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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
10 クライン王国訪問篇
285/4299

10-19 残党

 今回、ちょっと痛そうな描写があります。

「お、おにーちゃん……」

「ハンナ!」

 完全に仁たちの油断だった。また、タイミングも最悪。

 馬車で移動していたがゆえに、ハンナ専任の隠密機動部隊(SP)が、若干距離を空けていたのである。

 最初に降りたのが礼子だったら、何の問題もなかっただろう。だが、今更言っても仕方ない。

 更にジェシカたちも森を警戒して確認に行ってしまっていた。

 しかも男は隠身(ハイド)の効果のある魔導具でも使っていたのだろう。隠密機動部隊(SP)は男がいる事を事前に察知していたかもしれないが、男の意図が不明だったということもあり、対処が遅れた。

 仁たちにとっては不幸が重なり、それはすなわち男にとっては幸運だったのだ(いや、この後に起きる結果からすると不幸と言ったほうがいいのか)。

「う、動くな! お前ら、全員馬車から降りろ!」

「……今は言うとおりにしよう」

 リースヒェン王女がそう言って、踏み台のない馬車から飛び降りた。続いて仁、エルザ、礼子。

「姫様!」

 ジェシカとグロリアも駆け戻ってきた。

「貴様! 何をする! その子を放せ!」

 だが、ハンナを捕まえている男は不敵に笑う。

「ふん、王女の命が惜しかったらお前たちは10メートル以上離れろ」

「ん? 王女?」

 そのセリフを聞いて、一同は気が付いた。男は、王女から貰ったドレスを着ていたハンナを王女と間違えたのだ。

 だが、それは何の慰めにもならない。

 ゆっくりと馬車から離れながら、仁は礼子にそっと囁く。

「礼子、イリスとアザレアはどうしている?」

 礼子は視覚を赤外線に切り替え、ハンナの周囲を見つめて答える。

「はい、あと1歩で……」

「ぎゃあああああ!」

 礼子がそう言いかけた時、男の悲鳴が響き渡った。

 仁と礼子以外のそこに居合わせた者達は目を見張った。

 いつの間に現れたのか、真っ黒いゴーレムが2体。1体はハンナを保護し、もう1体は男を組み伏せていたからだ。

 そして組み伏せられている男の右腕、つまり短剣を持っていた腕は有り得ない方向に曲がっていた。3箇所ほど。

「おにーちゃん!」

 涙目で仁に駆け寄るハンナ。仁もハンナに駆け寄り、小さな身体を抱きしめ、背中をさすってやった。

「もう大丈夫だ、御免な、怖い思いをさせたな」

「ううん、おにーちゃんがたすけてくれるってしんじてた」

 仁はイリスとアザレアを眺めやり、よくやった、と声を掛けた。

「な、何ものなのじゃ? この真っ黒いゴーレムは?」

 ようやく、王女はそれだけを口にした。

 仁はそれは後で説明します、と王女に言い、男に向き直る。

「おい、何が目的でこんなことをした?」

 だが男は痛みに脂汗を流しながらも、ふん、と鼻を鳴らす。

「さてね」

 だが、それは悪手だった。

「イリス。もう片方の腕も」

 仁がそう言うと、イリスは押さえつけている男の左腕を捻りあげた。一方仁は、折る光景を見せないようにハンナを抱きしめている。

 ごきっと音がしたと思うと、再び男の悲鳴が響く。肩と肘が砕けた。

「ぎぃやぁあああああ!」

 仁は聖人君子ではない。身内には大甘だが、その分、敵には容赦しない一面もある。今回、男はハンナを泣かせた。それが仁の逆鱗に触れたのである。

「今度は股関節を壊す。……これが最後だ。理由は?」

 ひいひいと涙を流し、鼻水を垂らしながら、男は口を開いた。

「……にげ……ようと……思った。……馬車が……ほし……かった」

 仁は、男が話しやすいようにと、エルザに痛み止めを施すよう頼む。エルザは頷き、

「『痛み止め(シュメルツミッテル)』」

 痛みを止めてやる。だが両肩は壊れたままだ。

「何故逃げようと思った?」

 仁は男を睨み付ける。観念した男は白状した。

「もう……すぐ、ここを50人ほどの集団が襲うことになっている。どいつもこいつもならず者ばかりだ。俺はそいつらの仲間だったんだが、気が変わって抜けることにした。それには一刻も早くここをおさらばしなくちゃなんねえ。だから馬か馬車が欲しかった」

 その時、森の向こうから、大勢の足音が聞こえてきた。

「ぬ!? 今の話は本当だったようだな」

 王女は青ざめた。城門を閉めるにも時間がかかる。間に合わない公算が大だ。

「このままでは無防備なまま、アルバンが襲われる! ジェシカ、グロリア! 防ぎ止めるぞ!」

「はっ、姫様」

「御意」

 そして王女は青ざめた顔を仁に向けた。

「ジン、お主たちは(わらわ)の馬車でもう一度城内へ戻るがいい。王宮内ならそう易々と攻め込まれんじゃろう」

「リース様は?」

「ここで出来る限り食い止める。なに、(わらわ)水弾(ウォーターボール)、それに水の弾丸(ウォーターバレット)なら使えるからな」

 そう言って王女は水たまりの水を見つめた。

 この王女は自ら盾になるつもりなのか、と仁は感心した。

「ティア、そなたは急いで王城へ走り、このことを伝えてくれ。城に残った軍が動けば、50くらいの人数、何ほどのこともない」

「でも、姫様が……」

 ティアはそう言って逡巡する。さすが魔導大戦時代の作品、このあたりは良く出来ている。

「……」

 仁は目を閉じ、僅かに考えていたが、目を開けるときっぱりとした言葉を告げる。

「いや、ティアはリース王女を守れ。ジェシカさんとグロリアさんは賊の捕縛だけしてくれればいい」

 それを聞いたエルザが小声で囁くように、

「ジン兄らしい」

 と呟いた。

「お、お主、何を言って……」

 その時、賊の先頭が森から姿を現した。ゴーレムを1体引き連れている。

「なっ! ゴーレムまでいるのか!」

「これでは、半数も抑えられるか……」

 驚く王女。緊張するジェシカ。

「ジン殿、貴殿は……」

 そしてグロリアが何か言いかけたが、仁はそれにかまわず、礼子に指示を出す。

「礼子! 奴等を止めろ! 但し、極力殺すな」

「はい、お父さま」

 礼子は地を蹴った。と思った次の瞬間、数人の賊が宙を舞い、地に叩き付けられている。

「お、お主たち……」

「あ、あの子はいったい……」

「……人が宙を舞うのを初めて見た」

 王女、ジェシカ、グロリアの3人は己の目を疑った。

 50人はいた賊があっという間に地に伏している。

 そしてゴーレムはと言えば、礼子の一蹴りで20メートルほど吹き飛んで立木に激突し、おかしな形にひん曲がって動かなくなっていた。

「終わりました」

 1分かからず、50人の賊を無力化した礼子。常識では考えられないだろう。

 何も言わなくても、王女たちの目は雄弁に物語っている。お前達は何ものだ? と。

「済みませんが、そのまえに奴等を縛り上げてしまいましょう」

 仁はそう言って、気絶した賊のベルトや腰帯を使って、動けないよう縛り始めた。

 礼子、エルザもそれを手伝う。少し遅れてジェシカ、グロリアも参加。数分で全員を拘束し終わった。


「さて、あらためて問う。お主は何ものじゃ?」

 リースヒェン王女が仁に問いかける。覚悟を決めていた仁は、一部の真実を話すことに決めていた。

「あー……リース様に昨日、エゲレア王国で起きたゴーレム騒ぎをお話ししましたよね?」

「う、うむ」

「その時に、暴走ゴーレム鎮圧に一番功績のあったのがこの礼子です。古代遺物(アーティファクト)でもあり、俺の大事な娘でもあります」

 隣に来た礼子の肩に手を置きながら仁がそう説明した。

「その功績でエゲレア王国名誉魔法工作士オノラリ・マギクラフトマンの称号を貰いました」

 大分はしょっているが真実である。

「そうじゃったのか……」

 仁の魔法工作士(マギクラフトマン)としての能力、そして礼子の実力を目にした今、それが真実であると素直に実感できた。

「それにしてもレーコは凄まじいな。ゴーレムよりも強いとは」

 ジェシカも感心したようにそう言った。

「そういえば、先ほどハンナを救った黒いゴーレムはどうしたのだ?」

 グロリアが辺りを見回しながらそう尋ねる。仁はそれに答えて、

「陰ながら周辺を警護するゴーレムですよ。今回は後手に回ってしまいましたが……」

 と説明。それを聞いた王女は目を輝かせる。

「やはり(わらわ)の目に狂いはなかったな! ジン、我が国にもゴーレムを作ってもらえぬか?」

 やはりそういう流れになったか、と仁は内心で溜め息を1つ吐き、返答する。

「まあ、条件によります」

 お読みいただきありがとうございます。


 20131123 14時16分 表記修正

(旧)1隊

(新)集団

 軍隊や傭兵ではないので集団にしました。


 20131123 22時15分 表記修正

「イリスは押さえつけている男の左腕を捻りあげた。」の後に、

『一方仁は、折る光景を見せないようにハンナを抱きしめている。』

 を追加。教育上、あまり残酷なシーンは見せない方がいいですからね。


 20151013 修正

(誤)名誉魔法工作士オーナリー・マギクラフトマン

(正)名誉魔法工作士オノラリ・マギクラフトマン

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― 新着の感想 ―
[気になる点] もう完結してるので、あまり意味はないのでしょうが… どうして、このお話に出てくる女子(人族)は、ほぼみんな自分勝手で押し付けがましいんだろう… ※且つ依存が激しい… オートマタやらゴ…
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