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ある日、超能力に目覚めた件  作者: 上松
第二章 きっと世界は変わってない
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第六十五話part4

 曇った空に立ち上る黒い煙。それは別に焚火してるから出る煙とかじゃなく、その黒い煙は一匹の化け物から出てた。大きな大きなサルのような獣。毛は真っ赤で、その顔まで赤くたぎってる。でもその体から出てるのは黒い煙。


「あが……がっ……ぐっ……」


 赤いサルは苦しんでるようだった。そしてその体から出る煙は空に厚く集っていって、大きな……大きな渦になってる。さらには空に集う雲に統合される煙のほかに声を放つ何か……になってるのもあるのだ。


「あああああああああああああ!」

「きゃあああああああああ!!」

「うあああああああああああ!」


 そんな風に断末魔を叫ぶそれは曖昧な姿をした人の顔……のようにみえる。それはどんどんと多くなっていく。まるであの猿の中に人々の怨嗟……それが声を発してるようだ。それらは雲の厚みには加わらずに空を漂い、再び地上に帰ってくる。そして猿の周囲、その周りをまわってる。


 なくなった者たちの怨嗟の声……それが原因なのかなんなのか、さらにサルは苦しんでる。何かをはいて、のたうち回る。その視界には仲間たちが見えた。自身と同じような大きなサルたちの真っ黒な姿。それがのたうち回るサルにはみえてた。彼らはいう。


「許すな許すな許すな許すな!」


 そんな風に赤くなったサルにいってくる。そしてその言葉を聞くたびに心が荒れるのだ。さらなる憎しみが募ってくる。そしてどんどん黒い煙のようなのが増える。そうなるとさらに怨嗟の悲鳴を叫ぶ 奴らが多くなる。最悪な循環だ。


 何が起きてるのかサルにはわからない。でも……この状況を意図的に作り出してる奴らがいた。



 大きな屋敷の大きな舞台。周囲に五つの大きな火をつけて、その周りと中心部分に人が配置されている。神主のような格好の男と顔を布で隠した者たち。それらが一心不乱に不可解な祝詞を紡いでる。赤かった炎が、大きく揺れて青くなる。この場は異様な雰囲気に包まれてる。


「くははははは! 来るぞ……きておる! 儂にこの国を治める力を齎す力が来ておるぞ!」


 半裸の男はこの地域の領主だった。そいつは今特殊な文字を左右の腕に描いて、この陣の中心にいる。この場所の陣の中心……ではない。この地域に施した術式の陣の中心である。それは二つが通じ合って、サルが放つ強大な怨嗟を術式を通して領主の体へと流し込むようになってた。


 両腕から流れ込んでくる力を感じられる領主は満足げだ。確かな力を感じてた。齢40を超えて衰えを感じてた体に活力が戻っている。それに筋肉が膨れ上がり、体自体が大きくなっていく。


「これなら、この力なら! 儂はこの国を奪える!」


 そんな夢を領主は夢想して……その夢に浸っているからだろう。領主はその体の異変に気付いてない。

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