とんでも歓迎会
キラキラ光るシャンデリア。給仕の人が配るシャンパン。
軽くつまめるものも並んでて、みんなそれで一杯引っ掛けてる。私もやーろうっと。
と、そこに、私たちと同じく移住してきた人が話しかけてきた。
田中さんというんですが、私たちより二年ほど先輩なのよ。
お互いに挨拶済ませて、シャンパンを手に取る。
「どうですか、ここの暮らしには慣れましたか?」
そう聞いてくれた田中さんに私は言った。
「おかげさまでだいぶ慣れました。まだジビエとか捌くの苦手ですけど」
「あー、あれは僕もまだ苦手です。何せ日本に住んでいた時は魚も捌いたことなかったですからねぇ」
実は私もなんだよねー。イワシも捌いたことなかったお恥ずかしながらっ。
ここだとなんでも自分でしなきゃいけない。日本だとスーパーの棚に綺麗に調理されて並んでるお肉や魚。それが今まで元気に泳いだり走り回ってたりしたって実感するのはなんとも不思議な感覚でもあるのよね。命を頂いてるって感じで。
そんなことを和気あいあいと話しているうちに、「こんど家に遊びに来ませんか?」と田中さんが言ってくれた。
「いいんですか?」
やっほい。これは嬉しいお誘い。やっぱ同郷の方のお招きは嬉しいもんだよ。
と思っていたら――。
「実は色々と注意喚起しておきたいことがありまして。あんまり大声じゃ言えないので」
となにやら不穏な、とまではいかないかもだけど、ちょっと、え? みたいなことを言ってきた田中さん。
「それは――どういう――」
と言ったのは今まで何も言わずに話を聞いていた主人だ。
田中さんは人のよさそうな顔を曇らせた。
「こんな場所で言うのもなんですが、ここで暮らすといろいろとね。厄介なことがありまして」
まあそれは分かるよ。だって異世界だもん。不自由なことも色々と……
「いや、そうではないんです。ここの人たちはほんとに良い人ばかりですから」
ふえ? だったら何が問題?
もしかしてなんか、怖いモンスターでもいるとか?
すると田中さん、そうじゃないとでも言いたげに首をふった。
「まあこれは、私の家でお話ししましょう。このことは村の連中も辟易してるので」
田中さんの言葉に私たち夫婦は思わず顔を見合わせた。一体何のことやら。
村の人が辟易してる? どゆこと?
「ああ、すみません、せっかくの歓迎会にこんな話をして」
田中さんはそう言ってシャンパンを飲みほした。
あ、いや別にいいんですけど……気になるなぁ。
なんて考えつつ、給仕の人が持ってきてくれたピンチョイスを一つつまむ。
こりこりしゃきしゃきの野菜と、なんかお肉の燻製。
ウマー。
これは美味しい。主人ともども、もう一つ貰おうかな……と思って手を伸ばしかけたその時だ。
田中さんがそっと私に耳打ちした。
「あんまり最初から飛ばさないほうがいいですよ」と。
へ? どういう意味?
とそこで私たち、田中さんの手元を見た。
私も主人もピンチョイスを頂いているんだけど彼はシャンパンのみ。
えーっと、つまり、それって……。
どういう意味?
ちなみに村の人はパカパカシャンパンあけてピンチョイスもどんどんつまんでる。
「ドワーフ族って無茶苦茶食うんです。だからあんまり最初から飛ばさないようにした方がいいですよ」
そう言う田中さんの視線は若干恐怖みたいなのが混じってた。
さあ、お待ちかねの歓迎会。
ちょっと気になることはあるけど、楽しもうと決めた私たち夫婦。
あ、言い忘れてたけど、日本に住んでる息子も来てもらった。とゆーか、
「いいなー、オヤジとオフクロだけずりぃ」
なんて言われたらしょうがないじゃん。
その息子だけど、今年から社会人。一応、こっちの世界の人じゃないってことで、スーツにて参加。ちょっと緊張してる?
テーブルは真っ白なクロスがかかってて、お皿の上にナプキン。おお、本格的だ。
「オヤジ、オフクロ、マナーはちゃんと知ってる?」
息子がからかい気味に言う。もう、それくらい知ってるわよ。
膝の上にナプキン広げて一息ついたところで、村長のアントニオさんが私たちを村人のみんなに紹介。私ら夫婦も照れつつ挨拶した。
さてさて、ようやくディナーの開始である。どんなお料理が出てくるんだろう。ワクワク。
まずは、前菜。野菜となにかシコシコした歯触りのが出た。サラダみたい。
で、このシコシコしたのが美味しかった! なんだろう。クラゲかな? 異世界でもクラゲがいるのかな。
あんまりにも早く食ったもんだから、村長さんの奥さんが、お代わりがいるかどうか聞いてくれた。けど、田中さんがあんまり飛ばしたら後悔すると言ってたからそこは遠慮しておいた。
実はこのクラゲ、例のスライムを干してもどしたものだったらしい。
ちなみにこの時点では私はまだ、滅茶苦茶食うと聞いてたけど、まさか大食いタレントみたいに食うわけじゃないし、なんて考えてたんだよね。
サラダが済むと、マガモのロースト。
ぐるっと綺麗にもりつけられてて、一流のフレンチレストランに来たみたい。
でも量少ない……てことはこれも前菜?
と思ってたら次に来たのが野菜のパテ。それが済むとレバーのパテ。
ちょっと待って。前菜がこんなに続くと言うことは……。
やっとこさメインが来た。ウサギのシチュー。鍋ごと持ってテーブルを練り歩くドワーフの料理人さん。
ちょっとでいいですと懇願したが、料理人さん、ニッコリ笑ってこんもりと私たちのお皿についでくれた。多分、多分だけど、
遠慮してると勘違いされたな! これは!
してないから! 遠慮してないから!
このシチューがまた脂ぎってる。
恐る恐る隣の主人を見る。もうすでに顔色が良くない。
一口食ってみる。美味しいよ。美味しいんだけど。
こおっ。
なんとか食べ終える。でもこれでメインおわりのはずはない。だって前菜があれだけ出たんだから。
するとやはり次が来た。
ここでようやく、私の脳内に、田中さんの言葉がよみがえって来た。ドワーフ族って無茶苦茶食うと言う。
息子をみやる。さすが若いだけあってまだ食えそうな顔はしてる。
次のメインは魚だった。一切れがデカい。しかもこれも脂乗ってる。その事をそれとなく伝えたら、じゃレモンたっぷりかけてあげるって突っ込むところそこじゃない!
ちなみにこの後、珍重されてる一角獣の肉がとれたからとステーキにしてくれて、
そんなこと聞いたら残せない。
そして肉食った後は「やっぱしめを食べないと」って言ってなんとパスタに突入。
それが終わるとパン。
そして「やっぱり甘いものはかかせないよね」って言ってデザートにでっかいケーキ。
ここまでくるとさすがの息子も死にかけていた。
ようやく食後のお茶にたどり着いた私たち。消化を助ける効果があるらしいんだけど、もう何も入る余地がない。
そんな中、ドワーフさんたちは、これから酒でも飲みつつおしゃべりしようと言いだした。
もちろんおつまみ付き。しかもこれが濃ゆいのなんのって。
脂でテカテカ光ってた……わお。
やっとお開きになったのは夜中。
もー、一歩も歩けないくらい胃が限界で。
息子も、今日はオフクロ泊めてくれと言い出す始末。
ただ私は、多分主人も息子だろうけど、一種の勝利みたいな感覚味わってたんだ。
――最後まで残さずに食った!
ただ、その勝利の喜び(いやいやそんな大げさな)も、帰り道送ってくれたベルナールさんの一言で砕け散ったのよ。
「どうだい?あがってうちのが焼いたケーキでも食っていくかい?」
その顔はまだまだ入るよの余裕さえ見えたのであった……。
地獄のような歓迎会だったな……。
翌朝、主人と息子と三人で、日本から持ってきたシジミ汁をすする。
はー、生き返る……。
にしてもこれから、たぶん、村の集会とかあんな感じになるのか。
これは仕方ない。胃袋を鍛えねばならぬ!
体重は鍛えたくないけど……トホホ。
だからと言うわけじゃないんだけど、
昨日送ってもらったことも含めて我が家には移動手段がないことに気付いた私たち。
一応バスみたいなのはあるんだけど(馬車)、やっぱ自分の足は欲しいよね。
てなわけでベルナールさんに相談すると、ほんじゃあ車で商売してる奴いるから紹介したげると言ってくれた。
聞けばエルフの里なんかも近くにあるそうで、薬草の栽培を生業にしてるらしい。車手に入れたら手軽にそゆとこに出かけることも出来る!
「とった薬草でお酒を造ったりしてるらしいよ」とのことで、これから民宿する計画立ててる私たちには耳より情報!
エルフの作ったお酒ですってすごく響きよくない? ねえねえ。
それにしてもエルフねえ。やはり、エルフと言えば人間嫌い。そう思った私。そこでベルナールさんに聞いてみることにした。
「エルフの里に行くには人間の格好じゃ拙いですよね?」
するとベルナールさん、「は?」みたいな顔に。
「え、だって……エルフって」
「それゲームの設定だろ」
あきれ顔の旦那。なんのことだと旦那から話を聞いたベルナールさん。なんと、向こうじゃそう伝わってんのかと驚いてた。
「エルフの連中はワシらより愛想がいいよ。ただし薬草買う時は気を付けなよ。あいつら商売上手だからな」
知らないうちに高い薬草買わされる羽目になってることもあるのだとか。
それは気を付けねばっ。




