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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
12 ショウロ皇国錬金術師篇
403/4299

12-53 診察、そして

「肝臓? それはいったいなんだ?」

 肝臓が悪い、と告げた仁に、テオデリック侯爵が聞き返した。内臓の正しい知識など無いのであるから、当然である。

「肝臓、といいますのは、この辺にありまして……」

 自分の身体を指さし、肝臓の位置を説明する仁。

「別名レバーと言われていまして、代謝とか解毒とか消化とか……」

 仁もそれほど詳しいわけではないので上手い説明が出来ない。

「ふむ、なるほど、わからん」

 案の定、侯爵は理解できなかった。

「だが、この辺に大きな臓器があるのは知っておる。そうか、そこが悪いのか」

 寂しげに笑った侯爵は、更に諦めたような顔をする。

「退役した我だが、もう少し国のために働きたかった。が、これも運命か」

「あの、退役後、何を?」

「うむ、後進を育てるための学舎を作りたかったのだ」

 仁はその話を聞いて、侯爵は思っていたほど酷い人間ではないと感じた。


 飛行船はトスモ湖上空を一巡りして、ゆっくりと高度を下げていくところ。操縦しているのは礼子である。

 仁は侯爵相手に操縦法について簡単な説明をしていた。

「はは、ジン殿、貴重な体験、感謝する。我としては個人的に何か褒美……いや、礼をしたいのだが……」

 そう言いだした侯爵に、仁は何もいりません、と言いかけて思いとどまった。

「……閣下、非常に申しづらいのですが」

「うん? 何かな?」

 仁は一拍おいてからその質問を口にした。

「エルザ・ランドルを諦めていただけませんか? ……」

「ああ、かまわんぞ」

「……彼女も嫁入りするよりやりたいことが……え?」

「だから、かまわんぞ、と言った」

「は、はあ」

 あっけなくエルザを嫁にするのを止める、と言った侯爵に、仁は拍子抜けするが、それに続く言葉を聞いて納得する。

「もうこの身体では若い娘を嫁に貰ってもどうにもならん。不幸にするだけであるからな。気に入っていたのだが、だからこそ不幸にはしたくはない」

 侯爵は侯爵なりの美学を持っていたようだ。仁は安心した。

 それで、女皇帝陛下にした説明を侯爵にも伝えることにした。礼子には少しゆっくり降下させるよう指示を出してある。

「……ふむ、そうか。エルザは我のところに嫁入りするのを嫌がっていたのか。彼女の父親はそんなことを言っていなかったからな。本人が望んだ縁だから是非にと言っていたのだ」

 そんなことを侯爵が言ったので、全てはエルザ父の暴走らしいと仁は思った。

「我の妻は皆、我を愛してくれた……と思う。望まぬ者を嫁にしたのでは、彼女たちに顔向けできぬよ。エルザには悪い事をしてしまったな。そのため、統一党(ユニファイラー)などという輩に捕らえられたり、苦労させてしまった。あとで詫びをしなくては」

 エルザの話を持ち出したのは一種の賭であったが、仁は自分の判断が正しかったことに安堵した。

 侯爵は、若い子が好きなのは確かであるが、紳士であったのだ。


 そして飛行船は広場中央に着陸した。

「ジン殿、楽しいひとときであった」

 仁に握手をして、侯爵は飛行船から降りていった。その足取りはおぼつかない。すぐに配下が飛んできて、侯爵を支えながら戻っていった。

 アリーナは歓声と拍手に包まれた。

 仁は観客に礼をし、スチュワードに命じて飛行船を広場隅まで移動させ、係留したのである。


*   *   *


 仁の飛行船の後では、どんな出し物も貧弱に見えてしまう。

 2名が発表を行ったが、反応は今一つであった。

 そして仁はといえば、控え室にエルザとサキを呼び、話をしていた。

「……」

「……ふうん、祖父さんがそんなことを、ね」

 話し終わったあと、エルザは無言。サキは冷淡なようだが、その実、ちょっと心配そうな顔を覗かせた。

「で? ジンはそれをボクたちに聞かせて、ど、どうしたいんだい?」

 その証拠に、少し声が震えている。

「エルザなら侯爵の病気を治せると思うんだ。ただ漠然と使ったのでは『完治(ゲネーズング)』であっても効果は薄いと思う。それに……」

「それに?」

「……いや、ちょっと気になったことがあったんだが、不確かなんで、エルザにも確かめて貰いたいと思う。エルザ、どうだ?」

 仁に聞かれたエルザは俯き、暫く考えていたが、やがて顔を上げる。その顔は決意を感じさせた。

「……やってみる。私に出来るのなら」

 それを聞いた仁は、礼子が確認した結果もエルザに伝える。

 もちろん、今の礼子はエルザの『完治(ゲネーズング)』も使えるが、侯爵を治すのがエルザであることに意味があるのだ。

「……わかった。ありがとう、ジン兄、レーコちゃん」

「よし、あとはタイミングだな」

 それには皇帝陛下にも立ち会って貰うのが一番だ、と仁は考えている。

 それで、仁たちは急いでアリーナへ戻った。


 アリーナでは、ちょうど全ての出し物が終わったところである。

 観客は三々五々引き上げていくところ。

 貴賓席の更に特等席だった女皇帝も、席を立ち、降りてくるところだった。そして仁たちを見つける。

「ああ、ジン君、素晴らしかったわ! この後、時間、あるかしら?」

「はい、大丈夫です。こちらからも一つ提案があるんですが」

「あら、なにかしら?」

 立ち話をするわけにもいかないので、一行は施設内にある会議室へと向かった。

 ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロ女皇帝、ユング宰相、デガウズ魔法技術相、それに護衛騎士2名。そして仁、エルザ、サキと礼子、エドガー、アアルである。

「それじゃあまず、ジン君の話を聞かせて貰いましょう」

 急を要する雰囲気を酌んでくれた女皇帝。仁は一礼すると、テオデリック侯爵の病状について説明した。

「そうすると、エルザは、侯爵の治療ができると言うのね?」

「ええ、多分、ですが」

「それでもそれは朗報よ。急いで侯爵を連れてきなさい!」

 即断即決。女皇帝は護衛騎士の1人に命じ、テオデリック侯爵を呼びに行かせた。3分ほどで侯爵が介添えに支えられてやってくる。

「陛下、お呼びですか? ……おお、サキ!」

 足を引きずりながらやってきた侯爵はサキを見つけると喜びに顔を綻ばせた。

 それとは対照的に、侯爵を見たエルザは顔色を変える。何故ならば、自分の知っている侯爵とは似ても似つかなかったからだ。

 恰幅の良かった侯爵が骨と皮だけになった姿を見、エルザはショックを受けていた。

 サキは、飛行船から下りたときにすれ違ったので侯爵の姿を見てはいたが、やはり面と向かうとその変わり果てた様子に顔を歪ませた。

「お祖父様! ……そのお身体は!?」

 陰ではジジイ呼ばわりしていたサキであるが、やはり血の繋がった肉親、痩せこけ、やつれた姿に驚き、心から心配をしていたのである。

「サキ、心配してくれるのだな。なに、寿命が来た、それだけのことだ」

 そう言って女皇帝の勧めるままにソファに座った侯爵は、エルザの方を見やり、首をかしげた。

「はて、そちらのお嬢さんは、どこかでお会いしたかな? 見覚えがある気もするのだが、思い出せん」

 エルザがカツラを被り、保護眼鏡をかけていたからである。

「侯爵、そういう話は後まわし。まずはそこに横になりなさい」

 だが女皇帝はそんな侯爵をさえぎり、ソファに横になるよう命じた。

 陛下の前で、と言って固辞する侯爵であったが、命令です、の一言に、渋々横になったのである。

「それじゃあ、頼むわね」

「……はい」

 エルザが進み出る。

「お嬢さん、何を……」

 そう言いかけた侯爵をさえぎるように、エルザは診察を開始した。

「『診察(ディアグノーゼ)』」

 肝臓周辺の情報を重点的に調べていくエルザ。その顔色が変わった。

「……毒物」

「え?」

「……侯爵の肝臓には、毒物が蓄積して、います」

 お読みいただきありがとうございます。


 20140329 13時44分 誤記修正

(誤)誇示する侯爵であったが

(正)固辞する侯爵であったが


 20140329 20時54分 表記修正

(旧)侯爵を見たサキとエルザは顔色を変える。何故ならば、自分たちの知っている侯爵とは似ても似つかなかったからだ。

(新)侯爵を見たエルザは顔色を変える。何故ならば、自分の知っている侯爵とは似ても似つかなかったからだ。


(旧)やつれた姿に驚き、心から心配をしていた。

(新)やつれた姿に驚き、心から心配をしていたのである。


(旧)ー

(新)サキは、飛行船から下りたときにすれ違ったので侯爵の姿を見てはいたが、やはり面と向かうとその変わり果てた様子に顔を歪ませた。

 を「・・・侯爵とは似ても似つかなかったからだ。」と「お祖父様! ……そのお身体は!?」の間に追加。


 サキは飛行船から下りた際に侯爵の姿を見ていたはずなので、その矛盾を修正しました。


 20140330 09時18分 表記修正

(旧) それとは対照的に、侯爵を見たエルザは顔色を変える。何故ならば、自分の知っている侯爵とは似ても似つかなかったからだ。

 サキは、飛行船から下りたときにすれ違ったので侯爵の姿を見てはいたが、やはり面と向かうとその変わり果てた様子に顔を歪ませた。

「お祖父様! ……そのお身体は!?」

 陰ではジジイ呼ばわりしていたサキであるが、やはり血の繋がった肉親、痩せこけ、やつれた姿に驚き、心から心配をしていたのである。

 エルザも、恰幅の良かった侯爵が骨と皮だけになった姿を見、ショックを受けていた。

(新) それとは対照的に、侯爵を見たエルザは顔色を変える。何故ならば、自分の知っている侯爵とは似ても似つかなかったからだ。

 恰幅の良かった侯爵が骨と皮だけになった姿を見、エルザはショックを受けていた。

 サキは、飛行船から下りたときにすれ違ったので侯爵の姿を見てはいたが、やはり面と向かうとその変わり果てた様子に顔を歪ませた。

「お祖父様! ……そのお身体は!?」

 陰ではジジイ呼ばわりしていたサキであるが、やはり血の繋がった肉親、痩せこけ、やつれた姿に驚き、心から心配をしていたのである。

 エルザの驚く様子の描写位置を変えました。

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― 新着の感想 ―
私の脳内侯爵の姿が何故か熊になりました。 病気が治ったら通報しましょう。
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