06-05 お花摘み
今回、少しだけ尾籠な話があります。
「ここが、ジンの家……」
「ジン君の住んでる場所……」
「コンロントー、って言ったな?」
三者三様の反応である。
「ここはあくまでも転移門のある地下室さ。こちらへどうぞ」
そう言って仁は扉を開け、階段を上へ。出たのは玄関ホールだ。
「ほほう、壁画が刻まれているな。これは……ゴーレムか」
ラインハルトがそう言った時、
「おかえりなさいませ、お父さま、お姉様」
ソレイユとルーナが出迎えに現れた。
「いらっしゃいませ、お客様方」
「おどろいたな、この2体もジンの作かい?」
「ああ、金色をしているのがソレイユ、銀色の方がルーナ」
「ソレイユです」
「ルーナです」
2人とも流れるような動作で挨拶した。
その少女体形を見てエルザは内心穏やかでない。いつぞやの晩、礼子を抱きしめていた姿を思い出してしまったから。
仁は否定していたが、やっぱりそういう趣味があるのではないか? と思ってしまう。
一方でビーナは、
「うわあ、すごい。ソレイユとルーナ? 初めて見たわ、こんな精巧なゴーレム」
素直に驚き、感心していた。
「お父さま、今日はお天気もよろしいので、外にお茶の用意をしてあります」
ソレイユがそう言い、ルーナが玄関の扉を開けた。
仁はそうか、と肯いて、皆を外へと誘った。
「うわっ」
また驚きの声が上がる。そこには5色ゴーレム、ルビー、アクア、トパズ、ペリド、アメズの各100番がエプロンを着け、整列していたから。
「これは5色ゴーレムメイド。右からルビー、アクア、トパズ、ペリド、アメズさ。目の色で名付けたんだ」
そう言いながら、今度、服を着せるなら服の色も変えようかなどと頭の片隅で思う仁。
「す、すてきなメイドさんね」
ビーナがさすがに若干引き攣ったような声を出した。エルザも少し引いているように見える。
ゴーレムとはいえ、女性型ばかりだったので仁の性癖が本気で心配になってきたのかもしれない。
「どうぞこちらへ」
ラインハルトにはアメズ100が、エルザにはアクア100が、そしてビーナにはルビー100が付き、丸いテーブルを囲んで一行は席に着いた。
「粗茶ですが」
そう言いながらペリド100がお茶の木のお茶を全員に給仕し、トパズ100がペルシカの実を配った。
「ほう? このお茶はクライン王国の方で良く飲まれているものに似ているなあ」
さすがラインハルト、あちこちの国を巡っているだけのことはある。
「あー、ジンのペルシカ、久しぶりに食べるわね」
ビーナはビーナで、久しぶりのペルシカ、しかも冷蔵庫で冷やしてあるものを出されてご機嫌である。
そしてエルザはというと、
「ジン君、ここにずっと1人で暮らしてたの?」
お茶を味わいながらそう聞いてきた。
「うん、師匠がいなくなってからはずっと」
仁が蓬莱島に来た時にはもう先代はいなかったわけだから嘘というわけではない。
「さびしくない?」
そう聞いてきたエルザの瞳は心配そうだったが、
「礼子達がいてくれるから寂しくはないかな」
そんな仁の答えを聞き、本気で心配になるエルザ。が、
「でもやっぱり人恋しくてさ、ブルーランドに行ってみたり、ポトロックへ行ってみたりしたんだ」
その言葉を聞き、まだ救いはある、と安心したりもする。
「ああ、こんなところで暮らしていたら常識に疎くなるわよね」
これはビーナ。初めて会った頃の事を思い出していたらしい。
「ジンはゴーレムとかを作る事が多いのかい?」
ラインハルトはあくまでも魔法工学が興味の中心だ。
そんな雰囲気の中、お茶を飲み、ペルシカを食べながら、話が弾む。
ラインハルトは魔法工学の話、エルザは仁の暮らしについて。
ビーナは島に興味があるらしい。
そんなこんなでお茶も飲み終わったので、そろそろ仁が、島や館を案内しようと立ち上がろうとしたらエルザが、
「ジン君、御不浄は、どこ?」
と尋ねてきた。瞬時にその意味を悟った仁は、
「ご、ごめん! ソレイユ、案内頼む。使い方も説明してあげてくれ」
と、ソレイユに指示。まあ仁が説明するわけにはいかないので当然の処置だ。
「あ、あたしも」
とビーナも立ち上がったので、ルーナに付き添いを頼んだ。
「……あー……まずった」
2人が去ってから頭を抱える仁。
旅の途中では、だいたい2時間おきに馬車を停め、小休止していた。その時に用を足していたと思われる。
が、その配慮が足りなく、女の子の方からそのことを言い出させてしまった。
「ジン、エルザの事なら気にするな。いままでだってあんなだったんだから」
ラインハルトがフォローしてくれるが、失敗した感が半端無い仁は少々落ち込んでいた。
接待する側としてはまずい対応だった。
久々に仁は、地球にいた時、新人研修で女性客接待の時の心得として、最初にさりげなくトイレの前を通るようにしろと言われたことなどを思い出していた。
そんな時。
「ええええええええ!!」
と、驚いたような声が聞こえてきた。
「あー、あの声はビーナか。やっぱり驚くよなー」
と、今度は逆に当然のような顔をしている仁。一方そんな仁にラインハルトは、
「ジン、今の声ってビーナ嬢だよな? いったいどうしたというんだろう? 君が慌てていないってことは想定内なのか?」
その問いに仁が答える前にエルザが戻ってきて、
「……ジン、くん。あれ、すごい。うちにもほしい」
そう言ってきた。それを聞いたラインハルトは『?』という顔をする。そこにビーナも帰ってきて、
「じじじジン、ななな何よ、あのトイレ! トイレすごすぎ! トイレってレベルじゃないわよ!」
とまくし立てたので、
「落ち着け。女の子がトイレトイレって連呼するな」
と仁が指摘するとビーナは真っ赤になって口を閉ざした。
ラインハルトはまだ『?』という顔をしたままだったので、それに気付いたエルザが、
「ライ兄も行ってみればわかる。あれはすごい」
「ん、そうか?」
というわけで、ソレイユの案内でラインハルトもトイレへと行ってみることにしたのである。
そして予想通り、
「ジン! あれは画期的だ! 是非我が家、いや、我が国に導入したい! 協力してくれ!」
と駆け戻ってきた。
崑崙島、蓬莱島に仁が設置したトイレはいわゆる洋式トイレ。便器は白い石英で作り、表面には『浄化』の魔導式を刻んだ便座が乗せてある。
表面は表面処理で、こびりつきが無いように加工され、水魔法を使った水洗式。
紙は無いので(作らなかった)、いわゆる温水洗浄便座。
初めて使えばさっきのような声が出ても不思議ではない。
乾燥の温風も魔法で済ませており、出した物の始末は分解 で塵に分解し、室内も消臭で臭いを消している。
この世界の標準は庶民は穴、貴族はいわゆる『おまる』であるから、3人が3人ともショックを受けたのも無理はない。
えー、避けて通れないトイレ話でした。仁もトイレだけは妥協出来なかったようです(え? トイレだけじゃない?)
タイトルの「お花摘み」は、登山やハイキングなどで女性が用を足しに行く時の隠語です。男なら「キジ打ち」。どちらもしゃがんで行うところからですね。
新人研修の内容はフィクションです。そんなこと教える会社があるかどうか知りません。
中世とかのトイレの歴史を見るととんでもない事が書かれています。
お読みいただきありがとうございます。
20140424 11時25分 誤記修正
(誤)いったいどうしたんというんだろう?
(正)いったいどうしたというんだろう?
20190904 修正
(誤)「ああ、金色しているのがソレイユ、銀色の方がルーナ」
(正)「ああ、金色をしているのがソレイユ、銀色の方がルーナ」
(誤)そんな仁の答を聞き、本気で心配になるエルザ。が、
(正)そんな仁の答えを聞き、本気で心配になるエルザ。が、




