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マテリアル・エレメント 短編集  作者: 高城弥平
隠者の信託~seventhDay~
21/30

seventhDay 1

 ○~○~○~○


 2062年 4月12日 所 とある街 時 午前二時


 「なんでこの国はこんな真夜中なのにこんなに明るいのかねぇ…………」


 夜風に赤髪を揺らし、ビルの屋上で座り込み眠らぬ街を眺める女は棒のついた飴玉を口内で転がしながら肩口に立つ小人へと話しかける。

 

 「何感傷に浸ってるんだい?場所は特定できたんだからさっさと襲撃しちゃえばいいのに…………」


 小人はにやっと嫌な笑みを浮かべながらそう言う。狂気的といってもいいだろう。


 「そりゃアタシとしてもぱっぱと終わらしたいに決まってる」

 「じゃあなんで?」

 「ここは日本、《隠者》がいるのは森、こんな夜中に森なんて焼いたら騒ぎどころじゃなくなっちまう。ましてやここらは人口密集地、ちょっち分が悪いわな」

 「…………………君でもそんなこと考えるもんなんだね」

 

 ぽかんと口を広げ意外そうな表情を浮かべた負の《太陽》ゾンネは、パートナーであるソレイユにそう言うと肩から地面へと豊かな胸を経由し飛び降りる。


 「挑発してんのかァ?」

 

 ソレイユは飛び降りたゾンネの首根っこを左手でつまみ持ち上げると自らの眼前まで運びそう問うた。


 「いやいや!だって出会った頃は所構わずって感じだったじゃないか!」


 必死の抵抗を見せるゾンネ。ソレイユももちろんそれを冗談だと分かっていたため、放り投げるようにすぐにゾンネを解放する。


 「アレはアタシがバカみたいに舞い上がってただけ!それにココは例外、日本だ!最先端科学国家であり最先端能力開発国だ。下手な行動とりゃ他のエレメントが出張ってきてもおかしくない位。慎重にもなるわよ」

 

 そんな日ごろ見せないような真剣な表情を浮かべたソレイユに、ゾンネはただ「そんもんかね……」とだけ言うと炎のような光を散らしながらソレイユの体内に戻る。


 「そんなもんなんだよ…………………」


 ソレイユは誰もいなくなったビルの屋上で聞いているかどうかもわからないゾンネに対してではなく、誰に向けているのかさえわからないまま静かにそう呟いた。



  ○~○~○~○


 同日 所 雁金さん宅 時 午前8時


 だんだんと暖かくなるのを実感できる。

 心地よい春風がツリーハウスの窓から流れ込んでくるのを感じながら椋は朝食の食器の後片付けをしていた。


 ついにこの日を迎えてしまった。

 今日この日が雁金さんと約5日、いや、体感時間としては1年近いだろうそんな時間がついに終わりを告げようとしていた。

 といっても一週間しか経っていないという感覚と一年を体感した感覚、どちらも持ち合わせているのだ。例えるなら夢の感覚に近いかもしれない。実際は記憶の整理に過ぎない夢も、確かに中での時間の感覚を残しているような気がするように、二つの時間軸はそれぞれ別のものでありしっかりと区別ができるものなのだ。

 明日は入学式、それにかなり早朝に集合することになっているため、今日ギリギリまで修行をするということはできない。故に今日が最終日だ。

 昨日の午後で『捕食』はかなり扱えるようになった。なにせ現実時間での就寝10時頃まで連続九時間弱もの長い時間修行をし続けたのだ。

 ハーミットの計らいというのか、真っ暗だった心内空間に朝と夜を区別するために日の光を想像してくれたので、本当に半年近く現実で暮らしているのとなんら変わりない生活を送っていた。

 しかしまぁそれのせいかさすが沙希や真琴の顔が懐かしいとさえ感じてしまう訳なのだが。



 そんな微妙な感慨深さに苛まれながらもグラスの水分を綺麗に拭き取り元あった戸棚に返す。

 まだ今日何をするのかということを聞いていないのだが掛けてあった付近で手の水分もしっかりと拭き取ると、背の高い椅子に座って待つ雁金さん達の所へ向かう。

 

 「師匠やハーミットさんがゆっくりしていいのはわかるけどなんでフールまでユッタリしてるんだよ……」


 思わず机の上に寝そべっているピエロのような格好をした小人を愚痴る。

 

 「何を言っとるか。我はもう十分に働いたわ!御前が見ていないところでどれだけ我が働いていると思ってるんだ!」

 

 怒りを表に出す小人は立ち上がると胸を貼りそんな宣言をする。しかし――――――――――


 「逆ギレは思考遮ってからにしろ!する事なかったからってダラダラしてたくせに!」

 

 日ごろ意識しない限りお互いの思考やら何やらは疎通している。

 つまりは今パートナーがどこで何をやっているのか、そんなこと瞬時に理解できる上に、嘘をつこうがなんだろうがいつでも本音は流れてくるものなのだ。

 といっても、不自然に思考を遮っていれば嘘をついているなんてことぐらい丸分かりなのだが。


 「なっ!しまった!」

 「しまったじゃねぇよ!」

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