニドー卿」

 彼等を地上で出迎えたのはショウロ皇国女皇帝、ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロと、宰相であるユング・フォウルス・フォン・ケブスラー。

 国賓である王子王女であるから、女皇帝自ら接待しているのである。

 その女皇帝も、飛行船に乗りたくて仕方ないといった顔をしているが、今はアーネスト王子とリースヒェン王女のお相手と言うことで、涙を呑んで我慢していた。


 2人を下ろした仁は、ようやく解放されるかと思いきや、昨日の約束で、乗りたがっていた人々およそ120人を乗せる羽目になっていた。

「悪夢だ……」

 それもこれも、飛行船という常識外れの作品を発表したため。自業自得である。

 120人の体験希望者は2人ずつ乗せ、1回の飛行は5分と言うことにし、およそ5時間かけて全員の体験飛行を終わらせた仁は疲れ果てていた。


「うう……」

 ホテルの自室に戻り、ソファでぐたーっとする仁に、礼子がペルシカジュースを差し出した。

 蓬莱島特製で、疲労回復効果もある。のだが、それは普通の人間の話。

 仁の身体は、ほとんどが魔力素……より正確には魔原子(マギアトム)で構成されている。現代地球で溶鉱炉の取り鍋に落下した際に欠損した部位を魔原子(マギアトム)が補っているのだ。

 故に、毒や薬などは仁には効果が無い。このあたりの新陳代謝の仕組みなどについて、一度じっくり調べてみようと思いつつ、他の事にかまけて今日までなおざりになっているのである。

 閑話休題。

 ペルシカジュースを飲んで気分だけは新たにした仁は、ソファに起き上がった。

 そこへちょうど、エルザとミーネが戻って来たのだ。エドガーも一緒である。

「おかえり。どうだった?」

 失踪後の正式な、詳しい事情聴取が行われていたのである。

「うん、何も問題無かった」

「ええ、ただこちらの説明を記録するだけ、といった内容でした」

 これについては事前に老君が答え方を用意していたので問題なく終わったのだろう。女皇帝陛下がいないのなら尚更。

 先日、女皇帝陛下が許可を出したというのは大きい。

「良かったな。で、どうすることになったんだ?」

 ゲオルグ・ランドル子爵が倒れ、しかも何らかの罰が下される可能性が大となれば、エルザの帰る家については宙ぶらりんである。

 その子爵の処遇も未だにもめているらしい。かなりの確率で取り潰しもあり得るだろう。

「うん、当面、ライ兄のお世話になることに、なった」

 エルザの説明に仁も納得である。

「なるほどな」

 仁の弟子という建前でもあるし、仁の饗応接待役はラインハルトであるから、当然の処遇とも言えよう。

 これなら仁と一緒に行動するのに何の問題もないわけだ。

「それで、サキは? 何か聞いてるか?」

 身体の衰えたゲーレン・テオデリック・フォン・アイゼン侯爵を支えて行ってしまい、技術博覧会以来、姿を見ていないのである。

「サキ姉は、侯爵と一緒にいる、らしい」

「ふうん……」

 ジジイだとか何だとか陰でいろいろ言っていたが、やはり血の繋がった肉親である。

「やっぱり血の絆かな。血は水よりも濃い、って言うし」

 仁がその言葉を口にすると、エルザの顔が僅かに曇った。

「ああ、ごめん、エルザ」

 最近の仁は、エルザの表情の変化をちゃんと見分けられるようになった。

 少女期の厳しい躾で、感情をあまり面に表さなくなったエルザであるが、最近はすこしずつ年相応の表情も見せるようになって来たこともある。

「……ううん、いい。気にしないで」

 昨日、激昂した父親、ゲオルグ・ランドル子爵に酷い言葉を投げ付けられ、ショックを受けていたエルザ。

「……子爵の容態はどうなんでしょうね」

 話題を少しずらすようにミーネが口にした言葉。

「ああ、確かに心配ではあるな。もし脳梗塞だったら……待てよ?」

 忙しさのせいで落ち着いて考えられなかったが、仁には気に掛かることがあった。

「エルザのお父さんって、前にも倒れたことがあるってラインハルトが言っていたよな?」

「……うん」

「エルザは旅行に行っていたらしいが、その前後で、もしかして性格が変わったということはないか?」

「あります!」

 勢い込んで返事をしたのはミーネだった。

「あの人……は、それまでも頑迷で権力志向が強い人ではありましたけど、それなりに周囲からの進言には耳を貸していました。ですが、一度倒れて、回復してからは、独りよがりになりました。怒りっぽくなりましたし、自分の気に入らないと部下を殴るようにもなったようです」

「うーむ……」

 ミーネの話を聞いた仁は、『認知症』という単語を思い浮かべた。

 エルザはわかっていないところを見ると、当初の知識転写(トランスインフォ)ではそこまでの知識は得られなかったらしい。

 脳梗塞つまり脳の微細な血管が詰まることでも認知症は引き起こされる。その場合、往々にして性格の変化がみられるという。

 多くは怒りっぽくなり、突発的な行動をするようになる。

 仁が育った現代地球では、そのような症状のことがTVなどで良く流されており、仁も院長先生が心配なのでよく見ていたから、少しはわかるのだ。

「心配なのか?」

「……わから、ない」

 どれだけ酷い言葉を投げ付けられようとも、やはり親子という事実には変わりはないのかもしれない、と仁は思った。

 それは、仁にはわかりたくてもわからない感情である。

「……見舞いに行くのなら、一緒に行ってやるぞ?」

 その言葉にエルザの肩がびくっと震える。

「……」

 だが、エルザは俯いたまま返事をしなかった。代わって礼子が口を開く。

「もしも、もしもですよ? エルザさんのお父さんの性格が変わったのが、お父さまがおっしゃった『脳梗塞』のせいだとしたら、『脳梗塞』を治せたら、性格も元に戻るのでしょうか?」

「え……」

 その言葉に、エルザの顔が上がった。

「それに、マルカスが何をしていたのかも気になります。目的は情報収集と言っていたそうですが、ゴリアスを作ったことからも、何か他にもやっていたという推測が成り立ちます。それを知ることも必要だと思います」


 マルカスが魔族の手先であったらしいことは今のところ仁と礼子、老君とアン以外に知るものはいない。

 実際に、マルカスを尾行していったレグルス50は、魔族の領域手前で突然倒れたマルカスを確保していたのである。

 それはまるで、糸の切れた人形が倒れるようだった、とのこと。

 そして確保後、近くの町まで運び、介抱したところ、じきに意識を取り戻したという。

 だが、マルカスは、それまでのことを何も憶えていなかったのである。知識転写(トランスインフォ)を使って調べたのだから間違いない。

『操り人形にするような魔法でも使ったのでしょうか』

 老君はそう推測せざるを得なかった。そうでもなければ説明が付かなかったのである。それなら、彼の知識が虫食いのようだったことも一応説明は付く。

 だが誰に操られていたのかはマルカスも覚えていなかった。

 故にマルカスが魔族に操られていたという可能性は非常に高いが、確実ではなかった。そのため、仁はこの事を誰にも話してはいないのである。不必要な混乱を招きたくもなかった。

 が、蓬莱島ファミリーには近々話すつもりである。が、サキがいないので、先延ばしになっているのであった。


「……それは、確かに」

 礼子の言葉にエルザは頷いた。

 もつれた糸を解き解くには、どうしてもゲオルグ・ランドル子爵邸へ出向く必要がありそうである。これは仁とエルザにしか出来そうもない。

「……わかった。ジン兄、行って、みる」

「よし、それじゃあ明日、向かうことにしよう」

 新章開始です。

 まずは伏線の回収から。


 お読みいただきありがとうございます。


 20140408 12時24分 脱字修正

(誤)マルカスがの手先であったらしいことは

(正)マルカスが魔族の手先であったらしいことは


 20140408 19時20分 誤記修正

(誤)開放

(正)解放


 20140409 11時08分 表記修正

(旧)一昨日、女皇帝陛下が許可を出したというのは大きい

(新)先日、女皇帝陛下が許可を出したというのは大きい

 一昨日じゃなかった……orz


(旧)今のところ仁と礼子、老君とアン以外には伏せている

(新)今のところ仁、礼子、老君とアン以外に知るものはいない


 20140622 16時30分 表記修正

(旧)仁の接待饗応役はラインハルト

(新)仁の饗応接待役はラインハルト

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえばジンはペルシカの疲労回復効果はちゃんとあるんだろうか?(話の内容的にもはや病は気からの領域っぽいけど)
[気になる点] えっ?ヒ素は誰かに盛られてたんじゃないの?このままスルー? イミフだな
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