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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
05 旅路その1 エリアス王国篇
106/4299

05-15 街巡り

 翌日、朝食を済ませると、今度こそ仁達はすぐに街へと繰り出した。


 首都ボルジアの街構成は3層構造になっている。

 中心はもちろん王城。エリアス王、ブリッツェン・スカラ・エリアス12世の居城があり、閣僚が住む。政務はここで行われている。

 その王城を取り巻く1層目は、堅牢な城壁の外側に広がる貴族街。首都における各貴族の別邸があったり、高級な商店が軒を連ねており、これもまた外側を城壁で囲まれている。

 2層目は貴族街城壁の外にある庶民街。裕福な商人、腕のいい職人、大衆向けの商店などがある。

 3層目が庶民街の外側に広がっている農場。農業を営む者の居住地や、庶民街に住めなかった者達の居住地がある。


 今、仁、礼子、エルザ、そしてラインハルトは王城の外、貴族街を2頭立ての屋根無し軽馬車で進んでいた。見晴らしはいいが少々埃っぽいのが難点である。

「どうだい、ジン?」

 埃っぽいのはさておき、見る物全てが珍しいというように、さっきから仁はきょろきょろしっぱなしである。どう見てもお上りさんだ。

 まあ、この世界に召喚されて初めての貴族街、無理もない。

「あ、ああ、なかなか見所があるな」

「そうだろう? ここの建物は、魔導大戦前からある物が多い。大戦で人口は減ったが、戦火に巻き込まれなかった分、この国には古い建物が多く残っているのさ」

 地球で言うと、ゴシック様式のようなものであろうか。石造りで、尖った塔が多数建っているのが特徴的だ。装飾過多に見えなくもない。

 ただ、全体に古びているので、その一見多すぎる装飾もその主張を弱め、全体的にバランスが取れているとも言える。

 仁がそう感想を述べるとラインハルトは感心して、

「うん、ジンはいいところを突くな。僕も同感だ。大戦後の建築は実用本位になって実に味気ないと言われている。それに比べると様式美とも言えるこの建築は……」

 そこまでまくし立てたラインハルトは、エルザの睨むような視線に気が付いた。昨日の今日、ラインハルトは口を噤む。

「まずは仕立屋へ行くとするか」

 ラインハルトはそう言って、御者に命じる。御者は巧みに馬車を操り、大通りから角を一つ曲がった仕立屋の前に着けた。

「さあジン、下りてくれ。レーコ嬢も」

「え? 俺は仕立屋に用はないんだが」

 だがラインハルトはまあそう言わず、といって仁をその仕立屋に連れ込んだ。


「これはラインハルト様、ようこそおいで下さいました」

 すぐに主人が出て来て挨拶した。

「ああ、1日遅れたが来たよ。出来てるか?」

「はい、出来ております。お召しになられるのはこちらの方ですか?」

 主人は、ラインハルトの隣に立つ仁を見てそう言った。ラインハルトはそうだ、と頷く。

「それでは、こちらへいらして下さい」

 仁を奥へと連れて行こうとする主人。

「お、おい、ラインハルト」

「まあいいから、付いていってみろよ」

 そう言われて、仁はわけがわからないまま奥へ。


*   *   *


「おい……これ」

 しばらくして出て来た仁は、見事な上着を着ていた。

 元々、仁の服装は、黒いズボンに白いシャツ、ベージュ色のベストという、平均的な庶民の物だった。

 まあ素材はいずれも地底蜘蛛(グランドスパイダー)の糸で織られている時点で家一軒買えるくらいの価値があるので、どこが平均的かと突っ込まれそうではあるが。

 それは置いておいて、今仁は、その平均的な庶民の服装の上に豪華な上着を着ていたのである。

「お父さま、良くお似合いです」

 礼子が褒めたそれは、色はわずかに紫がかった濃いグレーで丈は膝の上くらいまであり、大きな襟がついている。飾りボタンは銀色。刺繍で『J』の飾り文字が胸部分に施されていた。


「僕からの贈り物さ。標準的な魔法工作士(マギクラフトマン)が着ている上着だ。それを着ていれば、一応他の貴族の前に出ても失礼にはならない」

 これからの旅、道中で役に立つだろう、と言う。

「もうすぐ春とは言え、北上するから寒くなるしね」

 そう言ってラインハルトは締めくくった。そこまでいわれては、仁も素直に受け取るしかない。

「わかった。ありがとう、ラインハルト。でもよくサイズがわかったな」

 そう口にしてから仁は、言わずもがなだと思った。ラインハルトも一流の魔法工作士(マギクラフトマン)である。外見から服のサイズの見当を付ける位できるだろう。

「と、いうわけで、さあ、いよいよ本格的に街を見て回ろう!」

 ラインハルトの先導で、馬車には乗らず、2つ隣の宝石商へ入る一行。


 宝石商では、一般的ないわゆる宝石の他に、魔結晶(マギクリスタル)を使った宝飾品も扱っているので、エルザも仁も楽しめるだろうとの配慮だった。

「へえ」

 現代地球と違ってショーケースは無かったが、豪華に飾り付けられた棚には原石、裸石ルース、そして加工品が並べられていた。

 デザインが苦手な仁は、気に入ったデザインを記憶に留めると共に、こっそり礼子にデザインを憶えていてくれ、と頼んでおくのも忘れない。

「ああ、この石はいい色だなあ、エルザの目の色そっくりじゃないか」

 そんな中。並んでいる裸石ルースの中にあった水色の石に目を留めた仁。少し離れた所で別の棚を見ていたエルザが振り向く。

 親指大のその石は薄い水色で、角度によって深い青色を見せる。楕円形のいわゆるカボッションカットに成形されており、ペンダントヘッドにでも使えそうだ。

「どれどれ、ほう、これはいいな」

 仁の肩越しにのぞき込んでそう呟いたラインハルトは、店主を呼ぶと、その石を買う旨を告げた。

「これはこれはお客様、お目が高い。この水石アクアマリンは、かのレナード王国から輸入した物ですよ」

 そう言いながら店主は魔導式(マギフォーミュラ)の書かれた手袋をはめて、その石をつまみ上げた。

 なるほど、と仁は胸中で納得する。ショーケースに入っていなくとも、結界で保護してあるので一般人は手を出せないことを知ったのだ。

 結界に対応する魔導式(マギフォーミュラ)を書き込んだ手袋かそれに類する物がないと、棚の上の石には触れられないわけである。

 まあ、棚に施してある結界を圧倒できるような魔力があれば別。つまり、仁や礼子なら可能と言うことだ。そんなことはしないが。

 代金は12万トール。即金で払ったラインハルトは、

「もうすぐエルザの誕生日だからな」

 そう言って包装されたそれを大事そうに内ポケットにしまった。


 次に訪れたのは魔導具店。

 エルザが渋い顔をしないかと心配した仁だったが、さっき自分の誕生日が近い、といいながらラインハルトが買った水石アクアマリンの効果か、何も言わなかった。

「ふんふん、なかなか凝った作りをしているな」

 仁は明かりの魔導具を眺めていた。そしてふと、ブルーランドで出会った魔法工作士(マギクラフトマン)の少女、ビーナのことを思い出していた。

「なんとなく魔導式(マギフォーミュラ)の使い方に類似性があるな」

 そう思いながら製作者を見ると『グラディア・ハンプトン』と書かれていた。

 確か、ビーナが師事した魔法工作士(マギクラフトマン)だったっけ、と思い、そばにいたラインハルトに、

「この魔法工作士(マギクラフトマン)知ってるか?」

 と聞いてみたところ、

「『グラディア・ハンプトン』? ああ、そこそこの物は作るが、今一つ突き抜けた所のない魔法工作士(マギクラフトマン)だな」

 と、やや辛口の評価が返ってきた。

「それより、これを見てくれ。こいつをどう思う?」

 ラインハルトが示したそれに仁は見覚えがあった。冷蔵庫である。

「…………」

 どう答えるべきか仁が長考していると、ラインハルトが先に自分の意見を口にする。

「なかなかのアイデアだと思うよ。魔力源を魔結晶(マギクリスタル)ではなく魔石(マギストーン)で済ませているところなんか、大したものだと思う」

「まあ、な」

「なんだ? ジンらしくない煮え切らない返事だな? 見ろよ、多分この部分に氷を作って、中のものを冷やすんだろうな。で、1度氷を作ってしまえば、その氷が溶けてなくなるまでは動作しなくて済むんだ。なかなか考えているじゃないか。一つ買って帰りたいよ」

「あー、うん」

「本当にどうした? でもな、何で上に魔導装置(マギデバイス)を設置したんだろうな? 下に設置した方が大型化したりしやすいのに」

「ああ、冷たい空気は重いから下へ沈むんだよ。だから冷却部は上にあるんだ」

 咄嗟に仁がそう答えると、ラインハルトははっとした様な顔になって、

「ジン、もしかしたらこれ、君が?」

 と尋ねてきたので、仁も誤魔化しきれずに、そうだ、と答えたのである。

 ここにまで売れてきていました、冷蔵庫。

「それより、これを見てくれ。こいつをどう思う?」と書いて、例のフレーズを続けたくなったのはここだけの話です。

 お読みいただきありがとうございます。


 20130617 16時50分

 誤記修正

(誤)デザイン苦手な仁は

(正)デザインが苦手な仁は

「が」が抜けていました。



 20131021 11時33分

 エリアス国王の名前をフリッツからブリッツェンに。フリッツだとエルザの兄と同じなので。


 20131022 11時15分

 エリアス国王の名前から『ド』を取りました。王族は付けません。


 20180814修正

(誤)どう答えるべきが仁が長考していると、ラインハルトが先に自分の意見を口にする。

(正)どう答えるべきか仁が長考していると、ラインハルトが先に自分の意見を口にする。

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すごく…大したものです…
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