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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
11 ショウロ皇国とカイナ村篇
314/4299

11-16 魔物の末裔?

「できましたら、お孫さんとお話させてもらえませんか? どんな感じの人形が好きか聞いてみたいので」

 納期の話は一旦棚上げにして、仁はその孫に会ってみたいと思ったのである。

 人形の好みを知りたいと言うのが理由だ。デザイン関係が苦手な仁は、できれば本人から好みを聞いてみたかったのである。

「う、うむ。あまり長い間は困るが……」

 サリュート・ベルルーシはそう言いながらも、仁を3階へと案内していった。

 その部屋は、3階の南に面した、一番いい場所にあった。

「ユース、入るよ」

 サリュートはノックし、そう声を掛けてドアを開けた。

「あ、おじいちゃん」

 窓辺に置かれたベッド、そこに横になっていたのはハンナより少し小さい女の子だった。きれいな金髪、緑色の目、肌は病的なまでに白い。

「おきゃくさま?」

 サリュートのうしろにいた仁を見て、女の子は珍しいものを見た、という顔をした。

「うん。初めまして、俺は仁。この子は礼子」

「はじめまして。わたし、ユースといいま……こほっ」

 ユースは挨拶の途中で咳をした。それは一回だけでなく、ぜえぜえと、いつまでも続くような、咳ともいえないような咳。

「だ、大丈夫か?」

 心配そうにそばに寄り、身体を横に向けてその背中をさすってやるサリュート。

 それでも収まりそうもない咳。仁も見かねて駆け寄り、

「『治療(キュア)』」

 と、治癒魔法を掛けてみる。それで何とか咳も収まったのである。

 ひゅーひゅーと苦しそうなユース、その顔は歪められていて、いかにも辛そうだ。

 呼吸器系の病気の辛さは、やはり『呼吸』が満足に出来ない事にある。孤児院で風邪で咳が止まらなくなった子を見てきた仁は、辛そうなユースを見て、何とかしてやりたいと思う。

「えーと、この咳はずっと出ているんですか?」

 そう尋ねた仁に答えたのは当然、祖父のサリュート。

「うむ。そうなのだ。こうして日に何度も咳が止まらなくなるのだ。……ジン殿、治療感謝する」

 やっと呼吸が落ちついてきたユースは、仁を見て何か喋ろうとした。が、仁はそれを遮る。

「ああ、まだ喋らない方がいいよ。念のためもう一度『治療(キュア)』」

 2度の治癒魔法により、ユースの顔色も大分良くなった。

(……小児喘息の可能性が高いな……)

 仁のいた孤児院にも、2人、小児喘息の子がいたので、何となくだが仁には見当がついた。

(確か一番の原因はアレルギーだったよな……ダニとかもあったっけ)

 この地方は乾燥が酷いので、尚のこと、呼吸器系には悪そうである。

(ダニがいるかどうか……そうだ!)

「礼子、ちょっと来てくれ」

「はい、お父さま」

「お前の目は大体100倍くらいまでなら拡大視ができる。ちょっと布団の上を見て、生き物がいないか調べてみてくれ」

 仁は礼子にそう指示を出し、自分は部屋を見渡してみる。

 暖かい。そして、周囲にはお湯の入った桶が幾つも置かれていて、加湿しているらしいことが分かる。

(うーん、もし俺の想像通りだとすると……)

 仁が考えを巡らせていると、礼子から『見た』結果が知らされた。

「お父さま、本当に小さな、小さな生き物がいて、その死骸もたくさんありました」

「どんな形をしていた?」

「はい、全体に卵形、といいますか。脚は8本です」

「やっぱりダニか」

 イエダニと称する小型のダニ、その死骸や糞を吸入することで起きるアレルギー反応は、小児喘息の原因の大半を占めている。

 正式和名ではヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニなどという種類。人間の垢や抜けた髪の毛などを餌にしており、吸血はしないので、その存在に気づきにくいのである。

 そして『高温多湿』の環境を好む。つまり、よかれと行っている加湿は逆効果なのである。

「うーん、礼子だから気づいたけど、グロリアさんのお父さん……名前忘れたけど、あの人みたいな顕微の魔眼があれば……って、無いなら作ればいいんだな」

 仁に何かスイッチが入ったようである。

「ジン殿?」

 サリュートに声を掛けられ仁は我に返った。仁は現実に戻り、目の前のユースの問題を考え直す。それで一旦、部屋の外へ出ることにした。

「お医者……治癒師は何と言ってます?」

 サリュートにそう尋ねると、

「生まれつき喉が弱くて咳が出るのだろう、と。それで部屋を暖かくし、湿気を与えておるのですが、治らなくて」

「なるほど……」

 やはりダニによるアレルギーという考えはないようだ。

「それが何か? 自動人形(オートマタ)と関係があるのですかな?」

「いえ、自動人形(オートマタ)はともかく、病気が軽くなればいいな、と思いまして」

 仁がそう言うと、サリュートは食い付いてきた。

「なんですと! もしや、ジン殿は、孫の病気を治せるというのですか!?」

 その勢いに仁は少々引いたが、孫を思う気持ちの表れだと思い直し、思った事を説明した。

「布団や部屋に目に見えないくらい小さな生き物がいる」

「その死骸や糞を吸い込むことで身体に毒素ができて具合が悪くなる」

 この2点だ。

「ううむ、にわかには信じられない話ですな……」

 そう言うだろうと思い、仁は説得方法を考えてあった。

 顕微鏡である。

 またまた孤児院時代の話であるが、夏休みの宿題で『ペットボトル顕微鏡』というものを年少の子供と作ったことがある。

 ペットボトルを短く切り、蓋に小さな穴を開け、そこに透明なガラス玉を嵌め込む、ピントは蓋のネジを回して合わせる。

 簡単な構造だが、それなりに使い物になった。ペットボトルはないが、今の仁なら簡単だ。

「まあ、論より証拠、その目で見て下さい」

 そう言って、仁は先ほどの部屋へ一旦戻る。

「おや、ジン、どうした?」

 そこにはラインハルトがライマー・ゲバルトフと歓談を続けていた。

「ラインハルトも見てみるかい? サリュートさん、グラスを一ついただきますよ」

 水晶でできた透明なグラスを、サリュートに断って一つ使わせて貰う。

「『変形(フォーミング)』」

「おお!?」

 魔法工学師マギクラフト・マイスター、仁だけにできる精密加工だ。

「ふむ、そんな玉を作ってどうするんだい? ほう、次は杯か? いや、違うな……」

 水晶を使い、次々に部品を作り上げていく仁を、ラインハルト、ライマー・ゲバルトフ、サリュート・ベルルーシ、そしてマテウスは興味深く見守っている。

「できた」

 そして出来上がる簡易顕微鏡。

 要は、直径3ミリほどの球形レンズを、観察対象に対してぶれないよう固定できる構造が必要なのだ。そしてピント合わせのため、レンズを前後できればなお良い。

 仁が作り上げたのは正にそういう機能を持った道具である。全部透明な水晶なので、ゴージャス感ありまくりだ。

「では、まずはこれでも見てみますか」

 仁はそう言って、テーブルクロスを見るために、出来上がった顕微鏡をテーブル上に置き、慎重にピントを合わせた。

「よし、では見て下さい。まずはサリュートさん」

「ん? うむ。……な、何だ、これは!?」

 テーブルクロスを構成する糸の繊維、それが1本1本くっきりと見えたのである。

「これは『顕微鏡』と言いましてね、小さいものを大きくして見ることができる道具ですよ」

「どれどれ、ほう! これは!」

「うんうん、ジン、これはすごい!」

「ほう、ジン殿、これはいろいろ役に立ちそうですね!」

 他の者たちも順に顕微鏡を覗き込み、それぞれが感想を口にした。

「さて、これで、この道具が小さいものを大きくして見ることができると言うことをわかって貰えましたね?」

「うむ」

 仁の確認するような言葉に、サリュートも大きく頷いた。

「では、これでお孫さんの部屋、そこに埃があったら見てごらんなさい」

「わかった」

 そこでサリュートは1人、ユースの部屋へと行き、埃を摘んで戻ってきた。

「これはベッドの隅に溜まっていた埃です。これを見てみることにしましょう」

 もうこの時点で、サリュートは先ほど仁が言ったことが真実だと半ば信じかけていた。が、顕微鏡に興味を覚えたため、埃を採りに行ってきたのである。

「な……なんだこれはっ! 化け物か!」

 と、顕微鏡で埃を覗いた瞬間、大声で叫んだのである。

「ど、どうしたんです?」

 その場にいた者たちはサリュートの叫びに驚き、代わって顕微鏡を覗き込み……。

「……気持ち悪いな」

「こんな生き物がいるのか……」

「まさか、魔物の末裔か!?」

 などと、思い思いの感想を持ったのであった。

 正直、あまりダニとか拡大して見たくないですよね……

 ペットボトル顕微鏡、ガラス玉が小さいほど倍率は高くなるとのことです。


 お読みいただきありがとうございます。


 20131222 12時27分 表記修正

(旧)小さいものを大きくする道具ですよ

(新)小さいものを大きくして見ることができる道具ですよ

 デカチビ光線銃じゃないんだから orz


 20131222 16時03分 表記修正・誤記修正

(旧)ちょっとそこら辺の埃を見て

(新)ちょっと布団の上を見て


(旧)これでお孫さんの部屋、そこに溜まった埃を見てごらんなさい

(新)これでお孫さんの部屋、そこに埃があったら見てごらんなさい

 埃だらけの部屋のような印象を受けるので、ちょっと直しました。


(誤)出来上がった顕微鏡をテーブル場に置き

(正)出来上がった顕微鏡をテーブル上に置き

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