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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
11 ショウロ皇国とカイナ村篇
301/4299

11-03 夜明け前

御主人様(マイロード)、ラインハルト様から通信です』

 蓬莱島にいた仁の元にラインハルトから魔素通信機(マナカム)による連絡が入った。

「仁だけど、どうした?」

『おお、ジンか! 今日は済まなかったな!』

「何かと思ったらそんなことか。気にしちゃいないよ」

 事件かと思ったら、単なるお詫びだったのでほっとする仁。

『マテウスも悪気はなかったんだ。単にちょっと勘違いしただけで』

「勘違い?」

 何か勘違いする要素があっただろうか、と仁は考えるが、思い当たる節はない。

「何を勘違いされたんだろう?」

 と問えば、ラインハルトは笑いながら、

『僕とジンが恋仲だと……』

 と言いにくいことをずばり口にした。

「えええええ!?」

『な、笑えるだろう?』

 仁は笑えない。まさかそんな誤解をされているとは思わなかった。

「も、もう誤解は解けたんだろう?」

『あたりまえさ』

「……ならいいや」

『まあ、明日以降はこんな事がないようにするから』

 そうラインハルトは言い、少し世間話をして通信は切られた。

「……疲れた」

 精神的に疲れた仁は、もう一度温泉に浸かって寛ぐことにした。

「……ふう」

 お湯の中で手足を伸ばしながら、誰にともなく呟く。

「もうすぐショウロ皇国か、楽しみだな」


*   *   *


「ぎゃあーっ!」

「は、反乱だ!」

「犯罪者が逃げたぞ!」

 同じ日の昼、イナド鉱山の管理棟は阿鼻叫喚の地と化していた。

 犯罪者を支配しているのは『犯罪者識別の首輪』。これは、特定の魔力を流すことで、装着者に苦痛を与えるものである。

 そして、特定の魔力を流すには、『特定の魔導具』が必要となる。

 不慮の事態を考慮して2基設置されていた『特定の魔導具』つまり『首輪の主人(ドミネイター)』がいつのまにか使い物にならなくなっていたのである。

「ひゃははは! 自由だ! 俺たちは自由だぜ!」

「行け行け! 目指すは北だ!」

「間違っても南には行くなよ! そっちには兵がいるって話だからな!」

 52名の犯罪者が、ツルハシ、ハンマー、棍棒などを手に山を下る。20キロ程下れば街道に出、南はトカ村、そして北へ向かえばカイナ村だった。

 街道にある休憩舎には食料が置いてあった。犯罪者たちはそれを口にしたが、追っ手を警戒し、休息もそこそこに北を目指した。

 気力、というより欲望に目を血走らせながら峠へと登っていく52人。登り着いたトーゴ峠からは眼下に川が見えた。月光にエルメ川が光って見える。

 その向こうには素朴な村があった。

「見えたぞ! 村だ!」

「ひゃっほう! 食いもんだ! 女だ! 暖かい寝床だ!」

「いっけえ!」

「あってめえ、俺が一番乗りだ!」

 勢い込んで峠を下り出す犯罪者たち。

 カイナ村の人々はまだ気が付いていない。


*   *   *


 蓬莱島では、カイナ村専用の警備・監視用魔導頭脳、『庚申こうしん』からの報告を15分前に受け取っていた。

 時刻は、カイナ村では真夜中を過ぎ、夜明けにはまだ間のある頃。

 蓬莱島では夜明け前。

 老君は仁に知らせるかどうか少し悩んだが、昨夜早めに床に就いた仁であるし、他ならぬカイナ村防衛なので起こすことにした。

『襲撃者を発見』

『トーゴ峠目指して侵攻中』

『会話を再構成。襲撃者は労働刑中の犯罪者と判明。その目的は、カイナ村の襲撃』

『あと1分ほどで防衛圏に侵入』

『結界作動準備完了』

「さすがだな、老君」

『おそれいります。今回、防衛機構の確認も兼ねたいと思いますので、侵入者を一度に無力化はしません。どうか御承認願います』

「うん、かまわない。カイナ村に被害が出ないならな」

『ありがとうございます。御主人様(マイロード)はここからゆっくりと御覧になっていて下さい』

 仁は何もする必要がなかった。ただ、庚申こうしんからの画像を見、報告を聞き、老君が次々に打っていく手を眺めていれば良かったのである。

『襲撃者52人、トーゴ峠に到達。防衛圏に抵触』

 犯罪者の大半が下り始めた時。

『テスト1。麻痺結界作動』

 トーゴ峠のカイナ村側に備え付けられた麻痺(パラライズ)の効果を持つ結界が張られた。


*   *   *


 犯罪者たちは先を争って峠を下り出した。

 疲労のため、座り込んでいた者達は遅れて峠を下りはじめ……。

「ぎゃっ!」

「がっ!」

 麻痺結界に触れ、気絶したのである。その数8名。

 だが、我先にと駆け下りる犯罪者たちは、後方で起きた悲鳴にはまったく頓着しない。

 血走った目をぎらつかせ、ひたすら山道を駆け下りていった。


『テスト2。レーザー砲点射』


「えっ!?」

「な、何だ?」

 駆け下りる男達から驚いたような声が上がる。それもその筈、手にしたツルハシやハンマーが一瞬で蒸発してしまったのである。

 戸惑ったものの、欲望を剥き出しにした連中の脚はそれくらいでは止まらなかった。


『テスト3。電磁誘導放射器インダクションラジエータ、短時間放射』


「ぎゃあっ!」

「あ、あちいいい!」

 彼等の首に嵌められた犯罪者識別の首輪は金属製だ。それが突然熱を持ったのだから、慌てて当然。

 だが、その現象は、首に軽い火傷を負わせただけで収まった。

「い、いったい、なんだったんだ?」

 さすがに連中も少し薄気味悪くなったらしく、駆け下りる速度が遅くなった。

 それでも、もう手の届く所に、欲望を吐き出せる無力な(・・・)村があるかと思えば、連中の足は止まらなかった。


『テスト4。ランドWからZによるステルス状態からの攻撃』


「ぎっ!」

「げっ!」

「ぐっ!」

 犯罪者たちの後方から短い悲鳴が上がり、そいつらがばたばたと倒れていく。

「な、何だ、何がいるんだ?」

 夜明け前の闇の中、ステルス結界を張ったランドたちは目に見えない。

 そして、暗闇の中、見えない敵の恐怖というものは想像以上に大きい。

「う、うわああああ!」

 まだ無事だった男達は、エルメ川にかかる橋目指して全速力で走っていった。

 川に橋が架かっていれば、そこを通ろうと思うのはあたりまえの発想である。

 ましてやパニックに襲われ、正常な判断ができなければ尚のこと。

 幸運にも(?)気絶しなかった5名が橋を渡りかけた、その瞬間。

 

『テスト5。ブリッジ・トラップ』


 橋の両端が切り離された。

 つまり、橋が橋でなくなり、5名は橋の上に取り残された状態である。

 行くも戻るも、足の下は水。エルメ川である。そのあたりは川幅が狭い代わりに流れが速く、深い。

「え、ええい、くそおっ!」

 だが、男達のうち、度胸のあった1名が水に飛び込んだ。続いてもう1名。

 残った3名は、飛び込む勇気もなく、橋の上で途方に暮れていたが、

「ぎいっ!」

 短い悲鳴を残し、くずおれたのである。橋に備えられた衝撃(ショック)の結界による効果である。


『テスト6。対人直接戦闘』


「ぷふぁー、何とか泳ぎ切ったぜ」

「辿り着いたのは俺たちだけみたいだな」

「女も食い物も俺たちだけのものだぜ!」

 もはや正常な判断力もないらしい。いくら男達が強くても、2人で村を占拠する事は無理だと言うことに思い至れないのだから。

 水を滴らせながら川原に立った2人の前に、異形の影が2体、立ち塞がった。

「『侵入者に告ぐ。おとなしく投降すれば危害は加えません』」

 だが、正常な判断のできなくなった2人にその勧告は無意味だった。

「うるせえ!」

 一言おめくと、影に跳びかかった。

「『排除します』」

 影すなわちランドAとランドBは、柔道で言う腰投げに近い技で2人をそれぞれ投げ飛ばした。

「ぎぇ」

「ぐぇ」

 陳腐な表現ではあるが、まさにカエルの潰れたような声を上げて2人とも気絶した。一応背中から落としたので、受け身を取っていなくても死ぬことはないだろう。


『侵入者完全沈黙によりテスト終了。テスト7、8、9、10、Xはまたの機会とします』

 こうして、夜明け前、村人の誰一人として気が付かないうちに、襲撃者たちは全員無力化されたのであった。

 非有機的な言葉を表現するため、「『******』」のように、カギカッコと二重カギカッコを重ねてみました。


 お読みいただきありがとうございます。

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[気になる点] 「『******』」のように、カッコとカギカッコを重ねてみました。 ちょっとうるさいことを言うなら、どちらもカギカッコだと思うのですよ ()がカッコ、または小カッコ {}が中カッコ […
[気になる点] https://book1.adouzi.eu.org/n7648bn/301/ 11-03 夜明け前 「うるせえ!」  一言おめくと、影に跳びかかった。 「『排除します』」  一言お…
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