07-03 閑話4 忍者部隊
一方で礼子はどうしていたかというと。
18日に首都を発って以来、不審な者達が後を付けてきているのを感じていた。
19日夜。曇り。
カルトル町のホテル裏にて。
1名を無力化した。
(お父さまは殺生がお嫌いですから)
対象となった者は両脚単純骨折で済んだのは僥倖といえよう。
20日夜。雨。
夜中、地方都市バザードの来賓用宿舎廊下にて。
2名を無力化した。
(昨日の者と毛色が違いますね。まさか複数の集団からこのような尾行者が?)
この2人は気絶させた後、素っ裸に剥いて大通りに放り出されていた。
21日夜。小雨。
フレグラン町の宿屋2階にて。
1名を無力化した。
(毎日ですか。お父さまをお守りする手段を増やした方が良さそうですね)
この者は縛られて都市の端にある見張り塔から吊されていた。
そして22日夜。雨。
地方都市ドグランの来賓用宿舎にて。
(今夜は来ないようですが、油断できませんね)
そこで礼子は『魔素通信機』を起動させる。
「(はい、ルーナです)」
礼子の妹であるサポート用ゴーレム、ルーナがすぐに応答した。
「ルーナ、転移門を通ってこちらへ来なさい」
「(はい、お姉さま)」
仁の特製馬車に備え付けられている転移門からすぐにルーナが飛び出してきた。
「お姉さま、まいりました」
「ごくろうさま。私は今から研究所に行きます。朝までには戻りますので、その間お父さまの安全を任せます。出来ますね?」
「はい、お姉さま」
そうして礼子は蓬莱島へと移動した。
* * *
「礼子さん、お帰りなさい。今夜はどうしました?」
蓬莱島を統括する魔導頭脳、『老子』が出迎えた。
「老子、お父さまの安全に関して相談があります」
「伺いましょう」
礼子と老子は暴走しないようそれぞれお互いを監視しているが、仲が悪いわけではない。仁の事に関しては尚更だ。
礼子はゴーレム暴走事件以来の出来事を詳しく老子に説明した。老子はそれを聞いていたが、礼子の話が終わると、
「わかりました。エルラドライト、それに『隷属書き換え魔法』ですか、確かに厄介ですね。こちらのゴーレムに関しては私が全て対処しておきます。シールドと魔法記録石でいいですね?」
「任せます」
「それから御主人様の警護に関してですが」
「それが一番の課題ですね」
それからしばらくの間、礼子と老子は詳細な協議を続けた。
「そうしますと、全てのゴーレムに魔素通信機を備え付けることは決定でいいですね?」
「ええ。私自身にはお父さまにお願いして取り付けてもらいますが、私以外には老子が行って下さい」
「了解です。数が多いので、ソレイユ、ルーナ、プラネ、サテラから始め、ナンバーの小さい方から順に大きい方へと改造していくことにします」
「それでいいでしょう」
魔素通信機の内蔵については仁も気にしていたのでこの機会に一気に行ってしまうことになった。
「ではお父さまの警護ですが、『隠密機動部隊』を作る事で決定ですね?」
「はい。とはいえ、そのような高度なゴーレムを造るのでしたら、御主人様の許可を得た方がいいでしょうね」
「その通りですね。明日にでもお父さまに相談してみます」
「お願い致します」
そして最後に、細かい情報のやり取りが行われる。
「最近御主人様が連絡下さらないので報告が溜まっています。礼子さんからお伝え下さいますか」
「いいですよ」
現在出来上がっている地図の事、近づいて来た魔物を撃退した事、その素材が確保してある事が礼子へと伝えられた。
打ち合わせが終わったのが深夜を過ぎた頃。礼子は一旦仁の元に戻ることにした。
転移門を使い、時間のロス無く地方都市ドグランに戻る。雨は上がっていた。
「お帰りなさいませ、お姉さま。この者がお父さまの寝所を伺っていたので取り押さえておきました」
と言って縄で縛られた男を指差した。顔が腫れあがり、気絶している。礼子はちらと見て興味を失い、
「ご苦労様、ルーナ。あとは私がやります。あなたは帰りなさい。お父さまとお話できないのは気の毒ですが」
「はい、お姉さま。お父さまによろしくお伝え下さい」
そうしてルーナは蓬莱島へ帰って行った。捕まえた男は宿舎の裏に縛って放置することにした。
* * *
翌朝礼子は、仁に『隠密機動部隊』の話をしてみた。すると、
「はは、俺も作ってみたかったよ。そうだな、夜の警護とか礼子1人に任せるのも可哀想だな」
いえそんなこと、と礼子は言うが、仁は既に構想を考えてあったらしく、
「よし、今夜早速研究所へ戻って作ろう。……あー、隠密行動の参考にしたいような人がいないなあ」
そう言って仁は悩むようだったので礼子は、
「あ、お父さま、それでしたらちょうどいい人材がいます」
「え?」
そこで礼子は宿舎の裏に縛って放置してある男の事を話した。
「うーん、やっぱりそういう奴が出て来たか。やっぱり『隠密機動部隊』は必要だな。わかった。そいつの行動パターンとかいただこう」
そっと裏手に回るとまだ男は気絶したまま。その方が都合がいいので、そのまま仁は知識転写を使う事にした。
「『知識転写』レベル4」
隠密行動の知識、行動、動作、そして組織的な情報までを一気に手に持った魔結晶に転写。
後で解析すればどこから派遣されたのかもわかるはずだ。
尚、たまたま、本当に偶然であったが、その前日までの追跡者の失敗により、組織のトップクラスの男が派遣されていたのである。まああっさりルーナに捕まっていたのだが。
だが、おかげでかなりというか相当高度な隠密行動データが手に入ったことを書き加えておく。
23日夜、雨。
地方都市ディジールの来賓用宿舎に泊まった一行。
夜中、ちょうど雨も上がり、仁はそっと部屋を抜け出し、馬車置き場へと向かった。組織のトップクラスがやられて警戒したのか、今夜は怪しい者はいないようだ。
馬車内に隠した転移門で仁と礼子は一瞬のうちに蓬莱島へ移動した。
蓬莱島と地方都市ディジールの時差は3時間半くらいか。なのでこちらも夜である。だがゴーレム達には夜も昼もない。
「お帰りなさいませ、お父さま、お姉さま」
礼子のアシスタントゴーレム、ソレイユとルーナが出迎えた。
「ああ、ただいま。早速だが、準備は出来ているかい?」
それに答えたのは老子。
「御主人様、お帰りなさいませ。はい、各種素材の準備は出来ております」
「そうか、御苦労」
そう言って仁は研究所へと向かう。
まずは礼子に魔素通信機機能を追加する。もう基本装置は出来上がっているのでこれはあっさりと終了。
本番は『隠密機動部隊』である。
その機能上、出来るだけ軽い方がいいので、骨格は中空の軽銀で作り、外装も軽銀。
さて、外見をどうするか。表面は黒く発色させる。それはいい、と仁は心の中で自問自答し、肯いた。
男性形か、女性形か。大人か子供か。
やがて答えが出た。
どんな場面にも対応できるよう全部揃えればいい。
その夜と次の夜、2晩掛けて、仁専用の『蓬莱島隠密機動部隊』、別名『忍者部隊』が誕生した。
メンバーは10体。2体ずつ5種類。
礼子と同等の少女型2体。『パンセ』と『ビオラ』。
エルザと同じくらいの体形(但し胸はもう少しある)の『ダリア』『カンナ』。
成人女性タイプの『リリー』『ローズ』。
標準成人男性型の『エルム』『アッシュ』。
そして少年型の『ポトス』『ヒース』。
「これでよし、これからもよろしくな」
仁が誕生した『蓬莱島隠密機動部隊』に向かってそう言うと、
「はい、お父さま」
彼等は一斉に挨拶したのである。
今回は閑話なので忍者部隊の活躍はまた別の話で。
お読みいただきありがとうございます。
20130722 13時11分 脱字修正
『 が抜けていましたので追加。
(旧)本番は隠密機動部隊』である。
(新)本番は『隠密機動部隊』である。
20130722 16時54分 重複削除
(旧)翌朝礼子は、仁に『隠密機動部隊』の話を仁にしてみた
(新)翌朝礼子は、仁に『隠密機動部隊』の話をしてみた
20130730 08時21分
蓬莱島とディジールの時差に間違いがあったので修正。
(誤)1時間半
(正)3時間半




