07-13 遺跡の秘密
「ジン、どうしたんだい?」
仁の様子がおかしいことに気が付いたラインハルトは心配そうな声を掛けた。
その仁は一筋の汗を額に浮かべながら、
「ここは……巨大な転移門だ」
と言った。
「何だって!?」
「ここ、転移門なの?」
ラインハルトとエルザも驚いたが、一番驚いたのはルコールであったろう。
「な、な、な、何だって!? こ、ここが『転移門』だと? な、なんで君にわかるのかね!?」
顔を赤くしたり青くしたりし、どもりながらようやくそれだけを口にした。
「何でって……知っているから、としか答えようがないんですが」
今まで自分が使っていた転移門を古代遺物だと言って誤魔化していた仁だが、ここに間違いなく古代遺物としての転移門が現れた。
「う、む、む、う……私が10年掛けて調べてもわからなかった事を一目見てあっさり看破してしまうだと!? そんな馬鹿なぁ!」
「いや、あの、なんか済みません」
興奮気味にわめくルコールに、よくわからず謝る仁。
「そうだ、ほら、あそこ、敷石がめくれてる場所に魔法陣の一部が見えるでしょう? あれ、転移門の証拠になりませんか?」
と教えてみるが、ルコールは更に錯乱。
「知るか! だいたい転移門用の魔法陣なんて伝わっておらんわい!」
最早何を言っても無駄そうなので、
「ジン君、行こ」
と、エルザが仁の袖を引いた。仁も今はそっとしておこうと思い、その場を離れる。
「で、これが転移門だとすると……巨大だなあ」
ラインハルトが感心した様な声を出す。
「ああ。俺もこんな大きな転移門があるなんて知らなかったよ。まあ、もう死んでいるみたいだけど」
と、仁。但し、空調はまだ不完全ながら動いているようだ。夏涼しく冬暖かい。洞窟ならわかるが、こんな浅い場所となると、空調がなされていると考えた方が筋が通る。
そんな事を考えていた仁に向かってラインハルトは尋ねる。
「なあジン、こんな大きな転移門、何に使ったと思う?」
「大きさからいって大量の物資か、大勢の人間、だろうな」
ラインハルトは肯いて、
「僕もそう思う。おそらく、魔導大戦の砦の一つだったんじゃないのかな?」
と推測したことを話す。仁もそれには同感であった。
「なるほど、その可能性は高いな……」
と、そこに立ち直ったルコールが口を挟んできた。
「君たち! そう思うかね! それは私が10年掛けて出した結論と同じだよ! ここは魔導大戦の時の地方砦であったに違いないのだ!」
「は、はあ」
興奮したルコールの口説は続く。
「魔導大戦! それは、魔族と人間との存亡を賭けた戦争だった! 魔族は強く、人間は弱かった! だが、人間は滅んでおらん。何故だと思うね?」
ルコールは仁に尋ねる。仁は当てずっぽうに答える。
「魔素暴走ですか?」
それは正解だったらしい。
「そうだ! 魔素暴走、それにより大気中の自由魔力素が一時的にせよ消滅した。魔族は自由魔力素が無ければ生きてゆけぬ。だが人間は、強力な魔法使いを除いて、自由魔力素が無くても生きてゆける」
それを聞いて仁は背筋に冷たいものが流れるのを憶えた。もし、今また魔素暴走が起これば、仁、ラインハルト、エルザは生きていけないだろう。そして礼子も多分動かなくなってしまうであろう。
「魔素暴走の方法って伝わっているのですか?」
それで仁はそう言う質問を投げかけてみた。
「ん? いやいや、それを含め、魔導大戦以前の技術はほとんど伝わってはおらん。じゃからして、この遺跡を私は調査しているのだよ!」
とりあえずほっとする仁。当面、危険は無さそうだ。だが、
(魔素暴走への対策、考えておいたほうがいいかもしれない)
と心に思う仁であった。
そんな仁にラインハルトはまた質問をする。
「なあジン、ここが砦だとして、転移門の他に何があると思う?」
「うーん、司令室、居住区、医務室、食料庫、それに……」
仁は考えながら言葉を紡ぎだし、最後に少し言い淀んでから、
「……武器庫」
と言った。
ラインハルトはその仁の言葉に肯く。
「僕もそう思う。この遺跡のどこかに、過去の武器が隠されているんじゃないだろうか」
そして更に言葉を続ける。
「それがあの『統一党』の手に渡ったらと思うと僕は……」
ここにきて仁にもようやくラインハルトの心配がわかった。
「確かにな。無いならいいが、あるのならなんとかしないといけないな」
仁も同意する。そして壁を見渡し、
「ここが転移門の部屋だとすれば、玄関のようなもの。地下一階か地上一階に当たるはずだ。そういう倉庫があるとすれば地下だろうから、同じ階層か地下にあるんだろうな」
と口にすると、またもやルコールが口出しする。
「無い無い。他に部屋なんぞ無いわい。こう見えても私だって少しは魔法を使えるんだからな、そのくらい探してみたさ。だが無駄だった。この部屋以外に空間はない」
と言ったのである。仁はそれに反論しようとしたが、思い直して口を噤む。代わりにラインハルトが、
「そうですか、それならそれでいいんですけどね。それじゃあもう見る物は無いなら、出るとしようか」
と言った。仁もエルザも賛成したので、一行はまだぶつぶつ言っているルコールを置いて遺跡の外へと出たのである。
外は日射しが眩しかった。案内してくれた老人はもういない。
「さて、夜までどうするかな」
とラインハルト。それを聞いたエルザは、
「え? 帰るんじゃないの?」
と怪訝そうな顔。そんなエルザを仁は宥める。
「まあ、馬車まで行こう。詳しいことは中で、な」
そういうことで、一行はぶらぶらと歩き、仁の馬車に帰る。春の風が心地よい昼下がりであった。
「さて、それじゃあ説明しよう」
仁の馬車に戻り、キャビンに座って扉を閉めた。
「礼子、近づく者がいないか見張っていてくれ」
「はい、お父さま」
仁はだめ押しの警戒をすると、ラインハルトに話を始めるよう促した。
「よし。エルザ、この前、統一党の話を聞いたろう?」
「ん」
まずはエルザへの説明からだ。
「統一党はディナール王国の復活をもくろんでいる。つまり、失われた技術は奴らにとっても喉から手が出るほど欲しいはずだ」
「ん、わかる」
次いで仁が引き継いで話を始める。
「あの遺跡が過去の砦跡だとして、絶対にあの部屋だけということはない。それは俺が保証する」
「と、いうこと、は」
「ああ。武器庫は必ず存在する。そして過去の技術もな」
ここでラインハルトがまた引き継いで話し出した。
「本来ならエゲレア王国のしかるべき部署に連絡して調査をさせるのが筋なんだろうけどな、何十年も放置している現状を見ると、少なくともウレムリンの連中は能無し揃いらしい」
ウレムリンは一番近い地方都市である。ラインハルトもなかなか言う時は言う。
「それにだぞ、あのルコールという奴は怪しい。怪しすぎる。あんな部屋一つに何故10年もかかるんだ?」
それには仁も同意する。いくらなんでもおかしい。ラインハルトは話をまとめる。
「とりあえず、統一党の益にならないような手を打っておきたいと僕は思っているんだ」
その言葉に仁も肯いて、
「ああ。礼子や他人の作ったゴーレムを操ろうとするような奴らだ。どんな汚い手を使うかもわからない。ここは俺たちで先回りするべきだと思う」
と言った。最後にラインハルトが、
「それに、古代の技術という奴にも興味あるしな!」
と締めくくる。それを聞いて肩から力が抜けるエルザであった。
次回、遺跡潜入!?
お読みいただきありがとうございます。
20130821 10時26分 表記の統一
魔素暴発は魔素暴走で統一します。
20130922 20時41分
仁の台詞、
「魔素暴走への対策、考えておいたほうがいいかもしれない」
と心に思う仁であった。
の「」は、口に出してラインハルトとかに話しかけているのではないため、()にします。




