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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
01 カイナ村篇(3456年)
38/4298

01-25 破られた約束

 季節も本格的な冬となり、カイナ村から見える山々には雪が降った。

 高原状台地ではあるが、より高い山々に囲まれているこの村は降水量が少ないが、周囲の山々に降る雨や雪で潤っていることがわかる。

「雪とはいっても積もるほどは降らないんだな」

 仁は一応都会育ちだったので、かまくらとか作ることに憧れていたのだが、この村では無理なようだ。

「そう言えば、ローランドさん、ここのところ姿を見せないな……」

 商人のローランドとは1ヵ月半に一度は来ると約束したので、もうとっくに来ていなければいけないのだが、姿を見せていない。

 誠実さが売りの商人が約束を破るとは考えにくいのだが。


 そんなある日、ローランドではない人物がカイナ村を訪れた。

「ジンおにーちゃん、おばあちゃんがよんでる!」

 作業場で魔石(マギストーン)利用のストーブを制作していた仁はその手を止めて、母屋へと向かった。

「ジンさん、お久しぶりです」

 そこにいたのは徴税官、リシア・ファールハイトであった。

「リシアさん、お久しぶりです。お元気そうですね」

 仁がそう挨拶すると、リシアは、

「す、すみません!」

 そう言って頭を下げた。何が何だかわからない仁は、

「ちょ、リシアさん、とりあえず頭を上げて下さい。わけがわかりません」

 すると頭を上げたリシアは済まなそうな顔で、

「ゴーレムの件、うやむやにしきれませんでした……」

「えっ?」

「トカ村に駐屯していた兵士の1人が、王都へ戻って吹聴したらしく……」

 これは仁が悪い。麦の輸送の時に、仁が作り替えたゴーレム、ゴンは兵士やトカ村の村人に見られているのだ。

 リシア1人の口を塞いだとて、人の口に戸は立てられない。噂が王都に伝わるのは早かった。

 リシアの話によると、

 トカ村近辺にゴーレムが現れたという噂、そしてそのゴーレムを使役している者がいるという噂が王の耳に入る。王は宰相に命じ、その真偽を確認させる事にした。

 宰相は慎重に噂を調べていき、そのゴーレムを使役していた者というのがカイナ村に住むジンであることを突き止めた。

 そしてまた、ジンは、王都周辺で普及しつつあるポンプの開発者であり、更に庶民の間で大人気のコンロをも作り出したという。

 それを聞いた王はジンに脅威を感じたらしく、カイナ村、トカ村を含むこの一帯を治める領主、ワルター伯爵にジンを連れてくるように命じたというのだ。

「今、この村目指して、伯爵の手勢50名が向かっています、早く逃げて下さい!」

 リシアはそう締めくくった。

「ジン……」

 心配そうな顔のマーサに、

「大丈夫ですよ。別に悪い事をしたわけじゃないし」

「ジンさん、そんなこと言ってる場合じゃ……」

「逃げたらかえって怪しまれるでしょう?」

 そう言って安心させる仁だが、内心は少し焦っていた。リシアは説得できないと諦め、

「ジンさん、ゴーレムを作り出したり操ったりできる魔法工作士(マギクラフトマン)は貴重ですが、国に所属してないとなると危険分子と見なされるようです。ですので気をつけて下さい」

「ありがとう、リシアさん。気をつけます」

 とはいえ、何に気をつければいいかよくわからないのだが。

 とりあえず、作業場に戻って礼子と相談することにした。

「最悪、逃げることもあるかもしれない」

「でしたら、ここのではなく山にある転移門(ワープゲート)を使った方がいいですね。ここのものは使えなくしておいた方がいいかと」

「うん、残念だけど、な」

 早速、転移門(ワープゲート)を置いてある地下室を埋め、入り口もわからないように戻す、そこまでした時。

「ジン、だな?」

 作業場の入り口から高圧的な声が響いたのである。見ると鎧に身を包んだ兵士が大勢立っている。思ったより早かった。

「ええ、俺が仁ですが?」

 仁がそう答えると、指揮官らしき男が、

「ふん、貴様を連行する。抵抗したら容赦しないぞ」

 そう言って槍を突きつけた。仁はそれをそっと抑えて、

「いきなり何ですか?」

 そう言うとその指揮官らしき男は、

「貴様、この一帯を治める領主である、このワルター伯に逆らう気か?」

「いえ、だから、いったいなぜ連行されなきゃならないんです?」

 ここへきてようやく仁は、なぜリシアが逃げろと言ったのか理解したがもう遅い。

「ふん、王の命令である。素直に従え」

 税率やリシアの話などから判断してこの国はまともなんだと思っていたがどうやら違ったらしい。目の前にいる男は権力を笠に着る典型的なタイプだ。

「俺は別にこの国の人間じゃないんでね。素直に従う義理はないんですが?」

 だんだんと仁はむかっ腹が立ってきた。別に仁は聖人君子ではないし、どちらかと言えば短気である。身内に対しては甘いが、身内を害された時は容赦が無くなる。

「おにーちゃん!」

 駆け寄ろうとするハンナ、その小さな身体が兵士に遮られる。いや、突き飛ばされ、尻餅をついた。

「きゃっ!」

「ハンナ!」

 前に出る仁、それを遮るように槍が突き出される、が。

「邪魔するな」

 その槍を掴んだ仁は、変形(フォーミング)を発動させる。見る間に槍が変形、Uの字に曲がってしまった。

「な! 槍が!」

「貴様! 逆らうか!」

 更に3本の槍が突き出された。それを止めたのはゴーレムのゴン。村の見回りから帰り、主人(マスター)である仁の危機に駆けつけてきたのである。

「な! これはゴーレム! やはり貴様が犯人だったか!」

「犯人?」

 ハンナを抱き上げた仁は怪訝な顔で問い返した。

「とぼけるな! 今王国各地で起きているゴーレムによる襲撃事件、それは貴様が起こしていたのだな!」

「はあ?」

 まずいことに、ゴンとゲンの外観は、仁達が襲われた時とほとんど変わっていない。色は変えたものの、デザインはほぼそのままである。

「とぼける気か? 儂も1度見たし、兵の中にも見た者がおる。色は違うが同じ形式のゴーレムが各地で人や資材を襲っているではないか」

「何だって?」

 事ここに及んで、ようやく仁は事態の悪さを認識した。何者か、あるいは何物か、が、ゴーレムを用いてクライン王国各地を襲わせているようだ。ゴンの前身になったゴーレムもその1体だったらしい。

「ち、あの時もう少し調べておけば良かった……」

 後の祭りであるが、ゴーレムのコアを精査すれば、犯人の目星が付いたかもしれなかったのだ。

「最早言い逃れはできんぞ!」

 仁の周りを兵士が取り囲んだ。仁は腕に抱いたハンナに向けて、

「ハンナ、俺は悪い事なんかしていない。けど、今はもうここにいられないみたいだ」

「おにーちゃん……」

「春まで、って約束、守れなくてごめん。またいつか、会いに来るから。それまで元気でな」

 そう言い終えた仁は、そっとハンナのスカートのポケットにルビー(?)を滑り込ませた。

 そして一言、

「礼子!」

「はい、お父さま」

 仁の声を聞いた忠誠無比の自動人形(オートマタ)礼子は、仁を囲んでいた兵士10名をあっという間に吹き飛ばした。

「な! 貴様、逆らうか!」

 慌てるワルター伯に向かって仁は、

「いいか、俺はゴーレムで襲わせたりなんかしていない。だが、謂われのない罪を被せられるのも本意ではないからここを立ち去ることにする」

 そう言ってハンナをマーサに渡すとゴーレム馬の『コマ』を呼び、それに跨る。礼子も仁の前に乗った。

「もう一つ忠告しておく。カイナ村の人たちに指一本でも触れてみろ。クライン王国をぶっつぶしてやる」

 そしてハンドルを切り、

「マーサさん、お世話になりました、お元気で!」

 そう言うが早いか、呆気にとられているワルター伯以下の兵士達を尻目に、北の山へ向けて走り出した。ゴンとゲンも後に続く。

「な、何をしている、貴様等! 追え! 追うのだ!」

 だが、ゴーレム達の足は早く、みるみる小さくなっていった。それでも追っていく兵士達。ワルター伯も普通の馬で追いかけていった。

「おにーちゃん……」

「ジン……」

「ジンさん……」

 後に残されたハンナ、マーサ、リシアはそれぞれ仁の無事を祈っていた。

 むしろリシアがありのまま、つまり仁がゴーレムを撃退して自分のものにした、と報告していればこんなややこしいことにならなかったんでしょうね。

 お読みいただきありがとうございます。


 20160505 修正

(旧)商人のローランドとは1箇月半に一度は来ると

(新)商人のローランドとは1ヵ月半に一度は来ると


 20190831 修正

(誤)「お兄ちゃん……」

(正)「おにーちゃん……」

 2箇所修正。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 吹聴したやつぶっ飛ばしに行け!笑
[一言] > すると頭を上げたリシアは済まなそうな顔で、 >「ゴーレムの件、うやむやにしきれませんでした……」 >「えっ?」 >「トカ村に駐屯していた兵士の1人が、王都へ戻って吹聴したらしく……」 >…
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