表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/93

宴会

2019.07.28 3話投稿(3/3)

 

 宴会がそろそろ始まろうとしている。


 会場は屋上だ。さすがにどこかの部屋でやるには狭すぎるので、屋上に椅子やテーブルを並べたようだ。質素ではあるが、今の状況を考えたらこんな物でも上等だろう。


 どうやらバーベキューをやるようだ。どこかの部屋にあったキャンプ用品を持ってきたと思う。このマンションって結構なんでもあるな。それだけ色々な人が住んでいたということか。


 周囲には明かりになるライトが屋上の柵と言うか囲いにたくさん取り付けられている。あれはおやっさん達が用意したものらしい。車のライトだろうか。自動車のバッテリーなんかを利用して発電しているのかも。


 しかし屋上にいる大半は男だ。女性陣はバーベキューで焼くための食材を取りに行っているらしい。エルちゃんが言うにはみんなで用意していたとか。


 こういう時、男はあまり出番がないな。料理が得意な男もいるだろうが、この場にはいないようだ。男達は待っているだけだが、徐々に食材が屋上へ運ばれてきた。まだ焼いてもいないのに全員が食材に釘付けだ。


 全部の食材が運ばれて、全員がそろった。じいさんも病院から帰って来ていたようだ。


 全員に紙コップが渡されて、思い思いの飲み物を注いでいた。男性陣はビールが多いかな。女性陣はソフトドリンクだが、ジュンさんだけはビールのようだ。


 俺はソフトドリンクだな。そもそも酒には酔わないように訓練したからビールは苦いだけで楽しめない。おやっさんが飲む量を増やすためにもソフトドリンクにしておこう。


 しかし、どうしたんだろう? なかなか始まらないようだ。もうすでに飲み物は全員持っていると思うが。


「おう、センジュ、一言なんか言って乾杯してくれよ。この組合のリーダーだろ?」


 おやっさんが無茶振りしてきた。俺がそういうことをしたことがあると思ってんのか。殺し屋だぞ。


「あのな、俺はこういう宴会が初めてなんだよ。だいたい、会社で宴会なんてなかったし、何を言っていいのか分からない」


 なんだか、すごく同情的な目で見られた。いや、殺し屋の会社で飲み会なんてないだろ? 新人歓迎会だってない。


「なんだっていいんだよ。そうだな、俺達はお前のおかげでこの世界を生き延びれたようなもんだ。これからも一緒に頑張ろうぜ、みたいなことを言えばいいんだって」


「……仕方ないな。あー、それじゃ適当に言うけど、俺のセンスに期待するなよ?」


 一度咳払いをしてから皆を見渡す。


「本来だったら会うこともなかった皆がここで一緒に宴会をするというのも不思議な感じがする。でも、世界がこんなことになり、色々あって皆と出会えたのは何かしらの縁があるんだろう。その縁はこれからも大事にしていきたい。これからも大変なことはあると思うが、皆で力を合わせて頑張ろう……それじゃ、乾杯」


 全員がポカンとしている。もしかしてこういうことじゃないのか? くそ、恥かいた。


 そう思った直後に、全員が笑顔になって乾杯をしてくれた。もしかして、あまりにも意外な言葉だったからびっくりしただけか?


「センジュさん! 私、感動しました!」


 エルちゃんが近寄って来てそう言いだした。テンション高いけど、それ、お酒じゃないよね? 未成年はダメだぞ?


「これからも一緒に頑張りましょうね!」


「それはいいんだけど、最近、一緒という言葉を強調し過ぎじゃないかな?」


 エルちゃんは俺の疑問に回答することなく、バーベキューの食材を焼き始めた。料理と言えばエルちゃんだから、今日はあれに徹するのかな? まあ、ほかにも焼いている人がいるみたいだし、交代しながら楽しんで欲しい。


 しかし、一緒に、か。ここが安全になったらどうするべきか……まだ答えは出ないな。でもいつかは答えを出さないと。残るべきか去るべきか。難しいな。


 そんなことを考えていたら、おやっさんが近づいてきた。


「さっきの言葉はなかなかよかったぜ?」


「おやっさん、あんまり無茶振りしないでくれ。せっかくの宴会なのに俺の言葉で最初からつまずいたら楽しさが半減するだろ?」


「そんなこと気にすんな。失敗したってそれはそれでネタになるもんだ。それにさっきも言ったが、いい言葉だったぜ? こんな世界でも希望がありそうな感じで俺は好きだぞ」


 そういうものだろうか。まあ、少しでも頑張ろうという気持ちが沸いてくれたのなら嬉しいところだが。


「それで、センジュ。聞きたいんだが、お前、誰狙いだ?」


「いきなり何の話だ? ここにターゲットはいないぞ?」


「殺しの話じゃねぇよ。どの子が本命だって聞いてんだよ。こんなに美人な子たちに囲まれて、何も思ってないってことはないだろ? 誰にも言わねぇから言ってみろよ」


「その年で恋バナ好きとか言うなよ? 生きるのに精いっぱいでそんなことは考えたこともない」


 エルちゃんのアピールに関してはなんとなく思うところがあるけど。


「そうなのか? 俺はエルが本命だと思ったんだがな? 対抗にモミジあたりで、大穴でサクラだと思うがどうよ? マコトはねぇと思うが、ジュンあたりは可能性がありそうだけどな?」


「俺のスーツの内側には装填済みの銃があるとだけ言っておく」


「ハハッ、そりゃ怖いな。わかったわかった、若い奴をからかうのはここまでにしておく。でも、まあ、こんな世界でも恋愛は大事だぞ? そう言うところはウチの若いもんを見習ったほうがいい」


「そのツラで恋愛とか言うな」


 おやっさんは「そりゃそうだ」と笑いながらこの場を離れた。どうやらコップのビールがなくなったようだ。


 それにしても恋愛ね。こんな時によくそんなことが言えるもんだ。もっと生活にゆとりが出来ないと無理だろうに。


 とはいえ、よく見ると、男性陣と女性陣は結構楽し気に話をしているな。合コンではないが気の合う相手を探しているのだろうか。まあ、悪いことじゃないよな。


 他も見渡すと、じいさんとマコトちゃん、そしてラファエルちゃん達が集まって話をしているようだ。


 何を話しているのかは分からないが、マコトちゃんと三人の子達は楽しそうに串にささった食べ物を食べていて、じいさんはそれを優し気な目で眺めている。なんだか祖父と孫って感じだ。


 じいさんには嫁さんも子供もいないはずだ。医者ではあるが殺し屋も兼ねていたから当然だな。心の中では子供や孫に囲まれて生きることを望んでいたのだろうか。


 ……いや、望んでいるよな。ドラゴンファングにいた双子の殺し屋が言ってた。好きで殺し屋になる奴なんていないと。殺し屋になるなんて何かしらの事情がなければやるわけない。じいさんだって殺し屋をしているのは不本意だと思っているはずだ。


 まあ、俺の上司は好きで殺し屋をやっている可能性はあるけどな。しかし、あの人、本当に死んだのか? ミサイルで撃たれても死ぬとは思えないんだが。罵倒メールを送っても返信がないし、報復にも来ないから死んだとは思うけど。どんなに化け物でも死ぬときはあっさりだな。俺も気を付けよう。


「あ、センジュさん、こんな端っこで何やってんですか? 楽しんでます? 私? 私は楽しんますよ! でも、男が寄ってきません!」


「ちょっとお姉ちゃん! センジュさんが面食らってるから! すみません、センジュさん。どうもお姉ちゃん、ビールを飲んでしまったみたいでテンションが上がってて」


「ああ、うん。でも、うざさはそう変わらないから大丈夫だよ」


 サクラちゃんの場合、酔っぱらってても平常運転みたいなものだ。


「さて、センジュさん。念のため聞いておきますが、誰狙いですか?」


「お前もか」


「私の見立てでは、本命がマコトちゃん、対抗にエルちゃん、大穴で私ですかね! あ、モミジは駄目ですよ! 姉より先に男がいるなんてあり得ませんから!」


「もしかして、まだロリコン疑惑があるわけ? ちょっとお話しようか?」


「もう、お姉ちゃん、センジュさんに失礼でしょ! 本命はエルちゃんだって! 対抗でジュンさん、大穴でお姉ちゃんなのはあってると思うけど――センジュさん、お姉ちゃんはオススメしませんよ? 絶対に苦労します」


「うん、二人ともちょっと正座しようか?」


 女の子が恋バナ好きなのは知ってるけど、なんで俺をネタにするのか。ほかにも男性はいっぱいいるだろうに。


「ちょっとセンジュ君? 二人を正座させて何してるの? まさかとは思うけど、そういう性癖とか言わないわよね? はぁ、これだから男は……!」


「ジュンさん、もしかして酔ってます?」


「酔ってないわよ? でも、男って本当ダメよね。なんで一人の女性で満足できないのかしら。まあ、満足できない奴らがたくさんいたから私の事務所が儲かっていたんだけど」


 酔ってないと言う奴は大体酔ってる。なんとなく危険だな。


 でも事務所が儲かる? ああ、確か浮気調査専門の探偵だと言ってたな。そういう男のダメな部分を見過ぎて男嫌いになったのかもしれない。


「いい、センジュ君。いい男というのは女性に一途であることが条件なのよ? 自分だけを見て、自分だけを愛してくれる、女は皆、そんな白馬の王子を待ってるの……ああ、私にもそんな王子が来て欲しい……!」


 すごく切実そうだ。しかも白馬の王子ときた。もしかしてジュンさんは純情なのだろうか。というか、俺って説教されてるのか?


「センジュさん? なにやら楽しそうですね? 女性を三人も侍らせて何をしてるんですか?」


「エルちゃん、これが楽しそうに見えるの? あと、右手の串をこっちに向けないで。それは刺すものじゃないからね?」


 楽しい宴会のはずなのに、命の危険がありそうなのはなんでだろうな? 仕方ない。まずはエルちゃんの誤解を解くか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ