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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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会議

2019.07.21 3話投稿(2/3)

 

 俺の部屋にじいさん、おやっさん、そしてジュンさんが集まった。


 あの子達はマコトちゃんの部屋でゲーム中だ。一応エルちゃんとサクラちゃん、それにモミジちゃんがいるから大丈夫だろう。ほかの皆は畑仕事をしたり、マンションの周辺を探索したりと、自分にできる事をやっているようだ。


 俺も俺がやるべきことをやっておかないとな。


 とりあえず、朝食後にあの子達と話した内容を伝えた。あの子達は俺が適合者であることを知っており、ミカエルって子がここへ迎えに来るのを待っている、という内容だ。


 最初に口を開いたのはじいさんだ。


「お主、適合者になったのはあの子達に噛まれたからなのか?」


「あの子達、というよりは、ラファエルちゃんだな。あのおかっぱの子。パンデミックが発生しているのに気づいてマンションに戻ったらエレベーターの中にいてな、とっさに躱せなかった」


 そのあとマンションの外へ放り投げたけど、怒ってないよな?


「なあ、センジュ。お前、ミカエルって子が来たらどうすんだ?」


 おやっさんが心配そうに――してないな。いつも通りに聞いてきた。


「さて、どうしようか? そもそもミカエルがなんで適合者を探しているのか全く分からないから、まずは理由を聞く必要はあるだろうな。とりあえず、人間に敵対してないとのことだが、適合者に対してどう思ってるかは分からないからそれなりの準備をしてから行くつもりだ」


「行くってどこへ?」


「もちろんミカエルのところ。あの子達が待っているように言われたビルがあるらしい。そこでミカエルの帰りを待つよ。もちろん、俺だけがいたらまずいだろうから、あの子達も一緒だけどね」


 まだ、ミカエルって子が仕事中ならいいんだけどな。すでにビルにいて、怒っていたらまずい。あの子達にミカエルの好きな物でも聞いておくか。なにか手土産が必要な気がする。


 いつの間にかジュンさんがこちらを睨みつけるように見ていた。でも、これってこの人の標準らしい。怒っているわけではないそうだ。


「まさかとは思うけど、一人で行くの?」


「そのつもりだよ。ほかの人がいても危険が増えるだけでメリットがあまりないからね」


 じいさんが言うにはミカエルは相当強いらしい。でも、俺一人なら何とかできるとは思う。


「言っておくけど、この組織は貴方で持っているようなものよ? 貴方に何かあったらすぐに崩壊してしまうわ。レンカの時は任せてしまったけど、今回はもっと危険なんでしょう? あまり危険なことはしてほしくないんだけど?」


「いや、俺が死んだとしても大丈夫だよ、じいさんもおやっさんも、それにジュンさんもいる。何の問題もないさ」


 俺がそう言うと、三人が同時に溜息をついた。


「お主、馬鹿じゃな」


「この馬鹿」


「そういう残念なところは、逆に魅力なのかしらね?」


 なにか酷い言われようだ。馬鹿って言う奴が馬鹿なんだぞ。


「センジュ、言っておくがこの周辺が安全なのはお主の適合者としての力じゃぞ? そのお主がいなくなったら、こんなところに住めるわけがなかろう。ここにいる全員が、いや、この町に住んでいる者全員がお主の力なくては生きられん。お主に危険なことを任せるのは心苦しいが、お主は生き延びることを第一に考えるべきじゃ」


 危険なことをさせるのに生き延びろ、か。なんという矛盾。でも、確かに俺には危険な事しか出来ないんだよな。殺し屋ってつぶしが効かないね。


 だが、それはそれとしてそれにちゃんと言っておかないといけないことがある。


「この際だからちゃんと言っておくが、ここが安全になったら俺は田舎のほうへ行くから、その心構えだけはしておいてくれ。ずっといる訳じゃないんだ。できるだけ俺がいなくなった時のことを考えて行動してほしい。まあ、今すぐってわけじゃないけど、危険なことをしていたらいつ死ぬかは分からないからな」


「なんだ、エルちゃんと二人で逃避行か?」


「おやっさん、そういうことは言わないでくれ。エルちゃんに聞かれたら大変だから。だいたい、おやっさんにはエルちゃんを任せたいって言わなかったか?」


「あれだけ好かれてんのに置いてくのかよ? 大体無理だろ。どう考えてもお前を探しに行くぞ。モテる男はつらいな、センジュ」


 引き金を引きたい。心臓はダメだが、足に一発くらいいいんじゃないだろうか。


 好かれているのは嫌じゃないが、俺はエルちゃんみたいな子と一緒にいちゃいけない人間だ。


「知ってるだろ、俺は殺し屋だ。人を殺して生きてきたクズだぞ? 最近、それを忘れていたけどレンカを見て思い出したよ。俺は普通の人と関わって生きていていい人間じゃない」


「それは儂も同じじゃぞ? だが、胸を張って一般人と関わっておる」


「俺も元は殺し屋だったが、気にしてねぇけどな」


「私も社会的に殺してきた浮気男が何人もいるわよ」


「お前らはもっと気にしろ。一般人に迷惑かけるな。それに殺し屋ってことだけじゃない。俺は適合者だ。なんで俺が手袋を外さないのか分かるだろう? 人に触ることすら危険なんだよ」


 このことは三人に意外と効いたようだ。誰もが唸って二の句を継げない。俺の勝ちだな。


 だが、爺さんが口を開いた。


「のう、センジュ。儂は今、ウィルスを無効化するワクチンを作っておる。作っているとは言っても現在はウィルスを調べているにすぎないがな」


「……それは知ってるが、それがどうしたんだ?」


「ワクチンが完成すれば、お主のひっかきや噛みつきでゾンビになる者はおらん。なら一緒に暮らしても大丈夫じゃぞ?」


「それはまあ、そうかもしれないが」


「これは年寄りからの忠告みたいなものだが、一人での生活と言うのはつらいものがあるぞ? 儂のような年よりならともかく、お主のような若い者が誰とも接触せずに生きるなんてことはおそらく無理じゃ。都会で一人暮らししているのとは意味が違う。田舎で一人だけなぞ、ただ死なないだけの生活しかない。それに楽しみを見出せるならいいが、そもそも、お主、人殺し以外何もできんじゃろう?」


 痛いところを突いてきやがる。確かに料理もできなければ、畑仕事も出来ない。種をまけば適当に食べ物が作れるのかと思ってたし。


「なあ、センジュ。俺達アイアンボルトの連中も田舎に行くって言ってたが、止めることにしたんだよ」


「そうなのか?」


「ああ、俺たちの場合はゾンビに襲われるのが嫌だから田舎のほうへ逃げようとしていたんだが、ここは安全だろ? だから逃げる必要はねぇってことだ。それに若い奴らがここにいる女の子たちにお熱でな、なんとか守ってやりたいんだと」


「それだったら私も言うけど、アマゾネスの女の子たちはやっぱり男性に守られたいみたいよ。いままでは女の子たちしかいなかったから強くなるしかなかったけど、やっぱり男手があると色々と頼りになるみたい」


 なんだか青春してるな。ゾンビが溢れかえってると言うのに。まあ、こんな時だから、かもしれないけど。


「今、この町が安全なのはお主のおかげじゃ。安全だからこそ、多少の余裕もできておる。それはここだけでなく病院でもそうじゃ。ゾンビたちが協力的なので研究が当時よりもはるかに進んでおる。これらの成果はお主のものと言ってもいいじゃろう」


 なんだかずいぶんと持ち上げられているな。まあ、ゾンビに襲われないというのは一番大事な事だからな。


 でもな、それは俺じゃなくてもいいんじゃないか?


「なら、ほかの適合者がいるらしいから、そいつを連れてくるよ。そいつに頼めばいい」


「ちょっとセンジュ君。それは駄目よ。大体、適合者はこの世界で王と言ってもいいのよ? そんな人が誰かの言うことを聞くわけないじゃない」


「でも、それは俺にも当てはまると思うけど?」


「貴方はそんなことをしないわよ」


 なんで断言されるんだろうか。確かにそんなことしないけど、ずっとしないとは言い切れないと思うぞ。


 でも、まあ、皆がここに居てくれって言ってるのか。レンカを埋葬した後、確かにここに帰ってきたいと思った。今の俺の生きる意味がここにあるような気がしたからだ。俺はここにずっといてもいいのだろうか?


「おう、センジュ、迷うってことは、皆を残していくのがちょっとは嫌なんだろ? なら悩んでいる間はここにいろよ。そもそもお前には友達ってのがいねぇから田舎なんかへ引っ込もうとするんだ。このマンションには美人さんも多いんだし、年齢の近い男達もいるだろ? 誰もお前が殺し屋だって気にしねぇんだから、ちょっとは仲良くなってみたらどうだ?」


「友達がいねぇは余計だ。だが、まあ、確かにそうだな、出ていくにしてもすぐに出ていくわけじゃないから色々考えてみる」


 少し重すぎに考えているだけなのかもしれない。こんな人殺しの俺でも受け入れてくれるならこのままでもいいのかな。


 でも、どうも考えがフラフラする。ちょっと言われただけでここに残ってもいいと思ってしまうなんてな。復讐を果たしたからそう思えるようになったんだろうか。


「そこでだ、センジュ」


「おやっさん? まだ何かあるのか?」


「仲良くなるには酒が一番だぜ? ちょっとホテルに行ってアルコール系の飲み物を取って来てくれねぇか? 昨日、外にあったトラックを見たんだが、あれなら大量に物資を運べるだろ?」


「おい、お主はまだ病人だぞ、酒なんて飲ませるわけないだろうが」


「じいさん、酒を飲まねぇ方が調子悪くしちまうよ。ちょっとくらいいいじゃねぇか」


「ちょっと、うちの子達に飲ませようとするなら許さないわよ。私は飲むけど」


「未成年に飲ませる訳ねぇだろ、俺の飲む分が減っちまう。というか、アンタは飲むのか……女性陣はソフトドリンクでいいじゃねぇか?」


 今日の夜は宴会をすることになった。そのためにホテルから物資を取って来てくれって話になったわけだが、当然俺が行くわけだな。俺が行くとは一言も言ってないが、すでに決まっているみたいだ。


 仕方ない、これくらいはやってやるか。


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