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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
05 旅路その1 エリアス王国篇
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05-10 護送

制御核(コントロールコア)だけは確保しておくとするか」

 仁は、倒したゴーレムの上半身を工学魔法で開く。そしてそれが、ゴンとゲンの原型となったゴーレムと同じ構造をしていることを確認した。

 エルザの使用人3人と御者2人は、気絶した賊を縛り上げている所である。特に、魔導士である賊の首領には猿ぐつわを噛ませ、詠唱も封じて。

 乳母ミーネは馬車の中。傷は塞がったが、無理は出来ない。


「……ジン君」

 仁が制御核(コントロールコア)を取り出して戻ってくると、エルザが待っていた。

「ありがとう。おかげで私もミーネも、爺達も助かった」

 深く頭を下げて礼を言う。

「エルザも無事で良かった」

 ちょっと照れて、素っ気ない言い方をした仁である。馬車の窓からはミーネが複雑な顔つきで見つめていた。

「それに、あの魔法は……何? 光ったかと思ったらゴーレムの半分が無くなっていた」

光束(レーザー)』の魔法のことを聞かれた。

「あー……あれはなー……」

 どう説明しようかと悩む仁。そして出した結論は、

「島で見つけた古代遺物(アーティファクト)なんだ。だからよくわからない」

 そう言って腕輪を見せる。

「これは、最初にはめた者の魔力以外では動かないらしくてな。俺以外には使えないんだ」

 古代遺物(アーティファクト)という言葉は便利である。そう言っておけば、とりあえず追求が止むから。

「そう、なの? なら仕方ない。……爺、どうしたの?」

 後の言葉は執事であるアドバーグに向けて言った言葉だ。

「縛り終えましたが、どうしましょうか? 連れて行こうにも気を失った者も多く、馬車に乗せるわけにもいきませんし」

 まだ峠からの急坂を下りただけで、この先には長いだらだら下りの坂を含む長い道のりがある。

「どうすればいい?」

 仁の方を見てそんなことを聞いてくるエルザ。もう完全に仁を頼りにしているようだ。

 幼少の頃は年上の兄弟や従兄とばかり遊んでいた彼女、ひょんなところで誰かに頼る事がある。

 まあ貴族女性としての評価を下げるものではないし、今回のことで更に仁を頼りにし出したのだろう。

「そうだな……あの魔導士とゴーレムはしかるべき所へ差し出すべきだからな」

 そう言いながら辺りを見回す。賊が隠れていたのは3メートルくらいの木が一面に生えている中に、10メートルくらいの木が混じっている林。

「あの木を使って……こうして……よし。エルザ、そうしたら馬車を少し改造してもいいか? もちろん後で元に戻すから」

 仁がそう尋ねると、エルザはすぐに了承した。むしろ、何を始めるのか興味があるという雰囲気である。

「よし、それじゃあ礼子、手伝ってくれ」

「はい、お父さま」


 それから仁は礼子に命じて10メートルはある木を3本、切り倒させる。

 礼子が『桃花とうか』で一薙ぎに、直径30センチはある木を切り倒すのを見たヘルマンは呆れるばかり。

「あのお嬢ちゃんは、俺が10人いたって出来ない事を易々やっちまうし。もう俺いらねえんじゃねえか?」

 などとぶつぶつ呟いていたが、それは全員無視した。彼以外の者達は、むしろ仁が何をするのかを興味津々で見つめている。

「よし、その馬を外して、(ながえ)を延長して、丸太を渡して、四頭立てにして、強化して、連結して……」

 仁は、2台の馬車と馬車を丸太2本で繋ぎ、その繋いだ部分に賊を乗せるつもりだった。

 先頭の馬車には後方の馬車から馬を回して4頭立てにする。そして車軸や軸受けは強化する、これでなんとかなりそうだ。

 やっていることはまあ理解の範疇に入るのだが、その作業速度が尋常ではなかった。

 何せ、10メートルはある木を1人で担ぎ、あっという間に枝を切り落とす礼子と、まったく自重していない仁の共同作業である。


 作業しながら、仁は礼子に質問をした。

「なあ礼子、エルザとミーネを襲った2人だが、お前、感知できなかったのか?」

 当然の疑問である。

「はい。あの2人、気配も存在も感知できませんでした。申し訳ございません」

「うーん、お前が感知できないと言うことは、何か隠密行動用の魔導具でも身に着けていたのかも知れないな。ちょっと調べてみよう」

 作業を礼子に任せ、仁は縛り上げた賊の所へ行く。

 結果として、隠身(ハイド)の効果を持つアミュレットを身に着けていた事が判明した。

「うーん、一度姿を見られたり、声を出したりすると効果が切れるのか。あまり使い勝手は良くないな。俺なら……」

 そう呟いて、今は別の作業中だと気づき、馬車改造作業に戻る仁であった。


 30分ほどで全ての工程を終え、

「途中で余計な事したんで遅くなっちゃったな。エルザ、出発しよう」

 などという仁に、皆内心呆れていた。ミーネでさえ言葉を失っていたほどである。


 それからは順調に進んだ。

 途中にいくつかある町の一つ、リナート町で休憩兼昼食を摂る。

 町の入り口にいた衛兵が、4頭の馬が牽いてくるなにやら得体の知れない物を見て、慌てて上司を呼びに行ったり、出て来た兵士にエルザが説明したり、と少しごたごたはしたものの賊全員をリナート町にいる王国兵士に引き渡すことが出来たのである。

 その時にエルザは早馬で首都ボルジアにいるラインハルトに事の顛末を知らせる使者を出した。同時に王国兵達も報告の早馬を出している。

 1時間足らずで両者は首都ボルジアに到着、使者はそれぞれの相手へと報告に走った。


*   *   *


「何!? エルザ達が賊に襲われた? で、で、被害は!?」

 ラインハルトは立ち上がり、使者に食ってかかった。

「は、はい、お怪我もされず、皆様ご無事です。それどころか、賊を全員拿捕し、リナート町まで護送されました」

「そ、そうか……」

 無事と聞いて力を抜いたラインハルト、次の瞬間には、この情報はエリアス王国首脳には伝わっているのか、と尋ねた。

 それに対して使者は、もう1人が王宮に行っている、と答える。

「そうか、よし。……御苦労だった。下がって休んでくれ」


 ラインハルトは現在、ドミニク・ド・フィレンツィアーノ侯爵の別邸に厄介になっているのだが、そこの主、ドミニク・ド・フィレンツィアーノ侯爵の部屋へと急ぎ向かう。

「侯爵、急な知らせが入りまして」

「何かあったのですか?」

「ええ」

 そしてラインハルトは、今し方使者が伝えてきた内容を語った。ドミニク・ド・フィレンツィアーノ侯爵は驚き、急ぎエルザ達に迎えを出す事にする。

 必要な指示を出し、あらためてラインハルトと向かい合った。

「まったくもって遺憾なことです。まさかこのノルド州にそんな賊が跳梁跋扈ちょうりょうばっこしていたとは」

「使者の話では、ゴーレムまで所有していたとか」

「ゴーレム、ですか。まさか、例の?」

「ええ、昨今、小群国内で散見される物と思われます。ジンが制御核(コントロールコア)を確保したと言うことですから、調べれば何かわかるでしょう」

 ラインハルトがそう言うと、

「ジン? ミス・ランドルでなく?」

 フィレンツィアーノ侯爵が当然の疑問を呈した。ラインハルトは笑って、

「実は、エルザに迎えに行かせた友人というのはジンなんですよ。ご存じでしょう? ゴーレム艇競技で優勝したチームの魔法工作士(マギクラフトマン)

「ああ、聞き覚えのある名前だと思ったら。そうですか、彼はショウロ皇国に取られてしまいましたか……」

 残念そうにそう言う。優秀な魔法工作士(マギクラフトマン)を見す見す逃がしたのだ、無理はない。

「せめて、我が国にいる間だけでも歓迎しなくてはいけませんね」


*   *   *


 エルザ一行は昼過ぎにリナート町を出立。賊は引き渡したので改造した馬車は元に戻してある。

 戻す際の早業にエルザ一行は元より、リナート町の町長以下、役人、兵士達は開いた口が塞がらなかったようだ。

 何せ、普通の魔法工作士(マギクラフトマン)の作業というのは、魔法による変形・加工、その過程が目で追えるのに対し、仁のそれはあっという間に終了してしまうのである。

 仁が短い詠唱をした次の瞬間には形を変えた対象物がそこにある、というような具合。これでは呆れられるのも無理はない。


「もうすぐ首都ボルジア」

 エルザがそう教えた。

 馬車の窓から見える景色は今までの森林や草原と町や村が交互に現れるものとは違い、田園の中に家が点在し人口密度が高まってきたのがわかる。

「人口はどのくらいかわかるか?」

 仁がそう尋ねるとエルザは済まなさそうに、

「知らない。ごめんなさい」

 と言う。仁は慌てて、

「いや、何も謝らなくても」

 とエルザをフォローした。そして、

「ラインハルト、どうしてるかな」

「ライ兄なら、今はフィレンツィアーノ侯爵の別邸にいるはず。だから私たちもそこへ向かう」

 そんな話をしていたら馬車が止まった。

「どうしたの?」

 エルザが御者にそう尋ねると、

「お嬢様、出迎えが来ています」

 エルザ達が窓から前を見ると、そこには20人ほどの兵士と4頭立ての馬車が2台止まっており、先頭で着飾った家令らしき男が指示を出していた。

 その男は馬を降り、馬車の前まで徒歩でやって来ると、腰を直角に曲げるお辞儀をした後、

「ようこそ、首都ボルジアへ」

 そう言ったのである。

 だんだん仁も地味に人々に印象づけています。

 そしていよいよ首都到着です。ここでの仁の活躍は?


 お読みいただきありがとうございます。


 20130524 20時50分 誤記修正

(誤)俺10人がかりでも / 全ての行程を終え

(正)俺が10人いたって / 全ての工程を終え


 20130822 08時11分 表記修正

(旧)「ジン? 使者の報告にはミス・エルザが拿捕したということでしたが?」

(新)「ジン? ミス・ランドルでなく?」


 使者の報告を受けたのはラインハルトですからね。そしてミスは普通ファミリーネームに付けるらしいです。


  20140530 08時02分

 ライト(レーザー)光束(レーザー)に変更。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんで?ゴーレム改造すれば良いだろ? ホント、チグハグだな。
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