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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
06 旅路その2 エゲレア王国篇
149/4299

06-36 アフター、それぞれ

えー、7月10日朝から11日夜まで不在になりますので、感想の返信とかが遅れます。ご了承下さい。

 大喜びのアーネスト王子がロッテを伴って奥へ行ってしまったので、仁はふう、と息を吐き、散らかった工房の片付けに取りかかった。

「あ、お手伝いします」

 そう言って王宮隠密侍女隊ロイヤルシークレットメイド、ライラが手伝いを始め……

「あ、いけない!」

 残った素材を床にばらまき、

「きゃああ!」

 工具に躓いて棚をひっくり返し、

「も、申し訳ございません!」

 仁がまとめておいた素材をうっかり蹴飛ばして。

 ……かえって散らかしていた。見かねた仁は、

「頼むからじっとしててくれ……」

 そう言って礼子を呼んだ。『消身(ステルス)』を解いて姿を現した礼子は仁が言わずともてきぱきと片付けていく。

「うう、あたしって役立たず……ですかぁ?」

 そう言って凹むライラに、

「まあ、人は、得手不得手、向き不向きがあるからなあ」

 としか言ってやれない仁であった。


*   *   *


「……ビーナに避けられている」

 部屋を訪れたラインハルトに向かい、クズマ伯爵は愚痴をこぼしていた。

「昨日の夜、プロポーズしたんだって?」

「うむ。……それ以来、顔も見せてくれん」

 そう言って、目の前にあったワインの瓶を掴み、直接口を付けてラッパ飲みをした。

「おいおい、無茶するなよ」

 ラインハルトがたしなめるが、伯爵は聞く耳を持たず、2本目の栓を開けた。

「……重症だな」

 溜め息をついたラインハルトは、諦めたように首を振って、

「ちょっと出てくる」

 そう告げるとクズマ伯爵の部屋を出ていった。


*   *   *


「……ふう」

「やっと半分片付いたといったところでしょうか」

 ゴーレム園遊会(パーティー)の行われた広間は瓦礫と壊れたゴーレムで滅茶苦茶になっていた。

 それを片付けているのは侍女、使用人、それに魔法騎士隊の面々である。数名、王宮隠密侍女隊ロイヤルシークレットメイドも手伝っているようだ。

 魔法騎士隊が参加しているのは、壊れたゴーレムからまだ使える魔結晶(マギクリスタル)等を確保するためである。

 だから瓦礫を片付けるのは男の使用人、片付けた後を掃除するのは侍女、そして瓦礫の中から使えそうなもの、高価なものを拾い集めるのが魔法騎士隊という分担だ。

「お、これは使えそうだな」

 魔法騎士の1人が赤い魔結晶(マギクリスタル)を拾い上げた。

「こっちにもあるぜ」

 今度は緑色の魔結晶(マギクリスタル)

 面白味のない作業故、こんな宝探しみたいなノリでもないとやってられないらしい。

 そんな中、

「あー、これ、クリスタルゴーレムの破片よね」

 透明な水晶に埋め込まれた魔結晶(マギクリスタル)。それはまさしく『セレス』の一部であった。

「あら、みつけてくださったの」

「え?」

 声に顔を上げるとそこに立っていたのはステアリーナ。

「諦めきれなくて、『セレス』の破片を探しに来たのだけれど、一番大事な心臓部が見つかったのは嬉しいわ」

 そう言って、両手で『セレス』の胸部を抱え上げると、

「貰っていくわね」

 そう言い残して去っていった。


*   *   *


「思ったより短時間で鎮圧されたものだな」

「は、思いの外、強力なゴーレムがいたようです」

「だが、目的は達成できたのであろう?」

「はい。その1、エルラドライトの増幅限界。おおよそ10万倍です。それ以上はどうやっても供給する魔力が足りません。また、最終増幅するエルラドライトも過負荷で壊れてしまいます」

「ふむ、2個直列、400倍が適当と言うことだな」

「御意」

「その2は?」

「はい。エゲレア王国とその友好国でも指折りのゴーレムの詳細情報、間違いなく確保致しました。分析中であります」

「ふん、これで我等の悲願にまた一歩近づいたというわけだな」

「御意。一歩どころか二歩三歩進めるかと」

「それは結構だな」

「お任せ下さい。それと1つ、面白い情報が」

「なんだ?」

「ジンとか言う魔法工作士(マギクラフトマン)、なかなかのものだという話です」

「ほう、それは興味深い。所属は?」

「ショウロ皇国の魔法工作士(マギクラフトマン)、ラインハルト・ランドルと一緒だとか」

「ラインハルトか。奴も欲しい人材ではあるな。よし、引き続き情報を集めろ」

「御意」


*   *   *


「…………」

 ビーナは1人、窓辺に座って外を眺めていた。外といってももう暗いし、植えられた木々でほとんど何も見えないのと同じなのだが。

「……ふう」

 そして溜め息を1つ。しばらくそうしていたビーナはおもむろに振り向くと、

「ねえ、リーザ」

 後ろにいた王宮隠密侍女隊ロイヤルシークレットメイド、リーザに声をかけた。

「はい、何か御用ですか」

「ちょっと話し相手というか、相談に乗ってくれないかしら」

 悩んだ揚げ句、ビーナは歳も近い彼女に相談することに決めたようだ。

「相談、ですか? わたくしでよろしければ」

「ありがとう。……あのね、庶民と伯爵様との結婚って、どう思う?」

「は?」

 ビーナは正直に、クズマ伯爵から求婚されたこと、受けるかどうか迷っていることを話した。

「そうですねえ、わたくしだったら喜んで受けますね」

「やっぱり?」

「ええ。伯爵夫人なんて玉の輿じゃないですか。望んだって手に入らない地位ですよ!」

 どうやらリーザはそういう性格のようだ。

「……魔法工作士(マギクラフトマン)と比べたら?」

「比べものになりませんよ。そりゃ魔法工作士(マギクラフトマン)だって悪いとは言いません、でも地位が全然違います。伯爵といったら貴族ですよ、貴族!」

「……そうね」

 どうやら聞く相手を間違えたようだ、と悟ったビーナは再び窓の外の闇へと目を転じたのである。


*   *   *


「お嬢様、今回もお怪我もなくご無事で何よりでした」

 乳母ミーネがエルザを着替えさせながらしみじみと語りかけている。

「ですから前に私が申し上げたのです、旅に出ると危ないことがたくさんある、と」

 だがエルザはそんなミーネの言葉に首を振って、

「ううん。危ないこともあったけど、もっともっと楽しいこともある」

「お嬢様……」

「ね、ミーネ、『けっこん』ってどういうもの?」

「はい?」

 ミーネはその問いの意味を図りかね、言葉に詰まる。

「ビーナ、クズマ伯爵に求婚されたって」

 が、続くエルザの言葉で理解したミーネは、

「そうですね、私個人の意見としましたら……いいものではありませんね」

「そう、なの?」

 意外な答えに驚いて振り向くエルザ。ミーネはエルザの寝間着を着せ終えると前へ回り、

「……はい。というより、男性は……信用出来ません。してはいけません」

「え?」

 ミーネの爆弾発言とも言えるその言葉に、さらに驚くエルザ。

「お嬢様ももうすぐ17歳、世間的には結婚適齢期ですが、まだまだ男性のことは知らないですよね。少しお話しして差し上げましょうか?」

「……うん」

 頷いたエルザに、

「男性という生き物は、女のことを子供を産む道具だと思っています。そうでなければ欲望のはけ口だと」

 いきなり飛び出してきた痛烈な言葉、エルザはただ黙って聞いている。

「私は……15歳の時、とある貴族様のお屋敷で侍女としてご奉公しておりました。実家はそれなりに裕福な商人でしたが、行儀見習いのために侍女として数年勤めるのがはやりだったのです」

 そこで一旦言葉を切ってから、

「……その貴族様のお屋敷に、お客様がありました。国外の貴族様で、軍人だということでした」

「お父さまみたいな人」

 エルザがそう呟く、彼女の父親は子爵であり、ショウロ皇国国外駐留軍司令官の1人でもあるのだ。

 ミーネはそれを聞くと僅かに顔をしかめたが、すぐに何事も無かったように先を続ける。

「……若くして国軍の大隊長を勤めるというその方は、私と、もう1人年配の侍女がお世話することになったのです。その方は3ヵ月ほど御逗留なさいました。その間にその方と私は男女の関係になったのです」

「男女の関係?」

 婉曲な表現が飲み込めなかったエルザはオウム返しにそう聞き返した。ミーネは微笑んで、

「結婚していないのに夫婦のような営みをすることです」

 それでわかったのかそれともわからなかったのか、とにかくエルザは先を続けて、と言った。

「その方はお国に奥方がいらっしゃるとのことでした。もうお子様も男の子が2人いることも。それを知っていながら、私はその方とそういう関係になってしまったのです」

 エルザは黙って聞いている。ミーネがこうして過去を語るのは初めてのことなのだ。

「結婚、しなかった、の?」

 貴族にとって、第2夫人を持ったり、妾を持つ事は珍しくはない。現にエルザもガラナ伯爵にそんな事を言われていたのだ。

「その方にとって私は妾にすら相応しくなかったのでしょう。一度もそういう事を言われた事はありませんでした」

 そう言って溜め息を1つついた後、言葉を続ける。

「やがて滞在期間が過ぎ、その方はお国に戻って行かれました。でもその時には、私の中に、新しい命が宿っていたのです」

「赤ちゃん……てこと?」

 僅かに頬を染めたエルザが尋ねる。

「はい。時が来て私はその子を産み落としました。可愛らしい女の子でした」

「女の子……」

「私は1人で育てるつもりでした。実家はそれなりにゆとりがありましたしね。でも、どうしてそれを知ったのか、その貴族様が子供を引き取りたいと言ってきたのです。なんでも、その貴族様の奥方は体が弱く、もう子供を産めそうもないのだとか。そして、貴族において女の子というのは、他の有力貴族と縁を結ぶための道具になりうるのです」

「……」

「私は拒否しました。でも、貴族様に庶民がかなうはずもなく、結局その子は取り上げられてしまったのです」

「……ひどい」

「ええ、ひどいですよね。でも今はこうして、お嬢様にお仕え出来ておりますから、そんなに不幸せではありませんよ」

「その子は、どうなった、の?」

 心配そうな顔つきだ。

「聞くところによると、差別もされずに、奥方様のお産みになったお子様達と一緒に元気に育てられたそうです」

「……よかった」

「はい、それだけが私の心の救いです」

「さびしくない?」

 そう尋ねられたミーネは優しげに微笑んで、

「今はお嬢様がいて下さいますから」

 そう言ってそっとその手を取る。エルザもその手を優しく握り返すのであった。

 今回も大増量でお届けします。

 まだビーナの心が決まりません。そしてとうとう仁も謎の組織に目を付けられてしまいました。

 ミーネの過去。男性不信になりそうな過去背負ってますねえ。


 お読みいただきありがとうございます。



 20130711 19時53分 誤字修正

(誤)重傷

(正)重症


 20130819 15時12分 誤字修正

(誤)外と行ってももう暗いし

(正)外といってももう暗いし


 20160510 修正

(旧)その方は3箇月ほど御逗留なさいました。

(新)その方は3ヵ月ほど御逗留なさいました。


 20180714 修正

(誤)……返って散らかしていた。

(正)……かえって散らかしていた。


 20220613 修正

(誤)一度もそう言う事を言われた事はありませんでした」

(正)一度もそういう事を言われた事はありませんでした」

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― 新着の感想 ―
[一言] ステアリードさん位しか自分の作品に愛着がないのかさすがに無理だと諦めているのか………(基本的一般の素材で作るだろうし見分けがつかないかもしれないけど)
[気になる点] 一度もそう言う事を言われた事はありませんでした 一度もそういう事を言われた事はありませんでした
[一言]  まぁ、玉の輿に乗りたい人なんていくらでもいますよねw最初は違っていても結婚してから愛を育めばいいんですしw
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