seventhDay 6
若草の光が心内空間を埋め尽くし、まるで《隠者》に見せてもらった雁金さんの故郷のような雄大な草原を作り上げる。
「これが最後の希望に託す…………アタイの………隠者の信託だ………」
「…………………はい」
言葉とともに草原が収縮をはじめる。
「もうアタイには時間がない」
「…………………はい」
それがやがて二人だけを囲む円になる。
「あとは自分で全部できるか?」
「…………………はい。師匠に楽させるのも弟子の仕事ですから。ゆっくり休んでください」
「ははっ……よく言うぜ……じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかね………」
雁金さんが腕を真上に上げる。すると円は雁金さんをはじき出し椋だけ包み込む。
「任せたよ…………………」
すべての光が自分の体の中に入ってくるのを解かる。
雁金さんの優しい光が、体の中を巡っていくのが解かる。
信頼の証である光が全身を回り、溢れ出しそうなのがよく解かる。
「任されました!!」
椋はこれまでにない最上級の笑顔を雁金さんに送る。
「行ってこい!!」
笑い返す雁金さんは自らの後ろに若草色の門を現出させる。雁金さんはそのまま椋に背を向け『隠者の隠れ家』へと向かいゆっくりと歩き出す。
彼女が門をくぐる理由はなんなのだろうか?
戦場で足でまといになるであろうボロボロの体を避難させるためなのだろうか?
それとも頬からボロボロと流れ落ちる大きすぎる涙のつぶを隠すためなのだろうか?
椋は門が閉じていくのを待ち、完全に門が消えるのを確認すると「行ってきます」と静かに呟いた。
突如景色が切り替わり地獄と化した雁金さんが所有する森に変わる。
《隠者》の説明によれば負の《太陽》の能力である『蜃気楼の幻想』によって森の外からは一切こちらの様子が伺えないようになっているらしく、おそらく部外者から消防などに通報される可能性は果てしなく0に近いとのことだった。
それはつまり早急にソレイユを撃破しこの火を止めさせなければ、森は焼き尽くされ、火はそのまま他の山へ、その外の町へと段々と広がっていくということを指している。
いくらソレイユを倒そうと、部外者に被害が行ってしまえばそれは勝利とは言えない。
簡単に言えばさっき雁金さんが言ったとおり時間が無いのだ。
上空で未だ初撃で与えたダメージを気にしているソレイユ。
決して隙を見せているわけではないが、これが隙をを生み出す要因になるということは間違いない。
「行くぞ!!」
独り言、いや、ソレイユに向けたのかもしれない、もしかしたらフールに向けたのかもしれない。気合を入れるために叫んだその言葉にこの場にいる者すべてが反応する。
「フゥゥウル!!」
『わかっている!!解除するぞ!!』
脳内に響くフールの声。2度目以降は感じないだろうと言われていた喉のあの焼けるような痛みも、今は別の意味でじわじわと味わっている。
簡単な戦略はたった今彼から頂戴した。これならば勝てる。あとはそれを実行するためにどうしたらいいかということだけ。
問題はチャンスが2度は無いということだけだ。今この瞬間にしか成功しない。失敗は微塵も許されない。
「何を企んでるか知らないけどさ!!隙だらけなんだよォォ!!」
ソレイユは吹き荒れる烈風の中まるで巨大な隕石のようなこれまでに無い大きさの黒炎弾を作り上げていた。
しかし椋の意識がそっちに割かれることはない。
今はただ目の前のひとつのことで頭がいっぱいになっていたからだ。
体に何かが漲るのが解かる。溢れだそうとする活発なエネルギー達が開放の瞬間を今か今かと待ち焦がれているのが解かる。
『心内空間と同じようにやれ!失敗というイメージを持つな!御前にならできる!』
(あぁ………。解かった………。行こう、フール!!)
椋の胸元からあふれるクリアな結晶光。まるで鏡で太陽光を反射したかのように宙に舞う埃やらのおかげでどうにか見えるほどに澄んだその光。
「さっきの素早い動きもこれじゃ意味ねぇよな!!」
ソレイユはその馬鹿デカイ火球を次から次へと生み出し投げていく。地上からではもうソレイユの姿を目指することはできない。見えるのは迫り来る黒紫の炎の壁だけだ。
そんな光景に一切目もくれない椋。放つ透明のその光が徐々に徐々に若草色に変わっていくと同時に椋はフールと共に叫んだ。
「『『愚者の道程』!!!!!』」
同時に超巨大な炎の壁が地面と接地した。




