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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
08 統一党暗躍篇
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08-36 閑話7 その頃カイナ村

 春4月、カイナ村は活気に溢れている。

 野山に草木が萌え出る季節、子供たちは戸外での遊びに余念がない。

 大人達は畑を耕し、作物を植える準備をする。

 昨年秋に播いた麦も大きくなってきて、畑の雑草取りも欠かせない。


「ハンナちゃーん、こっちにいっぱいあるよー」

「こっちだってこんなにとったもーん」

 ハンナと、ハンナより一つ年下のパティの2人はエルメ川の川原で野草摘みをしていた。

 アンゲリカ、クレス、クリプトナ。子供でも摘める野草である。似ている毒草もないので安心して集められるのだ。

 アンゲリカは香草で、クレスは雑炊や粥に添えるとぴりっとして美味しい。クリプトナはスープに浮かべる。

「あー、ハンナちゃんいたー」

 そんな声を上げてやって来たのはお転婆ジェシー。

 この季節、村の女の子達は野草摘みに忙しい。川原や野原、森の縁、と、草萌える場所を訪れては野草を摘んでいた。

 冬という季節を乗り越えて、春の喜びに溢れる野山を満喫すると共に、冬の間不足しがちなビタミンを補給する事が出来る。

 そんな理屈を知らなくても、村では春の野草摘みが親から子へ、子から孫へと伝えられていたのである。


 長い春の日が傾くまで野草摘みをした子供たちは、家に帰る前に温泉で汗を流す。

「あー、いーきもちー」

「ハンナちゃん、背中ながしてあげる」

「うん、ありがとー」

 温泉の中では子供たちが背中の洗いっこをしている。

 仁が村からいなくなる少し前に、身体や服を洗うためにリタの実を使う事を教えていったのである。

 リタの実は秋に実り、毒があるというので誰も手を出さなかったのだが、

「これってムクロジだよな」

 と呟いた仁が大量に集めて来て天日に干し、すり潰して粉にした。それを水にちょっと付けて擦ると泡立ち、汚れが落ちたのだ。

「毎日使うと肌が荒れるから、汚れがひどい時だけにしたほうがいい」

 とも言っていた。

 それまでは灰汁を使って洗濯していたのだが、リタの実から作った粉を使うとより汚れが落ちるので、村中こぞってリタの実を拾い集めたものである。


「ただいまー、おばあちゃん」

「おかえり、ハンナ。たくさん採れたねえ」

 祖母マーサが、ハンナの抱えた籠いっぱいの野草を見て目を細めた。

「今夜はそれでいろいろつくってあげようね」

「うん! たのしみー!」

 その晩は野草のサラダやおひたし。もちろんふるった小麦粉のパンもある。

「おいしい」

「ハンナが採ってきてくれたんだもの、美味しいに決まってるわね」

 そうやって楽しげに夕食のひとときが過ぎていく。


 カイナ村の夜は早い。大抵の家では日が暮れるとそろそろ就寝時間である。

 明かりと言えば松明や獣脂ランプ、普通ではもったいなくて使用している家はほとんど無い。

「おやすみなさい、おばあちゃん」

「おやすみ、ハンナ」

 マーサの家でも夕食は午後5時、そして午後7時には眠りに就く。


 その分、皆朝は早い。

 日が昇るともう起き出す。

「おはよう、おばちゃん」

「おはよう、ハンナちゃん」

 共同井戸でみんな口をゆすぎ、顔を洗いに出てくる。

「おにーちゃん……」

 ポンプを漕いで水を出していると、ハンナはいつも仁のことを思い出してしまうのだった。

「……げんきかなあ」


 その日はゴーレム馬、ミントに乗って山へ山菜採りに行くハンナである。

 今日のお伴はゴーレムのゲン。

 もちろん戻ってきている事はまだ秘密なので、ハンナや村人に気づかれない様に振る舞っている。

 ぱかぱかと蹄の音を響かせて、ハンナは山へ向かう。

「あー、ハンナちゃんだー」

 それを見つけた子供たちが声を掛ける。

「ハンナちゃん、いいなー」

 専用の馬を持っているのはハンナだけ。あとは共用のゴーレム馬、アイン、ツバイ、ドライ、カトル、サンクの5体だ。

 管理している村長に断れば借りられるが、やはり自分の馬を持っているハンナは羨ましがられていた。

「おにーちゃんがあたしに、って作ってくれたお馬さんだもんね、みんとは」

 そう呟きながらミントの首を撫でるハンナ。

 ミントは草原を抜け、山道に掛かっても歩みを止めることなく、ずんずん進んでいく。

 そして小山の山頂には20分ほどで登り着いてしまった。歩きの倍以上の速さである。

 カイナ村が眼下に小さい。ハンナは去年、仁と一緒に薬草採りに来たことを思い出していた。でもいつまでもそうしてはいられない。

「山菜、採らないと」

 ミントから下りたハンナは早速山菜探し。

 今日探しに来た1つは百合根である。秋、地上部が枯れた頃採取するのが一般的だが、昨年の秋は山鹿騒ぎなどで採りに来られなかったのである。

 もう1つはヤマネギ。山菜でもあるが、滋養強壮にもいい。冬を越えて幾分弱った身体には良く効く。

 どちらもハンナはよく知っていた。特にヤマネギには似た種類の毒草があるのだが、見分け方を心得ているので間違える心配は無かった。

 ハンナは賢い子なのである。

 お昼前まで採集を続け、籠にいっぱいになったところで止める。

 ミントに籠をしっかりとくくりつけた後、跨って帰路につく。

 下りは更に早く、15分を切る速さで帰り着いた。

「ただいまー」

「おかえり、ハンナ。ごくろうさま。怪我しなかったろうね?」

「うん!」

「それじゃあすぐお昼にするから、手をあらっておいで」

「はーい」

 ミントから籠を下ろしたハンナは井戸端へ手を洗いに行った。


 その日の午後、商人のローランドの馬車がやって来た。

「やあ、ローランドさん、お待ちしてましたよ」

「ギーベックさん、お久しぶりです。暖かくなりましたね」

「ええ、まったく」

 前回来たのは一月半前、まだ冬だったので、今とは大分違った。

「まだジンさんは?」

「ええ、帰りません」

 来るたびにローランドは村長とそんな会話をする。

「そうですか……ごむぼおる、欲しかったんですけどね」

 仁が作って売ったゴムボールが結構人気が出たらしい。だが仁しか作れる者がいないので売りたくても物が無いのである。

「無い物は仕方ありませんね」

 いつも通り、食料、塩、調味料などを売り、火の魔石を買い取る。

 ハンナはそんな様子を少し離れた所から眺めていた。


 そしてまた夜がやってくる。

 少し風が出てきたので窓を閉める。

 そういえばこの雲母のはまった窓も仁が作ってくれたんだった、とハンナは思い出す。


 仁が消えて4ヵ月、まだまだハンナは仁のことを忘れかねていた。

 窓から見上げた夜空には星が瞬いていた。

 アンゲリカはセイヨウトウキ、クレスはクレソン、クリプトナはミツバです。

 リタは作中で仁が言っているようにムクロジ。果皮はサポニンを含んで飲んだりすると下痢をしたりと毒性がありますが、石鹸がわりに使えます。中の種は羽根突きの羽根の重りです。

 百合根はほこほこして美味しいです。ヤマネギはギョウジャニンニク。山菜です。


 ゲンの他にも、蓬莱島隠密機動部隊(SP)の『イリス』と『アザレア』が陰ながら護衛しているはずです。


 この話で8章は終わります。


 お読みいただきありがとうございます。


 20130915 10時41分 誤記修正

 ハンナが山から下る時間が1時間になったままだったので15分に修正。


 20160321 修正

(旧)仁が消えて4箇月、まだまだハンナは仁のことを忘れかねていた。

(新)仁が消えて4ヵ月、まだまだハンナは仁のことを忘れかねていた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ゴンやゲンは片方がハンナちゃんの護衛しているときはもう片方は村の巡回や休憩中なのだろうか?
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