00-01 プロローグ1 二つの世界でのエピローグ
クリエイト系主人公が好きで書き始めた物語です。基本ほのぼのでいきたいのですが魔法人形(ゴーレム、ホムンクルス、オートマタなど)系の描写には残酷(というかばらばらに分解したりとか)描写も出てくるかもしれませんのでご注意下さい。
20140305 19時17分 誤記修正
(誤)園長先生
(正)院長先生
20170210 修正
(旧)「生命保険、ちゃんと孤児院に下りるかなあ……」
(新)(生命保険、ちゃんと孤児院に下りるかなあ……)
内心の呟きなので( )に。
二堂仁は孤児であった。幼い頃、二堂孤児院の前に捨てられており、そのまま孤児院で育てられた。
趣味は工作全般。特技も工作全般である。孤児院という、欲しいものが満足に手に入らない環境のため、常に自ら作り出すという道を選んだ。
「仁にぃ、ひこうきつくってー」
「はいよ」
年下の男の子達のためにはコマ、竹とんぼを初め、竹馬、ブーメラン、凧、そして模型飛行機。
公立中学を卒業後、アルバイトしながら定時制高校に通う。
「おにいちゃーん、おにんぎょうほしいー」
「わかったわかった、ちょっと待ってな」
そして女の子達には折り紙、ぬいぐるみ人形。おかげで洋裁にも詳しくなり、普通に服くらいは縫えるようになった。
「仁はほんとに器用だねえ。おかげで助かるよ」
育ての親の院長先生も事ある毎に仁を褒めたものだ。
「仁、悪いけど雨漏りを直してくれるかい?」
「任せておいてよ」
大工仕事も一通りこなし、家の修理から椅子、テーブル造りまで。
卒業後、とある会社に就職。その会社の独身寮に入り、孤児院を出た。
彼に懐いた子供たちはみんな泣きながら別れを惜しんだが、
「みんな、もうこれで会えない訳じゃないから。休みの日にはおみやげ持って遊びに来るからさ、な」
その言葉通り、彼は日曜日になると、給料で買った土産を持って孤児院を訪れていた。
* * *
地球ではない、別の空間、別の時間、別の世界。
そこでは1人の魔女……魔法使いが生を終えようとしていた。
「……いいかい、……この研究所と……あたしの全て……を託せる誰か、……その誰かを……なんとかして……見つけて……おくれ。……頼んだ……よ」
「ハイ・オカアサマ」
彼女は魔法工学師だった。彼女は彼女の全てを注ぎ込んで作り上げた自動人形に後を託し、静かに息を引き取った。
* * *
仁が就職した会社はいわゆるブラック企業ではないが、かなり厳しい所であった。敢えて職種は書かないが、休日は日曜のみ、サービス残業は無いものの、寮にいる者は突然呼び出されることが多かった。
特に、高卒である仁はいいようにこき使われ、疲労を溜め込むことになっていったのである。
「仁にぃ、げんきないねー」
孤児院の子供たちにも心配される始末である。
「仕事、忙しいのかい? 無理しないで、日曜日くらいは休んだ方がいいよ」
院長先生にもそう言われたが、彼はここで子供たちと遊ぶことが自分の休息だ、と取り合わなかった。
* * *
自動人形は主人の『後継者』を探し続けていた。手がかりは『波長』と『波形』。
人間が持つ個性を、『波長』『波形』で識別できる自動人形は、主人と出来るだけ似通った『波長』と『波形』を持った人間を探し続けていた。
「コノセカイデハ・ダメカモ・シレマセン」
同一もしくは同一に近い者を見つけられる確率は非常に小さく、100年かけても自動人形には『後継者』を見つけることが出来なかったのである。
* * *
「二堂、悪いが、これもやっておいてくれ」
「はい」
仁にはいろいろな仕事の後始末などが回されていた。資料の整理、契約書の確認などはいい方で、クレームの処理や不良品の修理、回収。今はトラブルの起きた社内LANの修復。
それもこれも仁が実に様々な分野の知識を持っていたからである。
* * *
「イクウカンニ・アクセス・スル・タメニハ・マナガ・タリマセン」
自動人形は与えられた膨大な知識で、異空間にアクセスするため魔力が足りないことを知り、それを補うための手段を開発していった。
* * *
「あー、ちょっと寝不足かな……」
仁は隈の出来た顔で歩いていた。無理もない。今日で3日寝ていないのだ。
今日の仕事はある製鉄所のシステムチェックである。
* * *
「ダイ2367セカイ・フェイラー。ツヅイテ・ダイ2368セカイ・ノ・スキャンニ・トリカカル」
自動人形は、無機物だけに出来る根気強さで、『後継者』を探し続けていた。
* * *
「えーっと、温度管理、エラー。……こりゃ、どっかで線が切れてるっぽいな」
仁は電気炉へと続いているセンサー線を辿っていった。
* * *
「ダイ3601セカイ・・・・・・ミツケタ!」
1000年にも及ぶ捜索の果て、ついに自動人形は『後継者』を見つけた。
「ショウカン・シキ・キドウカイシ」
* * *
「熱っちいな、いくら炉が止めてあっても下が溶けた鉄じゃあな」
さすがにチェック時には電気炉も作動してはいないが、膨大な溶けた鉄が容易に冷めるわけもなく。
「あー、ここだここだ。スクラップ突っ込んだ時にぶつかったな」
電気炉はアーク放電で鉄を溶かし、その原料は屑鉄が多い。その一部がセンサー線を傷付けたようだ。
* * *
「ショウカンマホウジン・コウチク。フカトクセイ・ゲンゴチシキノ・フヨ」
言葉というコミュニケーション手段はどこの世界でも同じようだ。
「キドウ!」
自動人形の前に、複雑な魔法言語で構成された魔法陣が浮かび上がった。
* * *
「これでよし……っと」
仁は部品交換を終えた。その時、手が滑って工具を落としかける。
「おっと、いけね」
反射的に伸ばしたその先は電気炉の取鍋と呼ばれる場所。つまりは溶けた鉄が溜まっている場所だった。
「うわ」
そんな短い悲鳴を残し、仁の体は取鍋に向かって落ちていったのである。
仁のこの世界最後の思考は、
(生命保険、ちゃんと孤児院に下りるかなあ……)
であった。
別作品のアイデアに詰まったのでこっちを書いたという経緯もあります。そっちとこっちを交互に更新するかも知れません。
エターにはしないつもりですのでどうぞよろしくお願いします。




