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マテリアル・エレメント 短編集  作者: 高城弥平
隠者の信託~seventhDay~
29/30

seventhDay 9

 ○~○~○~○


 能力を解除し、心内空間から解放された瞬間に何か糸が切れたように体が一切の指示を受け付けなくなる。

 感覚はある。が動かない。

 

 「いったい…………」


 そんな声を地に顔を埋めながら漏らす。よく見ればあれだけ燃え盛っていた炎が全て消え去っている。

 

 「おい………大丈夫か…………?」


 横から聞こえる声、間違いなく雁金さんだ。


 「そのまましばらくそこで寝とけ………こっから先はお前には見せらんねぇからな…………」


 そいうと雁金さんはズルズルと何かを引きずりながらどこかえと消えていった。


 (なんだか…………………ほんとに眠たく…………………)


 突発的な睡魔に襲われ、自覚することなく椋は深い眠りについていた。



 ○~○~○~○



 目を覚ましたそこは見慣れているようで見慣れていない満天の星空のもとだった。

 ゆっくりと瞳をあけ、首を動かし周囲の様子を見わたす。


 「師匠…………………?」


 ふと椋の視界ギリギリに人影らしいものが見えるため半信半疑で尋ねる。

 

 「やっと起きたのか。もう夜の10時だぞ……………」


 その言葉に結構な驚きを覚えながらも、身を沈めたまま、質問を続ける。


 「僕そんなに寝てたんですか?」

 「ざっと8時間くらいかな」

 「ホントですか…………………」

 「『愚者の道程』(フールディスタンス)。確かに強力な技だ。でもとんだじゃじゃ馬みたいだな…………」

 「みたいですね………フールが治療を断念するくらいですから……」

 「それはオマエの精神的な部分も消費する。《愚者》とて専門外だわな。まぁそれでもあのソレイ………………

 「っってソレイユは!?」

 

 雁金さんから漏れそうになった言葉に反応し、ようやく現状の理解をはじめる。あれからどうなっただろうか?バッと起き上がり周囲を見わたすが何もない。そう、ソレイユが残した傷跡を象徴するかのように、そこら一体はもうなにも残ってはいなかった。こんな綺麗な星が見られるのもなんとなく納得できてしまう。ゆっくりと腰を落とし、雁金さんの話に耳を傾ける。


 「ソレイユは死んだ。《愚者》が力の断片の回収を試みたがすでに負の《太陽》は逃亡していたため回収を断念。ほかに聞きたいことは?」


 あっさりと死んだという言葉を使った雁金さん。曖昧な記憶の中で運んでいたアレはソレイユだったのだろうか?見せられない?もう頭の中に何も入ってこない。


 「じゃあ一つだけ………僕たちは勝ったってことでいいんですよ………ね…?」

 「おう!完全勝利だ!!」

 「でも雁金さんの体は元に戻ってないんですね…………………」

 「ああ、それだがな。《愚者》の予想通り、ソレイユはアタイから奪った時の欠片で時間を巻戻していた。が、アタイの場合は止まっていたんだ。戻っても進んでもないやつを勝手に進めちゃいけねぇんだ」

 「…………………どういうことでしょう?」

 「要するにだ、アタイの止まっていた時は今、今日、この日ついに動き始めたんだ。アタイの体は成長してねぇだからソレイユを倒そうが成長するわけでもねぇ。つまりだな…………………アタイは今人間として生まれ変わったんだ。普通の人間のように飯を食い、普通の人間のように寝て、普通の人間のように身体的成長を遂げる。10年も経てばナイスバデェなお姉さんになってるかもしれねぇ。20年経てば家庭を持っているかもしれねぇ。50年経てば立派なばあちゃんになってるかも知らねぇそんな普通の人間になれたんだよ…………」


 そう語る雁金さんの顔は満足感と笑顔と涙に溢れていた。


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