表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/93

高天原農業大学

2019.06.09 3話投稿(3/3)

 

 サクラちゃん達が通う農業系の大学、高天原(タカマガハラ)農業大学までやってきた。


 敷地はどれくらいあるのかは分からないくらい広そうだ。サクラちゃん達の話だと、自分たちも敷地を全部歩いたことはないらしい。農業から畜産、さらには海産まで幅広い学部があって研究施設も充実しているとか。


 俺もこういうところで青春を謳歌したかったね。


「学校とかは避難所に指定されることも多いみたいですけど、ここはそんな風にはなってませんね? 入口は開いているし、人の気配も感じません」


 エルちゃんが周囲を見渡しながらそう言った。


「確かに。でも、ゾンビがいるかもしれないから、できるだけ単独行動はしないようにね」


「どうしてみんなは私を見るのかな? 銃ならともかくほかのことで我を忘れたりはしないよ?」


「お姉ちゃん、センジュさんのマンションに入るなり「いい部屋は貰った!」とか言いながら突撃したのを忘れたの?」


 オートロックのガラスにぶつかっていたけど、大丈夫だったんだよな?


 それはいいとして、さっそく中に入ろう。でも、広すぎるから道案内が必要だな。


「食料がありそうな場所ってどこか分かる? 誰かに道案内を頼みたいんだけど」


 どうやらモミジちゃんが案内してくれるようだ。野菜や果物の品種改良をしている研究室があるとか。お米とかもないかな。




 モミジちゃんに連れられて移動しているわけだけど、ハッピートリガーの皆は周囲を警戒するのが上手いな。チームワークがいいというかなんというか。お互いに信頼しているのだろう。


 エルちゃんやマコトちゃんも同じように信頼したり、されたりするといいんだけどな。エルちゃんをおやっさんのところに預けようかと思ったんだけど、どっちがいいかな。やっぱりサクラちゃんやモミジちゃんという女性がいるほうがなんとなくいい気がする。


 まあ、エルちゃんは俺と一緒に田舎へ行くと言ってたけど。そういうことは事前に本人に話をしておいて欲しい。いつの間にそんなことになっていたのだろうか。


 もしかして俺が無事なら世界を救うとかいう考えもなくなってる? 一度ゆっくり話をしないとダメだな。ここのところ忙しいから二人っきりで話ができない上に、エルちゃんの中で話がまとまっているのが怖い。


 食料を確保できれば少し余裕が出来るだろう。その時にちゃんと話すか。


「センジュさん、どうかしました? なにかすごく考え込んでいるみたいですけど」


 エルちゃんが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。


 君のことを考えているんだよ、エルちゃん。


 でも、そんなことを言ったら勘違いで暴走しそうだから言わない。悪い気はしないんだけど、大変な子に好かれているような気がする。コンビニの客と店員だけの関係だったらよかったのに、俺はなんであの仕事を請け負ってしまったのか。


 過去を悔やんでも仕方ない。とりあえずごまかそう。


「広い大学の割には誰もいないなって思ってね。人もゾンビもいないから逆に不気味だよね」


「確かにそうですね……でも、ところどころに血の跡がありますよ? ゾンビも人も以前はいたんですかね?」


「その可能性はあるね。でも、それならどこへ行ったんだろう?」


 この大学にはもう人がいないからゾンビもどこかへ行ってしまったとか、そういうことなのだろうか。


「センジュさん、つきました。ここがさっき言った研究棟です。マコトちゃん、悪いんだけど、警察署でやったように入口の電子ロックをハッキング出来る? 実はそれを期待してここに来たんだけど」


「おっけー、任せて。こういう場所のセキュリティなら大したことはなさそうだし、すぐに終わるよ」


 モミジちゃんがマコトちゃんにハッキングを依頼したようだ。


 ロックされているなら中は手つかずだろう。なら食糧とか期待できそうだ。あとマンションでも作れるような野菜の種とか苗があれば最高なんだけどな。


 すると、ガチャリ、と鍵の開く音が聞こえた。どうやらもう終わったようだ。


「ほい、開いたよ――」


「うぼぁ」


「ひゃ!」


 マコトちゃんが鍵を開けた扉からゾンビが大量に出てきた。マコトちゃんは驚いてしりもちをついている。まずい!


 そう思ったと同時にエルちゃんが飛び出してバットでゾンビを殴っていた。それにハッピートリガーの皆がエアガンでゾンビに一斉射撃をしている。ゾンビを倒すことはできないが、後退させることはできるようだ。


「止まれ!」


 大きな声でそう命令する。そこでようやくゾンビたちは動きを止めたようだ。


「あー、びっくりした」


「マコトちゃん、大丈夫かい?」


「ああ、うん、大丈夫。皆のおかげで噛まれたりひっかかれたりはしてないよ」


 しりもちをついているマコトちゃんの近くにより、手を貸して立たせてあげた。見ていた限り噛まれたりひっかかれたりしていないのは大丈夫だろう。エルちゃんのおかげでそれほど接近はされていなかったようだし。


 でも、エルちゃんは大丈夫だろうか。一番ゾンビに近づいていた。


「エルちゃんはかなりゾンビの近くに接近していたけど、大丈夫?」


「私は大丈夫ですよ。でも、この場を離れたほうがいいかもしれないです。なんか入口で止まっているゾンビの後ろからたくさんのゾンビが出てこようとしてますよ?」


 そちらを見ると、確かに入口のすぐそばにいるゾンビは立ち止まっているが、その後ろからほかのゾンビが前に出ようとしている。おそらく俺の声が奥まで届かなかったのだろう。


 どうする? 一度ここのドアを閉めたほうがいいか? それともゾンビを全部外に出して中に入ったほうがいいか? 俺じゃ判断できないな。


「モミジちゃん、中のゾンビを外へ出すべきかな? それとも入口を一度閉じ込めるべき?」


「食料がありそうなのはここだけなんです。でも、このゾンビ達って、もしかしたらここに避難した人達でしょうか? 見覚えのある人はいないんですけど、たぶんここの生徒ですよね? なら食糧はもうないかも……」


 食料があるのはここだけか。それに避難していた人たちがここで籠城していた可能性もあると。食料はないかもしれないけど、ここまで来たのなら調べるしかないよな。


「分かった。なら時間はかかるけどゾンビ達を少しずつ外へ出して整列させよう。皆は周囲の警戒と入口からあふれ出すゾンビの牽制をお願いするよ。俺がドアの正面に立つけど、俺が反応できなかったら殴ったりエアガンで撃ったりするようにしてね」


 皆が真剣な顔で頷いた。


 それじゃ、中にいるゾンビを全部外に出していこうか。




 入口は狭く、ゾンビは多い。入口付近の五体くらいしか命令が届いていないようだ。少しずつゾンビに命令を出して、外に整列させる。


 そろそろ百人になりそうなところで、エルちゃんが近づいてきた。


「あの、センジュさん、ちょっと気になるんですけど」


「うん? 何が?」


「ここにいるゾンビって全員が男性ですよね? もしかしたらもっと奥には女性のゾンビがいるかもしれませんけど、こんなに偏るものでしょうか?」


 言われてみるとそうだ。女性のゾンビが一体もいない。今までの場所にはそれなりの割合で女性のゾンビもいた。でも、ここには一体もいないようだ。


 ここ以外の場所に女性だけのゾンビがいたりするのだろうか? いや、その疑問は後でいいかな。もしかしたらこの先女性のゾンビだけになるかもしれないし。まずはここのゾンビを全員外へ出してしまおう。


「どういう理由なのかは分からないけど、まずは全員を外へ出すよ。もう少しだと思うから、その後で調べてみよう」


「分かりました」


 さて、あとどれくらいかは分からないが、ちゃっちゃと進めてしまおう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ