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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
08 統一党暗躍篇
191/4299

08-12 エルザの危機

 誠に申し訳ありません。


 前章 08-11 追跡  ですが、仁の行動に矛盾やおかしなところがあったので、大幅に加筆修正させていただきました。

 既にお読みいただいた読者様方には大変ご迷惑をおかけします。

 ストーリーは変わりません。


 単に仁がエルザの事を気にしている描写や、救出に向かう手段などを加筆したのです。


 今後このようなことがないよう鋭意努力しますのでどうかご了承下さい。


 これからもよろしくお願いいたします。

                                作者 拝

 エルザを攫った男達はそのままトーレス川を遡り、やがて船は左岸に着いた。

「ここからは目隠しをさせて貰う」

「……」

 エルザは目隠しをされ、男達に担がれた。最早逆らう気力もなくしたエルザは男達のなすがままだった。


 30分ほどでどこかに着いたらしく、空気が変わったのがわかる。少しかび臭い、湿った空気。締め切りだった部屋に入れられたらしい。

 目隠しが外された。手足の拘束もエルザが気が付いた時には無くなっている。

「まあ少し休んだほうがいいぞ」

 その声に顔を巡らせると、そちらには頑丈そうな鉄格子が嵌っており、その外には黒覆面をした男がいた。声からして先ほどエルザに詠唱封じのチョーカーを付けた奴のようだ。

「もうすぐ夜が明ける。そうしたら支部長直々にお前に話があるだろう」

 後ろに控えた配下らしき男が、水の入った木のコップとパンの載った皿を格子の間から差し入れた。

「まあこれでも食べておけ」

 そう言って男達はそこを去った。独り残されたエルザはもう一度部屋を見回してみる。

 3方の壁と床、天井は頑丈そうな石造り。残る1方は鉄格子。とても逃げ出せそうもない。

 首に手をやると、金属で出来ているらしいチョーカーが食い込んでいた。外そうとしても外せそうもない。

 チョーカーを外すのは諦め、エルザは水だけを飲んだ。

 そして堅い床に身体を横たえる。

 無性に惨めな気持ちになり、涙が溢れてきた。

「ライ、兄……ジン、くん……」

 いつも自分を支え、助けてくれた年上の従兄と、誰にも真似できないような物を次々に作り出してしまう友人。

 どうして逃げる前に相談しなかったのだろう。それがただ悔しい。

 疲れていたエルザはそのまま浅い眠りに落ちていった。


 数時間くらいうとうとしただろうか。エルザは自分を呼ぶ声に目を覚ました。堅い床で寝ていたので身体中が痛い。

「支部長がお前を呼んでいる。来るんだ」

 またしてもエルザは両手両脚を拘束された。今度の拘束具は、30センチくらいの長さの鎖で左右繋がっている。

 だから右腕を挙げれば左腕も引っ張られるし、左脚を振り上げようとすれば右脚が引っ張られる。

 つまり小さな動作しか許されない状態と言うことである。

 その状態で牢から出されたエルザは、慣れない状態に転びそうになりながらもなんとか転ばずに歩いて行った。前後左右には黒覆面の男が付いている。

 長い階段を登り、長い廊下を歩いた突き当たり。前を歩いていた男が重そうな扉を開けた。

「入るんだ」

「あうっ」

 後ろの男に突き飛ばされ、ついにエルザは転んでしまった。両手を突き、顔をぶつけるのは防げたが、ぶつけてしまった膝が痛い。

「これこれ、レディをそんな風に扱ってはいけませんよ」

 ぬるっとした声に顔を上げると、部屋の奥には豪華な椅子があり、そこに1人の男が座ってエルザを見下ろしていた。

 その男だけは黒覆面もしていなければ黒装束でもない。逆に白が目立つ服装で、ローブを着て長いマントを羽織っていた。

「立てますか? 済みませんねえ、部下たちはレディの扱いを心得ていないようですねえ。あとで言い聞かせておきますからどうか勘弁して下さい」

 丁寧な言葉であるが、いい知れない気持ち悪さを感じる声である。エルザはのろのろと立ち上がった。

「おや、膝から血が出ていますねえ。『治療(キュア)』」

 治癒魔法を掛けて貰い、エルザの膝の傷が癒えた。

「これでいいでしょう。ではあらためて、ようこそ、ミス・ランドル。歓迎しますよ」

 エルザはそう言った男の顔をもう一度よく見る。

 20代なのか30代なのかよくわからない。のっぺりした白い顔に灰色の髪。灰色の目は細く、その奥には狂気が透けて見えるようだった。

 体つきはひょろりとしている。ラインハルトよりさらに華奢だ。椅子に座ったままでわかるほど背は高そうである。

「私、はもう、ランドル、じゃ、ない。その、姓は、捨てた」

 相変わらずチョーカーが喉を圧迫しているため声が上手く出せない。

「ああ、なるほど。部下の報告によると、乳母と2人でセルロア王国に逃げ込もうとしていたそうですね」

 にやにやと蛇のような笑い方をしながら男が言った。

「申し遅れましたが、私は統一党(ユニファイラー)第8支部支部長のパーセル・マルセス・ド・カナゲリオンといいます」

 ここは統一党(ユニファイラー)の拠点だったのか、とエルザは今更ながらに恐怖を覚えた。だがそれを押し隠し、今聞いた名前を反芻する。

「セルロア、王国、の、貴族?」

 セルロア王国での貴族は、名前・姓(家名)・ド・贈り名(領地)という規則によって名乗ることになっている。

「ほほう、わかりますか。なかなか聡明な女性だ」

 お世辞を言うその表情もエルザには嫌悪感を与えるだけだった。

「さて、本題に入る前に」

 パーセルは配下に命じてエルザを簡素な椅子に座らせた。

「レディを長く立たせて置くわけにはいきませんからねえ」

 そう言ってパーセルはいよいよ本題に入る。

「さて、まずはあなたを招待した理由ですが、2つあります。いや、3つと言っていいかな?」

 どちらにしろ自分にとって愉快なものではないだろう、とエルザはパーセルの足元を見ながら考えていた。

「1つ目。ラインハルト殿に対する牽制。これはもう済んでおりますねえ」

「え?」

 ラインハルトと自分がどう関係してくるのだろう、エルザは一瞬そう思ったが、あの優しい従兄は自分が人質になっていたなら、統一党(ユニファイラー)の利益になる事もやらざるを得ないかもしれないと思い至る。

「2つ目。突然現れた謎の魔法工作士(マギクラフトマン)。ジン・ニドーとか言いましたか、その方の事や連れているゴーレムの事を詳しく知りたいですねえ」

 統一党(ユニファイラー)の目論見を潰した仁、その情報を、一緒にいたエルザから引き出そうというのである。

「し、しら、ない。しって、いても、おしえ、ない」

 パーセルを睨み付けながらエルザは短くそう宣言した。

「……3つ目。あなたは優秀な魔導士だ。あなたにも我等統一党(ユニファイラー)の仲間になって貰いたいのですよ」

「誰、が」

 エルザはぷいと横を向く。

 だがパーセルはにやつきながらエルザをなぶるように続けた。

「よおく考えた方がいいですよ。最低でも1つ目の用件はもう満たしているのです。そして2つ目、3つ目を拒否するならこちらにもやり方があります」

 変わらず丁寧だが、今度の言葉には氷の冷たさが含まれていた。思わずパーセルの顔を見てしまうエルザ。

「生きてさえいれば1つ目は条件を満たします。口をきくことさえ出来れば2つ目の条件も満たします」

 その言葉の意味を知るとエルザの顔に恐怖の色が浮かんだ。

「おわかりですか? 爪を剥ぐなんてのは優しい方です。指を折る。鼻を削ぐ。耳をちぎる。四肢を切り落とす。他にも女性ならではの責め方はありますけどね、私はレディにそんなことをしたくはないんですよ」

 絶対嘘だ。目の前にいるパーセルという男は喜々としてそういったことをやる。エルザは直感でそう感じた。

「そ、それ、でも、わ、私、の、へんじは、かわら、ない」

 精一杯の虚勢を張ってそう言ったエルザだったが、その身体は小さく震えていた。

「ほうほう、では責められるのがお好きなのですねえ」

「ち、ちがう。どっちも、いや」

 パーセルはそれを聞いて笑い出す。

「これはこれは、わがままなお嬢様ですねえ。いいでしょう、今日1日だけ、考える時間を上げましょう。明日の朝、もう一度返事を聞きます。それまでよおっく考えておいて下さい」

「い、いくら、考え、ても、わ、わたしの、答え、は、同じ」

 震える声で言い返したエルザをパーセルはじっと見つめて、

「ああ、あなたの目は綺麗ですねえ。極上の水石(アクアマリン)のようです。くり抜いたらどんな声で鳴いてくれるんでしょうね、あなたは?」

 そう言って舌なめずりをする。

「!…………」

 エルザは静かに気を失った。

「おや、つまらない。気絶してしまわれましたか。……元の牢へ戻しておきなさい」


*   *   *


 再びエルザが意識を取り戻した時には牢の中。鉄格子が閉められ、鍵が掛けられていた。窓がないので時間はわからない。

 だがいくら時間があってもエルザの心は決まっていた。優しい人たちを裏切って逃げ出した自分だが、もう2度と裏切ることはしない。

 それだけはどんな目にあっても違える気はなかった。

 不意に、仁が作った短剣を渡してくれた時のラインハルトの言葉が思い浮かぶ。

『貴族の女性にとってその剣は、最後の尊厳を守るための防具なのだよ。どうしてもどうしても己の意志を曲げたくない、そんな時にだけ抜いていいのだ』

 あの時はわからなかった事が今はなんとなく理解できる。己で己の命を絶つ。そのための短剣。

 だがその短剣は置いてきてしまった。いや、貴族の立場と共に捨ててきてしまった。

「それ、でも、もう、わた、しは」

 エルザは心に誓う。ラインハルトと仁、2人を売るような真似は決してしない、と。その結果、どんな目に遭わされようとも。

「それが、わたしの、誇り」

 目を閉じると、これまでの旅の情景が浮かんできた。

「楽しかった、ね」

 ラインハルトとの旅。ゴーレムボートレースに出た。帰りは仁とも一緒だった。いろいろなことを知った。いろいろな人に会った。

 それを思うと、こんな時でも心が温かくなるのがわかる。

「もう、満足」

 そう呟いてエルザは身体を横たえた。夜までにはまだ時間があったが、疲れが溜まっていたのか身体が怠く、そのままエルザの意識は闇へ落ちていった。

 川の右岸、左岸というのは上流から下流を見て左右を決めます。逆に谷の右俣、左俣は下から上を見て左右を決めます。


 お読みいただきありがとうございます。



 20131115 21時09分 誤記修正

(誤)申し遅れたましたが

(正)申し遅れましたが


(誤)鉄格子が締められ

(正)鉄格子が閉められ


 20131205 12時18分 誤字修正

(誤)攻め方

(正)責め方


 20150515 修正

(旧)第8支部支部長のパーセル・マルカス・ド・カナゲリオン

(新)第8支部支部長のパーセル・マルセス・ド・カナゲリオン

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この手の幹部って正直まともな感性とかないクズ多いよね(もっと地位が欲しいとか金や名誉が欲しいタイプが多いけど持てない位能力低い連中が大多数だよね) もしかしなくてもコイツらエルザの…
[一言] >「おわかりですか? 爪をh と、具体的な責め苦を口にする間も無く、どこからともなく現れた隠密機動部隊により、口にする予定の全てをその身に受け果てたのであった。ちゃんちゃん。 ジ  「「マ…
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