第六十六話Part1
(まさか、私の中にも……)
幾代は見た。猩々の過去を。それはとてもとても辛い過去。人の罪を見たような気がした。あれは人類が失った歴史なのかもしれない。だって今の世の中で、あんな生物が山に跋扈してたなんて歴史はない。
でも今見たのは間違いなくこの場所の……この山のかつての姿だったはずだ。
「あれから私たちの一族は罪を背負った。この土地の領主を殺して権力を手に入れたけど、同時にその呪いも背負ったのね」
あれで終わり……なら今の時代まで猩々が残ってるのはおかしいだろう。なにせあれで終わってたら猩々たちは絶滅してる筈である。他の巨大な獣たちと同じように……でもこの山にはまだ猩々がいた。今や本当にいなくなって絶滅してしまったが、本当ならあの時に、絶滅してないとおかしいだろう。現代まで続いてる訳はない。
でも……猩々は現代までいたわけで……それの謎もわかった。どうやら領主の呪い。それによって幾代たち呪術師の家計では稀に猩々が生まれるらしい。そんな事きいたこともなかったが、どうやらそういう事があったと続きの記憶にあった。
大体は気味が悪くてすぐに殺してみたいだが、猩々という希少な存在に目を付けた危ない奴らもいたみたいだ。それに子として生まれてきたのだから当然だけど母とか父とかいるわけで……
もしかしたらその中の愛情深い人がどこかでひっそりと育ててのが、今の猩々たちだったのかもしれない。なにせ呪いの影響で生まれてた来たというには、彼らはとても猩々だった。
どういうことかというと、つまりは理性的だった。呪いやら、憎しみ、憎悪とかに彼らは支配されてなかったと思う。ただ足軽に対しては……なぜかとても攻撃的だったけど……それだけはよくわからない。
でもこれでわかった。彼らの原点……そしてめくるめく憎しみの輪廻。まだそれに自分たちは囚われてるんだって思った。だから断ち切らないといけない。でもそれは……彼らが……猩々達が犠牲になる事とはきっと違う。
けど幾代には猩々達を元に戻すような力はない。そういう力じゃない。確かに幾代は時間を操れる。それによって相手の体に干渉が出来るようになった。けど、今の猩々は幾代が知ってる猩々とはかけ離れてしまってる。もしもちゃんとした体で、憎しみに捕らわれただけなら、今の幾代なら猩々達を正気に戻すことが出来たかもしれない。
でもあれはもう猩々なのか? って感じだ。確かに猩々の記憶を持ってたし、ベースはあの幾代と出会った猩々達なのは間違いない。でも……彼らはもう、幾代の力でどうにもできないくらいに変わってる。
自分で自分自身の力を理解しつつあるからこそわかる。
(今の私にはこの子達は……)
その時、幾代の両肩に手が置かれる。それは鬼男と鬼女のものだった。鬼男は何も言わずにうなづくだけだ。鬼女はそんな無口な鬼男とは違ってこういってくれる。
「まっ、どうしようもない事なんていっぱいある。それは、あんたのせいじゃない。だから……気にすんな」
そういって二人は前にすすむ。幾代の力で動きを封じてる今が最大のチャンスだ。だからこそ、彼らは最大限の力をためだした。それがいくら無慈悲な選択であったとしても、きっと彼らはこういう事を何度も経験してきたんだろうって幾代は思った。
そして彼らの背中に、きっとこれを乗り越えるヒントがあるんだろう。




