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ある日、超能力に目覚めた件  作者: 上松
第二章 きっと世界は変わってない
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第六十五話Part3

(ああ、そっか……)


 嫌な空だ。久々に見た空がこんななんて損だな……と思いつつ、その人は自分の最後を受け入れていた。だってもうどうしようもない。自分たちは餌だったのだ。この化け物をおびき出す餌。馬車の中で何を掛けられたのか、今ならわかる。それは『血』だ。なんの血なのかはわからないが、彼らは女性や子供たちに桶いっぱいの血を浴びさせたんだ。

 その匂いを感じたあの化け物はもう彼女たちに夢中だ。逃がすわけはないだろう。それに……


(この世は地獄だ。死んだら極楽に行けるかもしれない)


 そんな気持ちだから自分の番をただ静かに待ってる。そもそもがとても強く、大きそうな化け物にこんな出たお腹と、棒のような手足のやせ細った自分たちが逃げきれる……わけはない。


 さらに言うと。


(最後にお腹いっぱい食べられてよかった……)


 実際は苦しくて苦しくてたまらない。吐きたいし、出したい。でも出せない。お腹なんてはち切れそうだ。でも……それでも、彼等、彼女等にとっては腹いっぱいなんて感覚は初めてだったんだ。


 物心ついたときからずっとお腹が減ってた。いつもいつも、お腹は鳴りっぱなしで、満たされた食事なんてしたことなかった。ぞれなのに今は腹がいっぱいではち切れそうだ。確かに苦しい。でも……もうみんな諦めてたから、最後にこんな風に夢が叶ったのなら、「もういいか」……という気持ちになってる。

 それでも怖くないか? と言えばもちろん皆怖がってるだろう。泣いてるし、痛そうだ。きっととてもつらいんだろう。でも逃げることもできないのなら、受け入れるしかない。曇った空に、周囲は地獄。自分たちが食べられてるから……というわけじゃない。

 この場所そのものが元から地獄のような場所だった見たいだ。戦場跡なのかどうかわからないが、今日連れてこられた人たち以外の死体もあるし、そもそも周囲の建物とか崩れ落ちてる。

 もしかしたらもう既にこの化け物はここで暴れたのかもしれない。この世への別れ、そして恨み、そんなのを考えてるとちかくでズゴオオオオ――と地面が揺れる。来たか……とうとう順番が……と思った。

 でも何やらおかしい。化け物が……苦しんでる? そこらをのたうちまわったりしてる。それに、何やら全身の毛の色か黒かったのが赤くなってるような? 怒ってるからか? わからない。


 その時だ。ドスン!! と顔のすぐ横に化け物の拳が落ちた。ちょっとでもズレてたら彼女の頭は潰れてただろう。早鐘のように心の臓が打ち付けてる。覆いかぶさるようにしてきた化け物。強い血と獣の匂いが気持ち悪さを倍増させる。猿轡はさっきの衝撃でとれていた。


「あっが……お、が……げご、くう」


 何かを化け物はつぶやく。獣の意味もない声? いや言葉のようにも聞こえた。


『お前を食う』


 別にそんな宣言はいらなかった。でも次にはこの化け物はもっと何か発する。


「いや……ぼう……これいじょう……は……」


 迷い? こんな化け物でも迷うのかとおもった。ただ怖かったはずなのに、今の言葉を聞いて、その気持ちがどこかへ行ってしまった。彼女はでも生きようとは思わない。だってこの世は地獄だからだ。

 だからこの化け物に食べられたい。


「私を救ってよ。だから……食べて」


 願われたからなのかはわからない。次の瞬間、化け物は彼女に食らいついた。そして彼女はその化け物にいった。


「ありが……とう」


 ――と。

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