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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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理不尽

2019.08.25 3話投稿(1/3)

 

 じいさん達を残して非常口から通路へ戻った。


 ピースメーカーの連中はずいぶんと近くまで来ていたようだ。大体20メートルくらいか。そして一番手前には煌びやかな服を着た教祖らしき男がいる。


 その教祖はずいぶんと笑顔だ。この状態で眉間に一撃入れてやりたい。


 だが、その程度じゃ怒りが収まらない。少し話をしてやってから、ちゃんと殺してやろう。


「センジュ様、先ほどのご老人はどうなりましたかな?」


「ああ、死んだよ」


 俺が何事もなく言ったのが不思議だったのだろうか。教祖は訝し気な顔をしたが、次の瞬間にはまた笑顔になった。


「どうでしょう? 大変理不尽だとは思いませんか?」


「何を言ってるんだ?」


「死ぬことがですよ。寿命で亡くなったのならともかく、訳の分からないことに巻き込まれて死ぬ。なんと理不尽な事ではありませんか。世の中にはそういうことが溢れかえっているということです」


「そういう意味か。そうだな、理不尽だと思う」


「そう、理不尽なのです……ですが、そう、ですが、ですよ? センジュ様、貴方はその理不尽な死を回避できる! もちろん死そのものは回避できませんが、ゾンビと言う新たな命を持って生まれ変わった者に命令が出せるのです! 命令されていないゾンビは厄介ですが、命令されたゾンビ、それは生前となにも変わらない!」


 教祖の奴は恍惚な表情をして語っている。はっきり言って気持ち悪い。生まれ変わる? ゾンビとして生きることが生まれ変わるとでも言ってるのか?


 確かに俺はじいさんをゾンビにする提案をした。ゾンビとして生きることを俺のほうからお願いしたようなものだ。それは死者を冒涜する行為でもある。


 決してじいさんのためじゃない。俺のためだ。俺のわがままにじいさんを付き合わせた。それに生き返ったとか、生まれ変わったなんて思ってない。死による安息を奪って無理やり動かしているだけだ。


 俺の不快な顔に気づかないのだろうか。教祖の奴はそのまま語りだした。


「センジュ様、理不尽な死と言うのは誰にでも襲い掛かるものです。私もこうなる前の世界で妻と子を亡くしました。それはあまりにも突然で死を受け入れることができなかった。今回のパンデミックも同じでしょう。多くの人が理不尽だ、そう思ったはずです。ですが、私とは違い、パンデミックで死んだのならゾンビとして生きているのです。たとえ死んでいても動いている。そこに希望を見出せるのです」


 なるほど。死んでいたとしてもゾンビとして動いているなら生きているのと変わらないと思っているのか。それをこの男は希望と言っているんだな。


 教祖の奴はますます笑顔になった。俺が何も言わないのを聞き入っているとでも持っているのだろうか。


「いかかでしょう、センジュ様? 貴方様はゾンビに命令を出せる。それは多くの人の希望です。ゾンビとなってしまった人達、その家族や友人、そして恋人などの希望なのです。我々ピースメーカーと共にそういう方達を救い、世界の希望となりませんか?」


「その前にちょっといいか?」


「なんでしょうか? 何でもお答えいたしましょう」


 スマホを取り出して写真を撮った。そして検索をかける。


「一体何を……?」


「ちょっと待ってくれ……ヒットしたな」


 そして検索した結果を見る。


 なるほど。こういう奴をあの秘書は洗脳したのか。もしかしたら洗脳された振りをしているのかもしれないな。どっちでもいいことだが。


「なかなか泣かせる話だったよ。家族を失った気持ちはとてもつらいよな」


「おお、ご理解いただけますか!」


「ああ、俺の両親は殺し屋に殺されたからな。それに俺も殺し屋にならないと生きられなかった。あれほど理不尽と思ったことはない」


「は……? 殺し屋……?」


「そしてお前、殺しのターゲットになってるぞ。保険金詐欺をしていたようだな? そもそもお前、家族なんかいないだろう? 書類上、縁もゆかりもない家族に成りすまして金だけ奪ったようだが、どんな手口を使ったんだろうな?」


 教祖の男は明らかに動揺した。そしてピースメーカーの人間たちも動揺の声が上がっている。ここはもっと不審を煽っておこう。


「お前は家族を失ったことはない。理不尽だったのはお前に騙されたほうだ。まあ、そんな昔のことはどうでもいいか。だが、周囲の人間はどう思うだろうな? 詐欺師の言葉に騙されているんじゃないかって思ったんじゃないか?」


「ち、違う! わ、私は本当に……!」


「まあ、お前がまともな人間だったとしても、俺の殺すターゲットになっているけどな。お前は俺が信頼している人間を殺した。だから復讐する。そして、その男を庇う奴も殺す。死にたくなければ武器をすてて地面に伏せていろ。十秒以内に決めるんだな。その時点で立っていた奴は全員殺す」


 そう言ってから銃の弾倉を取り換えた。さっき撃ち終わっていたからな。今のうちに取り換えておこう。


「う、撃て! 生きていさえいるなら腕や足が怪我をしていても構わん! 殺さない程度に撃つんだ!」


 この距離で素人が狙った場所に当てられるわけないだろうに。


 それでも狙いを定めてくる奴らがいた。まあいいだろ。悪人以外は殺さないルールを決めていたが、じいさんを殺そうとした時点で悪人だ。なら殺せる。


 銃を構えた奴は三人。一瞬でその全員の眉間に撃ちこんだ。


 全員がいきなり倒れた三人をみて驚いている。いや、思考が停止しているかもしれないな。これこそが理不尽だろう。


「俺を撃とうとする奴は十秒を待たずに撃つ。安心しろ、この距離で外したりはしないから、間違って撃たれることはないぞ」


 ようやく俺が殺し屋であることを理解してくれたようだ。全員が地面に武器をすてて床に伏せた。


「お、お前たち! わ、私を守れ! わ、私はピースメーカーの――」


「十秒だ」


 全員が伏せたのを確認した後、教祖の腹部に銃を撃ちこんだ。その場所から衣装が赤く染まっていく。あの場所を撃てば助からないはずだ。そもそも助けるつもりもないけど。


 銃を手から離して腹部を押さえているのを確認してから歩いて近寄った。


「た、助けてくれ……し、死にたくない! い、いや! せ、せめてゾンビにしてくれ……! センジュ様、お願いします……!」


「悪いな、もう男を噛むのはこりごりだ。じいさんを噛んでそう思ったよ。悪いがそのまま死んでくれ」


 俺も性格が悪いな。だが、これくらい言わないと気が済まない。


「……ク、クソが! ち、畜生! この俺がゾンビ共の王になるはずだったのに……!」


 男は腹を押さえながら、自身の血だまりに倒れてそのまま動かなくなった。


 最後の最後で自分の欲望を言ったな。詐欺師の時点でろくでもない奴だとは思ってたけどつまらんことを考える奴だ。いや、もしかしたらあの秘書に唆されていたか? どうでもいいけど。


 とりあえず、じいさんの仇は討った。これでここにいる必要はもうない。


 そして床に伏せて震えている奴らを見た。この男に従っていた奴らはもうどうでもいい。じいさんを殺した人間の仲間だろうが、あの教祖に命令されていただけの可能性もあるからな。


「後は好きにしていいぞ。組合を解散してもいいし続けても構わない。だが、俺や俺の知り合いを傷つけたら必ず報復するからそれだけは覚えておけよ。あと、俺は救世主なんかにはならない。組合を続けるなら新しい適合者を探すんだな」


 そう言ってその場を後にした。


 さあ、もう帰ろう。これからマンションで皆に怒られないといけないからな。


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