06-13 ゴーレム・パニック
「ほほう、面白い構造だなあ!」
骨格と筋肉が仮組みされた仁のゴーレムを見たラインハルトが感心したような声を上げる。
そして横たわる未完成のゴーレムをじっと見つめ、いろいろと考えているようである。
仁は特に気にせず、ゴーレムの心臓部、魔導装置の作製にかかった。
魔結晶を手に取り、『基礎制御魔導式』の書き込みを開始する。
「『書き込み』、魔法制御の流れ……魔導式構築」
その様子をラインハルトと共にビーナも食い入るように見つめている。
「よし、制御核完成だ。次は魔力炉と魔力貯蔵庫か」
仁が見たこの世界のゴーレムは、例外なく魔力を魔力貯蔵庫から引き出して使っていた。
一方、仁が作るゴーレムは全て魔素変換器を備え、空間に充満する自由魔力素を吸収し、魔力素に変換して使っている。それを魔力炉でいろいろなエネルギーに変えるわけである。
今回は依頼による作製なので、仁がいなくてもメンテナンス出来るよう、魔力貯蔵庫を使う事にした。
とはいえ、仁は通常の魔力貯蔵庫にするつもりなど無い。
「礼子、赤と緑の魔結晶を探してきてくれ」
「はい、お父さま」
その間に仁は外装の準備。骨格と筋肉を持つので、外装は鎧の意味合いを持つ。
可動部分である関節はどうしても弱くなるので、薄い青銅の金属板を重ね、隙間が出来ないように構成する。
普段は一瞬で行う作業だが、一品物なのと、伯爵からビーナにも勉強させてやって欲しいと言われたこともあってわざわざゆっくり作っていた。
「お父さま、これでよろしいでしょうか?」
礼子が魔結晶を持って戻ってきた。赤い火属性の魔結晶と、緑色の風属性の魔結晶だ。
「ふむ、それで何を?」
思わず声に出してしまうラインハルトだが、仁はまあ見ていてくれ、と返し、
「融合」
「なっ!?」
火と風の魔結晶を融合するという離れ業にラインハルトは仰天した。
通常、異なる属性の魔結晶は融合不可能と言われているのだ。
「よし、出来たな。……ラインハルト、見てみるか?」
今融合したばかりの魔結晶を手渡されたラインハルトはまず目でそれを確認し、次いで魔力の流れを確認した。すると。
「ううむ、なんだ、これは!?」
その魔結晶の内部では魔力が異常なほど活性化していたのである。
「まあ単純に言えば、火が風に煽られて燃えさかっているといったところかな」
あっさりと仁はそう解説するが、おいそれと誰にでも出来る事ではない。
「ふーむ、融合の際に、一旦魔力を不活性化してから行っているのかな?」
それでも優秀な魔法工作士であるラインハルトは、仁の手順を半分以上理解していた。
「正解。それに加えて、魔力の流れに沿って融合を進める必要があるんだ」
「なるほど、参考になった。感謝する!」
ラインハルトは大喜びだが、魔法工学師である仁にとっては常識。いや、先代の時代には当たり前の技法だった。
それもこれも魔導大戦のせい。人口の減少により文化の担い手が激減したことで世界が退行してしまったのだ。
それはさておき、活性化した魔結晶は、扱いが難しい反面、魔力の運用効率がいいのである。もっとも、礼子に使われている全属性の魔結晶には及ばないという但し書きが付くが。
「よし、こいつと魔力炉を制御核と接続して、と」
どんどんと心臓部が出来ていく。
「よーし、僕もさっそく黒騎士を改良だ!」
仁の手順を見ていたラインハルトは、早速自分でもやってみる気になったようだ。
「あー、ビーナ、悪いが手伝ってくれるかい?」
「は、はい!」
ビーナを助手に、ラインハルトも赤と緑の魔結晶を融合してみるようだ。
一方、エルザはほとんどしゃべらずに仁の作業を眺めている。
「さーて、と。あとは頭部か。礼子、赤い、そうだな、魔石でいいから2個用意してくれ」
「はい」
そして仁は頭部の製作に入る。
ちらとビーナの方を見た仁は、一気に変形。それを見たエルザは目を丸くした。
「よし、これを取り付けて、融合、と。礼子、魔石をかしてくれ」
目の部分に加工した魔石をはめ込む。口と喉にも魔導式を書き込み、発声器官を構成した。
耳の部分にももちろん音声を聞き取るための魔導式が刻まれる。
「あーっと、こいつもシールドしておくか」
ミスリル銀で魔導装置を取り囲むように覆っていく。いくつかの突起はそれぞれ四肢と頭部への魔力指令を発生させる端末である。
それで内部は完成した。残るは外装の調整と仕上げだ。
「よし、礼子、細かいサイズ調整を頼む」
「はい、お父さま」
礼子もビーナの方をちらりと見てから作業に取りかかる。頭部、頸部、胸部、腹部、腰部。そして両腕と両脚。
「どうでしょう、お父さま」
「うん、いい出来だ。だけど……」
胸部の出来を見て、物足りなく思った仁は、そこだけ再度変形をかける。
それを見ていたエルザの目が一瞬鋭くなったのにも気付かず、
「よし、これくらいだな」
最後の仕上げとして表面処理を施していく仁。
今回は青銅の表面は銅色に抑える。つまり赤っぽい色だ。
「硬化。表面処理。これでようやく完成だ」
材料に制約のある状態で、可能な限り高性能なゴーレムを作るという縛りプレイを終え、仁は満足であった。
「しかし問題が一つだけあるな……」
仁がそう呟くと、
「ジン君、問題って?」
今まで黙っていたエルザが問いかけてきた。
「ああ、エルザ……いやな、このゴーレムの基本知識をどうしようかと思ってさ」
「どういうこと?」
「このゴーレムは基本、メイドゴーレムなんだ。だから出来れば誰か侍女さんの知識を転写させてもらいたいと思ってさ」
「それなら侍女頭に命じようか?」
声に振り向くと、進捗状況を見にやってきたクズマ伯爵がそこに立っていた。
「ほほう、これはこれは。なかなか美しい。ビーナ、ちょっと来てみろ」
「はい?」
伯爵の呼ぶ声にラインハルトの手伝いをしていたビーナがやってくる。そしてそこに横たわるゴーレムを見て、
「ななななな、何よ、これええええ!!」
真っ赤になって大声を上げた。
それもその筈、そのゴーレムはビーナそっくりだったからだ。ボディラインもかなり正確に再現されているそれは、かなりセクシーではある。
「ジンのへんたいいいいいいい!」
恥ずかしさから仁に殴りかかったビーナは、礼子にやんわりと阻止された。
「放してよおおお!」
「駄目です。放したらお父さまに殴りかかるでしょう」
「いやああああああ!」
真っ赤になって喚き散らすビーナを見かねて、クズマ伯爵が説明する。
「すまんビーナ、実は私がビーナをモデルにゴーレムを作ってくれと頼んだのだ」
「は、は、は、伯爵が!?」
もうビーナはパニック寸前。その時、
「てい」
「あうっ」
エルザのチョップがビーナの脳天を直撃した。
* * *
「いっつうううぅぅぅ……」
頭を抑えてうずくまるビーナ。どうやらパニックは起こさずに済んだようだ。
仁もエルザの機転に心の中で感謝した。
「少し落ちつくといい。ジン君にとって女の子の身体を再現するのなんて簡単。ポトロックでもマルシアさんそっくりのゴーレム作り上げてた」
「おい」
「それに崑崙島で私たちのすりーさいず? を簡単に測っていたし」
感謝取り消し。
「あー、まあその、なんだ、別に悪意があった訳じゃないから勘弁してくれ」
ここはもう謝るしかない仁。伯爵も更に口添えして、
「うむ。ビーナ、これだけ美しいゴーレムのモデルになったのだ、胸を張っていいぞ」
だが、伯爵のその言葉はビーナへの追い打ちだった。
「でも! なんで! 胸だけ! ゴーレムの方が! 大きいのよおおおおお!!」
それはビーナの心からの叫びだった。
修正作業をしてしたら何故か05-22と置き換わったりしてしまい、全部入力し直すはめに。なので修正履歴とか無くなってしまいました。
何と言うか、ビーナは豆腐メンタルなんですかね……
お読みいただきありがとうございます。
20181011 修正
(旧)それをみたエルザの目が大きくなった。
(新)それを見たエルザは目を丸くした。




