01-19 武器開発
偵察隊を送り出した村では、他に何か出来ないかの話し合いが持たれ、畑に柵を作ることとなった。
これなら、害獣から作物を守ることもでき、無駄にはならないからである。
木を伐り出し、丸太に作り、畑の周りに埋めていく。これらの作業も、村人に加えて、ゴーレムのゴンとゲン、それにゴーレム馬のドライ、カトル、サンクがいたので急ピッチで作業は進んで行った。それこそ端から見たら異常とも言える早さで。
偵察隊が出発して3日目。
「はあ、なんとか形になりそうだな」
仁も伐り出した木を丸太に加工する作業を(工学魔法で)手伝っていたのだが、必要本数分の加工が終わったので、自分の時間が持てるようになったのである。
「一応……武器も欲しいかな」
考え込む仁。資材が乏しい今、特殊な武器は作れそうもない。せいぜいがアダマンタイト製の刃物くらいである。
「まあ、無駄にはならないだろうから、斧とか鉈を作っておくか……」
普段は生活道具となるような刃物を作ることにする。とはいえ、ゴーレム馬に使ったのであまり残っていないため、鉄製の本体に、刃だけアダマンタイト、という物しか作れなかった。それでも斧が10挺、鉈が20挺出来た。
「あとは自分専用の武器か」
自慢ではないが仁は筋力も運動能力も低い。村の男達と比べて最低レベルである。なので近接戦闘は無理だ。かといって、弓も下手である。
「やっぱりあれしかないか」
そう呟いた仁が作り始めたのは水鉄砲である。それもピストル型、大きい水タンクが付属しているタイプ。
「おにーちゃん、なにつくってるの?」
今日も今日とて、ハンナが仁の仕事場(本当はハンナの祖父の仕事場)へやってきた。
「やあ、ハンナか。水鉄砲を作ってるんだよ」
「みずでっぽう?」
そもそもこの世界には『鉄砲』という物がないため、『水鉄砲』と言っても通じないわけである。
「まあ見ててごらん」
構造そのものは複雑ではないので、すぐに1挺完成する。水タンク付属型だ。
「?」
何だかよくわかっていないハンナに、
「これはね、ここに水を入れて、こうやって持って、この引き金を引くと……」
ちゅーっと水が飛び出す。
「わあ! おもしろーい!」
仁以外の者には単なる玩具にすぎないため、この水鉄砲はハンナにあげることにした。
「ほんとは暑い夏に遊ぶ物だけどね」
「でもありがとー! おもしろーい!」
ハンナは水鉄砲を受け取ると喜んで遊びに行ってしまった。
「……こりゃあ他の子供たち用にも作っておいた方がいいな」
そう悟った仁は、同型の水鉄砲を10挺、作っておいた。この程度の物であれば、一度作っていればあとは簡単に量産できるのだ。
因みに、プラスチックがないため、全て白雲母製であるから軽いし、割れにくい。
その後、自分の武器として、より水タンクの容量を増やし、ピストンの精度を上げた物を2挺。水タンク無しで水鉄砲本体内の水だけを発射するタイプを2挺作っておく。
これを仁が『水流の刃』の工学魔法を併用して使えば、恐ろしい武器になるわけだ。
「それでも村全部を守れるわけじゃないんだよな」
安心は禁物、と自らを戒める仁であった。
その後、ハンナが遊んでいる水鉄砲を見つけたクルトやマリオたちがやってきて、全員に水鉄砲を支給したのは言うまでもない。
* * *
それから2日間は平穏な日が続いた。そして3日目、偵察隊が帰ってきた。
「おー! ロック、ヤンも無事だったな」
「ああ、この馬のおかげでな」
2人は僅かな休憩の後、村長宅で偵察の報告を始める。
「最初は問題なかったんだがな」
山鹿を狩った地点までは特に問題はなかったという。
「そこから1日奥へと進んだんだが、あまり変わりはなかった。んで、少し西へ回ってみたんだが」
真っ直ぐ北上していたのを、90度左へ転進したわけだ。
「そのあたりも変わりはなかった。安心した俺達は、また北へ向かったんだ。そうしたら」
「どうした?」
「……山鹿の骨がごろごろ転がっている場所に出ちまった」
「何!?」
「なんだかやばそうな気がしたんで、馬に乗ったままでいると、でっけえ森熊が出てきやがってよ。よく見ると、まだ血が滴ってる山鹿を引き摺っているじゃねえか」
「森熊じゃと!?」
「ああ。で、それが、いいか、驚くんじゃねえぞ」
「? 何だ?」
「そんなでっけえ森熊が全部で10頭、そこに現れやがったんだ」
「なんだと!?」
それは誰の叫びだったか。集まった者達全員の気持ちを代弁したその叫び。森熊は熟練の猟師3人から4人が組んでやっと狩ることが出来る危険な猛獣だ。それが10頭。
「なんでこんなところまで……」
普段はいない山鹿が大量に南下してきたためと推測されるが、ではなぜその山鹿が南下してきたのか。山鹿や森熊の住む奥山と、カイナ村の裏山との間には、ほとんど草木のない谷が挟まっており、そのためカイナ村には獣の害がほとんど無かったのである。
だが、山鹿が谷を越えてこちら側へ来る可能性が高くなった今、それを追って森熊もやって来ると考えた方がいい。
それがこの日の結論だった。そこで仁が、
「一応、丈夫な斧と鉈を作っておきました。あとで取りに来て下さい」
そう言うと村長が、
「おお、そうか。ジン、お前がいてくれて助かるよ。それじゃあジェフとトム、ジンと一緒に行って受け取ってきてくれ。一旦は儂が預かろう」
「わかりやした」
それで仁はジェフ、トムと一緒にマーサの家まで帰り、仕事場に積んであった斧をジェフが、鉈はトムがそれぞれ持って帰った。
仁は家にいたマーサに会合の内容を報告する。
「そうかい、山鹿や森熊がこんな所まで来るかも知れないっていうんだね。ハンナにも気をつけさせないとね」
「そうですね。ハンナ、北の山へは危ないから当分行っちゃ駄目だぞ」
そう言い聞かせるとハンナは、
「うん。でも、川ならいい?」
南のエルメ川なら危険は少ない。全部駄目、などと言うと、子供はかえって無茶したりするものだ。仁は孤児院で小さい子供たちを見てきたのでその辺はわかっている。
川ならいい、と言うと、ハンナは水鉄砲を持ち、川へと遊びに行った。
それからは毎日交代で北の山を監視することになった。が、2日、3日経っても特に異常は無い。村人達が、心配しすぎだったか、と思い始めた頃、それは起こった。
朝食の後、北の山に砂煙が立っているのを見つけたのは見張り当番のジェフ。目を凝らしてみると、山鹿の大群が山を下ってくるところであった。
「おーい! 山鹿が山を下ってくるぞ!」
急いで村中に知らせる。村長やロック、ジンも出てきてそれを見る。
「こいつは……何かに追われてるような動きだな」
ロックが顎をなでながら言った。
「それが森熊だとしたら、あと少しで姿を見せるじゃろう」
村長も同意する。
「なら、まずあの山鹿が村に来ないよう、別方向に誘導しましょう」
仁の意見に皆賛成する。それで、仁、ロック、ジェフ、リックがゴーレム馬に乗って、山鹿を西の森へと誘導することになった。
「行っくぞ!」
ロックが先導し、それに続いてジェフ、リック。仁が殿である。
「気をつけるんだよー」
心配する声を背に、4台のゴーレム馬はみるみる小さくなっていった。
「大丈夫じゃよ、今回の相手は山鹿じゃから。さあ、家へ入っておれ」
心配そうな女性陣を安心させようとそう言ったのは村長。
「おにーちゃん……」
ハンナは最後まで仁達が消えた方角を見つめていた。
思わせぶりな引きです……
お読みいただきありがとうございます。
20190521 修正
(旧)
「やあ、ハンナか。水鉄砲を作ってるんだよ」
「水鉄砲?」
(新)
「やあ、ハンナか。水鉄砲を作ってるんだよ」
「みずでっぽう?」




