エルフの里に行ってきます
今日は日曜日で旦那の仕事はお休み。
夫婦二人で家庭菜園の手入れ。
のんびりした時間が流れる……いいなぁ。
と安心していたら!
のっし、のっしとなんか道の向こうから大きな影がやってくる。何あれ。
目を凝らして見る私。すると隣で主人がガタガタ震え出し、脱兎の勢いで家に戻った。ちょ、何なのよ一体!
のっしのっしの影がやがてうちの家の門柱に。
その陰の正体とは――。
ご、ゴーレムじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
あーりませんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
た、た、誰か助けてくれ、てか、声が出ない。腰が抜けて動けなひ……。
にしてもでかい。でかいよ。私の身長の倍くらいは軽くある。横幅も勿論でかい。
どうしよう、こうゆう時、どうしたらいいの?!
わたおたしてる間に、ゴーレムの顔がずうん、と私に近づいてきた!
アカン……気が遠くなる……。そんな私の耳に、
「あのー、ベルナールさんに頼まれてきたんですけど……」
すごく控えめな声が聞えてきた。へ? 誰が言ってるの? きょろきょろする私。
まさかこのゴーレムが喋ったとか?!
その時私はやっと気づいた。ゴーレムさんがなんか制服みたいなの着てることに。胸に会社のマークみたいなのが入ってる。
手に鞄下げてる。
もしやと思って抜けてしまった腰を奮い立たせてゴーレムさんの元に。
「ひょっとして、車屋さん……ですか?」
私がそう聞くと、ゴーレムさん頷いた。
お名刺を頂戴する。表彰状くらいでっかい名刺だった。
「なんか申し訳ありません、事前にお知らせしたほうがよかったですか?」
汗を拭きつつ、中庭のテラスにてちょこんって感じで椅子に座ったゴーレムさん。お名前はロックさん。体か大きいから家に入れないので、お庭でお話しすることになったんだけど、
なんとか座れるくらいの長椅子を引っ張って来たけど、お尻の半分も支え切れてない。取り急ぎ冷たい飲み物をお出しする。
「いえいえ、そんな、こちらこそ失礼な態度取っちゃって申し訳ないです」
夫婦ともども恐縮してお詫び。ロックさんは笑った。
「そんな、どうか顏を上げて下さい。よくあるんです。僕ら、こんな体でしょ? 都なんかで商売する時はいつも警戒されてしまうんですよ。貴方方の反応はまだいい方です」
爽やかに言うロックさん。そんな彼の表情は豊かだった。彼は持ってきたカタログを見せながら、お値打ちで良いモノを選んでくれた。
「これなんかどうでしょう? 沢山荷物も乗りますし」
カタログも大きいー。ロックさんがめくるたびに風が吹いてくる。
「座席を倒したらベッドになります。まあ、これはどの車もついてる仕様ですが」
いそいそと大きい体に似合わない素早さでロックさんは持ってきた鞄(私くらいなら余裕で入れそうな大きさ)から何かを取り出した。なんと模型。
おお、すごい。凝ってますなー。
触っていいですか? と聞くとぜひぜひとのことで、まるでプラモデルで遊ぶ感覚で触らせてもらった。
精密に作ってある。ふむふむ、ここを倒すとベッドになるのか。とゆうかこれ、小さなキッチンもついてる! ただし燃料はこっちで言う石炭みたいなのを使うんだけども、ちゃんと排気もついてて本格的だ。
「ベルナールさんから聞いた話だと、エルフの里にも行かれる予定とか」
ええ、と私らが言うと、ロックさんは言った。じゃあオフロードにも使える丈夫なタイヤがいりますねと。
「今だとシーズンオフですから、お安くなります……こんな感じで」
ロックさんの指が彼が持ってきたソロバンをはじく。てゆうかこれもデカイ。何でも、日本で見て、気に入って、注文して作ってもらったらしい。
日本に来たのか……ロックさん。エライ騒ぎだったろうな。いやいやそれより、ソロバンつくってる人不思議に思っただろうな。こんなの誰が使うんだって。
で、結局出してもらった金額と物で決めたのが、私たちの世界で言うとワゴンみたいな車。
と言ってもかなり形は違う。
ただ、元車のディーラーだった主人から言わせると、
「これ、良い車だよ」だそうなっ。
それにしても、
値段も凄く頑張ってくれて、去り際の笑顔がまた凄く良かった。
もし車買い替える時は彼に頼もう。そう思う私たちだった。
車を購入した私たちの家に後日、ケモミミ不動産屋さんが来て、保険に加入してくださいとお勧めしてきた。ロックさんから連絡貰ったんだそうだ。
てか異世界にもあるのか保険!
「そりゃ当然です」と言うケモさん。
ちな、異世界はいろんな部族が入り乱れて生活してるから、そこの部族にあった掟みたいなのがあって、保険の種類もそれだけ増えるのだそうだ。
ただ、じゃあ保険料も高いのかと言われたらそうでもないが、万が一事故った時、相手によっては法外な値段吹っかけてくるのもいて、そこら辺は十分注意してくれとケモミミさんから念を押された。
「例えばどんな部族が危ないんですか?」
主人がそう尋ねる。ケモミミさんはうーんと唸ってさらさらと紙に書きだしてくれた。
異世界にも車のナンバープレートはある。そこにはどの種族で、どこに住んでてってのが分かるようになってる。
「たとえばですね、オーク族のはΒで表記されてます」
うんうん、
「ですから、見かけたら近寄らないことです」
近寄らないほうがいいって、そんなに運転乱暴なんですか?って聞いたら、かなり乱暴ですとケモさんは言った。
「まあ、奴らは体が大きいから、車も大きいですから、見てすぐにわかりますけどね」
なるほど。ほかには?と聞くと、
「Aですねぇ」
「それは、何処の部族ですか?」と私がきくと、ケモミミさんは言った。エルフですと。
え? まじ? エルフって要注意部族なの?!
「別に悪質ってわけじゃないです。が、何かあった時、彼らくらい厄介な相手はいないんですよ。なんせ他の部族の倍近い寿命持ってますからね」
彼らに比べたらオークなんてただのイノシシみたいなもんですとケモミミさん。
まあ確かに見てくれはイノシシだ。
「年の功というか、狡猾さと言うか、たとえ目撃者がいて百%自分たちが悪いと分かっていても、口が上手いもんですからやり込められちゃうなんてこともあるんですよ。ですから重々、気を付けてください。エルフ保険なんてのもあるくらいですから」
てかちょっと待って。
私たち、その部族のところに行くことになってんですけど。
買い物程度なら問題ないですよー、観光名所にもなってますからと言ってくれたケモミミさんだが、正直ちょっと不安になる私たち夫婦であった……。
「ねー、どうする?」
「うーん」
あれから数日後のこと。納品されたピカピカの新車。その前で考え込む私たち。
タイヤはどの道路でも対応出来ますってロックさん言ってたから、無駄にはならないんだけども、ケモさんやベルナールさんから色々聞かされたらさ。
わざわざ行く必要あんのかと思ってしまう。
何処って、もちろんエルフの里である。薬草のお酒って聞いて最初はいいなって思ったけどね。
そこまでしてまでと言われたら、
ちょっとなあ。
「でもちょっと見たい気もするんだよなあ」
と何故か鼻の下伸ばして言ううちの旦那。そう言えばロードオブザリングのエルフ役に出てきた女優さんのファンなんだよね彼。
何想像してるか知らないけど、現実見てガッカリなんてこともあるかもよ?
結局どうするか話し合った末、ここに来てから日本とこちらを往復する以外はどこにも行ってないし、せっかく異世界に来たんだからあちこち行ってみようということで、最初の目的地にエルフの里が決定。途中に評判の食堂があるからそこにランチに寄って、薬草買って帰ろうってことになった。帰りは夜中になるけど、まあいっか、なんて言ってたんだよね。
が。
「いかんいかん」
私たちから話を聞いたベルナールさんが、とんでもない、みたいな口調で言ったんだ。
理由は、エルフの里に向かう途中の山岳地帯。そこはデカイ狼のようなモンスターがいるからなんだって。
「あいつらは夜行性でな。昼間はおとなしいが、夜になると群れになって獲物を狩るんだ。当然、通る車も狙われる。だから悪いことは言わねえ。行くんならエルフの里で一泊するこった」
えーっ。
でも旦那の仕事がなぁ。一泊するとなると……。
ちなみに土曜は午前中で仕事は終わるんだよ。だからそこから出発してもいいんだけど……。
なんて考えたらますます、行く必要あるかしらなんて思っちゃうんだよね。
他に楽しそうなところ沢山ありそうだし。海の方に出かけたら、だんだん開けてくるからそれこそ夜走ってても大丈夫そうだし。
するとフランシスさんが言った。
「一泊する価値はありますよ。ねえ、あんた」
するとベルナールさんも頷いた。
「わしら、新婚旅行で行ったんだよ。そりゃもう雲海が見事でな。一泊する値打ちはあるよ」
あらー、これはのろけられたかなぁ?
てか、ちっちゃいドワーフさんたちがそんな昔を思い出して話す姿は可愛いなぁ。
とほんわかしていた私たちだったが……!
「ちょっと値段は高かったけど、良かったわよね」
フランシスさんがなんか照れながら言った。うんうんと肯くベルナールさん。
値段が高い?
なんかちょっと気になるな。ケモさんからの情報だとエルフさんって悪知恵が回るらしいし。
まあ詳しいことは聞かなかったけど、ぼっ○くり(生々しい伏字だ……)にあったような気がしないでもない。
そうじゃないといいんだけど。
で、当日!
旦那の仕事終わりを待って村を出発。評判の食堂立ち寄りたかったけど、日が暮れたらまずいからそこはパス。
明日の帰りに寄ることにした。
「えーっと」
地図をガサガサ開く。隣で運転する旦那。後ろの座席には、フランシスさんが作ってくれたお弁当が積んである。
ちょっと二人で食うには多いような気もする……。そこはさすがのドワーフさん。
村から出ると広々とした草原が広がってて、その間の石畳の道を標識に従って幹線道路目指して進む。幹線道路に出てから二時間ほど北上すると山岳地帯が見えて来て、山道を登っていくとエルフの里に着くんですけど、
その幹線道路に入るまでがややこしいのなんのって。
異世界の文字って、全部Fみたいに見えるんだよね。最近やっと違いが分かって来たけど、車に乗りながらそれを見分けるのは至難の業。
途中で人に聞きつつやっとこさ幹線道路に入った時はかなり時間ロスしてた。
「日没までに着けそう?」
と聞く私に、まー、大丈夫だろと言う旦那。
「まだ二時回ったところだし、もうそろそろ見えてくるんじゃないか? ほら」
あ、山だ。
てーか、何あれ! アルプスみたい! てっぺんに雪積もってる!
エルフの里は、その山の中腹にあるとのことで、山に張り付くように道が作られてて、時にはトンネルみたいなのになっててって感じらしい。
車運転する旦那の口にサンドイッチやら平べったいカツみたいなのを運んでやり、私ももぐもぐ食ってるうちに車は幹線道路を降りた。と言ってもこれから山道だ。
山道に入る前に、ちょっと開けたところで車泊めて休憩。実は他にも場所あったんだけど、何処もいっぱいで、車でウロウロしてたらここを見つけたわけ。
見晴らしも良くて広くて、日当たりもいいー。ちょっと崖が近いから怖いけど、下の景色がこれまた絶景かなー、絶景かなぁぁ。なんて。
晴れてお日様ぽかぽか。いい気持ち。夫婦二人で草の上にゴロンと横になる。
あー、なんか眠くなってきた。もー、ここでキャンプして帰ってもいいんじゃない? すると旦那は言った。それはダメって。
車に戻る私たち。とそこに何やら空を大きな影が飛んで行った。
見上げるととてつもなく大きなドラゴンが!
「おいおいおいおい、カメラカメラ!」
ここではスマホ使えない。車に積んであるカメラとりに行くと、なんとドラゴンさん、舞い戻ってきて私たちの前に降り立ってくれたんだよ。これはチャンス!
うー、スマホ使えないのがもどかしいっ。使えたら動画とるのにぃぃ。
とってあげたら多分再生数凄いことになりそう。
ただ、やっぱり近くで見ると迫力ある……! 大きな翼に鋭い爪っ。まるでギャ○スが目の前にいるみたい(分かんない人はご両親に聞いて下さい)。これで草食動物って言うんだから人は見かけに、いや、ドラゴンは見かけによらない。
夢中で写真とってると、地響き立てて近寄って来た。わ、ちょっと怖いかも! 旦那にちょっともう行こうよって言ったけど、彼夢中で気づかない。そんな間にも相手はずんずん接近してくる。
てか、あれ? なんか口からよだれみたいなのたらしてない? てか、目つきがなんか、なんか、
危なくない?!
さすがの旦那も気づいたようで、逃げようなんて言いだした。するとそんな私たちに気付いたのか、相手がぶわっと空を飛んだ! ちょっと、ちょっと、冗談でしょぉ?!
あっと言う間に私らを追い越し、車に逃げようとするのを通せんぼ。もう明らかに……明らかに、
食うつもりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
なんなのよ、草食じゃなかったの?! 大人しいって言ってたじゃんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
くわっ、て大きな口あけて突進してきた、逃げようにも後ろ崖、もうダメぇぇぇぇぇぇぇ! 異世界なんて住むんじゃなかったウワアアアアン!
その時だ。
「伏せろ!」と鋭い声が響き、気付いた旦那が私をかかえて地面に伏せた。次の瞬間、すごい爆発音が響いて顔あげられないほど熱い風が吹いてきた。
怖い、怖いよ怖い! 誰か助けて!
地面に伏せてぶるぶる震えていた私たち。そこに、「大丈夫か?」と涼やかな声が。
恐る恐る顔あげると、そこに耳がとんがった若い女性が立ってた。すごい美人。杖持ってる。
その美人の後ろで、上半身ぶっ壊れたさっきのドラゴンが仁王立ちみたいなかっこで絶命してる。
こんがり焼けてる……その臭いが凄い。
てことは、この人が助けてくれたのか。なんか涙が出てきた。
だってもうだめだと思ってたもん。お礼言うと美人さんは厳しい声で私らをしかりつけた。
「まったく何を考えておる。ここは翼竜の狩場だぞ。こんなところにいたら襲われるに決まっておろうが。物知らずにもほどがあるぞ」
へ?
道理ですいてると思った。
そうゆうことだったのか。
顔見合わせる私たち。美人さんはさらに呆れたように言った。
「こんな常識も知らんとは、さてはお前たち、異世界の日本とやらから来たな?」
「そうです、日本から……」
思わず小さくなって答える私。てかこの人、この若さで威圧感凄い。何者だ?
「とりあえずここから離れるぞ。またいつ来るとも限らん」
美人さんそう言いおいてさくっと踵を返した。私らも慌てて車に乗る。あんなのにまた襲われたらたまらんっ。
で、その美人さんの正体ですが、なんとエルフ族の方でした。お名前はベラさん。
今から徒歩で家に戻る途中だったらしい。と言っても彼らは魔法が得意だから、途中で日が暮れてモンスターに襲われても、追っ払うことが出来るから別に怖くないんだって。
ただ、何もお礼しないわけにはいかないから、御一緒にどうですかと車にお誘いした。
が!
「余計な御世話じゃ」
ぷいっ、とベラさんは顏を背けた。
「いえ、でも、助けていただいたことですし」
「そんな車に乗っておる方がよほど疲れる。ワシはこれから飛んで行く。ついでに道案内してやるからついてまいれ」
うぐっ。
「もたもたしていると置いていくぞ。よいか」
と言ってベラさん、ほんとに飛んだ。すごい。まるで某漫画の浮いてるやつみたい。
飛んでいくベラさんについてく形になった私たち。山岳地帯に入ると道は一気に悪くなり、車がガタガタ音を立てる。おまけにガードレールみたいなものが無く、崖ギリッギリの道もあってスリル満点じゃぁぁぁあ!
「てかほんとこの道であってんのか……?」
旦那が冷や汗かきながらいうのも無理はない。山に入ってからすれ違う車もないし。てかこんなところですれ違いなんか無理だし。
ほかの道もあったんだよ。でもベラさんが飛んでく方向と違うんだよね。おまけに他の車みんなそっちに行ってる。
今更ついていけないとは言えない(滝汗)。
まさかあのエルフさん、狐かタヌキが化けてるんじゃなかろうな。たしかそんなゲームあったような!
山の奥深くに連れてかれてなんてことないよね?!
なんて考えてたら、もうずいぶん高いところまで登ったようで、途中で休憩にと湧き水のある所によったら、そこから下が一望できた。わー、良い眺め!
「ここまで来ればあと少しじゃ」湧き水を飲みながらツンツンした声で言うベラさん。「それはそうとうぬら、今日の宿は決めてあるのか?」
「あ、いえ、まだですけど」
ついてから決めようって言ってたんだよね。ベルナールさんもそれでいいよって言ってたし。
するとベラさん、やれやれとでも言いたげに首を振られた。
「愚かじゃのう。飛び込みで宿など探してみろ。まさによいカモじゃ。口先三寸で丸め込まれ、相場の倍、支払わされるだけじゃぞ」
やっぱ貴方ぼったくりにあったんですよベルナールさん(涙)。
しかも観光地だからそもそも相場が高い。
ベルナールさん、新婚旅行だからと張り切ったんだなぁ。
でも値段聞いたら払えない金額じゃないかもと、念のため財布の中身を確認してみる。そしたらかなり減ってた。あれ? こんなに使ったっけ?
あ!
もしかすると翼竜に襲われた時に、慌ててたもんだからお金結構落とした? あー、多分そうだ。
財布車に置いてなかったのかって? だって用心したほうがイイって聞いたんだもん。お金は肌身離さずもってなさいって。
舞い戻って拾う勇気は当然ない。
どーしよー、もうこうなったら車中泊にしようかな。布団は持ってきてないから寒いけど仕方ない。食事はまだ昼間の弁当若干残ってるし。と旦那と話し合ってると、
「まあ、もしよかったらワシの家に泊めてやろうほどに、どうじゃ?」
へ?
今、なんと?
「だから、わしの家に泊めてやろうほどにと言っているのだ。来るのか。来ないのか」
ベラさん、なぜか横むいて怒ったように言うのだった。
結局どうなったかと言うと、ベラさん家に泊まることになりました。
ベラさんの家は山の中にある峡谷の向こう側。つり橋渡ったところにあった。当然車は通れん。しかもそのつり橋、結構年季入ってる。
怖いよと言いつつ渡る私たち。それを見ていたベラさんが、ええいまどろっこしいと叫んで私たちを魔法で運んだ。
いきなり体が浮き上がったからびっくりしたわよもう!
ちびりそうになった……いやマジで。
「これ、この人の機嫌損ねたら帰れないかもな」
旦那が真っ青になって言う。
にしても、この人、里に住んでるわけじゃないんだ。何でこんなところに?
聞けば一人でお住まいとか。
お家にたどり着くと、相変わらずベラさん、横をむいてぶっきらぼうに言った。
「里はここからそちらの足で歩いて半時ほどじゃ。あの車とやらを使えばそんなに時間はかかるまい。明日、案内してやろうほどに」
ありがとうございます……。なんかお世話になりっぱなしだな。
ベラさんの家の中はサッパリ片付いてて、もしかして魔法に使う薬草グツグツ煮てるんじゃないかとか、煮込まれてる壺の中に人間かいるんじゃないかと思ったがそんなことはなく(当たり前だ)。それどころか中世の農家を連想させて、何ともホッコリ落ち着く感じだった。これは参考にしたいなぁ。家具もアンティークっぽくていいなぁ。と思ってたら、ベラさんがそっぽ向いたまま言った。
「夕食は客間に運んでやる」って。
え? じゃベラさんは?
「どういう意味じゃ?」
「いや、だから一人で食べるんですか?」
「当たり前じゃ。何を言っておるか」
いやいや、それは変でしょう。
一緒に食べましょうよと言う私たちに、ゴメンこうむると言うベラさん。でもどう考えてもそれは変だよ。
「何ならお礼に私が夕飯作ります。ね? あなた」
「そうだな。俺も久しぶりに腕ふるうか」
幸い、万が一想定して野菜やお肉も積んである。味噌もあるから鍋でもいいよね。ベラさんぎゃあぎゃあ言ってたけど、無視して食事の支度をする。車から食材取ってくる間、私は思った。
ベラさんってツンデレなんだ。
だってご飯作ってあげるって言った途端に顔が一瞬凄い嬉しそうになったんだもん。私たちが、え? みたいに驚いたら慌てて仏頂面に戻ったけどもう遅い。
いやいやいや、エルフって要注意部族とか言ってたけど、こんな人もいるんだ。
家で作った味噌に、ベルナールさんからもらった野菜と鶏肉。口に合わなかったらどうしようかと思ったけど、スープ一口すすったベラさんが、「ま、まあ、食えない味ではないな」とコホンって咳払いして言ったから、
これは、「美味い」ってことだなと私たちは理解した(ツンデレに慣れてきた)。
私はベラさんの隣に座った。うざい、あっちに行けと言われたけど無視。持ってきたビールもあけて宴会開始。
なんじゃこのアワアワしたのはと文句言いつつビール堪能するベラさん。
食事しながら、私たちは色々と彼女から話を聞いた。まず昼間の翼竜のこと。ドラゴンって大人しいって聞いたんですけどって言ったら、翼竜とドラゴンは全くの別種の生き物で、そもそもドラゴンは神だと彼女は言った。
「そちらの言うドラゴンとはこれじゃろう」
ベラさんが絵本みたいな大きな本を取って来た。そこにドラゴンが描かれてた。
私たちの世界のドラゴンとは微妙に違うけど、神々しさがそこにあった。なるほど、神だ。
あのハムスターみたいなのが成長したらこうなるのか……しかしこの見てくれで草食でおとなしいって、ギャップが凄いと言うかなんと言うか。
私の話を聞いたベラさんは言った。
「仕方ないのう。ドラゴンは神通力を持っておる故な」
神通力なんかあったら、大暴れしてやるニャーって、
そんな性質になってもよさそうなものですが……。
「ドラゴンが本気になれば、地上を焼き払うことも可能だが、それゆえ、自分たちの力を封じる意味もあって、大人しい性格をしているのかも知れぬ」
そんな物騒な奴とは知らんかった。
食事が終わるころには、だいぶベラさんのツンの皮もはがれて来た。旦那と一緒にシメのうどん作ったりして。旦那は鼻の下伸ばしてましたがっ。
で、旦那がかなり失礼なことを聞いたんだよね。おいくつですかって。
あほーっっっっっっっっっ。
するとベラさん、笑いながら言ったんだよ。女性に年を聞くものではないってね。
良かったな……怒らせなくて……ほんとにこうゆうところ無神経なんたからもう。
次の日。
朝早く家を出ることにした私たち。ベラさんがガイドを買って出てくれた。つまり、エルフの里までだけでなく、買い物に付き合ってくれるって言うんだけども。
でもほんとにいいんですか? って聞いたら、
「食事の礼じゃ」だって。
えー、あんな味噌鍋程度で?
するとベラさん、横むいてコホンと咳払いした。
「うぬらのようなもの知らず、とても危なっかしくて見ておれぬゆえ」
ホントなんなのこのツンデレ。はっきり心配だと言えばいいのにもう。
ベラさんの家のベッドは豪華じゃなかったけどぐっすり寝れた。後で気づいたけど、客間には肖像画が飾ってあった。ハンサムな男の人。耳がとがってないから人間なのだろうか。
さすがにこのことについて聞くのはなんかアカンような気がしたのでやめたが、
もしかしたらベラさんの旦那様だったのかも知れないと私は思う。と言うのも、車止めさせてもらった近くに、お墓があったんだ。
百合の花束が添えられてた。こんなことなら何かお花つんでくるんだったかな。
なんて思ってたら、早く行くぞと急かされて私たちは出発することにした。
で、エルフの里にたどり着いたわけですが、
結論から言うと、ベラさんについて来てもらってよかった。
とにかく連中、口が上手いのなんのって。ベルナールさんの言う通り気づいたらびっくりするほど高いのを買わせようとする。そこにベラさんが割って入って止めてくれたのよ。
「この人族の者どもはワシの友人じゃ。そのつもりで頼む」って感じで。
里の人の間ではベラさん有名人のようで、彼女がついて来てくれたおかげでお値打ちでいいお酒を手に入れることが出来たの。ベラさんの口利きならしょうがないねって言って。
「ほんと、何から何までありがとうございます」
別れ際、お礼を言うとベラさんは言った。墓を掃除してくれたであろう? と。
え、ああ、時間あったんでパパっとですよ? そんな綺麗にはやってませんよと言ったんだが、
「私には何よりうれしかった。こちらこそ何から何まで……感謝する」
そう言ってベラさんは少しだけ頭を下げた。ちょ、そんな、こっちは何もしてないですよ!
そしたらベラさん、ニコって感じで笑ったんだ。
「そんなことはない。私の誘いに応じてくれて、楽しい時間を過ごさせてくれたではないか。本当にありがとう」
ベラさん……。
その後、山を下りるまでついて来てくれた彼女。いつまでも手を振ってくれたベラさん。エルフの里、迷ってたけど行ってよかった……! また絶対来よう。
「ま、何が起きるかわかんねえな」
そう言う旦那は何処か満足そうだった。




