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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
12 ショウロ皇国錬金術師篇
355/4299

12-05 カミングアウト

 サキ・エッシェンバッハのラフ。

 時間の関係でラフ止まりでした……。

 かぶれが治ったあとですね。


 挿絵(By みてみん)

 仁に目のことを聞かれたサキは笑って頷いた。

「くふふ、よくわかったね。目を顰める癖からばれたかな? 昔から、近くのものは良く見えるんだけど、遠くのものはぼやけていてね」

 それを聞いた仁はやっぱり、と思う。

「ラインハルト、ショウロ皇国には眼鏡ってないのかい?」

「めがね? めがねって何だい?」

 その答えからすると、少なくとも視力矯正用の眼鏡というものは無いようだ。

 これはある意味驚きである。地球では紀元前からレンズというものが利用されていたらしいというのに。

 仁は、アリストテレスだかアルキメデスだかが、攻めてくる敵を巨大なレンズで焼き尽くしたと言う話を何かの本で読んだことがあったし、中世にもモノクルはじめ眼鏡は有ったはずだと思い起こした。

 が、魔法のあるこの世界が、地球と同じ発展の道を辿るとは限らない。顕微鏡にも驚いていた事だし、と仁は考えを改めた。

「えーとな、百聞は一見にしかず、まあ見ていてくれ。サキ、ちょっと素材もらうよ」

 そう声をかけた仁は、サキの返事を待たずに素材棚に歩み寄り、透明な水晶と銀、そして銅を手に取った。

「『分離(セパレーション)』。『変形(フォーミング)』。『分離(セパレーション)』。『変形(フォーミング)』。『合金化(アロイング)』。『変形(フォーミング)』。『仕上(フィニッシュ)』」

 またしても連続で工学魔法を使う仁。

 その手の中では素材が淡く光っては変形していく。水晶は2つのレンズになり、銀と銅は合金化されて925銀となり、細く変形されてフレームとなった。

 さすがにつるの折り畳み部分に精密ネジを使う事は出来なかったので、ピンで止める方式だ。鼻パッドにはさっき作ったばかりの天然ゴムを滑り止めに貼り付けてある。

「これが眼鏡だよ」

 銀フレームで丸いレンズが付いた眼鏡が出来上がった。アンティークっぽいデザインだが、意識したわけではない。仁のデザインセンスがちょうど眼鏡のレベルとマッチしただけだ。

「何するものなんだい、と言うか、流れでいうと、目に付けるものなのかな?」

 仁が手にしている眼鏡を見たサキはそんな事を口にした。

「そうさ。ちょっとかけて見てくれ」

 仁はそう言いながら、眼鏡をサキの顔に掛けてやった。つると耳のフィットは変形の魔法で調整する。

「さて、どうかな? 度はあまり強くしてないんだが」

 視力検査もしていないので、左右の度は同じにしてあるし、あまり強くしていない。眼鏡を掛け慣れない人がいきなり度が強い眼鏡を掛けた場合、頭が痛くなったり目眩がしたりすることもあるからだ。

「まずは、片方の目を閉じて……ああ、そう、それでいい。……あの棚に置いてある本の背表紙は読めるか?」

「え? うん、なぜか読めるな」

 それで仁はもう一方の目で同じものを見させてみると、これも見えるという。ほぼ左右同じ度でいいようだ。

「良し、じゃあ、外の景色でも見てみてくれ」

「うん……こ、これはすごい! ものすごく良く見える! これが眼鏡か……!」

 サキはそのまま窓のそばまで歩いて行き、外を眺めた。

「わあ! 良く見えるよ! 枝に留まっている小鳥まで見える! 遠くの木々の葉もはっきりと見える! 世界はこんなにもきれいだったのか!」

 暫く視界が良くなったことに感激していたサキであったが、やがて最初の興奮が収まると、足早に仁のところへ歩いて来てその手を取った。

「ジン、本当に感謝する! このお礼はどうすればいいだろう? 何でも言ってもらいたい! ボクに出来ることならなんでもしよう!」

 仁は微笑みながらもサキの感謝を受け取った。

「はは、喜んでもらえて何より。それなら、俺が錬金術に興味を持ったのはある目的があるんだ。それに協力してもらいたい」

「くふふ、それは光栄だね。ジンのような魔法技術者(マギエンジニア)と一緒に研究が出来るなら望むところだよ。で、何をしたいんだい?」

 その時、サキのお腹が鳴った。

「……これはみっともないところを見せてしまったね。……済まないがラインハルト、お昼ご飯を御馳走してもらえないだろうか? 実は昨日の夜から何も食べていないんだ」

「は?」

「恥ずかしながら、一昨日使用人が出て行ってしまってね。残り物を食べて凌いでいたんだが、ついに昨日の昼でそれもなくなってしまって」

 とんでもないことをカミングアウトするサキ。仁もラインハルトも呆れてしまった。


 そんな時、礼子から声がかけられた。

「お父さま、そろそろいいようです」

 メープルシロップが煮詰まってきたようだ。

「おお、そうか、どれどれ」

 礼子がかきまわしていたおたまを受け取り、指先にちょっと取って舐めてみる。

「うん、甘い」

「どれどれ? ジン、ボクにも味見させてくれたまえ!」

 サキもやってきて、仁の持っているおたまから指先にシロップを移し、舐めてみたのである。

「ううん、これは甘い! これなら十分売り物にできる! ……ラインハルト、間違いなくこの地方の名産になるぞ!」

 ラインハルトもそれを舐めてみて、納得のいく顔になる。

「うん、間違いなくこれなら名産になるな。さっそく父上に相談してみよう」

 サキはにこにこ顔で頷いた。

「ああ、頼むよ、ラインハルト。これでこの地方がもっと豊かになればボクも嬉しい」

「任せておいてくれ。採取法はまた研究させるとして、製法はゴミを取って煮詰めればいいんだな?」

「ああ、そうさ。見本としてその鍋ごと……いや、やっぱり半分だけ持っていってくれ」

 空腹なのでメープルシロップを食べたいのだろう。頭を掻きながらちょっと恥ずかしそうにそう言ったサキ。ラインハルトは笑って頷く。

「はは、委細承知。それにしてもサキは相変わらず甘いものに目が無いんだなあ」

 それを聞いた仁は、ちょっとした疑問を口にした。

「サキ、食材も残っていないのかい?」

 大麦や小麦粉、野菜や卵すら残っていないのだろうか、と思ったのである。

「ん? 多分残っていると思うが……恥ずかしながらボクは料理は苦手でね」

 と、本日2度目のカミングアウト。

「錬金術と料理は別物なのだよ!」

 聞かれもしないのにそんな言い訳めいたセリフを放つサキ。

 どうやらラインハルトはそっちの方は知っていたらしく、苦笑を浮かべている。

「……本当なんだよ、ジン。サキの料理の腕前ときたら致命的というか、必殺というか……」

「ラ、ラインハルト、必殺はないんじゃないか? せめて下手くそくらいで…………」

 ラインハルトに睨まれ、だんだんか細くなるサキの声。

「塩と砂糖を調べもせずに使ったのは誰だ? 香辛料を瓶ごと鍋にぶち込んだのは誰だ? 味見を一回もせずに料理を差し出したのは一体、だ・れ・な・ん・だ」

「ううっ、そんな昔のことを……」

「昔じゃない! 僕が旅に出る餞別だと言ってサキが作ったんだろうが! あれは衝撃的だった。危うく出発が遅れるところだったんだぞ」

 珍しくラインハルトの声が険しくなった。過去、余程酷い目にあったらしいと仁は密かに同情した。


 仁も、孤児院で経験があったからわかる。料理というものはまず基本のレシピを踏まえ、それをマスターしてからアレンジに挑戦すべきものなのに、いきなりレシピにないものを入れようとする子の何と多いことか。しかも分量を量らずに。

 そうして出来上がったのは膨らんでいないスポンジケーキ、塩辛いチョコレート。死ぬかと思ったのは、ハッカ油たっぷりのミントティーだ。楊子の先にちょっと付けて紅茶に入れればいいものを、小さじいっぱい入れたのである。あの時、仁は2日間何も食べられず、更に1週間、身体中がなんとなくハッカ臭かったものだ。

 世の中、確かに料理音痴という人種はいるのである。悪意がないから余計に始末が悪い。


 閑話休題。

 サキは昨日の夜から何も食べていない。そしてサキは料理が出来ない。更に今この家にいるのはサキだけである。

「……台所はどこなんだ?」

 今からラインハルトの家へ行って昼食を用意してもらうのも時間がかかるので、何か手早くできるものを作れないか知りたかったのである。

 そんな仁の問いかけはサキにとって救いの神だったようで、

「だ、台所か! こっちさ!」

 と言って仁を引きずるようにしてサキは研究室を飛び出していった。

 笑いながらその後を追うラインハルト。どうやら本気で怒っていたのではないようだ。


「うーん、小麦粉と卵、それにこれはミルク……かな?」

 野菜類はなかった。大麦も。あと見つかったのは食用油とバターのようなもの。

「とりあえず、これで出来るものを作るとするか」

 仁は礼子に言って先ほど作ったメープルシロップとコンロを取りに行かせた。その間に自分は、小麦粉と卵、ミルクを混ぜて生地を作っておく。

「お父さま、お持ちしました」

 そう言ってメープルシロップの入った鍋を軽々と片手で持ってきた礼子を見て、サキは目を丸くした。

「眼鏡がなかったときは気が付かなかったが、この子、レーコちゃんっていうのかい? 素晴らしい出来の自動人形(オートマタ)だねえ!」

 どうやら、良く見えていない時は単なる少女型のゴーレムだと思っていたらしい。

 仁は、礼子についての話はまた後で、と言って、目の前の生地を料理しはじめた。

 大きめのフライパンを熱して植物油を引き、先ほど作った生地をあける。じゅうっ、と音がして香ばしい匂いが漂ってきた。

 仁が作っているのはホットケーキもどき。ベイキングパウダーも重曹もないのでほとんど膨らまないところはクレープに近いかもしれない。

 皿にあけて4つに切る。仁とラインハルトは1切れずつ、サキは2切れ。

 バターのようなものを塗り、仕上げに先ほど作ったメープルシロップをかける。

「よし、食べよう」

 そのクレープ風ホットケーキ? を食べたサキの反応は、もの凄かった。

「な、なんだこれはっ! おいしいっ! おいしすぎるっ!」

 ジン、ボクのために毎日ご飯を作ってくれ……とは言わなかったが、あっと言う間に食べ終わり、仁とラインハルトの分を物欲しげに見つめていたので、仁はもう一度小さめのクレープ風ホットケーキ? を焼いてやったのであった。

 アルキメデスの熱光線は後世の捏造という説が優勢ですし、使ったのはレンズではなく鏡です。仁の記憶違いです。

 ハッカ油の使いすぎは余裕で死ねます。気を付けましょう。

 ……ますますサキのキャラが崩壊していく……


 お読みいただきありがとうございます。


  20140209 19時15分 誤記修正

(誤)アルキメデスだから

(正)アルキメデスだかが

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― 新着の感想 ―
[一言] 『何度目かの読み返しの最中です』 >死ぬかと思ったのは、ハッカ油たっぷりのミントティーだ。楊子の先にちょっと付けて紅茶に入れればいいものを、小さじいっぱい入れたのである。あの時、仁は2日間…
[一言] 料理音痴とかメシマズ嫁とか必殺料理人とか呼ばれる人たちの共通点 味見をしない アレンジャーなのもほぼ共通するのだけど、味見をすればまともな味覚の人なら、まずいものを提供しようとは思わなかろう…
[気になる点] > ……ますますサキのキャラが崩壊していく…… もしかして、どうしてこうなったキャラですか? とりあえず、ジンが思い出したような魔改造料理を無自覚に嬉々として勧めてくれるキャラじゃなく…
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