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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
11 ショウロ皇国とカイナ村篇
319/4299

11-21 閑話17 塩相場!

 あとがきに、年末年始の更新スケジュールなどを書きましたのでお読み下さい。

 5月11日、シャルル町にて。

「塩を売って欲しい」

 そんな声を掛けて回る一団があった。

「今、ちょっと品薄なので」

「構わん、倍払う」

「そ、それでしたら……」

 こんな感じで、商店の店頭からはたちまちに塩の在庫が無くなっていった。


 同日、ドッパ、ラクノー、トカ村でも同じような光景が見られた。


 クライン王国には海がない。そして今のところ王国内において、岩塩の存在は知られていなかった。

 よって塩は全て輸入品であり、輸入先はセルロア王国が8割以上を占めていた。

 塩の有用性は知られていたから、当然クライン王国としてもある程度の対策はしている。

 その一つが塩の備蓄であり、もう一つが輸入先の分散である。

 首都アルバンには『塩倉庫』があって、常時数百トンの備蓄がされている。が、それを管理するのは王であり、許可なく持ち出すことはできなかった。

 また、東に国境を接するレナード王国からも僅かに輸入されているが、元々閉鎖的なレナード王国との貿易額は微々たるものであった。

 むしろ、セルロア王国を経由して運び込まれる、エゲレア王国産の塩の方が多いほど。

 いずれにしても、重量のある塩を長い距離をかけて運ぶのであるから、その値段は元の倍以上になるのは当然であった。


「正規の塩でなくてもいいから、売ってもらえないかい?」

 こんなやり取りが交わされることもある。

 クライン王国において、塩はすべて首都アルバンに集まり、国が認可した商人だけがそれを販売することができることになっている。

 とはいえ、この認可は、塩売り上げの2割を税として納めるならば誰にでも下りるものであった。

「相場の3倍出すぜ!」

「それなら売ってもいいかな」

 専売にはなっていないから、相場は需要と供給の関係で変動する。今、一部の地域では塩の値段がじりじりと上昇しつつあった。


「かなり買い占めたな」

「金もかなり使ったがな」

「かまわないさ。時期が来たら売りに出せばいい。上手く売れば儲ける事もできる」

 そんな会話を交わしている一団があった。ワルター伯爵の手下達である。

 人間が1日に摂取すべき塩は個人差もあるがおおよそ8グラム前後。無駄も出るから、10グラムとすると、1ヵ月300グラム。

 5人家族なら1.5キロ。塩漬けなどにも使うから、平均2キロの塩が消費される。

 今、彼等が買い占めた塩は4トンを超えようとしていた。

「まったく、エリアス王国だと1キロ30トールだというのに、それがこっちだと150トールだからな」

「海がないから仕方ないさ。セルロア王国だとキロ50トールするんだぜ? うちの国はセルロアから買ってるからな、高いのも仕方ないさ」

「その高い塩を更にキロ450トールで買うなんて、伯爵は何考えてるんだ?」

「知るか。我々は命じられたことをやればいいのさ」

 結局彼等はその日、計5トンの塩を購入した。


 翌日12日。噂を聞きつけた塩商人がシャルル町にやって来ていた。

 その中に、面白い商人がいた。ゴーレムを連れた塩の行商人である。

 ゴーレムに荷車を牽かせ、売り歩いているらしい。それが珍しいと評判を呼び、大勢お客が集まっていた。

「おお、こりゃいい塩だ。さらさらで、真っ白で」

「でしょう? 遙かエリアス王国産の塩ですよ! 少し高いですが旨さは折り紙付き! さあ買った買った!」

「1キロくれ」

「はい、200トールになります」

「俺も1キロ!」

「はい、ありがとうございます」

 その様子を見たワルター伯爵の手下達は目で合図し合うと、商人に近づいていった。

「おい、買うぜ」

「はい、いかほど差し上げましょう?」

「全部だ」

「はっ?」

「お前の持って来た塩全部を買うと言ったんだ」

「ありがとうございます。しかし、他のお客様がお買いになる分が……」

「つべこべ言わずに売れ! キロ600トール出してやる」

「は、はあ……」

「売れっつってんだよ!」

 展示台をばあん、と音高く叩く1人の男。その剣幕に、集まっていたお客は散り、商人も諦める。

「わ、わかりました。でも、量が多いですよ?」

「どのくらいあるんだ?」

「えーと……」

 商人は手元の帳簿を確認する。

「5トンほどあります」

「5トンだと!?」

「はい。ですから、何にお使いになるのか存じませんが、2トンくらいで勘弁していただけませんかね」

 そう商人がいうのだが、

「い、いや、全部と言ったら全部だ」

 と譲らない。そうまで言われてはその商人も、もう言うことを聞くしかない。

「そ、それでは、この荷車に乗っている塩、ご確認下さい。60キロほど売ってしまいましたので、4940キロございます」

「よし、確認させてもらう」

 男達はそう言って、10キロの天秤ばかりを持ち出し、手分けして塩の重さを量っていった。

「……間違いなかった」

 半日近く掛かって4940キロの塩を量り終えた男達は疲れた顔だ。

「ほら、これが金だ」

 そう言って、金貨と銀貨の入った袋を渡す。

「ありがとうございました」

 商人は手早くそれを数え、296万4000トールあることを確認し、空の荷車をゴーレムに牽かせて街角に消えていった。

「ふ、馬鹿め。こっちは幾ら大金を出しても懐は痛まねえんだよ」

 と捨てゼリフ。そして遠くからこちらを眺めている男に目配せをした。

「……せいぜい大金を持って浮かれているがいい。今夜中に『回収』させてもらうからよ」


 ラクハムとソー、ズクでも同様に、このような光景が見られていた。


 その夜。

「……行商人はどうした?」

「そ、それが」

「どうしたと聞いているんだ!」

「……消えました」

「なにい!?」

「あの後、こっそり後を付けていったんですが、とある角を曲がったら、空の荷車だけが残っていて、ゴーレムと商人がいなくなっていました」

「そんな馬鹿なことがあるか! 人間はともかく、あんなでかくて鈍重なゴーレムが姿を隠せるものか!」

 そうは言ってみても、いなくなったものが出てくるわけではない。

 どうせ後で『回収』するつもりで払った296万4000トールだが、結局戻ってくることはなかったのである。


*   *   *


『ごくろうさまです、レグルス35、ランド54』

 蓬莱島で、老君は行商人に化けた第5列(クインタ)のレグルス35と陸軍(アーミー)ゴーレムのランド54を労った。

 この2体で組み、シャルル町で塩を売りさばいてきたのである。

「やはりといいますか、売った金を取り返しに来た奴等がいたようです」

御主人様(マイロード)の知識にあった通りですね』

 定番時代劇で、年貢などが払えずに困ったお百姓が、地方の顔役に娘を売って金を作る。すると、金を受け取った帰り道、盗賊に化けた子分がその金を取り戻す、というアレである。

「はい。荷車は置いてきてしまいましたが」

『構いません。何の変哲もない荷車ですから。それよりも例の伯爵に散財させた方が効果大です』

 他にラクハムではレグルス36とランド55が。そしてソーではレグルス37とランド56。ズクではレグルス38とランド57が、それぞれ塩を高値で売りさばいてきたのである。

『合計20トン、金額にして1200万トールですか。これは財政的に大きな痛手でしょう』

 約1億2000万円。個人が出すには少々大きな金額であろう。

 そして老君は更に一手を打つ。

『数日したら、小規模に塩を売りましょう。元通りのキロ200トールで。今度は奴らには売ってはいけません』

 これにより、塩の相場を正常に保つつもりなのだ。

『不足しているからこそ高く売れる。しかし、物が余っていれば買い手は付かず、結果、安売りしなければならなくなる』

 仁も経済には疎いので、こんなレベルでしか老君も企めなかったが、ワルター伯爵の財政を逼迫させるにはかなり効果があったようである。


*   *   *


「何故だ! 何故あれだけの塩を買い占めたのに塩が不足していないんだ!」

 そんな悲鳴にも近い叫びがどこかの屋敷から聞こえたと言うが真偽は定かではない。

 しばらくクライン王国は塩には困らなさそうですね。


 お読みいただきありがとうございます。



 お知らせです。

 12月28日早朝から、1月4日まで実家に帰省予定です。

 実家にはネット環境が無く、作者もPCでの作業のため、更新が止まります。申し訳ないことですが、再開は1月5日からとさせていただきます。

 その代わりに、特別企画として、1月1日から3日まで、アナザーストーリーめいた文章をアップいたしますのでお楽しみいただければ幸いです。

(更新再開し次第、アナザーは別場所に移す予定です。)


 同様の理由で、いただいた御感想に返信が書けなくなりますのでご諒承下さい。

 また、不在の間いただいた御感想への返信は、全て目を通させていただいていおりますが、いつもより短くなってしまう事、ご了承下さい。


 それでは皆様、よいお年をお迎えください。

                        作者 拝



 20131227 13時11分 誤記修正

(誤)元通りのキロ200円

(正)元通りのキロ200トール

 円じゃないよ……orz

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