葬夏を掬うpart1
「やめて……もうやめて……」
そんな苦しい声が薄暗い部屋に響く。その子はとても痩せてて、骨と皮しかないような……そんな姿をしてる。羽織ってるのはボロボロのTシャツ一枚。近くにはわずかに動くだけでガサガサと音を立てるほどに
菓子パンのやらの袋が散乱してた。
そして500mlのペットボトル。ジュース? いやいや、そこに入ってるのは継ぎ足されてる水道水である。
夏休み終わりに近づく時期だけど、その子がいる場所はとても暑苦しかった。狭くて、暑苦しくて……でも水は時々持ってきてくれるペットボトル一本だけ。別になくなったらすぐさま補充されるようなサービスはない。
そこも気まぐれなのだ。だから500mlのペットボトルのは残りを半分きってる。狭くて暑くて、それに温い水しかない環境。最悪だといえるだろう。水もこのまま飲んでて大丈夫なのかわからない。でも……その子にはそれしかないのだ。
それしか命をつなぐすべがない。しっかりと閉じられた襖は荷物が沢山前に置かれてあかない様にされてた。そして普段は忘れ去れてる。本当に時々、食料が差し入れられるだけ。トイレ? そんなのはそこらにするしかない。だから匂いもひどい。
けどここから出たら、その子は親の暴力にさらされる。
「お父さん、お母さん……」
そんな声を出して泣いている。最初からこんなひどい扱いを受けてたわけじゃない。貧しくても、その子の過程は暖かった。でも……すべては変わってしまった。それはその子の前で動いてる人形のせいだ。その子はある日、目覚めた。
力に……超能力にだ。人形を操れる力だ。すごいすごいとその子は自慢した。でも……その時から両親の見方は変わってしまった。まるで化け物を見るように……いや、もう見たくないと、両親はその子を押し入れに入れていなかったことにしたんだ。
それでもその子は両親を嫌いになれなかった。だって楽しかった思い出があるからだ。いい子にしてれば……そのうち前の家族に戻れる……そんな風におもって我慢してた。けど……その日。ある夏の日。いきなり封じられてた襖が開け放たれた。
「うわっくっせ!?」
「これは酷い」
両親と一緒に男がいた。いきなり開けられた襖。突如の明るさにその子は目を細める。荷物だけじゃなく、両親は襖の隙間をどうやらテープで埋めてたようだ。きっと匂いはきにしてたんだろう。だからそれが一気に解放された。とんでもない匂いに大人たちは厳しい顔をしてる。
「とりあえず確認をさせてくれ」
「あんた、あれをやりなさい」
母親が男に言われてその子に声をかけてきた。具体的な事を言わないのは、もうその子を自分の子と認めたくないからだ。それでも、求められたその子は理解して人形を動かす。とりあえず男たちに挨拶するようにちょっとボロボロの人形を動かした。
それは手作りの人形だ。お父さんとお母さんとその子の……三人家族の宝物。でもそう思ってるのはもうその子だけだ。
「よし、確かに力を持ってるな。おい」
そう偉そうな男が声をかけると、もう一人の男がバックからいくつかの札束をお父さんに渡してた。それがいくらなのかはその子にはわからない。でも、それを嬉しそうに受け取ってる両親は目に焼き付いた。
「ほら、行くぞ」
グイッとがりがりの腕が引かれる。拒否しようにもやせ細った子供の力で大人にかなうわけもない。
「た、たすけ――」
手を伸ばすのは両親へ……けど彼らの目は、とても冷たくてその時にその子は悟った。自分は捨てられた……いや、売られたんだと。




