seventhDay 4
勢いよく弾き飛ばされる小さな体。
焼け落ち、頭から離れるふざけた大きな帽子。
その下にある悲惨な火傷の跡が目立つ頭部。大きく巻かれた包帯。まだ半世紀前の悲惨な傷跡をそこに残している。
悠乃はそのまま地面に叩きつけられ、地を転がる。
「無様だねぇ!!実に無様だ!!」
「クッ…………………!?」
悠乃の身体がガクンと揺れる。起き上がろうと全身に力を込めようとするがどうも帽子を盾にするというのは不味かったらしい。頭をやられたのか、体に力が入らない。
「もう終わりかい?あっけないねぇ…………………」
風を制御し暴風を止めたソレイユがゆっくりと地に足をつけるとそう呟いた。
「黙れ!」とでも言ってやりたいところではあるが、声が出ない。
横目に燃え尽きていく帽子を見つめていたが、不意にそこから視点が外れる。ソレイユが乱暴に右手で悠乃の縮れた黒髪をつかみ持ち上げたのだ。
「つまらない…………………」
逃げられないようにするためか、追い討ちを書けるようにソレイユは悠乃の髪を掴んだまま右手で持ち上げると、容赦なく膝蹴りを腹部に食い込ませる。ニーリフトというのだろうか、下から上に突き上げるように繰り出された強烈な膝蹴りは簡単に悠乃の体をくの字にへし曲げ、血反吐を履かせるに至った。吹き飛ばされると同時に髪がちぎれ、同時にこの左半分に巻かれた包帯までもがスルスルとほどけていく。
「グブッ……アァ………ゴブッ……」
声にならない声を上げながらも、ようやくある程度は動くようになった体で、口の周りについた血を拭き取る。
「いつ見てもグロテスクな顔ね……………」
ソレイユはさらけ出された悠乃の顔面の左半分を見ていつもと変わらぬ感想を漏らす。
「誰の…………せいだ………!!」
負の《太陽》によってつけられたその傷。正の《隠者》の能力の一つ、『隠者の秘薬』を使えば治すことなど造作もない。わざと直さずに置いているのだ。憎しみを忘れないために、両親を忘れないために。といってもそんなこと今更どうでも良くなっているというのは事実なので正直直しても直さなくてもどっちでもいいというのが正直な心境だ。
(いったいあれからどれくらいの時間が経ったんだ…………………?)
現実世界と心内空間ではお互い連絡が取れない。そのためハーミットにあとどれくらいか等も聞くことができない。
もうすでにボロボロの体では先程までのパフォーマンスを見せることができないだろう。
(あとどれくらいなんだ…………………)
自由には動いてくれない身体。ゆっくりと近づいてくるソレイユ。逃げようにも一瞬で追いつかれてしまうであろう。 一歩々々が死へのカウントダウンのように見える。
(絶体絶命ってか…………………)
再び悠乃の目の前に立ったソレイユは静かに右手を前にだし毎度のように同じ言葉をつぶやく。
「『吸時還元』」
溢れ出した闇色の光は悠乃の体を包み込む。悠乃からソレイユに向かい何かが流れていく。淡い紫の粒。時の欠片のような物。悠乃が成長を止められ生きてきた分の時間の結晶だ。なくなったからといって悠乃が不老不死でなくなるわけではない。死ぬわけでもない。ただこれはソレイユが自らの生命を保つ限り必要な物。しかしそれは同時に悠乃の生命の証明でもあるのだ。奪われてはいけないものなのだ。
前回の戦闘から今までの生きた証をソレイユは着々と吸収していく。
もうダメだ。諦めの心が頭に浮かぶ。そして同時に弟子の、最後の希望が脳裏をよぎる。
(何してんだよ!!このままじゃアンタに賭けたアタイが馬鹿みたいじゃないか!アンタは唯一このアタイが認めた弟子なんだ!早く!早く来てくれよ!)
「リョウ!!!!!」
「(遅れてすいません………師匠……………)」
悠乃の耳にそんな小さなつぶやきが聞こえたような気がした。
悠乃の背後からまばゆいほどに若草の光が溢れ出し、ソレイユの視界を奪う。
「なっ!!」
ソレイユは視界が回復すると思わず声を上げる。吸収中に突如現れた門。それが開くと同時に目の前に一人の少年が一瞬にして現れたのだ。
勢いよく4つの光輪が備わった右手が振られ、ソレイユの脇腹にめり込む。
光輪の消滅と同時に、ソレイユが左に大きく吹き飛び巨大な木に背中から衝突する。
「あ゛あぁ…………………?」
ソレイユは突如現れた少年をギロりと睨む。
そして驚愕する。この少年は――――――――――
「アンタ…………………あの時の《愚者》のボウズじゃねぇか…………………」




