07-15 遺跡にあったもの
仁とラインハルトが踏み込んだ部屋の中は真っ暗であった。
「『明かり』」
仁が明かりの魔法を灯す。それであたりが見えるようになった。
「何だろう、ここは……」
ラインハルトが疑問を口にした。
そこは小広い部屋で、古めかしい作りの机と椅子がいくつか置いてあるだけだった。机や椅子のデザインは、仁の先代が使っていた物にデザインが似ている。
「執務室か司令室じゃあないかな」
仁も推測でしかわからない。
「だが、まだこの奥に部屋があるかもしれない。探してみよう」
と、穴を開けた以外の壁3方と天井、床を調べていくと、今度はすぐに通路が見つかった。一番奥の壁に扉があったのだ。もっとも、ちょっと見た目ではわからないように擬装されてはいたが。
「行ってみるか」
「ああ」
そんな短いやり取りで仁とラインハルトは更に奥へと進んだ。
やや広めの通路を5メートルほど辿るとまた扉があった。
「僕が開ける。ジンは用心していてくれ」
とラインハルトが声を掛け、仁は用心のためいつでも魔法を放てるよう準備をする。
そしてラインハルトは扉を開けた。
「うっ!?」
開けると同時に部屋の明かりが灯る。その部屋の魔導ランプは死んでいなかったようだ。
「これは……」
目の前に現れたのは、空っぽの本棚であった。
「資料庫のようだな」
ラインハルトが本棚を見渡してそう結論する。
「こんなのが残っていた」
2冊ほど、羊皮紙らしき紙を簡単に閉じた本が棚の隅に残っていた。
「何が書いてある?」
仁が読んでみることにした。仁はこの時代では古代文字にあたる、1000年前の旧魔導文字も読める。
一応たどたどしく読むふりをするのは何故読めるのかを説明するのが大変だからだ。
「5……月……23日……魔族……の侵攻……砦……を放棄……することに……決定……」
日記か記録のようだ。魔導大戦当時の物だろう。そうラインハルトは思った。
「資料……武器……食料……持ち……出……せる……限り……持ち出す」
仁の読み上げにラインハルトは肯きながらその分析をする。
「なるほど、魔族の侵攻を押さえきれなくなったからこの砦は放棄されたのか。その際、重要な物は皆持ちだした、と」
「念……のため……転移門……ホール……は……埋めて……いく」
「ほう、埋めたのはあちらの方だったのか。今は逆にこちらを探すのに苦労したのにな」
ラインハルトが言うように、転移門を埋めていったにもかかわらず、後世そちらの方が先に掘り出されるとは皮肉な話である。
仁はその記録を閉じて、
「まあ、あまり重要な事は書かれていないな」
と言うが、ラインハルトは首を振り、
「いや、魔導大戦の真実に少しでも迫れる資料だ。持って帰ろう」
と言った。他国の遺跡からそういう資料を無断で持ち出すのは実際には犯罪行為なのだろうが、統一党の手に渡るよりはましだろうと自分に言い聞かせながら。
「後で訳文をエゲレア王宛てに送るという手もあるしな」
ラインハルトはそう思いながらその資料を懐に入れた。
「さて、そうなると武器庫だが、おそらく空っぽだろうな。まあ見るだけみてみよう」
資料庫の奥が武器庫のようである。何故わかるかと言えば奥の扉にそう書いてあったのだ。
扉は古くなっているのか、それとも中から鍵でも掛けてあるのか、いくら仁達が押しても引いても開かなかった。
仕方なく仁は礼子を呼んだ。
「礼子!」
仁の声を聞きつけた礼子はすぐにやってくる。
「はい、お父さま」
「この扉を開けてみてくれ」
「はい」
早速礼子は扉に手を掛け、一気に押し開けた。蝶番が軋んだがなんとか壊れずに済む。
「これは……」
扉が開かなかったのは、扉の前に動かなくなったゴーレムが何体も横たわっていたからである。埃が積もっており、仁もラインハルトもハンカチで鼻と口を覆った。
「戦闘用ゴーレム? いや、単なる雑用ゴーレムだな」
動かないゴーレムを調べた仁は、それが戦闘用ではなく雑用をこなすゴーレムであると判断した。
「5体、か。特に壊れた様子は無いが」
ラインハルトも屈み込んでそのゴーレムを調べる。ここの魔導ランプは暗く、よく見ないと細部がわからない。
「魔力が尽きている感じだな」
だが仁はそれを否定。
「……いや、違う。これを見てくれ。ほら」
ゴーレムの胸部を開いてみせる仁。そこにはあるべき物が無かった。
「制御核が……無い?」
ラインハルトは一目でそれを見て取ると、他のゴーレムを調べにかかる。
「こっちのゴーレムにも無い」
「これにも無いな」
仁とラインハルトが調べた所、5体のゴーレム全て、制御核が存在していなかった。
「制御核だけ無くなるはずがない。ということは、誰かがこのゴーレムを動けなくした、と見るべきか?」
「どうだろう。それが1番ありそうだが」
仁にも真相はわからない。
「このゴーレム達はそれほど重要ではなかった。撤退に当たって持っていくほどではない。ならば重要部品だけ外して持っていけばいい。……こんな感じかな」
ラインハルトの推測に仁は肯き、
「さっきの記録に何かあるかもしれないからな、帰ってからよく見てみよう」
と付け加えたのである。そこへ礼子が声を掛けた。
「お父さま、奥にもう一体います」
「何?」
仁が礼子の言う部屋の奥へ目を向けると、暗がりに何か人型のものが見えた。
「『明かり』」
仁が明かりを灯すと、その人型が良く見えた。それは古い侍女服を着た自動人形であった。床に座り込む形で放置されている。ゴーレムと同じくらい埃が積もっている。
「自動人形か……」
仁は屈んでその自動人形を調べていく。埃は魔法で綺麗にしてやった。
体形は成人女性タイプ。皮膚である魔法外皮はまだ辛うじて弾力を保っている。
髪はくすんだ青色。わざと人間とは違う色にしているのかもしれない。
「これには制御核があるぞ!」
調べていった仁は驚きの声を出した。
「動かない原因は……魔力の枯渇じゃあなさそうだな」
この自動人形には魔素変換器が搭載されていたのである。
「ああ、そうか。何か衝撃があって、内部の魔力接続が切れているんだ」
仁の鋭い観察力はついに不具合箇所を発見した。
「よし、直してやるぞ」
不具合がわかれば、仁に直せない故障ではない。
「『接合』『融合』」
切れた魔力回路を接合し、分解しかかっていた魔導装置を修理した。
「よし、『起動』」
そして起動用の魔力を与えてやれば、自動人形は動き出す。
若干軋みながら、自動人形は目を開け、立ち上がった。
「わたく・しめをおこ・したのはあ・なたさ・まですか?」
発声機構が傷んでいるのか、少しつっかえながらであるが、自動人形は言葉を発したのである。
ついに礼子以外の自動人形登場です。
お読みいただきありがとうございます。
20200312 修正
(誤)他国の遺跡からそういう資料を持ち出すのは実際には犯罪行為なのだろうが、統一党の手に渡るよりは増しだろうと自分に言い聞かせながら。
(正)他国の遺跡からそういう資料を無断で持ち出すのは実際には犯罪行為なのだろうが、統一党の手に渡るよりは増しだろうと自分に言い聞かせながら。




