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スローライフ・オブ・ザ・デッド  作者: ぺんぎん


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スーパーヴァルハラ

 

 エルちゃんを助けてから3日経った。


 なんとなくぎこちない雰囲気があるけど、エルちゃんは笑顔で話をしてくれる。それにコンビニにあるお菓子やカップ麺なども普通に分けてくれた。


 お互いの主義主張は異なるけど、それをぶつけあうような感じでもない。お互いに、まあ仕方ないよね、という感じに落ち着いたと思う。ただ、エルちゃんは何を考えているか分からないところがあるから、ちょっと、いや、かなり心配だ。


 さて、それはそれとして、別の問題がある。


 さすがにお菓子とカップ麺だけじゃつらい。お菓子だけでもいけるんじゃないかと思っていたけど、そんなことはなかった。なにか普通の食べ物が欲しい。


 エルちゃんは自分よりもお菓子だけの生活だったはずなので、大丈夫なのか聞いてみた。


「施設育ちですからね、そんな贅沢は言えませんよ。栄養よりもカロリー」


 エルちゃんがたくましいのは、施設で育ったからなのかもしれないな。実際の状況は知らないが、施設に食べ物があったら食うか食われるかの状況だったのかも。


 そんなこともあって、マンション内の全部の部屋を漁ってみたのだが、めぼしい食料は無かった。冷蔵庫もあったのだが、さすがに1週間以上経っている物が多くて食べちゃいけないような感じになっていた。それに一人暮らしが多いせいかろくなものがなかった。冷蔵庫に練りわさびとタバスコだけってどういう食生活なのだろうか。


 ただ、ペットボトルの飲料水やお茶、ジュース、それに缶ビールをいくつか見つけた。缶ビールは俺もエルちゃんも飲まないからどうでもいいけど、水やお茶はありがたいな。外の自販機で普通に買えるけど、補充されるわけじゃないからいつかは無くなるし、物資は多いほうがいい。


 他の物資を取りにショッピングモールへ行こうとも思ったけど、運ぶ手段がなかった。エルちゃんのスポーツバックやほかの部屋で見つけたバックだと、あまり持って帰って来れないから近くのスーパーへ行ってみることにした。ショッピングモールはちゃんとした車を見つけてからだな。


「さて、予定通り今日は近くのスーパーへ行ってみるけど、エルちゃんは待ってていいんだよ?」


「いえ、私も行きます。ゾンビのいる世界で生きるにはサバイバル技術が必要ですから。それにセンジュさんに頼ってばかりだと、いつか田舎へ行ってしまったときに大変になりそうなので。それにセンジュさんの近くにいたほうが一番安全ですからね」


「そうか……確かにそうだね。わかった、一緒に行こう」


 エルちゃんとこの3日間、色々話をしたが、一緒に田舎へ連れて行って欲しいとは言わなかった。


 なにか目的があるのか、それはわからない。でも、この都会にいたいのだろう。もしかしたら、どこへ行っても意味はないと思っているのかもしれないな。




 今日は初めての遠出だ。近所のコンビニに行くのとはわけが違う、入念に準備をする。


 エルちゃんはあずき色のジャージ姿に愛用のバット「ミョルニル」。それと荷物を運びやすいようにスポーツバックを肩にかけている。


 あと装備ではないが、ほかの人の部屋で見つけた化粧水とか乳液みたいのをつけている……らしい。自分は何もつけないから良くわからないが、マンションの中で高価な化粧水を発見したときに、エルちゃんはガッツポーズをしていた。こんな時でもおしゃれというか、身だしなみは大事だそうだ。


 エルちゃん曰く、「女は命よりも化粧。それにすっぴんは裸で歩くのと変わらないんです」らしい。男の俺にはまったくわからないし、すっぴんでも可愛いと思うのだが、素直に感心した。世の中から男がいなくなっても女性は生きていけるんじゃないだろうか。


 とはいえ、今は男がいるわけで、女性に色々な荷物を持たせておくのはよろしくない。スポーツバックは俺が持とうかと聞いたら、行きは大丈夫だから帰りにお願いしますと言われた。行きも帰りも自分でいいんだけど、何もできないと思われたくないのか、かたくなに渡してくれないからそれでいいことにした。


 俺は普通の服に武器はなし。自分の場合はゾンビに命令できるみたいだし、襲われることもないから必要ないだろう。ゾンビがあふれているこの状況でなら、武器は無くても相当なアドバンテージがあるわけだし。


 しっかり準備をしてから、二人でマンションを出た。


 マンションの入口には10人のゾンビがいる。このマンションにいたゾンビたちだ。意外とゾンビだらけだった。あの色白の幼女がやったのだろう。


 入口でこのマンションへの侵入者を防ぐように命令した。周囲を徘徊したり、ここに集まったりして、生存者やゾンビを寄せ付けないようにしてくれている。


 色々試してみた結果、結構複雑な命令も聞いてくれるようだった。自分やエルちゃんを襲わないように、とか、エルちゃんの命令も聞くように命令することもできた。


 ただ、命令が多すぎると、最初の命令が解除されてしまうようだった。襲うなという命令がなくなってエルちゃんに襲い掛かった時は大変だった。その日の夕食はとても少なかったな。俺のせいじゃないと思うんだけど。


 すごいと思ったのは、不動産屋からマンションのマスターキーを持ってきてくれたところだ。結構適当な命令だったのに、時間はかかったが普通に持ってきてくれた。


 他にも色々と分かったことがある。どうやら生前の知識にないことは命令してもできない。


 お隣さんの殺し屋は毒を作れるけど、ほかのゾンビには作れなかった。そもそも命令したら首を傾げた。ゾンビが首を傾げるって、本当は死んでないのかと怪しんだくらいだ。


 でも、ちゃんと心臓は止まっているし、仮死状態という状態でもなさそうだった。医学的にはどういう感じなんだろうね。その辺りは医者じゃないと分からないだろう。


 あの動画に出ていた博士という奴が生きていれば聞き出せたかもしれない……いや、まてよ? あの博士はゾンビになった。なら俺の言うことを聞いてくれるかもしれないな。ワクチンを作ってくれと言えば、作ってくれるかも?


 まあ、どこにいるか分からないけど。


 そうそう、ゾンビに命令しても絶対に遂行するという感じにはならない。適当なところで諦めるようだ。薬局で薬を取って来てくれと命令したら、何も持たずに帰ってきた。


 あとから薬局へ行ったら、入口が閉まっていた。窓を壊せば入れただろうけど、そこまでして入ろうとはしないみたいだ。


 おそらく不動産屋のほうは入口の鍵が開いていたんだろう。それに鍵をしまっておくような場所も普通に開いていたんだと思う。見に行ってないから分からないけど。


 たぶん「窓を壊してでも薬を取って来て」と言えば、やってくれるかもしれないが、どこまでのさじ加減で窓を壊すのか分からないので、このあたりは保留だ。あとで実験しないとダメかな。


 というわけでスーパーへは自ら行くことにした。事細かに指示すればゾンビが行って物資を取ってくれるかもしれないが、指示が多すぎて、最初の内容を忘れられたら意味がない。


 さて、それじゃ行くか。ここから一番近い場所だと、「スーパーヴァルハラ」かな。何か残っていればいいんだけど。




 一番近いと言っても歩いて20分くらいかかる。それに周囲を警戒しながらだから倍の40分くらいかかった。


 思ったよりゾンビはいなかった。いても「あっち行ってて」と言えば、適当に移動してくれる。命令できるのはいいんだけど、難点と言うか常識と言うか、言葉にしないとダメなんだよな。


 それに俺の声が聞こえた範囲ならすべてのゾンビが従ってしまう。一応、名前を言うと個別に命令できるみたいだけど、名前なんか知らないしな。マンションのゾンビは身分証があったから分かったけど。


 まあいいや、この辺りはまたあとで検証しよう。まずはスーパーだ。


 ちょっと小さめのスーパーだが、ご近所さん御用達だ。近くにある住宅街の人たちが買いに来るところなのだろう。それにそこそこ大きな駐車場もあるから遠くからも来ている可能性はある。


 自分は外食かコンビニ弁当だけなのでこういうところでは買わない。飲み物とかはコンビニで買うよりもはるかにお得らしいんだけど、近くで買うという利便性を重視してちょっと値段が高くてもコンビニだ。


「あの、センジュさん、聞いてもいいですか?」


「ん? 何かな?」


「もし、スーパーに生存者がいたらどうするんですか?」


「そうだね、交渉するしかないね。お菓子と交換で食べ物をくれるかな? 缶ビールだったらいくらでもあげちゃうんだけどね」


「えっと、そうじゃなくて、助けたりはしないんですか? マンションに連れ帰るとかは……」


 ああ、なるほど。そういう意味か。もしかしてそういう理由でついてきたのかな。


「そんなに恐る恐る聞かなくてもいいよ。特に何も考えてないね。そもそも生存者がいたとしてどういう人たちなのかもわからないし。ああ、その前に一つだけお願いしたいんだけど」


「なんでしょう?」


「助ける助けないはともかくとして、俺が適合者であることや、ゾンビに命令を出せるのは内緒にしてくれる? 何でもかんでも助けを求められたら困るし、知ってると思うけど、世界を救うなんてことは考えていないから、期待されたくないんだよね」


「それは、そうですね。はい、それは言わないようにします」


「ありがとう」


 心なしか残念そうな顔をしているが、お願いは聞いてもらえるようだ。


 でも、そうか。生存者か。いたときはどうしたものかな。


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