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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
01 カイナ村篇(3456年)
18/4298

01-05 契約

 翌朝。

「ジン、いるかね」

 朝食後、マーサの家へ村長がやってきた。

「はい?」

「おお、ジン、ちょっといいかな?」

「ええ、何でしょう?」

 村長は笑って、

「何、たいしたことじゃない。うちに泊まっている行商人のローランドさんが、君と少し話がしたいというのでな」

「そうなんですか、いいですよ」

「そうか、じゃあさっそく来てくれるか?」

 ということで、仁は村長宅へと向かうことになった。


「はじめまして、行商人のローランドといいます。このたびはお呼びだてして申し訳御座いません」

「息子のエリックです、お目にかかれて光栄です」

 村長宅ではローランドとエリックが待っており、やってきた仁に丁寧な挨拶をした。この辺は商人である。

「あ、はじめまして。ジン・ニドーといいます」

 そうして3人はテーブルを囲んで座った。村長も同席する。すぐに若い娘がお茶を持ってやって来た。

「どうぞ」

「ああ、ありがとう、バーバラ」

 仁は確か村長さんの姪だったな、と頭の隅で考えるが、すぐに目の前の相手に注意を戻す。

「それで、お話とは何でしょう?」

 まず仁が切り出す。それに答えたのはローランド。

「いえ、たいしたことではないのです。……2ヵ月前、私がこの村を訪問した際には無かった物が、今回気になりまして」

「ああ、温泉ですか」

「ええ。それにポンプですか、あの水を汲み上げる道具ですね。本当にあれをこしらえたのはあなたなので?」

「そうですが何か?」

 怪訝そうな顔をする仁に、

「ああ、いえ、ジンさん、でしたか、あなたがお若いので。その若さで魔法工作士(マギクラフトマン)でいらっしゃるとは、どこで学ばれたのですか?」

魔法工作士(マギクラフトマン)?」

 初めて聞く言葉である。魔法工学師マギクラフト・マイスターの称号なら受け継いだのだが、魔法工作士(マギクラフトマン)という呼び名は知らない。

「おや、ご存じありません? 意外ですね。魔法工作士(マギクラフトマン)というのは魔法を使って道具を作る人たちの総称ですよ」

「はあ」

 気の無さそうな返事に、ローランドは話題を変える。

「そういえば、どこからかいらっしゃったということでしたが?」

 それは仁が確かめたい内容だったのでこれには飛び付く。

「ええ、実はたまたま『転移門(ワープゲート)』を見つけ、それによって飛ばされたらしいんですよ。なので自分がどこから来たのか、正確には帰る場所がどこにあるのかがわからないんです」

転移門(ワープゲート)? 聞いたことがある気がします。……エリック、どうだ?」

「確か、そんな名称の古代遺物(アーティファクト)があると習った気がします。異なる2つの地点を行き来できるとか」

 初めてエリックが挨拶以外で口を開いた。

「こいつは去年までセシリオ魔法学校にいましたからな。少しは魔法について知っております」

 父親のローランドも心なしか自慢げだ。

「まあ、古代遺物(アーティファクト)なんでしょうけれど、とにかくそれが暴走したらしく、気が付いたらこの村のそばで倒れていたということなんです。それで今お世話になっているマーサさんに拾われて以来、この村で暮らしているのですよ」

 一部を誤魔化したが、あながち間違いではない。エリックも、

「それは災難でしたね。古代遺物(アーティファクト)には理解できないものが多いので、そういうこともあるのでしょう」

 それをローランドが引き継いで、

「ということは、あなたの故郷がどこにあるのかわからない、ということなのですか?」

「そうなんです。ニホン、と言ってもわからないでしょう?」

「ニホン、ですか。確かに聞いたことのない地名ですね。そこがあなたの?」

「ええ、故郷です」

 ローランドは腕を組んで考え込む。その間にエリックが聞いてきた。

「そうしますと、ジンさんの使われる魔法や、お作りになった道具はジンさんの故郷の物、ということでよろしいんですね?」

「そういうことです」

 仁が肯くと、エリックは興奮気味に、

「すばらしい! あのポンプ、ですか、是非作り方を教えていただきたいものです!」

 それをたしなめたのはローランド。

「これこれ、そう興奮したらいかん。ジンさん、情報料を払いますので、是非わたしどもに『ポンプ』の構造や作り方を教えていただけませんか」

 どうしようかと考える仁。別に教えることには問題はない。ただ、出来るならこの村に利益があったほうがいいと思っている。

「そうですね、ちなみに情報料はおいくらくらいをお考えで? あ、俺はこのあたりの通貨を知らないので、その辺も含めて教えていただけると」

「そうですか。そうでしょうな。情報料として、10万トールでいかがでしょうか。群王国共通通貨でいうと、銅貨1枚が1トール、銀貨が100トール、金貨が10000トールとなっていまして、小麦10キロがだいたい300トール、銀貨3枚くらいですね」

 仁は大急ぎで暗算してみる。変動があるにせよ、小麦ベースで言えば、1トールが10円くらいと思えばおおむね間違いなさそうだ。ということは情報料は100万円。

「返事をする前にもう一つ聞きますが、この国には『特許』という考えはあるんですか?」

「『特許』? それは何ですか?」

 そう聞き返してきたことで多分無いのだろうと見当は付くが、

「特許というのは、最初にそれを考えた人の権利を守るためのもので、一定期間、特許を利用する時は特許を取った人に『特許料』を払う必要がある、というような制度です」

 ローランドはそれを聞いて少し考えてから、

「なるほど、いい制度ですね。新しい物を考案した人の利益を守りつつも、それを広く利用できるようにする。これにより新しいものを作ろうとする機運が上昇しますな」

 さすが商人というか、理解が早い。が、

「ですが、残念ながらそのような制度はありませんね」

「そうですか、それは残念です」

「では……」

 がっかりした顔のローランドだが、

「いえ、その条件で情報をお売りしましょう。ただし、1つだけ条件があります」

「そ、それは!?」

 ポンプの情報を売って貰えるということで勢いづくローランド。

「ポンプにローランドさんの名前かそれに類する物を入れて欲しいのです。出来れば真似できないようなもので」

「なるほど、類似品との差別化、ですね」

 ローランドの飲み込みは早い。

「そうです。遅かれ早かれ、模倣品や類似品が出回るでしょうが、オリジナルはローランドさんの所だとわかるように」

「ふふふ、本当のオリジナルはジンさんですけどね」

「それを言ったら、俺の国ではもうどれがオリジナルかわかりゃしませんよ」

 そんな感じで契約が結ばれる。担当はエリック。仁が目の前でポンプを1つ作って見せ、それをサンプルとして譲り渡す、というやり方になった。

 さっそくその日の午後、残り少ない青銅を使って実演してみせる仁。

 その日は午後中、仁の仕事場に、

「な、なんですか、そのやり方はあ!」

 エリックの叫びが響いていたという。

20130412誤字修正

(誤)と言うような精度です (正)と言うような制度です


 なんだかんだ言いながらエリックは構造を憶えて帰りました。仁と同じ作り方は出来ないでしょうけれど。

 お読みいただきありがとうございます。


 20160207 修正

(誤)2箇月前、私がこの村を訪問した際に

(正)2ヵ月前、私がこの村を訪問した際に


 20171107 修正

(誤)「ということは、あなたの故郷がどこにあるのかかわからない、ということなのですか?」

(正)「ということは、あなたの故郷がどこにあるのかわからない、ということなのですか?」


 20190207 修正

(旧)

「まあ、古代遺物(アーティファクト)なんでしょうけれど、とにかくそれが暴走したらしく、気が付いたらこの村のそばで倒れていたらしく、今お世話になっているマーサさんに拾われて以来、この村でお世話になっているのですよ」

(新)

「まあ、古代遺物(アーティファクト)なんでしょうけれど、とにかくそれが暴走したらしく、気が付いたらこの村のそばで倒れていたということなんです。それで今お世話になっているマーサさんに拾われて以来、この村で暮らしているのですよ」


 20220612 修正

(誤)言う

(正)いう

『口にする』という意味合いではないので平仮名に。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『読み返しの最中です』 >「ポンプにローランドさんの名前かそれに類する物を入れて欲しいのです。出来れば真似できないようなもので」 現実世界でも工業製品には製造業者の名前やロゴマーク、形式…
[気になる点] と言うような制度 というような制度 言うの意味は薄れているので「という」を使います。 [一言] 誤字報告機能をonにしていただけるとありがたいです。
[一言] あ、よーやくツッコミ役が現れた。 エリックさん、がんばってぇ~♪
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