05-21 秘密兵器
黒騎士と謎のゴーレム2体との戦いは続いていた。
まず、黒騎士は謎のゴーレムと1対1で対峙するように動き、成功した。
1対1なら、黒騎士の方が性能は上である。
今、黒騎士は謎のゴーレムを思い切り蹴り飛ばし、岩壁に叩き付けたところであった。
「よーし、いいぞ! そのまま、下半身を攻めろ」
黒騎士は主人であるラインハルトの命令通り、下腿部に蹴りを連続で放った。
その動きは滑らかで、仁も感心するほど。
「うーん、いい動きだ。関節の数が人間に近い証拠だ。それに関節部の可動域が広い」
その黒騎士の蹴りで両脚を歪ませられた謎のゴーレムは立っていることが出来なくなりその場にくずおれた。
迫り来るもう1体のゴーレムに対抗するため、黒騎士はくずおれたゴーレムに止めは刺さず、後ろ蹴りを繰り出した。
「やっぱり身体が軟らかいな」
仁はまたもや感心する。この世界で見たどのゴーレムより、関節が人間に近い。つまり、人間が動作をプログラムしやすい。故に動作が自然であり、流れるようだ。
「でもお父さまの方が上です」
黒騎士を褒めちぎる仁に向かって礼子がぼそりと言った。礼子にしてみれば、最高の技術者である自分の主人が他人を褒めるのは嬉しくないのだ。
後ろ蹴りで蹴り飛ばされたゴーレムは腹部が大きく凹む。
「よし、そのまま畳み掛けろ!」
ラインハルトの指示に、黒騎士はその全身を使った体当たりを放つ。鈍い音がした。
腹部を凹ませたゴーレムは、その体当たりをまともに受け、岩壁に沿って10メートル以上吹き飛ぶ。右腕と左脚がもげ、最早立ち上がることは出来ない。
「いいぞ、こっちのゴーレムに止めを刺せ!」
黒騎士は、何とか立ち上がりかけていたゴーレムの首を掴むと、引っこ抜くように持ち上げ、そのまま岩壁に叩き付けた。
ものすごい金属音が上がる。ゴーレムは岩に5センチもめり込み、その四肢は千切れ飛んだ。最早戦闘不能である。
「よし、そいつらの制御核を取り出すから、手伝え」
そう命令したラインハルトはまず手前で壁にめり込んでいるゴーレムの胸部を工学魔法で探ると、1つの魔結晶を取り出した。
そしてもう1体の方へと歩いて行く。黒騎士も一緒である。
そのときであった。
「お父さま、何か来ます」
礼子の声。それを聞いた仁がラインハルトに警告を出す間もなく、それは現れた。
「やあ、久しぶりだね、ラインハルト」
「君は……」
身長180センチほど、黒騎士よりは小柄なゴーレムを引き連れた男が現れたのだ。
「まあ含むところはあるが、とりあえず君に用はない。僕が用のあるのは……」
その男、バレンティノは仁を憎しみの籠もった目で睨み付け、
「貴様だよ、平民」
* * *
バレンティノがここに現れた。それの意味する所は明白である。
自分の罪を暴く原動力になった男。すなわち、仁である。
「黒騎士」
ラインハルトは黒騎士にバレンティノを捕らえる命令を出そうとした。が、
「やめたまえ。君のゴーレムは確かに優秀だ。だが、この『アルバス』の前には無力な人形にすぎない」
それを聞いて止めるようなラインハルトではない。
「ジンは僕の友人だ。守るのは当然」
そう言って黒騎士に命令を出した。
「あのゴーレムからジンを守れ!」
それを聞いたバレンティノは薄ら笑いを浮かべながら、
「まあいいか、アルバスの性能も試したかったことではあるし」
仁は、礼子と共にエルザ以下、同行の人々を守るようにして立っていた。
「お父さま、あのゴーレム、解析不能の何かを持っています」
「何?」
礼子がそんなことを報告した。
そのゴーレムは灰白色、少なくとも表面にミスリルのメッキがかけてあるらしい。
身長は180センチほど、黒騎士より小柄である。
そのデザインは間違いなく一連のゴーレム騒ぎを引き起こした物と同じ。
仁が見たところ、構造的にも、強度的にも、黒騎士より遙かに劣っていた。
「お父さま、魔力パターンを解析してみて下さい」
「ん? わかった。…………何だこれ!?」
「ど、どうしたの?」
仁がいきなり大声を上げたので、後ろにいたエルザも驚き、気になって声をかけてきた。
だが仁は、
「魔力の核……流れ……にもかかわらず出力が大きすぎる……」
ぶつぶつ言いながら、相手の解析に没頭していた。
「黒騎士、行け!」
「『アルバス』、行け」
黒騎士と『アルバス』がぶつかった。一瞬、黒騎士がアルバスを圧倒するかに見えたが、
「『アルバス』、重ね書きだ」
そのバレンティノの言葉と同時に『アルバス』が鈍い光を放った。
そしてその光が消えた時、黒騎士は動きを止めていたのである。
* * *
「お父さま、あの光は危険です」
「うん、わかっている」
仁が感知し、解析したところによるとそれは『制御核』の魔導式を上書きするもの。
そのため、ラインハルトの黒騎士は正常動作出来なくなってしまったのだ。
「礼子、お前は大丈夫か?」
礼子がそんな目にあったら一大事である。
「……わかりません。情報が不足しすぎています」
「そうか。とりあえず礼子、俺の後ろに隠れろ」
「え、でも」
「いいから言うことを聞け」
そして仁は今どうするべきか、必死に考えるのだった。
* * *
「どうした、黒騎士!?」
ラインハルトが呼びかけるが、黒騎士は停止したまま動かない。いや、よく見ると不規則に身体を震わせている。
「黒騎士!」
ラインハルトの呼びかけも虚しく、黒騎士は『アルバス』に引き倒され、そこに転がってしまった。
起き上がる気配もなく、ただ地面に横たわり、時折びくびくと痙攣するように体を震わせるだけ。
「黒騎士……」
『アルバス』が一歩一歩近寄ってくる。
「ラインハルト、どきたまえ。僕はそこの平民の首をねじ切れればそれでいいのだ。君達は見逃してやろう」
「ふざけるな! 友人を売り渡すような事が出来るか!」
「……風の弾丸」
ラインハルトが叫ぶのと同時に、後ろにいたエルザが風の弾丸を放った。
が、それは『アルバス』に傷一つ付けることなく弾かれてしまった。
「エルザ嬢、無駄なことはやめたまえ。普通の魔法でこの『アルバス』が傷付けられるものか」
だがエルザは耳を貸さず、
「風の一撃」
今度は風の一撃を放つ。が、結果は同じ。
「無駄だとわかったらどきたまえ。……さて平民、覚悟はいいか? この僕に恥をかかせ、なにもかも滅茶苦茶にしてくれた礼をしよう」
「ジン!」
「ジン君!」
だが当の仁は俯き、何やら口の中で呟くだけ。
礼子はといえば仁の後ろに隠れるように立っていた。
珍しくピンチ?
次回お楽しみに。
お読みいただきありがとうございます。
20130604 19時17分 語句修正
(旧)上書き
(新)重ね書き
今回の「オーバーライト」のイメージはオーバーライトして元々のプログラムを正常動作させなくするものでしたので重ね書きの方がイメージに近いので修正しました。
20190903 修正
(旧)その時の、仁は俯き、何やら口の中で呟くだけ。
(新)だが当の仁は俯き、何やら口の中で呟くだけ。




