09-10 次から次へ
崑崙島から蓬莱島へ戻ってきた仁は、フリッツの事を考えていた。
「ごしゅじんさま、魔力妨害機の試作が出来ております」
そこへアンがやって来て報告した。仁は頭を切り換える。
「よし、早速テストだ。そうだな、礼子、済まないが実験台になって貰えるか?」
「はい、喜んで」
というわけで礼子に向けて魔力妨害機を発動させてみる。
形はほぼ立方体で、1つの面にパラボラのような形の発生器が付いていた。
「どうだ?」
「はい、特に何も感じません」
発動を妨害するだけなので、礼子のような自動人形や、隠密機動部隊のようなゴーレムの動作には影響がないのである。
「よし、それじゃあ魔法を何か使ってみてくれ。そうだな、光の玉あたりがいいな」
攻撃要素のない魔法ということで光の玉を選択した。
「はい。……『光の玉』。……お父さま、発動しません」
「よし、成功だな!」
詠唱は発せても、それに伴う引き金のための魔力が雲散霧消させられてしまうのだ。よって現象としての魔法は発動しない。
仁は礼子、アンと共に、効果範囲を調べていった。
それによれば、距離が離れるに従って急速に効果は薄れるようだ。だいたい距離の3乗に反比例している。
実用化するなら今の50倍は出力を増やしたいところだ。
「うーん、空気中の自由魔力素の影響なのかな? 大規模なものを作るのは辛いな……」
ジャマーは連続で動作していないと意味がないため、消費魔力も大きい。試作の大きさ、30センチ角の立方体くらいの規模では照射方向に10メートル、照射角度60度、というのが限界だった。
「ファルコンとかに搭載して空から照射するにしても射程が短いなあ」
地上から10mを飛んでいたらいい的になりそうであるし、それ以外にもいろいろまずいことになりそうだ。
「何とか対策は……」
仁は考え込んだ。
「断続で使うわけにも……」
そこではっとする。
「そうだ! 断続だ!」
「お父さま?」
「礼子、アン、試作機を貸してくれ」
仁は発生装置を制御する制御核の一部を書き換える。同時に、魔導式を徹底的に見直して効率化を図った。
「よし、これでテストしてみよう」
そしてテストの結果。先ほどの2倍の有効距離となったではないか。
「成功だ!」
「お父さま、いったい何を? 魔導式の効率化を図られたのはわかりましたが」
礼子に問われ、仁は説明する。
「ああ。『断続的』に動作させることで消費魔力を抑えた分、出力を上げたんだ。相乗効果も出たようだな」
つまり、0.2秒動作させ、0.4秒休ませることで消費を3分の1にした。その分動作時の出力を上げた、というわけである。
0.2秒あれば十分ジャマーとして有効で、0.4秒の停止時間では詠唱を完成させることは出来ないというわけだ。
そして、休止時間を挟むことで、動作出力をより上げる事が出来た。抵抗などに、瞬間的になら定格を越える電流を流せることに例えられようか。
「さすがお父さまです」
「ごしゅじんさま、すごいです!」
礼子とアンが絶賛する。
「よし、じゃあこれで魔力妨害機の試作はよし、と。これも老君と職人達に展開を任せよう。最適な断続のタイミングを決めてもらおう」
職人を作ったことで、仁の負担がそうとう軽減されていた。仁はその分開発に専念出来る。今は時間が惜しかった。
「よし、それじゃあ催眠や暗示を解除する方法を考えよう」
今、仁が一番必要だと考えたのがこれである。エルザの兄フリッツがもし暗示にかかっていたら。
いや、それ以上に、今戦争を起こしている国々の重鎮がかかっていたら?
統一党ならそれくらいやりかねない。
仁は早急に催眠魔法対策を講じようと考えたのである。それにはアンの知識が必要であった。
「アン、どうなんだ? 解除方法として何が考えられる?」
「はい。一言で言うと『ショック』なのですが……」
「やっぱりか……」
遺跡で出会ったルコールは弱い雷系魔法である麻痺で解放されたのである。
それをアンに言うと、
「ごしゅじんさま、それは麻痺でなく衝撃です」
と言葉が返って来た。
「え?」
「魔導大戦前に開発された魔法で、雷系魔法の衝撃と同じです」
「そ、そうか」
思えばビーナが使った『麻痺の杖』を解析してそれを応用したわけだから、更にモデルになった魔法があってもおかしくないわけだ。
「『麻痺』という魔法は別にあります」
「え?」
アンが興味深いことを言い出したので仁の興味はそっちへ移った。
「特殊な波形の弱い電撃なんです。波形は……」
おそらく、神経を麻痺させるような効果のある魔法なんだろう。仁はそう推測した。
「なるほどな。波形だけじゃなくやっぱり強度も重要なんだな。だが応用は難しくなさそうだ」
仁にとって、その応用で麻痺銃を作る事は簡単であった。
ピストル型で、引き金を引くと電撃が発射される。電圧が低くても空気中を伝わり相手まで届くのは魔法によるものだからか。
短時間の放射と、連続放射の切り替えが出来るようにした。これで大勢相手にも有効だ。
但しこの武器は蓬莱島では仁にしか効果が無い。礼子やゴーレム達はこれで麻痺はしないのである。
しかし自分でテストするわけにもいかないので、また統一党と対峙する時まで試射はおあずけである。
一応礼子や仁の隠密機動部隊用の物も作り、機会があり次第テストすることになる。
「よし、それじゃああらためて衝撃を利用した催眠解除機を作ろう」
これもアンの記憶にある衝撃魔法を魔導式に書き直していく。
「しかし、モデルがあると出来るのが早いなあ」
無くても早いと誰も突っ込まない。
30分足らずで試作が出来てしまった。形状は麻痺銃と同じである。将来的には麻痺と衝撃を切り替えられるように出来るだろう。
「これも試す相手がいないなあ」
ということで、これも検証は老君に委任することになった。
そして仁は、タイタンの投入方法を検討開始。
タイタンは示威行動にはうってつけであるが、蓬莱島から運ぶのに時間がかかりすぎるのが難点である。
例えば今紛争が起こっている場所までは600キロくらい、ファルコンでも1時間くらいかかる。これを10分くらいに出来ないか、が仁の目標であった。
そこで登場するのが受け入れ側無しの転移門である。
これを使って送り出せれば、地点に多少の誤差があっても蓬莱島からわざわざ飛んでいくよりずっと早い。
但し帰って来られないという問題付きである。
そして更に考え込む仁。
礼子は、そんな仁が焦っているような気がして少し心配であった。
それで、考え込む仁をアンに任せ、自分は別の部屋で老君と相談することにした。
『礼子さん、どうしました?』
「老君、少しお父さまが心配なのです。ここ数日、なんとなく焦っておられるような気がするのです」
『確かに。以前のように楽しんでいらっしゃる雰囲気があまりないですね』
「ええ。私が思うに、統一党の事。それに、戦争のことを気に病んでいらっしゃるのではないかと思えるのです」
『それはあるでしょうね。御主人様はご自分で背負わねばならないと思ってらっしゃる気がします』
「戦争も、統一党も、お父さまの責任では無いというのに」
『御主人様の知識をほとんど転写された私にはわかります。御主人様は、その力があるのにそれをしないことを悪だと思ってらっしゃるのです』
「お父さまは悪なんかじゃありません!」
『私もそう思います。でも御主人様は現に気にされてらっしゃいます』
「どうしたらいいのでしょう?」
『普通に考えれば、戦争と統一党、どちらも無くなってしまえば御主人様の悩みも無くなります』
「なるほど、道理ですね」
『かといって、例えば『光束』で彼等を殲滅したとしても御主人様は喜ばないでしょう』
「確かに……かえってお父さまの悩みが増える気がします」
『難しいですね』
忠実な部下、いや子供たちがそんな相談をしているとは知らない仁は、タイタンの運用法をようやく思いつき、それを実行できるようなプランを更に考えていくのであった。
やっぱり役に立つ道具を作っている仁の方が楽しそうです。礼子や老君もそう思っていたようです。
お読みいただきありがとうございます。
20130923 12時39分 誤記修正
蓬莱島と、紛争地帯までの距離、500キロでなく600キロでした。
20130923 15時31分 大幅修正
マギジャマーの効果範囲ですが、距離の4乗に反比例だと、3倍の射程にするには81倍の出力が必要でした。単純に3倍では駄目でした orz
と言うことで、その辺を改稿致します。
20131001 11時20分 誤記修正
(新)の方、上で直した(500キロを600キロに)が直っていませんでしたので修正しました。
20131215 12時01分 修正
9月23日の大幅改稿、旧バージョンをそろそろ消させていただきます。
誤記修正
(誤)以前のように楽しんでいらっしゃる雰囲気でがあまりないですね
(正)以前のように楽しんでいらっしゃる雰囲気があまりないですね
20140530 08時35分
ライトを光束に変更。




