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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
09 統一党決着篇
246/4299

09-31 新兵器

 4月22日、エゲレア王国首都、アスント。

 城壁は10メートルもの高さに聳え、刻まれた魔導式(マギフォーミュラ)により魔法耐性も有する。

 この城壁は難攻不落、あらゆる外敵から城内を守ると思われていた。

 そう、その日の早朝までは。


「おはよう。交代だ」

「おはよう。異常なし。では、任せた」

 日の出、城門を守る衛士が交代していく。国境付近の街は戦火に曝されているが、この王城は平和な筈であった。

 突如、火球が飛来して爆発を起こした。『炎玉(フレイムボール)』である。

「な、何事だ!」

 詰所にいた兵士達も顔を出す。そこへもう1発、炎玉(フレイムボール)が飛来した。

「う、うわああああ!」

「ぎゃあああああっ!」

 盾はおろか鎧すら着けていない状態の兵士が2名、至近距離で炎玉(フレイムボール)を受けてしまった。

 そして3発目の炎玉(フレイムボール)は兵士宿舎を直撃した。

 その時になって初めて、どこから炎玉(フレイムボール)が飛んできたのか確かめる余裕が出来た。それは頭の上。

「な、なんだよあれ……」

「嘘だろ……」

 兵士達が見たのは空に浮かぶ不思議な乗り物。大きな球の下に籠が付いているように見える。

 それが5つ、空に浮かんでいた。


*   *   *


 同日。

 フランツ王国軍対クライン王国軍は、フランツ王国軍優勢に進んでいた。

 ストルスクを抜いたフランツ王国軍はグレーシャを墜とし、コシースを占領して、地方都市テトラダに迫っていた。

 テトラダは一応城塞都市になっており、迎え撃つはクライン王国第3騎士団である。

 リシア・ファールハイトの父、ニクラス・ファールハイト副団長は前々日の戦闘で負傷した団長に代わり、ここの指揮を取っていた。

「副団長! あれを!」

 騎士の1人が明けてきた空を指差す。

「何だ?」

「あれは……」

「ま、まさか、空を、飛んでいる、のか?」

 100メートルほどの上空に巨大な球が5つ浮かんでいた。そしてそこに下がった籠から魔法が放たれる。

「うぎゃあ!」

 それは雷属性の中級魔法、『落雷(サンダーボルト)』。騎士達が倒れていく。

「いかん! 総員、対魔法盾を使え!」

 対魔法盾は、その名の通り魔法に対する耐性がある反面、物理的な衝撃には弱い。双方の特性を持たせることも出来るには出来るが、重くなってしまうのである。

 というのも、対魔法盾は使用者の身体を隠せる大きさが必要だからで、大きくないと露出した部分にダメージが通ってしまうからである。

 これを物理耐性のために丈夫にすると、結果は推して知るべし。そんな重い物を持って戦闘が出来るのはゴーレムくらいである。

 そしてそのゴーレムが2体、籠から降下してきたのである。


*   *   *


「エゲレアの首都に8機、クラインの戦場に5機、まずは派遣した」

『ごくろうさま。まさか空から襲われるとは思っていなかったでしょう』

「まことにもって、(いにしえ)の技術は素晴らしいな」

『うふふ。その威力をみせつけることも目的ですからね。防ぎようのない絶望を味わわせると共に、空を飛ぶという人の夢を見せつけてやりましょう』

「超兵器はどうします?」

『ギガースですか。それは奥の手。今回は温存でいいでしょう』


*   *   *


 いかに高い城壁があっても、空から攻撃されたら防ぎようがない。

 エゲレア王国首都、アスントも例外ではなかった。外宮、内宮の区別無く、魔法が降り注ぐ。

「ぎゃあ!」

「か、火事だ! 火を消せ!」

 およそ100メートルの上空から降り注ぐ炎魔法はアスント城内を混乱に陥れていた。

 そして、その混乱のため、3つの空飛ぶ球が反対側から近づき、高度を下げていたことに誰も気が付かなかったのである。

「よし、今だ、行け!」

 3つの球に下げられた籠から3体のゴーレムがアスント城の屋上に飛び移ったのである。その距離約20メートル。

「うわあっ!」

 屋上にいた兵士は15名。皆、魔法を放つ5機の球に気を取られていたため、背後からの攻撃に気付くのが遅れた。

 3体のゴーレムはたちまちのうちに15名を沈黙させたあと、更なる獲物を求めて屋上から階下へと降り始めたのである。


*   *   *


 籠から降りてきたゴーレムは城壁の上に着地した。

 100メートルの高さから飛び降りるのではゴーレムとは言え無事では済まない。籠から垂らされた綱を伝い、速度を殺しつつ下りてきたのだ。

 それを阻止しようにも、降り注ぐ落雷(サンダーボルト)のため、守備側は動くに動けなかった。

 そしてゴーレムが降り立ったことを確認した残る3機の空飛ぶ球は落雷(サンダーボルト)を放つのを止め、更に高度を上げて行ったのである。

「うぬう! あのゴーレムを下ろすための作戦か!」

 副団長のニクラスは自ら剣を持ち、配下に号令する。

「あのゴーレムを倒せ! 奴の目的は城門の開放だ!」

 そう、空飛ぶ球騒ぎで気付くものは少なかったが、城塞都市テトラダを包囲したフランツ王国軍が俄に活気づいていたのである。


*   *   *


「あ、あれは何だ……?」

「人が空を飛べるのか……」

 テトラダに迫るフランツ王国軍、それを率いる大隊長とその副官は、空飛ぶ球を見て畏怖の念に駆られていた。

「あんなものがあったら戦争が変わるぞ」

 空から敵の布陣を偵察できる。伏兵などあっという間に見破られてしまう。

 そしてどんなに高い城壁も意味をなさない。攻撃だって思いのまま。それは今目にしたばかりである。

「こんな農繁期に宣戦布告するなんてと思ったが、陛下にはこんな後ろ盾があったからか……」

 そして彼は命を下す。

「大隊、戦闘準備! 間もなくテトラダの西城門が開く! 開いたら第1、第2中隊は突撃だ! 第3、第4中隊は後方から援護! 第5、第6中隊は東で待機、城から逃げ出す敵兵を討ち取れ」


*   *   *


「くう! 王妃様、お逃げください!」

 王族の居室はアスント城の上の階にある。普通、敵は階下から攻めてくるからだ。

 しかし今回は違った。屋上から攻め込んできた2体のゴーレムは、近衛騎士達を蹴散らしながら王族の居室を目指していたのである。

 王、王妃、そして第3王子のアーネストがそこにいた。

 脱出用に秘密通路も設けられてはいる。だが折悪しく、先日のゴーレム騒ぎで通路の一部が崩れたままになっていたのだ。

 王としてはいつ使うかわからない脱出用通路の修復よりも、被害に遭った兵士達への慰安や、重要な組織の立て直しを優先させたかったのである。

「『風の一撃(ウインドブロウ)』!」

 近衛騎士の1人が危ないと見えたその時、強力な風魔法が放たれた。

 それは1体のゴーレムを吹き飛ばすには到らなかったが、たたらを踏ませ、時間稼ぎにはなった。

「姉さま!」

 放ったのは近衛魔導騎士隊のアイリ・ソリュース。アーネスト王子付きの侍女、ライラ・ソリュースの姉である。

「ライラ! あなたは殿下をお守りしなさい! 私は陛下と王妃様をお守りします」

「はい!」

 アスント城内の混乱は増すばかりであった。

 お読みいただきありがとうございます。


 20131014 15時07分  誤字修正

(誤)盾は愚か鎧すら

(正)盾はおろか鎧すら


 20131216 10時19分 誤記修正

(誤)この王城は平和。な筈であった

(正)この王城は平和な筈であった


(誤)守備側は動くに動けかなった

(正)守備側は動くに動けなかった


 20170304 修正

(誤)城塞都市テトラダを包囲したセルロア王国軍が俄に活気づいていたのである。

(正)城塞都市テトラダを包囲したフランツ王国軍が俄に活気づいていたのである。

   未だにこんな間違いがあるなんて orz

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