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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
12 ショウロ皇国錬金術師篇
367/4299

12-17 エドガー

 カイナ村に戻ると、ちょうどお昼時。

「ジン様、お帰りなさいませ。エルザ、お帰り」

 ミーネが出迎えてくれる。漂う匂いは、パンを焼いていたようだ。

「焼きたてのパンがありますよ」

 ちょうどいい、と、仁は礼子と共にマーサ邸へ。

「おやジン、レーコちゃんが持っているものは何だい?」

 礼子の持っている鍋を見て、マーサが尋ねてきた。

「粒あんですよ。これをパンに付けて食べるんです。好き嫌いはあるかも知れませんが、俺の故郷の食べ方です」

「あ、ほにーひゃん、おはえりなはい」

 手を洗ってきたハンナが食堂で仁を見つけて嬉しそうに笑った。

「ハンナ、ただいま。……さあ、食べてみて下さい」

 仁は率先してあんこをスプーンですくってパンに乗せる。

 他の者も真似してあんこをパンに乗せた。

 一口食べた者はその甘さに驚いた。

「あまーい!」

 にこにこ顔のハンナ。今回仁が一番見たかったものだ。

 お土産を持って来られなかったことを気にしていたのである。

「ジン兄、美味しい」

「甘いねえ。ちょっと塗れば十分だね」

「ジン様、『あんこ』っていうのですか? 見た目はちょっと良くないですけど美味しいですね」

 塩味のスープを飲み、甘いパンを食べる。みんなあんこの味が気に入ってくれたようで、仁はほっとした。

(でもカイナ村じゃサトウキビの栽培は無理だろうな……そうなるとテンサイも見つけたいところだ)

 砂糖は貴重品であるから、自給自足しない限り、頻繁には食べられないだろう。

(でも虫歯予防には、たまに、でいいのかも)

 前歯が抜けているハンナの顔を見てそんな事も思う仁であった。


 食事を済ませると、仁は再びエルザと共に蓬莱島へ。

(明日は時間いっぱい、ハンナに付き合ってやろう……)

 そう思いながら。

「さてエルザ」

 工房で作業台を挟み、エルザと向かいあった仁は、新たな課題をエルザに出す。

自動人形(オートマタ)を作ってごらん」

「……え?」

 エルザは己の耳を疑った。まだ魔法工作(マギクラフト)を始めて間もない自分に作れるだろうか、と。

「もうエルザは十分実力がある。足りないのは経験だ。俺が見ているから、やってごらん」

「…………」

 仁にそこまで言われては、エルザも嫌とは言えない。

「うん、やってみる」

 一つ頷いて、まずは手順を考えてみた。

「……骨格、魔導装置(マギデバイス)、筋肉、頭部、皮膚、制御核(コントロールコア)……」

「うんうん、だいたいそんなところでいい。最初はあまり大きなものは止めて、そうだな、礼子くらいのものから始めてごらん」

 横にいる礼子の肩を叩いた仁。

「……わかった」

 まだ少し自信無さげだが、それでもエルザは材料を選別し始めた。

「最初は使い慣れた軽銀がいいだろうな」

 仁のアドバイス。軽銀は、日頃から加工しているため、エルザも馴染んでいた。

 但し軽銀は、普通なら初心者が使うような素材ではないことを、仁もエルザも気が付いていない。

 仁がエルザに軽銀を勧めた理由は単純だ。使い慣れた素材というのは、加工時の魔力ロスも小さくて済むのである。

 仁は何も問題無いが、いくらエルザが魔力過多症とはいえ、魔力を使い切ってしまえば身体の不調となって現れる。

 先日、『完治(ゲネーズング)』を憶えたときがそうであった。

 仁のアドバイスを素直に聞き、エルザは軽銀を使う事にする。軽銀は仁も良く使う素材であるから、いつでも大量に用意されているのだ。

「『変形(フォーミング)』」

 さっそく加工を開始するエルザ。どうやら構想も固まったらしい。

 仁は黙ってそれを見つめているが、内心、初めて礼子(と命名する前だが)を作り直した時の事を思い出していた。

 十数回の加工により、エルザの前には自動人形(オートマタ)の骨格が出来上がった。マスコット人形で類似のものを作った経験が生きたようである。

「……どう、ジン兄?」

 おそるおそる仁の顔を伺うエルザ。仁はにっこり笑って頷いた。

「合格だ。上達したな、エルザ」

 その言葉を聞いたエルザもにっこりと笑った。

「さて、そうしたらちょっとしたコツだ。関節が磨り減るのを防ぐために……」

 少量のアダマンタイトを持ち出し、

「『鍍金(プレーティング)』」

 表面にメッキをして見せる仁。

「こうすることで摩擦を減らし、耐久性を上げるんだ。やってごらん」

 他の関節は全てエルザにやらせる仁。そしてエルザはその期待に応え、その技術にも習熟していったのである。


 こうして仁に見守られ、作り続けること4時間。

「……出来たな」

 エルザはついに、初の自動人形(オートマタ)を完成させたのであった。仁も細部まで確認してやり、まったく問題ないと太鼓判を押した。

 外見は少年型。エルザと同じプラチナブロンドの髪。閉じていて見えないが、瞳も水色である。

「……ジン兄なら、1体作るのはどのくらいかかるの?」

 作り終えてほっとしたエルザからの質問。

「うーん、1時間くらいかな?」

 それは控えめな数字である。本気を出したならその倍以上の製作速度、30分もかからないのは間違いない。

 もっとも、最近は老君や職人(スミス)が下準備を済ませてくれているので、仁が一から製作することはほとんど無いのであるが。

「……頑張る」

 そんなエルザの肩を優しく叩いた仁は、

「さあ、最後の仕事だ、起動させてごらん」

 と言って、エルザを促した。

「うん。……『起動』」

 魔鍵語(キーワード)に応え、自動人形(オートマタ)はゆっくりと起き上がった。

「はじめまして、製作主(クリエイター)様」

「エルザ、名前を付けてやれ」

「うん。……あなたの名前は『エドガー』」

「はい、私の名前は『エドガー』です」

 こうして、エドガーはエルザの初自動人形(オートマタ)として誕生したのである。

 礼子はその様子を微笑ましそうに見ていた。自分が作られたときのことを思い出していたのかもしれない。


 エルザは気付いていないが、エドガーの基礎制御魔導式(コントロールシステム)は礼子の配下、ソレイユやルーナと同じもの。

 正式な仁の弟子、ということで行った知識転写(トランスインフォ)のおかげで、アドリアナ系の基礎制御魔導式(コントロールシステム)を使えるようになったのである。

 これがどんな意味を持つのかエルザは知らない。

 同じく仁も知らない。ラインハルトに世界の標準を知るべきと言われる所以ゆえんである。

 そんな似た者師弟となった2人であった。

 

 閑話休題。

「じゃあ、あとは服だな」

 まだエドガーは裸である。

「まあ、エルザは男物の下着とか詳しくないだろうし、時間もあまりないから、それは俺が作ってやろう。エルザが初めて自動人形(オートマタ)を作ったお祝いだ」

 仁は棚から地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸で織った布を取り出すと、手早くトランクスを作り上げる。メリヤス状に織られた布からはTシャツを作る。トランクスにはゴムを入れる念の入れよう。

 ちなみにここまで約5分。

 そばで見ていたエルザは、少しだけついた自信が脆くも崩れ去るのを感じた。だが、すぐに立ち直る。

「……いつかは、私も」

 エルザの一番の長所は、このめげなさかもしれない。

 上着は黒く染め、ブレザー風に仕立てた。蝶ネクタイまでさせ、気分はお坊ちゃんだ。

「さあ、できた」

「……かっこいい」

 そこには、昭和のお坊ちゃまといったいでたちで、エルザ初の自動人形(オートマタ)、エドガーが立っていた。

 黒のブレザー、黒のズボン。白いワイシャツに黒の蝶ネクタイ。そして白い靴下に黒い革靴。

「ありがとうございました、ジン様」

 そう言ってお辞儀するエドガー。仕草も決まっていた。

 時々落ち込む仁を慰められるエルザはきっとポジティブ思考。

 エドガーは某一族へのオマージュです。


 お読みいただきありがとうございます。


 20140221 15時25分 表記追加・修正

 ラストから3行目に、

『 黒のブレザー、黒のズボン。白いワイシャツに黒の蝶ネクタイ。そして白い靴下に黒い革靴。』

 をエドガーの服装描写に追加。


(旧)本気を出したならその倍以上早いことは間違いない

(新)本気を出したならその倍以上の製作速度、30分もかからないのは間違いない

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえば魔工学士にとって自動人形制作ってどういう位置付けなんだろうか?(制作している人は少ないのと助手役として側に置いてるので)
[一言] 『何度目かの読み返しの最中です』 エルザが初めて作ったオートマタのエドガー、コントロールシステムを含めて全て完全なアドリアナ式を完成させてしまうとは、この時点で従兄弟のラインハルトの技術力…
[一言] エドガー・コナン、探偵さ ・・・てのは生意気だから、Dr.スランプのオボッチャマンのイメージの方が近いのでしょうけど
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