第六十六話part3
山が削れて、木々が吹き飛んでる。衝撃だけで地面がえぐれて岩が飛ぶ。そんな映画でしか見れないような戦闘がおこってた。なんとか育代はまだ無事だが、いつこの戦闘の余波が襲ってくるのかわからない。
小頭たちは結界で守ってるが、育代にはもうそれだけの力はない。だから地面でちいさくなってるしかなかった。本当ならもっと簡単に勝てたのかもしれない。あのまま扉にはまってたら、あの猩々は何発かぶちこむかでおわったんじゃないだろうか?
だって大幅に動きが制限されてた。それに対して鬼は自由だった。だからこそ、殴り放題だった。でも今はどっちもその巨体を思いっきり振り回して動いてる。鬼は巨体とは思えない速さで。超巨大な猩々は速さでは合体した鬼に及ばないが、まさに肉を切らせて骨を切る精神なのか、向こうの攻撃に合わせて強力な一撃をお見舞いする……ということをやってた。
わざわざ鬼の攻撃を受けてダメージを受けつつも猩々は正気を失ってるからなのか、関係ないとばかりに攻撃をしてくる。そしてそれを鬼は受ける。だからどっちも攻撃を受け続けてる。普通ならこのままなら鬼の方が先に攻撃してるんだし、効いてないわけがないんだからいずれは猩々が倒れるはず……でも育代にはそう思えなかった。
だって猩々は大きくて強そうだし、いくら鬼が攻撃を叩き込んでも、その動きは止まらない。寧ろ……
「なんとか……しないと」
そんな風に思うほどに鬼の消耗の方が早い気がしてた。鬼もこれは想定外なのかもしれない。本当は両手で収まる数の攻撃で締めくくるつもりであの姿になったんじゃないだろうか? だって二人が合体してるんだ。それが最終手段でなくてなんだ? そんな無法なことが簡単に出来るなんて思えない。短期決戦の為の形態なら、長引くのは不利だ。
でも全身が出てしまった猩々に対して育代は無力だった。近づけるはずがない。だってただ移動するだけで地震を起こして大地を山を崩す程。そんな相手にただの小さな人間が近づけるわけはない。確かに育代には『力』がある。でもそれは肉体を強化するようなそんな力じゃない。
なにかが間違ったら、簡単に育代も……そして一応結界で守ってる小頭たちだって無事で済むかわからない。
「もう……何もできないの?」
そんな風に育代はつぶやく。その脳裏に浮かぶのはさっき見た過去。そしてわずかな期間だったとしても確かに心を通じ合わせた時間。実際心が通じてたのかはわからない。特に足軽に襲い掛かってからは。でも……猩々は育代に手を出すことはなかったんだ。
ズドーン!
――そんな音と共に、何かが山にクレーターを残す。うがった地面の中心には鬼。二人が合わさった鬼がそこに倒れてる。
「そんな……」
紫の巨大な鬼になってた二人。でも光と共に、鬼は再び鬼男と鬼女に分かれる。そしてそこに月を隠す腕が影を落とした。それは猩々の腕。大きく振りかぶられたその腕が止めとばかりに振り下ろされる。育代はそれを止めようと動いてた。
「やめてええええええええええええええええええ!!」




