08-27 戦闘態勢
「あとはごしゅじんさまの武器、ですね」
一応完成をみた強化服を見たアンがそう言った。
「『水流の刃』や『光束』は威力が高すぎるのと、遠距離から中距離用だということです。近距離用の武器もお持ち下さい」
「なるほどなあ」
アンの提案はもっともだ。だが仁は格闘技など出来ない。
「となると棒みたいなものを振り回すのがいいということになるな……」
とりあえず、棒を振り回す自分を想像してみる仁。……何か違う。仁には想像できなかった。
「じゃあ刀か? それこそ、刃筋が立たないと切れないって言うし、アダマンタイトじゃ重いし」
倍くらいの力ではアダマンタイトの刀を振るうには少し足りない。
「うーん……軽くなきゃ無理、ということは物質じゃあ駄目か……」
そこまで考えて思いついたのは有名な映画に出てくる光の剣。
「あれならなんとかなりそうだ」
仁は頭の中で構想を描く。
「プラズマを閉じ込める……駄目だ。対人武器としたら凶暴すぎる。雷系の魔法で……同じだ」
頭をひねり続ける仁。
「うーん、いいアイデアだと思ったんだがなあ」
「ごしゅじんさま、それでしたら防御用の結界を先に装備なさって下さい」
アンが助け船を出す。だがそれは文字通り、仁にあるアイデアをひらめかせる助けとなった。
「そうか! バリアだ! バリアと同じ力場を剣にして!」
球状、または円盤状に展開するのが普通の魔法障壁であるが、これを剣の形に出来ないかと仁は考え始めた。球状、円盤状などの幾何学的形状は容易いが、剣の形にするのは至難の業だ。
「よし! 出来る! 出来るぞ!」
しかし仁の魔法知識と地球での経験はそれを可能にした。
「魔法障壁展開用の極を剣の形にすればいいじゃないか?」
魔法障壁はいうなれば自由魔力素で出来た壁である。作り方の原理は簡単。自由魔力素への引力と反発力の組み合わせ。その釣り合ったところに、不可視の壁が構築される。
もう少し言うなら、引力で引き寄せられた自由魔力素と、反発力で押しのけられた自由魔力素。それがぶつかり合い、釣り合った場所の自由魔力素密度は通常空間の何万倍にもなる。その自由魔力素同士を連結させることが出来たら。その『エーテルの網』がすなわち魔法障壁である。
魔法障壁の強度は自由魔力素濃度によるところ5割、網の目の連結力によるところ5割で決まる。網の目の大きさは自由魔力素が楽に通るため、内部の魔導士が自由魔力素の枯渇を起こす心配は無い。
引力と反発力を発生させるための極は指輪だったり、魔導士が空間に作り出した仮想のポイントだったりする。くどいのを承知で書くと、仮想のポイント指定にも魔力を必要とするから、指輪などの魔導具を使った方が効率がいい。
さて仁はその『極』を剣の形にしてみることを考えついた。
「普通は『点』からの放射だから球面になるんだよな」
つまり放射点から等距離にエーテルの網が形成されるわけだ。
「それを剣の形にして、部分的に強度を変えれば……おお、いいじゃないか」
強度を変えたことで、引力と反発力が釣り合う距離が変わる。極が点だとその制御は難しすぎるが、剣の形なら比較的簡単(あくまでも魔法工学師にとって)である。
まだ微調整は必要そうであるが、仁の手にした剣型の魔結晶からは、剣に見える50センチほどのぼんやりした光が放たれていた。
「よし、ここをこうして、こっちをこうして」
剣型の魔結晶に書き込んである魔法語を手直ししていく仁。
3度ほど調整した後、
「出来た!」
と仁は喜びの声を上げた。
「出力を変えると……おお!」
短い時は40センチくらい、長くすると2メートル以上になる。
「さて、切れ味は」
仁はその辺に転がっていた木片に斬りつけてみる。
「あれ?」
だが、予想に反して切れなかった。
「うーん、今のままだと単なる棒状のバリアだからか……」
理由を推測し、対策を立てる。
「この連結した自由魔力素の一部を炎……いや、熱エネルギーに変えると」
少しの手直しをした後再度実験。
「どうだ? ……あちちち」
熱気が漏れてきた。
「もう少し熱エネルギー化する自由魔力素を減らさないとな」
そして3度目。
「うん、これでいい!」
青白く輝く魔法剣。温度は1万度を超えているだろう。木片に斬りつけたら断面が黒く焦げるどころか一部蒸発した。
次は鉄棒で試すことにする。一応ヘルメットも装備し、礼子に頼む仁。
「礼子、そこにある鉄の棒で軽く殴りかかってくれ。いいか、かるーくだぞ」
「はい」
念を押された礼子は、太さ2センチ、長さ80センチほどの鉄棒で仁に殴りかかる。仁はそれを魔法剣で受け止めた。
基本形は剣状のバリアだから、実体のある剣も受けられる。
そして受けた鉄棒は、1秒ほどでそこから溶け、2つになってしまった。剣を受けたら相手の剣にダメージが行くだろう。
「よし、電気エネルギーだとどうかな?」
魔法語をいじり、雷系魔法を使って電気エネルギーを作り出すようにしてみた。
「さあ、どうだ?」
起動する。青白くも見え、黄色いようでもある、そんな剣になった。
「さて、これに触れて貰うのは危険すぎるな……。礼子、その鉄棒を地面に立ててくれ」
「はい、お父さま」
60センチくらいの鉄棒を、少し地面に突き刺す礼子。
「よし、いくぞ」
仁はその鉄棒目掛け剣を振り下ろす。剣が鉄棒に触るか触れないか、その瞬間、アーク放電が起こり、バチッと言う放電音と共に一瞬まばゆいばかりに輝く。
ヘルメットの遮光機能がなければ目にダメージを受けそうだ。
次の瞬間には鉄棒と剣が接触、まるで電気溶接機のように火花を飛ばし、鉄棒を両断した。白熱した鉄が飛び散る。
「瞬間に白熱するなんて何億ボルトあるんだよ……」
仁はまじまじと剣を見つめる。とんでもない物が出来てしまった気がする。魔法による電気エネルギーでなかったら、一番近くにいる仁に真っ先に被害が及ぶところだ。
「あとはこの電圧を制御出来るようにするか」
そう呟いた仁は、剣の大きさと熱・電気エネルギーを調整できるように改良を加え、ようやく魔導具としての魔法剣を2振り完成させたのであった。
「『正宗』と『村正』にするか」
正宗は熱系、村正は雷系の剣。そしてその名前はもういつもの調子である。
「ごしゅじんさま、お疲れ様です」
「お父さま、入浴なさいますか?」
アンと礼子が作業を終えた仁に声を掛けた。仁は一つ伸びをして、
「ああ、一風呂浴びるかな」
と言って館へ向かった。後に付いていく礼子、アンは後片付けである。
「あー、疲れが取れる」
館の温泉に浸かり、おっさんくさい声を上げる仁であった。
* * *
「ダリに到着しました」
「よし、予定通りにすすめろ」
「はっ」
* * *
その夜、仁はラインハルトからの連絡を待っていたが、予定の時刻を過ぎても連絡がないので心配になってきていた。
そこへ老子から急報が。
「御主人様、セージから連絡です。ラインハルト殿が誘拐されたらしいです」
「何だって!?」
それを懸念して隠密機動部隊を増やしたばかりである。
「砦跡の基地経由でラインハルト殿のいるダリまで行ったのですが、わずかの差で間に合わなかったようです」
「統一党め……俺の忠告を聞かなかったな」
仁の怒りが静かに燃え上がる。
「蓬莱島、出撃準備」
タッチの差で間に合いませんでした……
お読みいただきありがとうございます。
20130905 20時40分 足りない表現を追加。
念を押された礼子は、『太さ』2センチ『、長さ80センチ』ほどの鉄棒で仁に殴りかかる。→太さと長さを明記しました。
アーク放電が起こり、バチッと言う放電音と共に一瞬まばゆいばかりに輝く。
『ヘルメットの遮光機能がなければ目にダメージを受けそうだ。』
→アーク放電はものすごく目に悪いです。
20140530 08時18分
ライトを光束に変更。
20150630 修正
(旧)そこにある鉄の棒でかるーく殴りかかってくれ。いいか、かるーくだぞ
(新)そこにある鉄の棒で軽く殴りかかってくれ。いいか、かるーくだぞ




