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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
01 カイナ村篇(3456年)
25/4298

01-12 輸送

 翌日朝、村の男衆が村長の家の前に集まっていた。税である麦をトカ村まで運ぶためである。

「それじゃあ頼むぞ」

 村長が言うと、男衆の束ね役であるロックが、

「おう、まかせとけ。今回は一度で済むから楽だわ」

 そう、仁が作ったリヤカーを使って一度で運んでしまう予定なのだ。今までは人の背や馬で運んでいたので、カイナ村とトカ村を数回往復しなければならず、その労力は半端ではなかった。それが今回は12台のリヤカーを使い、約5トンの麦を一度で運んでしまう。しかもトカ村までは緩やかな下りなので、行きは非常に楽だし、帰りも空になるので登りとはいえ楽なはずである。

「食料と水は持ったな?」

「おう」

「忘れ物はないな?」

「あんた、きをつけてね」

「父ちゃん、いってらっしゃい」

「おう」

 見送りの奥さんや子供たちに手を振れば、出立である。

「よし、……徴税官様、出発できますぜ」

 ロックがリシアに声を掛け、リシアは、

「それでは出発します」

 一行はごろごろとリヤカーを牽いて動き出した。

「ジンおにーちゃん、いってらっしゃい」

 一行には仁も加わっていた。この機会にカイナ村の外を見てみたかったのである。

 リシアは先頭を馬で行く。時々後ろを振り向き、付いて来ているのを確認しつつ。リシアの後ろにはロック、そして仁が続いている。道が狭いため、一列で進んでいるのだ。

 エルメ川を渡り、小さな峠を越えると後はずっとなだらかな下りが続く。

「下りは楽だなあ」

 仁の本音である。全部のリヤカーをベアリング仕様にしてあるが、疲れるものは疲れるのだ。

 そしてリシアはといえば、この輸送中に仁ともっと話をしてみたいと内心思っていた。


 3時間ほど進んだところが拓けており、水も湧いているので休憩。

「あー、やっぱり疲れた」

「ははは、ジンはやっぱり弱えな」

「ロックさん達のようにはいきませんよ」

 ロックは身長180センチを超え、体重も80キロはある。ジンは身長160センチ、体重52キロ。体力的に見て敵いっこない。

「まあなあ、でもジンは俺達には出来ねえ事が出来るじゃねえか。俺はそっちの方が羨ましいぜ」

「……ちょっとよろしいですか?」

 そんな仁達の話に、リシアが割って入った。

「徴税官様、どうかしましたんで?」

 そう尋ねるロックに、

「い、いえ、休憩中くらい、仕事を忘れさせて下さい」

 と言うリシア。彼女は続けて、

「ジンさん、でしたね、あなたは遠くから来られたって聞きましたけど、本当ですか?」

「ええ、本当です」

「そうですか……。この『りやかー』もあなたが作られたんですよね?」

「そうですよ」

「徴税官様、このジンはすげえんだよ! 村の暮らしが楽になるような物を次々に作ってくれてよう! せがれも喜んでるしな!」

 ロックがそう言うと、周りで休んでいた他の男達も口々に、

「そうだよなあ! あの温泉に浸かるようになっておれっちの女房なんか肌がつやっつやになったんだぜ」

「お前んとこのかみさん、肌だけはきれえだよなあ、肌だけは」

「何だよ、どういう意味だ? 2回も繰り返しやがって」

 賑やかな男達である。が、リシアはジンだけに興味があるようで、

「その、ジンさんは、魔法工作士(マギクラフトマン)なんですよね?」

「ええ、まあ、そうなるんでしょうね」

「あっ、あの、それで、この先も、ずっと、カイナ村に住まれるのですか?」

「……」

 その問いに、即座には答えられない仁。だが、

「まあ、こんな才能のあるやつ、いつまでも村に閉じ込めておいちゃいけねえよなあ」

 ロックがそう言った。

「それに、ジンだって故郷へ帰りたいだろうしな」

 それを聞いたリシアは、

「あ、あの、ジンさんの故郷って『ニホン』って国なんですか?」

「何で知って……ああ、バーバラに聞いたんですね」

「え、ええ。バーバラさんに温泉で聞きました。あの温泉って、すっごくいいですね! お肌がつるつるになりました!」

「はは、そりゃよかった。……でだ、徴税官様、その『ニホン』って聞いたことありますか?」

「……リシアです」

「えっ?」

「昨日名前教えたじゃないですか。私はリシアです」

「でも、今は公務中で……」

「かまいません! 皆さんも、徴税官なんて呼ばないでリシアって呼んで下さい!」

 本人からのたっての希望、皆リシアさん、と呼ぶ事となった。

「それでリシアさんはニホンってご存じですか?」

「いえ、申し訳ありませんが知りません」

「そうですか」

 まあ異世界であるから、知っている方がおかしいので、それほど落胆はしない仁である。が、リシアはそんな仁を見て無理をしていると思ったようで、

「あのっ、ジンさん、私は知りませんでしたが、王都なら知っている人がいるかも知れません! 戻ったら知人に聞いてみますので、望みを捨てないで下さい!」

 と勢い込んで言った。仁は、

「ああ、あ、ありがとうございます」

 と答えることしかできなかった。


 そして一行はまた歩き出す。

 小さな峠を越え、長い下りを経て、日が暮れる頃幕営地に到着した。そこには簡単ながら宿泊できる小屋があって、トカ村とカイナ村を行き来する者は誰でも使う事が出来るのである。

「やれやれ、なんとか真っ暗になる前に着けたぜ」

 束ねのロックも安堵の息を吐いた。さすがに暗くなったら危険だからだ。短い秋の日、朝早くから歩き出した甲斐があった。

 急いで夕食の準備をする。麦と一緒にリヤカーで持ってきたコンロと鍋を出す。そして粥を作る者、干し肉を焼く者、湯を沸かす者。それぞれ分担して手早く用意する。

 コンロを見たリシアは、

「まさか、このコンロも……」

「ああ、ジンが作ってくれた」

 と聞いて、

「はあ、やっぱり。もう何が出てきても驚きませんよ」

 と溜め息を吐いた。

 食事をすればもうすることもなく、毛布を出してそれぞれ寝床を作る。そして念のため交代で不寝番をすることにし、順番を決めた。

「居眠りしないよう2人1組でな。まず……」

「私がやりましょう」

 そう言ったのはリシア。

「え、でも徴ぜ……リシアさんはその必要は……」

 ロックが言うとリシアは首を振って、

「いいえ、私はずっと馬に乗っていたのに皆さんは荷車を牽いてらしたんですからこのくらいは」

「そうですかい? んじゃ、そうだな、ジン、お前だ」

「オーケー」

「おーけー?」

「あ、いや、わかりました」

「ん、じゃたのむ。2時間したらジョナスとライナス、その次はビルとジェフ。そしてデイブとハワード、リックにトム、そんで最後が俺とヤン、スレイだ」

「りょーかい。んじゃ、さっさと寝るわ」

 そう言って仁とリシアを残し、皆毛布にくるまって寝始めた。仁とリシアは毛布を体に巻き、小屋の入り口脇にあるベンチに腰掛ける。

 空はもう真っ暗で、東の山の端から月が昇ってこようとしていた。この世界の月は地球の月よりも小さい。なので月明かりは期待できなかった。

 だが、この月の動きで時間を計るので、そう言う意味では重要な天体である。

 仁とリシアはしばらく無言で座っていたが、そのうちリシアがぽつりぽつりと話し出した。

「私の家が新貴族だって話はしましたよね」

「え、ええ」

「ですので、私は10歳までは普通の庶民として育ってきたんです。でも父が騎士(リッター)に取りたてられてから、急激に環境が変わってしまって、正直、まだ無我夢中のままなんです」

「……」

 仁にはただ黙って聞いている事しかできない。

「でも、今の宰相様は立派な方で、庶民のためにまつりごとを行おうとされてます。それを知って、私も、出来るなら、庶民のため、国民のためになるならと思って騎士(リッター)になることを決めました」

 リシアの語りは続く。

「でも、国民のためって何でしょう? ためになることでしたら、ジンさんの方がよっぽどすごいです。ポンプ、温泉、リヤカー、コンロ。これこそが人々のためになる仕事だと思いました」

「……」

「ジンさん、私、今のままでいいんでしょうか……?」

 なんとなく仁は頼りになる雰囲気があるのかも知れません。主人公だし。

 お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ジンさん、思ったよりも小さいんですねw
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