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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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最強のサイコパス

2019.09.22 3話投稿(1/3)

 

 エルちゃんとの絆を感じられた翌日、おやっさんの装甲車みたいなキャンピングカーに乗って、ショッピングモールを目指している。


 この車にはおやっさんと俺、そして黒幕のオリジナルだけだ。


 とはいっても、この車に乗っているのが三人だけで皆は別の車でショッピングモールを目指している。俺に何かあった時のための別動隊ということだ。


 本当は俺と黒幕だけで来る予定だったのだが、ここは皆でやるべきだと説得された。それに俺一人で行かせたらエルちゃんに怒られるとニヤニヤしながら言われたからだ。


 昨日、エルちゃんの部屋を出たら皆が外にいた。


 ご丁寧にジュンさんは医者が使うような聴診器をもっていた。そして皆がニヤニヤ、一部は殺し屋のような目でこっちを見ていたので、それだけですべてを理解する。


 銃を抜いて安全装置を解除したね。


 さすがに撃つことはなかったが、すごく居たたまれない。その後、皆から色々と声を掛けられたが多くは祝福的な言葉だった。とある姉妹は「この組合では恋愛禁止のルールを作りましょう!」と言い出したけどそれは皆に却下されたっけ。


 その後、なぜか皆でショッピングモールへ行って俺のサポートをするという話になった。危険だから止めた方がいいとはいったんだが、シェルターに入らずにサポートするという条件で許可を出した。サポートが必要だとは思わないが、皆の気持ちは嬉しい。


 殺し屋同士でも一緒に仕事をするというのはよくあるが、俺はそんなことをしたことがない。色々と新鮮な気分だ。


 そして作戦会議が終わると、そのまま宴会みたいになった。


 食料に余裕があるわけじゃないけど今日くらいはいいかということで、結構遅くまで騒いでいたな。


 エルちゃんも楽しそうにしていたし俺も楽しかった。皆からはエルちゃんとのことでめちゃくちゃいじられたけど。というか盗み聞きしてるっておかしいよな?


 いじられたのは不本意だが、あんなに楽しかったのは何年ぶりだろう。もしかすると、殺し屋になってからは初めてかもしれない。


 いじられるのはごめんだが、また皆で宴会したいものだ。そのためにも黒幕を倒そう。そいつが生きている限り危険だ。俺や皆の安寧のためにも死んでもらう。それが俺に出来る唯一の事だからな。


 黒幕を殺したら本格的に引退だ。サクラちゃん達に畑仕事を教わろう。そしてエルちゃん達と一緒に――おっと、これはフラグと言うやつか。殺し屋にだってジンクスは大事だ。余計なことは考えずに仕事のことだけ考えようか。


 気になるのはミカエル、そして上司だな。


 ミカエルからの連絡はない。おそらく黒幕を殺せなかったのだろう。ならミカエルはどうなったか、だ。


 ラファエルちゃん達には悪いが死んでいるならまだマシだ。黒幕にまた洗脳されて俺を襲うようなことがあるなら結構危険な気がする。


 聞いた話だとじいさんの居合抜きを躱したとか。動体視力や反射神経、それに身体能力が殺し屋並みなのだろう。戦うことになったら相当な覚悟が必要だな。


 でも、洗脳に関してはちょっと思うところがある。黒幕の命令よりも俺の命令のほうが強かったからミカエルは自由になった。だが、改めて命令された場合はどうなるんだろうか?


 ミカエルやラファエルちゃん達は俺が命令したら、ピースメーカーにいた秘書の命令には従わなかった気がする。となると、俺は黒幕よりも強い命令権を出せる訳だから、ミカエルも黒幕の命令には従わないと思うんだが。


 そもそもどういう理屈で命令を聞くのかも分からないし、命令権の強弱というのもよく分からない。ラファエルちゃんの話だと「なんとなくセンジュ兄ちゃんの言葉のほうが聞かないといけないかなって思った」という曖昧な答えだった。


 ウリエルちゃんなんかは、「あの女よりもセンジュのほうが好きだから」という発言をして、エルちゃんがサイコパスモードになってたけど、子供の言うことにいちいち反応しないでもらいたい。


 色々考えたけど、考えても無駄ということが分かった。ラファエルちゃん達のためにもミカエルは助けてやりたいが、どうしても無理なら命を奪う。余計なことをして仕事を失敗したら意味がないからな。


 そしてもう一つの問題は上司だろう。


 たぶんだが上司はショッピングモールのシェルターにいると思う。あの人も俺と同じように仕事の達成率が高い。昔、一回だけ失敗をしたらしいが、失敗はそれだけで達成率はほぼ100%だ。こんな状況になっても仕事を放棄するなんてことはないだろう。受けた依頼は必ず達成する。それがあの人のポリシーで、それは俺にも受け継がれた。


 そんな人が受けた黒幕の殺し。いまだに達成状態にならないということは殺せてはいないわけだ。おそらくシェルターの中で捕まっているのだろう。


 ミカエルと同じように死んでいるならマシ、というか最高なんだけど、生きて捕まっているなら面倒くさいな。


 あの人は俺と共闘なんかしないだろうし、俺がそばに毒を盛ったり、罵倒メールを出したりしたから怒っている可能性がある。いや、逆に喜んでいるか? 俺と殺し合いが出来ると。


 そう考えたら、上司がいつも言っていた言葉が頭に浮かんだ。


「なあ、センジュ。いつになったら俺に復讐してくれるんだ?」


 俺に会うたびに笑いながら口癖のように言っていた。笑いながら言っていたが、冗談ではなく本気だったと思う。おそらく俺を見逃したのも俺と殺し合いがしたいがためだったと思う。


 あの人は殺し屋としても異質だ。大半の殺し屋が殺し屋になりたくてなったわけじゃない。自分ではどうしようもない事情で殺し屋になることが多い。それこそ俺みたいに。


 あのドラゴンファングにいた双子の殺し屋だって好きで殺し屋になったわけじゃないだろう。何かの事情があってそうならざるを得なかったはずだ。だから死ぬことで殺し屋を辞められることに安堵しているように見えた。


 だが、あの人は望んでこの世界に来たと聞いたことがある。


「俺は命のやり取りをしている時だけが生きているって感じがするんだ。それ以外の俺は死んでいるのも同然さ。だから生きるためにこの世界に来た。センジュ、よく覚えておけ。こういう場所でなければ生きていけない人種もいるんだよ。そしてそういう奴等は――つえぇぞ?」


 あの人は結構裕福なところで生まれたらしいが、10歳の頃に海外で誘拐されたらしい。そこで脱走するために初めて人を殺したとか。その時の興奮は今でも思い出せるそうだ。そこで自分は死んだことにして、一人で世界を転々として殺しの技術を学んだとか言ってた。


 本当かどうかは知らないが、10歳でそんなことを思うことがサイコパスだ。そして言葉通りそういう奴は強い。殺し合いでしか生きていることを実感できないのだろう。だから普段の生活に未練がない。


 自分が死んででも相手を殺す、そういう考えの奴らだから似たような奴らと殺し合いをしたときは手こずった。


 その中でも最強のサイコパスが俺の上司なんだよなぁ。いろんな意味で俺には理不尽が付きまとってやがる。


 しかもあの野郎、俺とエルちゃんが接触しやすいようにしていたに違いない。どういった意図があるのかは知らないが、殺す前に聞いておいてやろう。


 しかし、面倒だな。ミカエルとかほかのクローンの子がいなかったら、マコトちゃんにどこかの軍事施設をハッキングさせてミサイルでも落としてやりたい。まあ、シェルターだから意味はないかもしれないけど。もし上司がシェルターにいたら殺してやろう。そして上司の呪縛から抜けてやる。


「そろそろ着くぜ?」


 おやっさんがそう言うとショッピングモールが見えてきた。


「なかなかいい面構えになったが、吹っ切れたか?」


「ずっと黙ってて悪かった。色々考えていただけなんだけど、まあ、吹っ切れたと言えば、吹っ切れたかな。俺は、俺が出来ることをやって皆を守るよ」


「なかなか恥ずかしいセリフだが、まあいいんじゃねぇか? 大丈夫だとは思うが、ちゃんと生きて帰って来いよ。死んだらエルの奴が泣いちまうぞ?」


「こう言っちゃなんだけど、泣くくらいの普通の子なら嬉しいんだけどね。俺が死んだら、なんかすごいことしそうじゃないか?」


「言えてるな。何をするか想像できねぇが、エルにそんなことをさせないためにも気を付けて行ってこいよ!」


 おやっさんはそう言って笑い出し、俺の肩を強くたたいた。


 おやっさんなりの激励なんだろうな。結構痛いがおかげで気合が入った。


 さあ、皆の準備が出来たら突撃だ。


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